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第42話 姉との会談
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「すまない、本当にすまないっ…… ありがとう、僕は一刻も早く姉さんを治し君を幸せにするっ、やっ、約束するっ! 僕は必ず姉さんを治して君と、君と…… 」
彩寧は僕にハンカチを渡しながら言った。
「今はそんなに無理しなくていいの。お姉さまを治すことに専念しましょ。私たち消化器内科だって協力する……うーん、ようなことがまああればもちろん協力するし、ねっ」
僕は彩寧から貰ったハンカチを握りしめながらまだ涙が止まらない。彩寧がなだめすかすように僕に声をかけた。
「どうしたの? ねえ、らしくないわよ」
「悔しいんだ。心底悔しい。姉の病にも勝てず彩寧の気持ちにも答えられない僕が、自分自身の不甲斐なさが腹の底から悔しいんだ」
「いいの。今はいいの。一度に二つのことが出来る人なんているもんじゃないわ。しかもどちらも本当に人生の大事業。だから今は今すぐできる事だけに目を向けましょう。ね」
僕はひたすら詫びながら彩寧の提案を受け入れた。その情けない自分に腹が立つ。
彩寧を送り届けた帰路、僕はひたすら自分の腑抜け具合をひどく責め続けた。そして決意を新たにする。一刻も早く姉を治し、彩寧を迎え入れると。
翌朝、姉がまだ朝食を食べている時僕は姉と面会した。本当はこんなことをしてはいけないのだが、これまでの入院時も黙認されている。
僕は石の様に硬い表情で姉に対峙した。一方の姉はというと、どこか空とぼけた、いつも通りの呑気さを湛えた表情――僕の大好きな表情で僕を見つめながら白菜のクリーム煮を食べていた。
「どしたの? 貴重な睡眠時間削ってまで姉ちゃんに会いに来るなんてさ。なんかいい事でもあった?」
僕は姉の隣のパイプ椅子に座る。
「姉さん。ここもそう長くは入院できないんだ。退院後のことを考える必要がある」
「退院後のこと?」
「そう、姉さんは現状では一人暮らしができない。」
「一人……暮らし?」
「更には現状で受けられる福祉サービスもない。そうすると誰かと同居する必要がある。そこでなんだが…… つまり僕と……」
姉がきょとんとした顔になる。
「優斗と……? えっでもあたし一人暮らししないよ?」
「なに?」
僕は姉の言わんとすることがわからなかった。
「だから、姉ちゃんさ、二人暮らしするの」
僕の心臓が大きく鳴った。
「どういうことだ?」
「うん、だって姉ちゃん結婚するんだもん」
彩寧は僕にハンカチを渡しながら言った。
「今はそんなに無理しなくていいの。お姉さまを治すことに専念しましょ。私たち消化器内科だって協力する……うーん、ようなことがまああればもちろん協力するし、ねっ」
僕は彩寧から貰ったハンカチを握りしめながらまだ涙が止まらない。彩寧がなだめすかすように僕に声をかけた。
「どうしたの? ねえ、らしくないわよ」
「悔しいんだ。心底悔しい。姉の病にも勝てず彩寧の気持ちにも答えられない僕が、自分自身の不甲斐なさが腹の底から悔しいんだ」
「いいの。今はいいの。一度に二つのことが出来る人なんているもんじゃないわ。しかもどちらも本当に人生の大事業。だから今は今すぐできる事だけに目を向けましょう。ね」
僕はひたすら詫びながら彩寧の提案を受け入れた。その情けない自分に腹が立つ。
彩寧を送り届けた帰路、僕はひたすら自分の腑抜け具合をひどく責め続けた。そして決意を新たにする。一刻も早く姉を治し、彩寧を迎え入れると。
翌朝、姉がまだ朝食を食べている時僕は姉と面会した。本当はこんなことをしてはいけないのだが、これまでの入院時も黙認されている。
僕は石の様に硬い表情で姉に対峙した。一方の姉はというと、どこか空とぼけた、いつも通りの呑気さを湛えた表情――僕の大好きな表情で僕を見つめながら白菜のクリーム煮を食べていた。
「どしたの? 貴重な睡眠時間削ってまで姉ちゃんに会いに来るなんてさ。なんかいい事でもあった?」
僕は姉の隣のパイプ椅子に座る。
「姉さん。ここもそう長くは入院できないんだ。退院後のことを考える必要がある」
「退院後のこと?」
「そう、姉さんは現状では一人暮らしができない。」
「一人……暮らし?」
「更には現状で受けられる福祉サービスもない。そうすると誰かと同居する必要がある。そこでなんだが…… つまり僕と……」
姉がきょとんとした顔になる。
「優斗と……? えっでもあたし一人暮らししないよ?」
「なに?」
僕は姉の言わんとすることがわからなかった。
「だから、姉ちゃんさ、二人暮らしするの」
僕の心臓が大きく鳴った。
「どういうことだ?」
「うん、だって姉ちゃん結婚するんだもん」
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