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第6話 諦観と封筒
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「ずるいの、あの人」
伏し目がちのままサナエが苦笑する。
「ずるい?」
「あたしが『あたしはマサヤが好きだから』って言おうとしたら、『マサヤも応援してくれたんだ』って言ったの、あの人」
俺は胸が苦しくなった。俺たち全員が何も知らないばかりに事態は思わぬ方向へ転がっていったのか。
「それを聞いてあたし全部諦めちゃって、あなたのこと」
「そうだったのか」
「まあ、タカキだって悪い奴じゃないし誠実そうだしいいかなって、そう思ったんだ」
そこでサナエは少し涙ぐむ。
「でも価値観の違いって言うの? そう言うのはどうしても拭えなくって、ケンカはしょっちゅう」
「『俺とつきあえばよかった』って?」
「あー、やっぱ知ってたんだ。恥ずかしい。なんでケンカしたのかなんて覚えてもいないけど、それを言ったことは覚えてる」
「本気だったのか」
「…………ん。少しだけ……」
「そうか。そしたら俺にもワンチャンあったのか」
「あの時手を握ってくれたらね」
「……ああ、いや、俺にはやっぱりタカキから掠め取るような真似はできなかった。寝取るようなことはしたくなかった」
「これだから男は……」
サナエは苦笑してお茶に口をつける。
「言っとくがお前だって大概だぞ、判ってるのか」
「うん…… ごめん」
俺も苦笑して冷たい緑茶を呷った。
「どうしてこの店?」
「前に仕事で来た事があって。いいお店でしょ」
「だが高そうだな」
「高いわよ」
「まあたまにはいいか」
「ありがと。それに…… それにどうしても二人だけになりたかったから」
「えっ」
俺はどきりとした。
「そういう意味じゃないから」
俺の顔色を見透かされたのかサナエが少し怖い顔になる。
「あ、ああ」
その少し怖い顔のまま、サナエはバッグをまさぐる。だが口調はわざとらしく軽い。
「さ、それで本題なんだけど」
「本題?」
「これ読んで」
サナエが腕を伸ばして差し出したのは白い封筒だった。俺はその封筒の文面を読んで驚く。
「『サナエ、マサヤへ』……おいこれって」
「そ、あたしたちあての遺書。多分」
「どうして今頃……」
「病室に置いてあった書類を整理してたら、その中から出てきたの。あの人、病室内にあった書類のどこかに紛れ込ませたのね」
「あの状態で遺書なんて書けたのか……?」
「もっとずっと前に死期を悟っていてその時点で書いたんだと思う」
「ううん」
俺は呻った。この中にはいった何がしたためられた便せんが入っているのだろう。俺たちへの感謝の気持ちか。それとも若くして死にゆくことへの恨みつらみか。封筒には俺たちの名前が震える字で書かれていた。封筒には俺たちの名前が震える字で書かれていた。俺はそこに何か怨念めいたものを感じてゾッとした。
「二人宛だから一緒に読んだ方がいいと思って」
「……そうだな」
おそらくサナエも怖いのだ。冷たい緑茶の入ったコップを持つ手が少し震えている。
「でもいいのかここで」
「うちにはまだあの人がいるもの。なんだか怖くて」
ということはまだ納骨していないと言うことか。確かにそれではいい気がしないだろう。
俺は覚悟を決めた。どんな内容が書かれていようと俺は決して驚かない。そう決めた。
「わかった。俺が読めばいいんだな」
「うん、お願い」
俺は夭折した友人の遺書を読み始めた。
▼次回
2022年6月24日 21:00更新
「第7話 遺書」
伏し目がちのままサナエが苦笑する。
「ずるい?」
「あたしが『あたしはマサヤが好きだから』って言おうとしたら、『マサヤも応援してくれたんだ』って言ったの、あの人」
俺は胸が苦しくなった。俺たち全員が何も知らないばかりに事態は思わぬ方向へ転がっていったのか。
「それを聞いてあたし全部諦めちゃって、あなたのこと」
「そうだったのか」
「まあ、タカキだって悪い奴じゃないし誠実そうだしいいかなって、そう思ったんだ」
そこでサナエは少し涙ぐむ。
「でも価値観の違いって言うの? そう言うのはどうしても拭えなくって、ケンカはしょっちゅう」
「『俺とつきあえばよかった』って?」
「あー、やっぱ知ってたんだ。恥ずかしい。なんでケンカしたのかなんて覚えてもいないけど、それを言ったことは覚えてる」
「本気だったのか」
「…………ん。少しだけ……」
「そうか。そしたら俺にもワンチャンあったのか」
「あの時手を握ってくれたらね」
「……ああ、いや、俺にはやっぱりタカキから掠め取るような真似はできなかった。寝取るようなことはしたくなかった」
「これだから男は……」
サナエは苦笑してお茶に口をつける。
「言っとくがお前だって大概だぞ、判ってるのか」
「うん…… ごめん」
俺も苦笑して冷たい緑茶を呷った。
「どうしてこの店?」
「前に仕事で来た事があって。いいお店でしょ」
「だが高そうだな」
「高いわよ」
「まあたまにはいいか」
「ありがと。それに…… それにどうしても二人だけになりたかったから」
「えっ」
俺はどきりとした。
「そういう意味じゃないから」
俺の顔色を見透かされたのかサナエが少し怖い顔になる。
「あ、ああ」
その少し怖い顔のまま、サナエはバッグをまさぐる。だが口調はわざとらしく軽い。
「さ、それで本題なんだけど」
「本題?」
「これ読んで」
サナエが腕を伸ばして差し出したのは白い封筒だった。俺はその封筒の文面を読んで驚く。
「『サナエ、マサヤへ』……おいこれって」
「そ、あたしたちあての遺書。多分」
「どうして今頃……」
「病室に置いてあった書類を整理してたら、その中から出てきたの。あの人、病室内にあった書類のどこかに紛れ込ませたのね」
「あの状態で遺書なんて書けたのか……?」
「もっとずっと前に死期を悟っていてその時点で書いたんだと思う」
「ううん」
俺は呻った。この中にはいった何がしたためられた便せんが入っているのだろう。俺たちへの感謝の気持ちか。それとも若くして死にゆくことへの恨みつらみか。封筒には俺たちの名前が震える字で書かれていた。封筒には俺たちの名前が震える字で書かれていた。俺はそこに何か怨念めいたものを感じてゾッとした。
「二人宛だから一緒に読んだ方がいいと思って」
「……そうだな」
おそらくサナエも怖いのだ。冷たい緑茶の入ったコップを持つ手が少し震えている。
「でもいいのかここで」
「うちにはまだあの人がいるもの。なんだか怖くて」
ということはまだ納骨していないと言うことか。確かにそれではいい気がしないだろう。
俺は覚悟を決めた。どんな内容が書かれていようと俺は決して驚かない。そう決めた。
「わかった。俺が読めばいいんだな」
「うん、お願い」
俺は夭折した友人の遺書を読み始めた。
▼次回
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「第7話 遺書」
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