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第四章【転移者サイゾー】

第6話―親友と爆弾

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「すいません、お先失礼します」

 サイゾーは割り当て分の仕事を急いで片付け、副ギルド長に提出すると、早足にいつもの酒場へと出かけていった。ベランデッドが依頼を終えて帰る度の恒例行事となっていた。

 ギルドの年配職員たちは孫か子供を見る目でサイゾーを送り出す。内心でゆっくり楽しんでこいよと呟きながら。

 その日はベランデッドが大きな仕事を片付けたらしく、ごきけんでサイゾーの分まで奢り、めずらしく夜遅くまで飲み更けていた。

 めずらしく高めの酒を頼みまくっていたベランデッドは王都の明かりがめっきり減った頃にはへべれけになっていた。

「にゃにょらりられろー!」

「おいおい……だから飲み過ぎだって言ったろ……うぷっ」

 サイゾー自身は、ベランデッドの暴飲を止めてはいたのだが、結局つられるように自分も飲み過ぎていた。

「ベランデッド……家まで……送る……って、お前どこに住んでんだよ……」

「あさしゅられらー!」

「……うん。わからん」

 酔っ払い特有の無駄テンションだけはあるが、身体はぐにゃぐにゃに揺れ、歩行は蛇行。進行方向は自由自在だった。

 舵の取れた船という表現がピッタリだろう。

「まいったな……どうするよ……うぷっ」

 肩を支えるサイゾーも限界が近い。

「しかたない……ウチに行くか……」

 サイゾーはよろける身体に鞭を打って、どうにかこうにか冒険者ギルドにたどり着いた。すると24時間絶賛営業中の冒険者ギルドの受付から夜勤の同僚が声を掛けてきた。

「お帰りサイゾー……って、どうしたんだそれは……」

「いや、飲みつぶれちゃってよ。家もわかんないから連れてくるしかなかったんだ」

「マジかよ……」

「そういうわけなんで俺の部屋で寝かすからよ」

「おいおい、部外者を上に入れるわけには……」

「頼むよ、知らない顔じゃないだろ?」

「まぁなぁ。ベランデッドさんはウチの影のエースだからなぁ……」

「だろ? 他のところには入れないからよ」

「あー。わかったよ。でも俺の交代時間内には外に出せよ。夜明けまでだからな」

「わかった……もし俺も起きられなかったら、すまんが……」

「バケツで水かぶせてやらあ」

「恩に着る」

 サイゾーが限界なのは、同僚からも明かだったので、問答することはやめた。

 よろける足取りで階段を昇っていく二人の背中を見て、同僚はため息をついた。

 ■

「この間はすまなかった!」

 あの日から数日後、サイゾーはオフの日に朝からベランデッドに呼び出されて、王都の小洒落た喫茶店に呼び出されていた。朝から酒も無いのでいつもの場所出ないのはわかるのだが、それにしても、むさ苦しい男二人で入るにはいささかハイカラすぎる喫茶店に思えた。

「いや、かまわねーよ。別に誰かに迷惑をかけたわけじゃないしな」

 実際には同僚に水をぶっかけられたので、十分迷惑はかけていたが、そこはサイゾーが誠心誠意お礼を言っておいたので、問題は無いだろうと彼は考えていた。

「いやいや、俺としたことが大失態だぜ。あんな無様をさらした奴なんてお前ぐらいだ。まったく……」

 ベランデッドは苦笑しながら、頬を搔いた。それ見て逆にサイゾーは少し嬉しくなったが顔には出さなかった。

 この異世界で初めての親友だなんて、恥ずかしすぎると思ってしまったのだ。

「俺も似たように酔ってたからお互い様だ。それよりまさかそんなことを言うために貴重な俺の休みの朝っぱらから呼び出したりしたのか?」

「まさか。実はこの間のわびというか、お礼というか言葉は難しいが、恩を返しておこうと思ってな」

「?」

 別にベランデッドに何かさせるつもりの無いサイゾーは頭に疑問符を浮かべた。普通に考えたらベランデッドのわびなど酒を奢る程度しか思いつかなかったからだ。

「前に俺に妹がいることは話したよな?」

「ああ覚えてる、引っ込み思案で人見知りなんだっけ?」

 サイゾーはベランデッドの語るいろいろな物語をだいたい覚えている。中には彼の家族にまつわる話もいくつもあった。ベランデッドは一人暮らしだが、実家は同じ王都にあって、妹は両親と一緒に暮らしているはずだ。

「先日実家に帰ったときにな、土産話にお前の話も出たんだが、珍しくあの妹が男に興味を持ってよ」

「……ちょっと待て、まさか」

「さすがに察しが良いな。その通り、俺の例というのは俺の妹と引き合わせてやろうって塩梅さ!」

「ふざけんな! 今の流れだとお礼どころか、単純に妹さんのわがままを押しつけてるだけだろう?!」

「え?」

「え?」

 サイゾーは背後・・から聞こえた女性の小さな声に、冷や水を浴びるような錯覚を覚えて、同じように小さく声を出していた。

「……おう、そいつが俺の妹のアイリスだ」

 サイゾーの背後に女の子が立っていた。
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