102 / 102
第五章【ガルドラゴン王国】
第24話―王都といつもの日常
しおりを挟むアホウドリ亭も、流行に乗ってランチサービスを開始していた。
メニュー協力がサイゾーの事だけあって、こちらも人気を博している。
そんなランチを鬼の敵のように平らげる、ゴスロリ少女の姿があった。今日は黒ゴスだ。
「ええいまったく! どうして妾には返事が一つもこんのじゃ!!」
黒ゴスことシャルロット姫の横でランチのあまりの美味さに驚愕の表情を浮かべていたお付きの近衛騎士、キシリッシュが我を取り戻して答えた。
「サイゾーも言っていたではありませんか。王族の名前には返信しにくいと……」
「うるさいうるさい! 妾もかっちょよいボーイフレンドが欲しいのじゃ!」
「気持ちはわかりますが……」
二人で喧々囂々していると、そこにサイゾーがやってくる。
「お前らは飯くらい静かに喰えんのか?」
「なんじゃサイゾー。また嫌みを言いに来たのかの?」
「ただの昼休憩だ。満席なんで、ここ良いか?」
「ふん。特別に許してやるのじゃ」
「そりゃどーも……おやっさん! 一番安いランチ頼む」
「一番高い飯だな?」
「耳腐ってんのか? 飲み物は水で良いからな」
「まったく……たまには高いもん喰えよ」
「ほっとけ」
サイゾーは素早く出てきたコロッケ定食を、マイ箸で器用に平らげていく。
「相変わらず不思議なもんで食べるのじゃな」
「慣れてるからな」
「それよりじゃ! 妾にはどうして誰もメールをしてこんのじゃ!」
「……まぁ姫様にメールを出す勇気のある奴は少ないよなぁ……」
「納得いかんのじゃ! 遺憾なのじゃ!」
「それより今日もここに来て大丈夫なのかよ。禁止されてんじゃないのか?」
「うむ? それなのじゃが、どういうわけかここに来るのは大丈夫になったのじゃ!」
「そうなのか?」
サイゾーはキシリッシュに視線を向けた。
「ああ、突然陛下が許可してくださってな。もっとも週2という話だったのだが……」
「毎日来てんじゃねーか」
「まあ……な」
キシリッシュが苦笑し、サイゾーに伝染した。
「あー、そんなにボーイフレンドが欲しいなら紹介するか?」
「なんじゃと!? それは名案なのじゃ! 今すぐ紹介するのじゃ!」
飛び上がるシャルロットとは相対的に眉を顰めるキシリッシュ。
「良いのか? それでは特別扱いになってしまうだろう?」
「会員を紹介したらな。個人的に会員以外を引き合わせれば、まぁなんとか」
サイゾーとしてもあまりやりたくは無いが、周りが文句を言わないギリギリのラインだろう。もっともサイゾーは勘違いしているが、王族を特別扱いして文句を言う人間などこの国にいない。
「それで! 誰じゃ! 誰を紹介してくれるのじゃ!?」
「目を血ばらせるんじゃねぇよ! 怖いっつの……おいコニー! ちょっと来い!」
「はーい! 親方ぁ!」
奥で給仕を手伝っていたコニータ・マドカンスキーがぱたぱたと歩いてくる。さすがに毎日やってくるのでシャルロットに対する緊張はあまりない。
「お前、姫様と付き合ってみないか?」
「……」
時間が止まる。
「はああああああぁぁぁぁぁ????」
状況を理解して顔面を崩壊させて奇声を上げた。
「ちょ!? 姫様って!? シャルロット様と!? え! いや! そりゃぁこんな美人とおつきあいしてみたいですがっ!」
「ふん。なんじゃいつもうろついてる小間使いでは無いか。どうして妾がこんな下賤な者と付き合わねばならんのじゃ」
「下賤……」
コニータはがっくりと四つん這いに崩れ落ち頭を項垂れた。
「下賤はねぇだろ。確かに仕事は出来ねぇが、頑張ってるんだぜ? 顔はなかなか良い方だろ?」
「親方……それはフォローになってないです……」
「ふん。それは可愛い顔と言うのじゃ。妾はかっこいいお兄さん系が好みなのじゃ」
「可愛い……」
コニータが地面にうつぶせに沈んだ。
「注文が厳しいぜ……ついでだから聞くが、最低限のラインってどんななんだ?」
「そうじゃな……どうせ妾は戦略結婚させられるのが落ちじゃからな。それでも最低限、デカい商会の会長などであればそのまま嫁げるかも知れんのじゃ」
「戦略結婚か……」
サイゾーは背もたれに体重を掛けた。
「うーん。”尖った釘”が残ってりゃなぁ……」
「誰じゃそれは」
サイゾーは雑談していたスパイクに視線を移した。聞こえていたのかスパイクは頷いた。
「あいつの事だよ」
「ふむ? 面はまぁまぁじゃな。こないだの貴族じゃな」
「ああ。だが残念な事に奴は現在アタックしている女性がいる」
「ふん。あんな量産型貴族はいらんのじゃ。妾はもっとオンリーワンで刺激的な男がいいのじゃ!」
「贅沢過ぎるだろ」
処置無しとサイゾーは立ち上がった。
「なんじゃもう食べ終わったんか!?」
「喋りながらだからこれでもゆっくり食べた方だ。ほらコニー! いつまでもサボってんじゃねーぞ!」
「ふええええい。親方ぁ」
「親方じゃねっつの!」
半べそで給仕に戻るコニータ。サイゾーはカウンターに戻る途中、キシリッシュの肩を軽く叩いた。
「そんな眉間に皺ばっかり入れてると、美人が台無しになるぞ。ちょっとは力を抜け」
「びっびじっ!?」
難しい顔で二人の会話を聞いていたキシリッシュが顔を真っ赤にして硬直する。
「サイゾー! 妾の相談は終わっておらんのじゃ!」
「今のところアドバイス出来る事がねぇんだよ。何か考えとくから、しばらくは男の書き込みにでもメールしとけ」
「無責任なのじゃ!」
「へいへい」
サイゾーは片手を上げてカウンターに戻る。途中エルフの冒険者に蹴られていた。
そんな様子を眺めていた古株の一人がぼそりと呟いた。
「どうして全ての条件を満たす野郎がいる事に誰も気がついてねぇんだよ」
面白く無さそうに安い豆を摘まんだ。
見かけない青年がきょろきょろと店の中に入って来た。ランチ時だというのに注文もせずに、おずおずと掲示板の前までやってきて、その膨大な書き込みに圧倒される。
「よお。初めてのお客さんだな、会員登録かい?」
いつものように黒髪の青年が背後から声を掛け、初見の青年が飛び上がる。
「興味があるなら会員になってみないかい? 今なら無料な上に、ポイントをサービスするぜ?」
「え? え?」
「新聞の広告を見てきたんだろ? とりあえず説明するぜ」
「え? あ、はい……」
「この出会い掲示板は――」
今日も出会い掲示板には出会いを求めて人が集まる。
その掲示板の名は――。
――第五章・完――
0
お気に入りに追加
57
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ひだまりを求めて
空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」
星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。
精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。
しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。
平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。
ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。
その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。
このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。
世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。
グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。
異世界転移で無双したいっ!
朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。
目の前には絶世の美少女の女神。
異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。
気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。
呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。
チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。
当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。
果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
異世界チート無双へのアンチテーゼ。
異世界に甘えるな。
自己を変革せよ。
チートなし。テンプレなし。
異世界転移の常識を覆す問題作。
――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。
※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。
※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。
2053年発売予定 エターナルアーツ待望の新作RPG「AMのトレイター」税込み53G
エターナルアーツ
ファンタジー
~はじめに~
このたびは本作品をお開き頂き誠にありがとうございます。
ご利用前に最初の「読扱説明書」をよくお読みいただき、正しい利用法でご愛用ください。
~注意事項~
・本作品は未完成品です。2053年までに完成させることを目標としていますが開発者のモチベーション次第では開発が大幅に遅れてしまうかもしれません。また予算の都合上、キャラクターの声は当社スタッフがあてさせてもらっています。あらかじめご了承ください。
・この作品は「小説家になろう」さんでも転載しています。
☆うれしいお知らせ☆
本作品は2053年特有の専門用語がふんだんに盛り込まれている神ゲー要素満載のRPGです!!
チルドレン
サマエル
ファンタジー
神聖バイエルン帝国ではモンスターの被害が絶えない。
モンスターたちは人を攻撃し、特に女性をさらう。
そんな義憤に駆られた少女が一人。彼女の那覇アイリス。正義感に厚い彼女は、モンスターを憎んで、正義と平和を果たすために、剣を取る。
アイリスが活躍したり、しなかったりする冒険活劇をご覧あれ。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても面白いです!続きが気になります!
こんにちは、いつも楽しく読まさせて頂いています。
誤字報告です、「軽く頭を?いた」になってました。
これからも楽しみにしています!