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幕間
幕間・王都の少年はハーレムの夢を見る
しおりを挟むここガルドラゴン王国には4つの新聞がある。
全て浮世絵の墨版と同じような行程で作られる、木版印刷だ。
その中でもっとも低俗とも言われるゴシップ満載の新聞が「ななよん新聞」である。名前の由来は王都74区画に新聞商会本部があるからだ。
最近まではまったく注目されない最底辺の新聞だったのだが、このところ急速に販路を広げている。
その最大の理由が「広告」であった。
コニータ・マドカンスキーという少年がいた。現在16歳である。14歳で成人となるガルドラゴン王国ではすでに立派な成人男性だ。
彼は王都74区に住む、いたって普通の少年である。仕事は城壁作りの日雇いであった。現在ガルドラゴン王国は未曾有の好景気であり、人手がいくらあっても足りない状況であった。
ただしそれは肉体労働であればの話である。
今日は珍しく仕事が休みだった。理由は簡単で雨が降っていたからだ。彼は安物のローブを身に纏い、ある場所へ足早に向かっていた。
最近74区画で、もっとも話題になっている「海が恋しいアホウドリ亭」という酒場兼宿屋である。
コニータは数日前に、たまたま飛んできた「ななよん新聞」を拾った。
せっかく手に入れたのだからと、文字嫌いではあったが読んでみた、隅から隅まで読んでみた。
貧乏性なのである。
王都の政治傾向を論じている横で、貴族のスキャンダルを煽ってみたり、伝説の魔物の特集をしていたりと、胡散臭いことこの上ない。
しかし彼の目を引いたのはそれらの記事のどれでもなく、広告と銘打たれた一商会の宣伝スペースだった。
新聞片面の1/6ものスペースを占めるそれ。斬新なことに男女の見つめ合うシルエットが絵としてでっかく載せられていた。
コニータの常識からすれば、少しでも売り文句をたくさん載せるべきだろうと、頭で考えていたが、そのイラストに目を奪われている事実に本人は気づかなかった。
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コニータは衝撃で倒れそうになった。
途中途中で突っ込みはいれていた。30バツイチで彼女とか贅沢だ! とか、どうして断っちゃうんだよ! とか、全員に会えよ! とか、下心ありまくりじゃねぇか! とかそんな感じだ。
もちろん彼が突っ込まなければならない所は全く別の所なのだが、見事に心理誘導に引っかかっていた。
この文章が全て、成功する事を前提に作成されている事実に、コニータはまったく気がつかなかった。
コニータはドキドキしながら続きを読んだ。
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コニータは、その期間がいつまでなのか、気が気では無かった。日雇いの仕事を晴れの日に休むなんてとんでもない。
そうして待ちに待った雨の日である。彼が無意識に足早になっているのも当然という物だろう。
土砂降りの雨の中、目的のアホウドリ亭に到着して驚いた、この天気では、客など誰もいないかもと予想していたからだ。
まだ春の陽気も残っている程度の季節だというのに、中は凄い湿度と熱気だった。
客のほとんどは男だったが、一部女性も一カ所に集まっていた、どうやら暗黙の了解で棲み分けが出来ているらしい。
「よっ、登録か?」
「え?!」
突然声を掛けられて飛び上がりそうになるコニータ。
「あの……ここって……」
黒髪黒目の少し異国風の青年がコニータが握りしめている「ななよん新聞」にチラリと視線を移した。
「タイミングが良いな、ちょうど窓口が空いた所だ、来いよ」
「え? でも……」
「入会だろ? ま、掛けろよ。説明してやるからよ」
「あ……はい」
流れるような勧誘で、コニータはカウンターに座らされてしまった。
「そんじゃ掲示板の説明を……」
黒髪が話し出そうとした所で、彼の背後から別の女性スタッフが出てきた。メガネを掛けた幼い顔つきだが知的なイメージの女性だった。年はコニータと同じくらいか。
コニータはその女性にどきりとした。かなり好みだったのだ。
「すみません、ポスターが届いたんですがどうしますか?」
「おお! 待ってたぜ! おっと、ちょっと待っててくれ!」
なぜか黒髪はうきうきと、めがねっ娘に手渡された巨大な巻紙を受け取った。
「私がやりますよ?」
「いやお前さんはリストの続きを。急がないと次便に間に合わない」
「わかりました」
黒髪はカウンターを出ると、コニータのすぐそばの壁に、その巨大な巻紙を貼り付けた。
――急募!――
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「サイゾーさん、この書類なんですが……」
その娘が、ぐぐっと身体を青年に近づける。
「ん? ああ、これか、会員番号と紐付けが間違ってる、やり直し。間違った奴あとで居残りな」
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そそくさと引っ込む女の子。
「ああ、悪かった、じゃあ続きを……」
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「はい! お願いします!」
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「いや、ウチの商会員は、掲示板の利用禁止なんだ、それでもいいのか?」
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コニータ・マドカンスキー、人生最大の選択であった。
掲示板でうはうはモテモテ……。
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「その……」
そこに先ほどの女性が現れた。
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こうして夢見る見習い従業員、通称コニーが誕生した。
彼はこの仕事の過酷さをまだ知らなかった……。
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