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心の基板
第30話 水着
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「あら? ねえ伊緒、さっきから浮かない顔してるけれど、どうかしたの?」
素知らぬ顔をしつつもどこかしら目が笑っているように見えなくもないシリル。これならきっと伊緒は、とほくそ笑んでいるかのようだ。
「い、いや…… なんでもない、なんでもないけど……」
半ば呆然とした伊緒は、自分の下心が見透かされたかのようにちょっぴり意地の悪い微笑みを浮かべているシリルには気づかない。
シリルはその悪戯っぽい目で伊緒をちらちらと横目で目で見ながら、からかうようにちょっとそっぽを向いて呟く。
「なんでもないけどシリルの可愛い水着姿を見たかったなあ……」
「え! いや! そんな事! そんな事思ってないもん! 思ってませんから! 思ってません! 本当っ、本当に!」
伊緒はぎょっとした。恥ずかしさでいっぱいになった伊緒はその顔を赤くし必死の形相で両手を振って否定する。シリルは伊緒のこう言うところが本当に可愛く感じて笑いをこらえるのに必死だ。そんな伊緒にシリルはついつい構いたくなってしまう。
「ちゃんと顔に描いてあるわよ。今すごーくがっかりしてるのよね、伊緒」
「が、がっかりなんかしてない! してないったら!」
話を勝手に進めるシリルと必死になって身振り手振りで否定しようとする伊緒。
「ふふっ、そんながっかりしてる伊緒にご提案です」
「だからがっかりなんてしてないって!」
「水に浸からないのなら、水着を着てもいいかなあ」
「えっ」
「あ、ほらっ今目がハッってなったハッって! あははっ」
ベンチに座ったまま前屈みになって笑い出してしまうシリル。
「もう! なってなんかないってば!」
「うんうん、そうよねそうよね」
恥ずかしくて必死の形相の伊緒にシリルは笑いをこらえながらわざとらしく頷く。
「もう……」
「クスクスっ」
当然伊緒はシリルの提案を飲まざるを得ず、無事シリルの計略は成功裏に終わった。シリルが二つのキャリーバッグを大型ロッカーに仕舞う間、伊緒が先に着替えてプールサイドに場所を取りに行く。キャリーバッグを仕舞い終えたシリルは更衣室に入る。アンドロイドとしての姿を人間には見られたくない。人目を避けてこそこそと、かつ素早く着替え、伊緒を探しにプールサイドに向かった。
シリルの視力をもってすればどんなに混雑したプールでも伊緒を見つけるのはたやすい。
伊緒のもとへやってくるシリルの姿を見つけた伊緒は絶句する。白いホルターネックのワンピースに身を包んだすらりとした細身の身体、その細い右足首には白いシンプルなプレートのアンクレットをアクセントとしてはめている。伊緒はシリルに見とれて呆然となり、ぽかんと口を開けて声も出ない。その伊緒の様子に気付くとひどく照れてしまいなぜか恥ずかしくなるシリル。しかしその無言の称賛に、内心大いに喜ぶシリルであった。それに伊緒の全く飾り気のないハイネックハイウエストの黒いビキニはシリルにとってもとても好ましいものだった。
伊緒がプールサイドに敷いたシートに、二人は肩がちょんとくっつくほど近づいて横並びに座る。シリルは自分の素性を知られるのを嫌がり、パーカーを羽織った上にフードを被り、瞳孔の輝きが出来るだけ見られないようにしていたが、伊緒はシリルの姿がしっかり見れないので不満だった。が、結局伊緒はその不満には言及せず、ずっと二人でおしゃべりを続けていた。よくよく考えるとそれではいつもと同じなのだが、いつもと違う環境や状況だと、同じ事をしていても新鮮に感じる。二人は夏本番の陽気な光を浴びて気持ちも会話も弾んだ。時折伊緒は熱い照射光で火照った身体を冷やすためプールに飛び込む。シリルは生き生きとして水中を自在に泳ぐ伊緒のしなやかな姿を眺めているだけで嬉しかったし、伊緒はシリルに見つめられていると感じながら泳ぐだけで昂揚した。
昼食はプールサイドの片隅にあるフードコーナーに並び、伊緒だけが大盛のハンバーグカレーとコーラフロートを食べたり飲んだりしたものの、シリルはそれを面白そうに眺めているだけだった。
人間とアンドロイドがともに食事出来たら楽しいのに、と伊緒が口にすると、シリルは伊緒らしくて素敵な考えだと答え微笑んだ。
「あのスーツとバッテリーの入るおっきいロッカーが空いてて良かったね」
「ええ、本当ね。あんな大荷物を脇に置いて日光浴じゃしまらないもの」
「今日はそんなに電力足りなくなりそうだったの?」
「ドライスーツを着て六時間全力で泳ぐのなら、ね。ふふっ」
「なんだ」
「でもね、万が一電力供給が絶たれたら私死んでしまうもの。念には念を入れて持ってきたの」
「えっ!」
「言わなかったかしら? 私の脳機能は常に電力を供給され続けていないといけないの。もし電力が切れたら脳機能は壊れてしまうわ。データだってほとんど消えてしまう。そうなったらもう元には戻らない。それにバックアップだって色々込みで七百五十万円以上はかかるんだから。普通はなかなか、ね。新しい脳機能に交換した方が安いくらいなのよ。うちでは基本私のバックアップは不要と思われているし」
「そんな大事な事早く言ってよ…… 知ってたらプールなんて連れて来なかったのにさ」
伊緒はカレースプーンを強く握ってシリルに抗議する。
「あら、じゃあ言わなくて良かった」
楽し気に笑いながら伊緒を見つめるシリル。
「シリル!」
「だってこうして伊緒と素敵な思い出が作れたんですもの。私今日は本当に楽しいの。ありがとう」
「あ、う、うん……」
「それに伊緒の可愛い水着姿も見れたし」
「えっ!」
「伊緒だって私の可愛い水着姿が見れてよかったでしょ?」
「えっ! えっ、えっ……」
「くすくす……」
「……えっえっ」
素知らぬ顔をしつつもどこかしら目が笑っているように見えなくもないシリル。これならきっと伊緒は、とほくそ笑んでいるかのようだ。
「い、いや…… なんでもない、なんでもないけど……」
半ば呆然とした伊緒は、自分の下心が見透かされたかのようにちょっぴり意地の悪い微笑みを浮かべているシリルには気づかない。
シリルはその悪戯っぽい目で伊緒をちらちらと横目で目で見ながら、からかうようにちょっとそっぽを向いて呟く。
「なんでもないけどシリルの可愛い水着姿を見たかったなあ……」
「え! いや! そんな事! そんな事思ってないもん! 思ってませんから! 思ってません! 本当っ、本当に!」
伊緒はぎょっとした。恥ずかしさでいっぱいになった伊緒はその顔を赤くし必死の形相で両手を振って否定する。シリルは伊緒のこう言うところが本当に可愛く感じて笑いをこらえるのに必死だ。そんな伊緒にシリルはついつい構いたくなってしまう。
「ちゃんと顔に描いてあるわよ。今すごーくがっかりしてるのよね、伊緒」
「が、がっかりなんかしてない! してないったら!」
話を勝手に進めるシリルと必死になって身振り手振りで否定しようとする伊緒。
「ふふっ、そんながっかりしてる伊緒にご提案です」
「だからがっかりなんてしてないって!」
「水に浸からないのなら、水着を着てもいいかなあ」
「えっ」
「あ、ほらっ今目がハッってなったハッって! あははっ」
ベンチに座ったまま前屈みになって笑い出してしまうシリル。
「もう! なってなんかないってば!」
「うんうん、そうよねそうよね」
恥ずかしくて必死の形相の伊緒にシリルは笑いをこらえながらわざとらしく頷く。
「もう……」
「クスクスっ」
当然伊緒はシリルの提案を飲まざるを得ず、無事シリルの計略は成功裏に終わった。シリルが二つのキャリーバッグを大型ロッカーに仕舞う間、伊緒が先に着替えてプールサイドに場所を取りに行く。キャリーバッグを仕舞い終えたシリルは更衣室に入る。アンドロイドとしての姿を人間には見られたくない。人目を避けてこそこそと、かつ素早く着替え、伊緒を探しにプールサイドに向かった。
シリルの視力をもってすればどんなに混雑したプールでも伊緒を見つけるのはたやすい。
伊緒のもとへやってくるシリルの姿を見つけた伊緒は絶句する。白いホルターネックのワンピースに身を包んだすらりとした細身の身体、その細い右足首には白いシンプルなプレートのアンクレットをアクセントとしてはめている。伊緒はシリルに見とれて呆然となり、ぽかんと口を開けて声も出ない。その伊緒の様子に気付くとひどく照れてしまいなぜか恥ずかしくなるシリル。しかしその無言の称賛に、内心大いに喜ぶシリルであった。それに伊緒の全く飾り気のないハイネックハイウエストの黒いビキニはシリルにとってもとても好ましいものだった。
伊緒がプールサイドに敷いたシートに、二人は肩がちょんとくっつくほど近づいて横並びに座る。シリルは自分の素性を知られるのを嫌がり、パーカーを羽織った上にフードを被り、瞳孔の輝きが出来るだけ見られないようにしていたが、伊緒はシリルの姿がしっかり見れないので不満だった。が、結局伊緒はその不満には言及せず、ずっと二人でおしゃべりを続けていた。よくよく考えるとそれではいつもと同じなのだが、いつもと違う環境や状況だと、同じ事をしていても新鮮に感じる。二人は夏本番の陽気な光を浴びて気持ちも会話も弾んだ。時折伊緒は熱い照射光で火照った身体を冷やすためプールに飛び込む。シリルは生き生きとして水中を自在に泳ぐ伊緒のしなやかな姿を眺めているだけで嬉しかったし、伊緒はシリルに見つめられていると感じながら泳ぐだけで昂揚した。
昼食はプールサイドの片隅にあるフードコーナーに並び、伊緒だけが大盛のハンバーグカレーとコーラフロートを食べたり飲んだりしたものの、シリルはそれを面白そうに眺めているだけだった。
人間とアンドロイドがともに食事出来たら楽しいのに、と伊緒が口にすると、シリルは伊緒らしくて素敵な考えだと答え微笑んだ。
「あのスーツとバッテリーの入るおっきいロッカーが空いてて良かったね」
「ええ、本当ね。あんな大荷物を脇に置いて日光浴じゃしまらないもの」
「今日はそんなに電力足りなくなりそうだったの?」
「ドライスーツを着て六時間全力で泳ぐのなら、ね。ふふっ」
「なんだ」
「でもね、万が一電力供給が絶たれたら私死んでしまうもの。念には念を入れて持ってきたの」
「えっ!」
「言わなかったかしら? 私の脳機能は常に電力を供給され続けていないといけないの。もし電力が切れたら脳機能は壊れてしまうわ。データだってほとんど消えてしまう。そうなったらもう元には戻らない。それにバックアップだって色々込みで七百五十万円以上はかかるんだから。普通はなかなか、ね。新しい脳機能に交換した方が安いくらいなのよ。うちでは基本私のバックアップは不要と思われているし」
「そんな大事な事早く言ってよ…… 知ってたらプールなんて連れて来なかったのにさ」
伊緒はカレースプーンを強く握ってシリルに抗議する。
「あら、じゃあ言わなくて良かった」
楽し気に笑いながら伊緒を見つめるシリル。
「シリル!」
「だってこうして伊緒と素敵な思い出が作れたんですもの。私今日は本当に楽しいの。ありがとう」
「あ、う、うん……」
「それに伊緒の可愛い水着姿も見れたし」
「えっ!」
「伊緒だって私の可愛い水着姿が見れてよかったでしょ?」
「えっ! えっ、えっ……」
「くすくす……」
「……えっえっ」
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