17 / 85
第17話 姉弟デートを満喫
しおりを挟む
もっとこうして二人でいたい気持ちが強くて僕はだんだん自分で自分が怖くなってきた。それにデートをするなら早く準備をしないと、とも思った。僕はよろよろと立ち上がる。
「じゃ、近くにカーシェアの駐車場があってさ。そこで借りてくるから姉さんはここで待っててよ」
「や、一緒に行く」
「外暑いよ」
「暑くても、一分一秒でも長く優斗と一緒にいたい」
僕はその言葉に衝撃を受けた。そんな、まるで死を目前にしたかのようなことを言うなよ。
「あ、ああ、じゃあ一緒に行こ」
「うんっ」
車に乗り込むと助手席の姉はまず僕にチェックしてきた。
「あっ! あれ着けてるよね」
「あれって?」
「これ」
姉は左手首をひらひらさせる。そこには僕が中二のクリスマスに姉からプレゼントされたブレスレットがだいぶくたびれた光を放っていた。
「ああ」
僕は自分の左腕にはまっているブレスレットを見せた。
「ふふっ、良かった」
姉は笑うと
「よーししゅっぱーつ!」
と明るい声を放った。僕も
「よおし、行くぞ」
と乗って応える。
「でどこ行くの?」
「ん? パークランド?」
「へえ、優斗ってば意外とお子ちゃま。ぷぷっ」
「では予定を変更して『盛岡市遺跡の学び館』に参ります」
「それって博物館?」
遺跡の学び館の目玉イベントで僕たちは勾玉を作った。それを革ひもに通し首から下げる。絶対やるだろうなとは思っていたが、姉はそれを交換したがった。首から下げたターコイズブルーの少しいびつな勾玉を撫で、愛おしげに眺める姉。こうしてブレスレットに続き僕たち姉弟の繋がりを示すものが増える。僕は、最後にこうしたものを姉にあげられたのは良かったと思った。
彩寧には本当に申し訳ないと思う一方で僕にはひどく居心地の良いひと時でもあった。そしてそれも今日が最後なのだと思うとブレスレットをはめた左手首がちりちりと痛む。
「ひゃー、すっずしー」
その次に向かった鍾乳洞内の涼しさにご満悦な姉。それ以上にライトに照らされた鍾乳洞の蒼く幽玄な美しさに僕らは驚嘆する。僕らはどちらからともなく手を繋ぐ。姉が恋人繋ぎにしてくる。でもそれはごく自然なもののように僕には思えた。そっと握り返す。
散々腹を減らしてからの遅めな昼は地元民の僕たちですら行ったことがなかったわんこそばへ。意外と思われるかもしれないが、やはり観光客向けのお店が主なので地元民はむしろ行きづらい。
もういらなくなったら急いでお椀に蓋をしないとまたそばを注ぎ込まれてしまう。僕はこのタイミングを逃して四苦八苦しているのに、さっさと食べ終えた姉はにやにやしながらそんな僕を眺めている。
「いやあ、とろいと色々苦労しますなあ」
「うるせっ」
なんとか食べ終わり、お会計を済ませて車に乗る。シートベルトを締めただけで胃の内容物が逆流してしまいそうだ。
「おえっぷ」
「ふふっ、ねえ何杯食べたの?」
「は、はちじゅうきゅうはい…… うえっ」
「へえ、姉ちゃん三十六杯。要領の良さかなあ、うん。まあ君も要領よく生きたまえよ、あっはっはっは」
なんか馬鹿にされた。
でもいつも通りの姉らしい様子に僕は少しほっとして嬉しくなった。
「なんだよにやにやして気持ち悪いなあ」
「え? なんか嬉しくってさ、こういうの」
「優斗マゾだったんだ。ま、知ってたけど」
「なにおう」
「じゃ、近くにカーシェアの駐車場があってさ。そこで借りてくるから姉さんはここで待っててよ」
「や、一緒に行く」
「外暑いよ」
「暑くても、一分一秒でも長く優斗と一緒にいたい」
僕はその言葉に衝撃を受けた。そんな、まるで死を目前にしたかのようなことを言うなよ。
「あ、ああ、じゃあ一緒に行こ」
「うんっ」
車に乗り込むと助手席の姉はまず僕にチェックしてきた。
「あっ! あれ着けてるよね」
「あれって?」
「これ」
姉は左手首をひらひらさせる。そこには僕が中二のクリスマスに姉からプレゼントされたブレスレットがだいぶくたびれた光を放っていた。
「ああ」
僕は自分の左腕にはまっているブレスレットを見せた。
「ふふっ、良かった」
姉は笑うと
「よーししゅっぱーつ!」
と明るい声を放った。僕も
「よおし、行くぞ」
と乗って応える。
「でどこ行くの?」
「ん? パークランド?」
「へえ、優斗ってば意外とお子ちゃま。ぷぷっ」
「では予定を変更して『盛岡市遺跡の学び館』に参ります」
「それって博物館?」
遺跡の学び館の目玉イベントで僕たちは勾玉を作った。それを革ひもに通し首から下げる。絶対やるだろうなとは思っていたが、姉はそれを交換したがった。首から下げたターコイズブルーの少しいびつな勾玉を撫で、愛おしげに眺める姉。こうしてブレスレットに続き僕たち姉弟の繋がりを示すものが増える。僕は、最後にこうしたものを姉にあげられたのは良かったと思った。
彩寧には本当に申し訳ないと思う一方で僕にはひどく居心地の良いひと時でもあった。そしてそれも今日が最後なのだと思うとブレスレットをはめた左手首がちりちりと痛む。
「ひゃー、すっずしー」
その次に向かった鍾乳洞内の涼しさにご満悦な姉。それ以上にライトに照らされた鍾乳洞の蒼く幽玄な美しさに僕らは驚嘆する。僕らはどちらからともなく手を繋ぐ。姉が恋人繋ぎにしてくる。でもそれはごく自然なもののように僕には思えた。そっと握り返す。
散々腹を減らしてからの遅めな昼は地元民の僕たちですら行ったことがなかったわんこそばへ。意外と思われるかもしれないが、やはり観光客向けのお店が主なので地元民はむしろ行きづらい。
もういらなくなったら急いでお椀に蓋をしないとまたそばを注ぎ込まれてしまう。僕はこのタイミングを逃して四苦八苦しているのに、さっさと食べ終えた姉はにやにやしながらそんな僕を眺めている。
「いやあ、とろいと色々苦労しますなあ」
「うるせっ」
なんとか食べ終わり、お会計を済ませて車に乗る。シートベルトを締めただけで胃の内容物が逆流してしまいそうだ。
「おえっぷ」
「ふふっ、ねえ何杯食べたの?」
「は、はちじゅうきゅうはい…… うえっ」
「へえ、姉ちゃん三十六杯。要領の良さかなあ、うん。まあ君も要領よく生きたまえよ、あっはっはっは」
なんか馬鹿にされた。
でもいつも通りの姉らしい様子に僕は少しほっとして嬉しくなった。
「なんだよにやにやして気持ち悪いなあ」
「え? なんか嬉しくってさ、こういうの」
「優斗マゾだったんだ。ま、知ってたけど」
「なにおう」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
歌のふる里
月夜野 すみれ
ライト文芸
風の中に歌が聴こえる。
いつも聴こえる美しい旋律の歌。
どこにいても聴こえるのに、どこを捜しても歌っている人間を見つけることが出来ない。
しかし、あるとき、霧生柊矢(きりゅうとうや)は歌っている少女霞乃小夜(かすみのさよ)と出会った。
柊矢は、内気そうな少女に話しかけることも出来ず、ただ歌を聴いているだけの日々が続いていた。
ある日、二人の前に白く半透明な巨木の森が出現した。
二人が見ている前で森はまた消えていった。
その夜、柊矢の所有しているアパートの近所で火事が起きたという知らせに現場へ行ってみると小夜がいた。
燃えていたのは小夜の家だった。
たった一人の肉親である祖父を亡くした小夜を、成り行きで柊矢が引き取った。
その後、柊矢と小夜はやはり、普通の人には聴こえない歌を歌う青年と知り合った。
その青年、椿矢(しゅんや)から普通の人に聴こえない歌が聴こえるのはムーシコスという人種だと教えられる。
そして、柊矢の前に、昔、白い森へ入っていって消えた元恋人霍田沙陽(つるたさよ)が現れた。沙陽もまたムーシコスだった。
柊矢は沙陽に、ムーシコスは大昔、あの白い森から来たから帰るのに協力してほしいと言われる。
しかし、沙陽は小夜の家の火事に関わっていた。
柊矢と小夜、柊矢の弟楸矢(しゅうや)は森への帰還を目指す帰還派との争いに巻き込まれる。
「歌のふる里」の最終話の次話から続編の「魂の還る惑星」が始まります。
小説家になろうとカクヨム、note、ノベマにも同じものを投稿しています。
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
愛すべき不思議な家族
桐条京介
ライト文芸
高木春道は、見知らぬ女児にいきなり父親と間違えられる。
人違いだと対応してる最中に、女児――松島葉月の母親の和葉が現れる。
その松島和葉に、春道は結婚してほしいと頼まれる。
父親のいない女児についた嘘。いつか父親が迎えに来てくれる。
どんな人か問われた松島和葉が娘に示したのは、適当に選んだ写真にたまたま写っていたひとりの男。それこそが、高木春道だった。
家賃等の生活費の負担と毎月五万円のお小遣い。それが松島和葉の提示した条件だった。
互いに干渉はせず、浮気も自由。都合がよすぎる話に悩みながらも、最終的に春道は承諾する。
スタートした奇妙な家族生活。
葉月の虐め、和葉の父親との決別。和葉と葉月の血の繋がってない親子関係。
様々な出来事を経て、血の繋がりのなかった三人が本物の家族として、それぞれを心から愛するようになる。
※この作品は重複投稿作品です。
赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の
ようさん
BL
※お詫び※R15(予定)ですが、オメガバース以外の各種地雷要素が少量ずつ含まれているかもしれません。ご注意ください(感じ方には個人差があります)
"BがLする地球に優しいお仕事小説@ちょいSMテイスト"
【攻】ご主人様にされてしまいそうな元ヤンキーの江戸っ子。SDGsと縛りにこだわる、心優しいノンケの会社員。
【受】世界が一目置くカリスマ経営者にして天才研究者。モデル並みのルックスを併せ持つスパダリかと思いきや、仕事以外はダメダメな生活能力ゼロM。
※第12回BL大賞参加作品。他サイトで過去公開していた作品(完成済)のリライトです。大賞期間中の完結を目指しています。
※R15(予定)ギリギリと思われるページのタイトルに⭐︎をつけてみました。グロはない予定。
※ 本作はフィクションです。描写等も含めて、あくまで物語の世界観としてお楽しみください。
#SM要素あり(微量) #家族 #SDGs #ちきゅうにやさしい #ストーリー重視 #ヒューマンドラマ #完結
【登場人物】
青葉恒星(あおば こうせい・29歳)三代続く造園屋の一人息子。江戸っ子気質で啖呵が得意なヤンチャな男だが、現在は普通の会社員に擬態中。
遠山玄英(とおやま くろえ・32歳)学生時代に開発したエコ素材の研究で会社を立ち上げた。海外育ちのエリートで取引先の社長。
堀田一人(ほった かずと・28歳)恒星の同僚で同期。ノリは軽いが根は体育会系の熱血男。
(※以下、ネタバレ要素を若干含みます)
水島課長 恒星の上司。叩き上げの苦労人
内川課長補佐 同上。水島をよく支えている。
古賀 玄英の右腕。法務担当。
「マドンナ」のマスター 恒星の昔馴染み
青葉恒三(あおば こうぞう・70代半ば)青葉造園の社長で恒星を育てた祖父。
土井清武(どい きよたけ・40代前半)青葉造園の職人。恒星の兄代わりで母代わりでもある。
ダイ (20代)青葉造園では清武に次ぐ期待の若手。ベトナム出身の技能実習生。
ユーラ・チャン(39歳) 玄英のアメリカ時代の元ご主人様。SNS王と呼ばれる大富豪。
遠山萌怜(とおやま もりー) 玄英の実姉
ンドゥール 萌怜の伴侶。アーティスト。
愛してる。だからばいばい
はすか
恋愛
ヘルザン国には、遥か昔から蔓延する不治の病がある。その病に、ヘルザン国王太子であるセリシール・ヘルザン──僕の婚約者が侵された。
婚約者の名は、ローズ・ミェイアル。赤毛に翠色の瞳を持つ公爵家の令嬢だ。
僕は、心の底からローズのことを愛していた。しかし、死ぬと分かっている人間を王太子妃になどはできない。それは、僕もわかっているつもりだ。
「セリシール様、婚約を解消しましょう」
けれど、ローズから直接告げられたその言葉は、覚悟していたはずなのに、どこまでも僕を堕としていって──
かつての英雄は嗤う。
『どうだ、あいつの為に死んでみるか?』
*本編までは執筆済み
*1話1000文字程度
*本編全10話+おまけ
*おまけタイトル横の記号は以下を示します(○→あったかもしれないその後 △→あったかもしれない世界線 □→あったかもしれない日常)
*その内作品下ろすかと思います。ご了承ください
ウェヌスの涙 −極楽堂鉱石薬店奇譚−
永久野 和浩
ライト文芸
仮想の時代、大正参拾余年。
その世界では、鉱石は薬として扱われていた。
鉱石の薬効に鼻の効く人間が一定数居て、彼らはその特性を活かし薬屋を営んでいた。
極楽堂鉱石薬店の女主の妹 極楽院由乃(ごくらくいんよしの)は、生家の近くの線路の廃線に伴い学校の近くで姉が営んでいる店に越してくる。
その町では、龍神伝説のある湖での女学生同士の心中事件や、不審な男の付き纏い、女学生による真珠煙管の違法乱用などきな臭い噂が行き交っていた。
ある日、由乃は女学校で亡き兄弟に瓜二つの上級生、嘉月柘榴(かげつざくろ)に出会う。
誰に対しても心を閉ざし、人目につかないところで真珠煙管を吸い、陰で男と通じていて不良女学生と名高い彼女に、由乃は心惹かれてしまう。
だが、彼女には不穏な噂がいくつも付き纏っていた。
※作中の鉱石薬は独自設定です。実際の鉱石にそのような薬効はありません。
先生と僕
真白 悟
ライト文芸
高校2年になり、少年は進路に恋に勉強に部活とおお忙し。まるで乙女のような青春を送っている。
少しだけ年上の美人な先生と、おっちょこちょいな少女、少し頭のネジがはずれた少年の四コマ漫画風ラブコメディー小説。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる