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第30話 姉弟でなくば
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「そんな事ない。そんな事ない。僕たちだって普通の姉弟と同じになれるさ」
「同じベッドで寝ず、触る事もせず、一緒の湯船に浸からずに、頻繁にLINEも通話もしなくて、恋人繋ぎにしたり、抱き合ったり、おでこや頬っぺたや首や背中にキスもしない…… できる? ねえ優斗できる?」
背中、気付いてたのか。
「できる。なんなら今からする。苦しいけどする」
「じゃ、今夜のお泊りはなしだね」
姉は憔悴しきった中にもどこかいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「うっ」
僕としてはここで引き下がりたくはなかった。実際に本当に姉のが心配だった。
「じゃ、じゃあメシ食いに行かない?」
「ご飯?」
「そっ、夕ご飯にはちょうどいい時間だし」
「うーん」
姉は顎に手を当ててしばらく逡巡していた。が僕に少し呆れたような眼を見せて折れた。
「いいよ」
「やった」
いつもとどこか逆の雰囲気で、僕たちは近所のファミレスにいく。姉はニンニクとベーコンとチーズをたっぷり乗せた三百グラムのハンバーグ。姉が大好きなタイプの奴だ。僕はたまご乗せカレーハンバーグの三百グラム。
いつも通り満腹になるとそれだけで姉は表情が明るくなる。それを見つめる僕も顔がほころぶ。いつの間にか、多分、いやきっと姉の方から僕の脚を突き出し、いつの間にか僕たちはテーブルの下、脚でじゃれ合う。無邪気な姉の表情に僕は一安心した。
夕闇に覆われた市街。僕は姉の肩を抱き、どうでもいい話を笑いながらして歩いていた。姉はまだ少し影を引きずっているもののもうだいぶいつもの姉に戻りつつあった。このまま姉の部屋へ行って泊めてもらい明日の朝早くにそこを発とう。それが今回の「お泊りデート」の締めくくりにはちょうどいい。そう思った。
僕と姉は腕を組みながら腹ごなしにちょっとした散歩を楽しんでいた。日中の暑さが嘘のように夜風が心地よい。姉の他愛もない話に相槌を打ちながら僕は幸せだった。開運橋を渡りながら僕は提案した。
「大通りまで行ってみる?」
姉はいつも通りのはじけるような明るい声で答えた。
「賛成っ、どこかあてがあるの?」
「前に友達と行ったバーがいい感じでさ。姉さんがよければ」
「うんっ、楽しみ。あたしバーって行ったことなかったんだあ」
開運橋を二人で歩く。姉さんがぽつりと言った。
「あのさ…… あのね……」
「うん?」
「もしも、もしもだよ。もしもあたしたちが姉弟でなかったら…… 優斗は……」
「うん」
姉が何を言いたいのかはおおよそ分かったし、その答えも僕の中には明白にあった。だけどそれを口にすることは躊躇われる。今の僕は彩寧を選んでいるのだから。
「優斗はあたしを――」
「同じベッドで寝ず、触る事もせず、一緒の湯船に浸からずに、頻繁にLINEも通話もしなくて、恋人繋ぎにしたり、抱き合ったり、おでこや頬っぺたや首や背中にキスもしない…… できる? ねえ優斗できる?」
背中、気付いてたのか。
「できる。なんなら今からする。苦しいけどする」
「じゃ、今夜のお泊りはなしだね」
姉は憔悴しきった中にもどこかいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「うっ」
僕としてはここで引き下がりたくはなかった。実際に本当に姉のが心配だった。
「じゃ、じゃあメシ食いに行かない?」
「ご飯?」
「そっ、夕ご飯にはちょうどいい時間だし」
「うーん」
姉は顎に手を当ててしばらく逡巡していた。が僕に少し呆れたような眼を見せて折れた。
「いいよ」
「やった」
いつもとどこか逆の雰囲気で、僕たちは近所のファミレスにいく。姉はニンニクとベーコンとチーズをたっぷり乗せた三百グラムのハンバーグ。姉が大好きなタイプの奴だ。僕はたまご乗せカレーハンバーグの三百グラム。
いつも通り満腹になるとそれだけで姉は表情が明るくなる。それを見つめる僕も顔がほころぶ。いつの間にか、多分、いやきっと姉の方から僕の脚を突き出し、いつの間にか僕たちはテーブルの下、脚でじゃれ合う。無邪気な姉の表情に僕は一安心した。
夕闇に覆われた市街。僕は姉の肩を抱き、どうでもいい話を笑いながらして歩いていた。姉はまだ少し影を引きずっているもののもうだいぶいつもの姉に戻りつつあった。このまま姉の部屋へ行って泊めてもらい明日の朝早くにそこを発とう。それが今回の「お泊りデート」の締めくくりにはちょうどいい。そう思った。
僕と姉は腕を組みながら腹ごなしにちょっとした散歩を楽しんでいた。日中の暑さが嘘のように夜風が心地よい。姉の他愛もない話に相槌を打ちながら僕は幸せだった。開運橋を渡りながら僕は提案した。
「大通りまで行ってみる?」
姉はいつも通りのはじけるような明るい声で答えた。
「賛成っ、どこかあてがあるの?」
「前に友達と行ったバーがいい感じでさ。姉さんがよければ」
「うんっ、楽しみ。あたしバーって行ったことなかったんだあ」
開運橋を二人で歩く。姉さんがぽつりと言った。
「あのさ…… あのね……」
「うん?」
「もしも、もしもだよ。もしもあたしたちが姉弟でなかったら…… 優斗は……」
「うん」
姉が何を言いたいのかはおおよそ分かったし、その答えも僕の中には明白にあった。だけどそれを口にすることは躊躇われる。今の僕は彩寧を選んでいるのだから。
「優斗はあたしを――」
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