19 / 85
第19話 姉弟温泉旅行
しおりを挟む
「ねえ優斗、このあと行ってみたいところがあるんだけど、いい?」
姉は肩越しに僕を見上げて微笑む。だが悪い微笑みだ。僕は身構えた。
「え、ど、どこ?」
「陵星館」
「は?」
なんだって? 旅館だぞ?
「日帰り温泉?」
「ううん、泊まり」
泊まりたいのか。二人で泊まりたいっていうのか。僕はどう反応していいか判らなかった。
「お金は出すからさっ、ねっ」
「ねっ、じゃなくてさ……」
「いいでしょ、せっかくのラストデートだよ。これくらいのことしなくちゃ」
僕の頭の中でいろいろな思いが駆け巡った。姉と一泊旅行。普通に仲のいい姉弟ならあってもおかしくないものなのかも知れない。だけど僕たちはそういった類の「仲が良い」姉弟ではない。姉が言うように「特別な」姉弟だ。これで最後と言うなら僕は是非とも泊まりたい。どちらかのうちの狭いシングルベッドに身を寄せあうのとは違うことがしたい。姉が死ぬ前に僕との思い出を残してあげるのは決して悪い事ではないと思った。僕はそうやって自分で自分を誤魔化した。本当は僕自身が泊まりたかったのに。そして腹を決めた。
「判った…… ただし宿が空いているかどうか」
「やった。電話してみるねっ」
姉は無邪気にスマホを操作し電話する。一方の僕は自分の判断が正しかったのだろうか、一時の感情に流された決断ではなかったか、そう思うと胃の腑が重くなる。
「うーん、取れるには取れたけど……」
電話を切って不満そうな姉。
「何かあった?」
「ダブルベッドはないんだって」
「それでいいの!」
盛岡インターチェンジから二十分弱で旅館に辿り着く。立派な旅館だとは聞いていたが相当なものだ。僕は少し臆した。姉さんだってネット詐欺で二百二十万もの被害を受けているっていうのに、こんなところに泊まる余裕はあるんだろうか。
部屋に通されると僕は目を剥いた。十畳の部屋に広い広縁。大きな窓からはさんさんと陽光が差し込み眼下に広大な森林と湖が広がっている。
「なあ姉さん、ここ高かったんじゃないの?」
動揺する僕を尻目に澄ました顔でお茶を淹れる姉。
「ふっふーん、それがそうでもなかったんだよー。さあさあ、細かいことは気にしないで、お金のことは公務員の姉ちゃんにドーンと任せてさあ。はいお茶どうぞ」
「あ、ああ、ど、どうも」
姉はお茶を持って広縁の椅子に座り僕を手招きする。
「おいでおいで、ここ景色いいよ」
広縁からの眺めも確かに絶景だった。湖、森、空、これらが混然一体となった風景はなかなかのものだった。僕たちはしばし言葉も忘れて外の景色に目を奪われていた。
「でもよかった……」
姉が静かな声で言う。
「姉ちゃんの願い、また一つ叶ったよ」
「願いって、旅行? 二人きりの旅行なら東京僕が中二の時行ってたじゃん」
「違う。あれって結局ただの検査入院じゃん。だから優斗と二人きりのもっとちゃんとした旅行」
「ああ…… 他にはどんな願いがあるんだ?」
「ふふっ、それは秘密だ」
姉は微笑みおどけた調子で言った。
すっかりお茶も冷めた頃、姉はすっくと立ちあがる。
「よしっ、お風呂入ろっ。優斗も一緒に入ろっ」
「いやいやいやいやいや」
「なんだよ、ついこないだまで一緒に入ってたじゃんかあ」
姉は不思議そうな顔しながらノースリーブのトップスを脱ぎ始めた。
「この間? 僕が十三の頃か? 九年も前のこと言うなよっ」
「まあまあ細かいことは気にしない気にしないっ、ねっ」
姉はもう脱衣所で素っ裸になっていた。そうだな。これもまた姉の「願い」だというのならたった一度っきり叶えてやってもいいか。そう腹を括った僕も脱衣所へ向かい服を脱ぐ。
個室露天風呂の眺望もなかなかで僕たちはこれを堪能した。湯船の中の姉は白いタオルを頭の上に置いて、脚を大の字に広げ、湯船の縁(へり)に両肘を置く完全なおっさんスタイルで妙な鼻歌を歌いながら大いにくつろいでいた。
僕は姉を視界に入れないよう真横で湯船に浸かっていた。
姉は肩越しに僕を見上げて微笑む。だが悪い微笑みだ。僕は身構えた。
「え、ど、どこ?」
「陵星館」
「は?」
なんだって? 旅館だぞ?
「日帰り温泉?」
「ううん、泊まり」
泊まりたいのか。二人で泊まりたいっていうのか。僕はどう反応していいか判らなかった。
「お金は出すからさっ、ねっ」
「ねっ、じゃなくてさ……」
「いいでしょ、せっかくのラストデートだよ。これくらいのことしなくちゃ」
僕の頭の中でいろいろな思いが駆け巡った。姉と一泊旅行。普通に仲のいい姉弟ならあってもおかしくないものなのかも知れない。だけど僕たちはそういった類の「仲が良い」姉弟ではない。姉が言うように「特別な」姉弟だ。これで最後と言うなら僕は是非とも泊まりたい。どちらかのうちの狭いシングルベッドに身を寄せあうのとは違うことがしたい。姉が死ぬ前に僕との思い出を残してあげるのは決して悪い事ではないと思った。僕はそうやって自分で自分を誤魔化した。本当は僕自身が泊まりたかったのに。そして腹を決めた。
「判った…… ただし宿が空いているかどうか」
「やった。電話してみるねっ」
姉は無邪気にスマホを操作し電話する。一方の僕は自分の判断が正しかったのだろうか、一時の感情に流された決断ではなかったか、そう思うと胃の腑が重くなる。
「うーん、取れるには取れたけど……」
電話を切って不満そうな姉。
「何かあった?」
「ダブルベッドはないんだって」
「それでいいの!」
盛岡インターチェンジから二十分弱で旅館に辿り着く。立派な旅館だとは聞いていたが相当なものだ。僕は少し臆した。姉さんだってネット詐欺で二百二十万もの被害を受けているっていうのに、こんなところに泊まる余裕はあるんだろうか。
部屋に通されると僕は目を剥いた。十畳の部屋に広い広縁。大きな窓からはさんさんと陽光が差し込み眼下に広大な森林と湖が広がっている。
「なあ姉さん、ここ高かったんじゃないの?」
動揺する僕を尻目に澄ました顔でお茶を淹れる姉。
「ふっふーん、それがそうでもなかったんだよー。さあさあ、細かいことは気にしないで、お金のことは公務員の姉ちゃんにドーンと任せてさあ。はいお茶どうぞ」
「あ、ああ、ど、どうも」
姉はお茶を持って広縁の椅子に座り僕を手招きする。
「おいでおいで、ここ景色いいよ」
広縁からの眺めも確かに絶景だった。湖、森、空、これらが混然一体となった風景はなかなかのものだった。僕たちはしばし言葉も忘れて外の景色に目を奪われていた。
「でもよかった……」
姉が静かな声で言う。
「姉ちゃんの願い、また一つ叶ったよ」
「願いって、旅行? 二人きりの旅行なら東京僕が中二の時行ってたじゃん」
「違う。あれって結局ただの検査入院じゃん。だから優斗と二人きりのもっとちゃんとした旅行」
「ああ…… 他にはどんな願いがあるんだ?」
「ふふっ、それは秘密だ」
姉は微笑みおどけた調子で言った。
すっかりお茶も冷めた頃、姉はすっくと立ちあがる。
「よしっ、お風呂入ろっ。優斗も一緒に入ろっ」
「いやいやいやいやいや」
「なんだよ、ついこないだまで一緒に入ってたじゃんかあ」
姉は不思議そうな顔しながらノースリーブのトップスを脱ぎ始めた。
「この間? 僕が十三の頃か? 九年も前のこと言うなよっ」
「まあまあ細かいことは気にしない気にしないっ、ねっ」
姉はもう脱衣所で素っ裸になっていた。そうだな。これもまた姉の「願い」だというのならたった一度っきり叶えてやってもいいか。そう腹を括った僕も脱衣所へ向かい服を脱ぐ。
個室露天風呂の眺望もなかなかで僕たちはこれを堪能した。湯船の中の姉は白いタオルを頭の上に置いて、脚を大の字に広げ、湯船の縁(へり)に両肘を置く完全なおっさんスタイルで妙な鼻歌を歌いながら大いにくつろいでいた。
僕は姉を視界に入れないよう真横で湯船に浸かっていた。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる