上 下
40 / 102
第三章【イケメン掲示板放浪記】

第5話―ダメンズの宴

しおりを挟む

 スパイクが出会い掲示板を訪れてから数日が経った。今日はニックネーム「青いどら猫」との待ち合わせの日だ。

 スパイクは庶民がよく使うだろう店を予約しておいた。

 74区画の冒険者ギルド前での待ち合わせだったのだが、ギルド自体の出入りが激しく、誰が誰やら判別が出来ない。もう少し細かい待ち合わせ方法を決めておくべきだったかと、立ち尽くしたときに、横から声を掛けられた。

「こんにちわにゃ、あんたが『尖った釘』さんにゃ?」

 そこにはやたら若い猫耳の獣人の女性がちょこんとたっていた。茶色と青のストライプの髪を、大胆にボブカットしていた。

 左右の耳の色が茶色と青で分かれているのも特徴的だった。

「えっと、君が『青いどら猫』さんかな?」

「そうにゃ」

「良かった。簡単な服装しか教えてなかったから、見つけてもらえないと思ってたよ」

「……本気かにゃ? 銀糸の入ったマントなんて、他に絶対いないにゃ」

「そうかい? とにかくすれ違わなくて良かったですよ」

「そうだにゃ! しっかし、本当に貴族さんにゃ……ビックリしたにゃ」

「……?! え?! なんで?! どうしてボクが貴族ってわかったんだい?!」

「……本気にゃ? 金糸銀糸のマントとか、貴族以外誰が身につけるにゃ……」

「いや、これは安物なんだよ。できるだけ一般的な品物を商会に頼んだんだ」

「それは……きっと頼み方が悪かったのにゃ」

「そうなのか……」

 スパイクは腕を組んで首を傾げる。出入りの商人には「一般的なデザインで頼む」と受注したはずなのだが……。

「次からこのマントはやめよう……。失礼して外させてもらっても良いかな? その……出来ればこの事は……」

「大丈夫にゃ。内緒にしとくにゃ!」

「ありがとう。それでは食事に行きましょう。庶民的なお店ですが予約してありますので」

「……庶民的な店は予約なんてしないにゃ……」

「え? 何か?」

「なんでもないにゃ! 行こうにゃ!」

「そうですね。それではこちらです」

 彼が案内したのは、最近話題の肉専門料理店だった。庶民の店だが美味いと貴族たちの間でも、話題に上っている店だ。

「うにゃ! ここは一度来てみたかったのにゃ!」

「それは良かった。ミャウ族の方は肉と魚好きの方が多いと聞きましたので。魚の美味い店は王都ではちょっと少ないですからねぇ……」

「大丈夫にゃ! すっごくうれしいにゃ! 行こうにゃ!」

「はい。それではどうぞ」

 スパイクはナチュラルに手を差し出す。「青いどら猫」ことミナーナ・ミャウ・ハーマイナ14歳は一瞬目を丸くしてから、エスコートされていることに気がつく。

「お姫様みたいにゃ……」

 うっとりとスパイクの手に、まだ肉球の残る手を乗せた。

「それではまいりましょう」

 ミナーナの目がハートマークになっていることにスパイクは気づいていなかった。

 ■

 所変わっていつものアホウドリ亭の一角、いつものダメンズが集まっていた。

 バイエル・ハーパネン「大空を翔る荒ぶるペガサス」
 モイミール・ヤヴーレク「もっくん」
 ディック・ボスフェルト「ディック」

 上からバイエル=デブブサイク勘違い野郎、モイミール=細身陰険、ディック……のエピソードはまだない。

「ようペガサス・・・・。お前も悪党だな、よりにもよってどら猫・・・を紹介するとはな」

「いやぁ……あいつ……見聞を広げたいって……だから嘘はいってない……」

 喉の奥でぼそぼそと声を返すバイエル。某騎士に見せていた無駄な自信喋りとは大違いである。これが地なのであろう。

「へへ……絶対やらせない・・・・・ので有名などら猫ね……くくく、女漁りに来たボンボンの貴族にはちょうどいいだろ。ざまぁみろだぜ」

「ふへへ……」

「そううまくいくのかな……」

 ディックだけは疑問で眉を歪めて呟いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。 目の前には絶世の美少女の女神。 異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。 気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。 呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。 チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。 かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。 当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。 果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。 異世界チート無双へのアンチテーゼ。 異世界に甘えるな。 自己を変革せよ。 チートなし。テンプレなし。 異世界転移の常識を覆す問題作。 ――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。 ※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。 ※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

転生幼女ノアは、今日も異世界を満喫する

眠り猫
ファンタジー
鈴本 燐はこの日亡くなった。そして、転生した!イエ~イ!死んだのは悲しいけど異世界に転生出来たからまっいいや~!そして、私の名前はノアにする。鈴本 燐いや、…ノアは今日も異世界を満喫する! はい!(≧∀≦)ちょっと、前の作品が進みにくなったのでこちらも書き始めました! まぁ、まだまだ初心者ですがよろしくです!   あと、ノアの絵募集中です!可愛いけど知的な難しい顔ですがよろしくです!

2053年発売予定 エターナルアーツ待望の新作RPG「AMのトレイター」税込み53G

エターナルアーツ
ファンタジー
~はじめに~ このたびは本作品をお開き頂き誠にありがとうございます。 ご利用前に最初の「読扱説明書」をよくお読みいただき、正しい利用法でご愛用ください。 ~注意事項~ ・本作品は未完成品です。2053年までに完成させることを目標としていますが開発者のモチベーション次第では開発が大幅に遅れてしまうかもしれません。また予算の都合上、キャラクターの声は当社スタッフがあてさせてもらっています。あらかじめご了承ください。 ・この作品は「小説家になろう」さんでも転載しています。 ☆うれしいお知らせ☆ 本作品は2053年特有の専門用語がふんだんに盛り込まれている神ゲー要素満載のRPGです!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

チルドレン

サマエル
ファンタジー
神聖バイエルン帝国ではモンスターの被害が絶えない。 モンスターたちは人を攻撃し、特に女性をさらう。 そんな義憤に駆られた少女が一人。彼女の那覇アイリス。正義感に厚い彼女は、モンスターを憎んで、正義と平和を果たすために、剣を取る。 アイリスが活躍したり、しなかったりする冒険活劇をご覧あれ。

処理中です...