ルシアナのマイペースな結婚生活

ゆき真白

文字の大きさ
235 / 280
第十二章

ルシアナのお願い(六)※

しおりを挟む
「そういえばレオンハルト様。避妊薬はどこにあるのですか?」

 鋭くルシアナを見つめていた彼の瞼がぴくりと震える。
 避妊薬の管理はレオンハルトがしており、それがどこにあるのかルシアナは把握していなかった。

(わたくしが飲まないようにかしら。体に害はなくても飲ませたくはなさそうだったもの)

 その考えが合っていたのか、レオンハルトはわずかに眉根を寄せた。

「……飲むのは俺だ。これは譲らない」
「はい。取ってお渡しするだけですわ」
「……サイドチェストの一番下の引き出しに入ってる。箱の鍵は一番上の引き出しにある」

(まあ。意外と身近なところにあったのね)

 ルシアナは「わかりましたわ」と頷くと、一旦ベッドから降りる。一番上の引き出しから金色の小さな鍵を取ると、しゃがんで一番下の引き出しを開けた。
 中には両手で持ち上げられるほどのガラスケースが収納されており、その中に半透明な瓶が整然と並んでいる。

(透明な宝石箱みたいだわ)

 金で装飾された鍵穴に鍵を差し込み、細長い瓶を一本取り出すと、再び鍵を閉める。小さな鍵も元の場所に戻し、ベッドに戻ったルシアナは、じっと自分を見つめるレオンハルトの頬に口付けた。

「わたくしが飲ませて差し上げてもよろしいですか?」
「……飲ます、というのは……」
「レオンハルト様の口元に瓶を運ぶという意味ですわ。わたくしが飲んでしまう可能性もあるので、口移しはできませんから」

 ルシアナが少々残念そうに眉尻を下げた一方で、レオンハルトはどこか安堵したように息を吐いた。その様子に、瓶の栓を抜きながら、ルシアナは首を傾げる。

「何故そこまでわたくしに避妊薬を飲ませたくないのですか? ……本当は何か、体に影響が?」
「いや、それはない。影響など何もないが、ただ……」
「ただ?」

 レオンハルトの足を跨ぐように膝立ちになると、ルシアナはレオンハルトの顎をそっと掬う。熱く濡れたシアンの瞳には、慈しみと強い劣情が見て取れた。

「……貴女に、俺の何も拒絶してほしくない」
「拒絶……?」
「俺の……」

 レオンハルトはルシアナに手を伸ばそうとして、やめる。
 言いつけを守るようにきつくシーツを握り込むと、請うようにルシアナを見つめた。

「俺の、種を……拒絶してほしくなかった。俺が貴女に与えるものを、何一つ拒んでほしくなかったんだ」

 どこか甘えるようなその眼差しに、胸が甘く高鳴った。それと同時に、彼に注がれる熱いものを思い出し、腹の奥が切なく疼く。
 ルシアナは欲望に理性が崩れそうになるのを感じながら、柔らかな微笑をレオンハルトに向けた。

「わかりましたわ。これからも避妊薬はレオンハルト様がお飲みくださいませ」

 レオンハルトの口内に避妊薬を注ぎながらそう伝えれば、レオンハルトはわずかに瞳を蕩けさせ、避妊薬を飲み込んだ。
 何故レオンハルトはこんなにも愛おしいのだろう、と思いながら薄い唇に軽く口付けると、ルシアナは自分のナイトガウンの腰紐を手に取った。

(……レオンハルト様がこのような装束をお好きならいいのだけれど……)

 ルシアナは、今日の夜のために着てきた特別な衣装のことを思い出しながら、そっと腰紐を引く。どきどきしながら、そっとナイトガウンの前を開けば、レオンハルトが息を吞む音が聞こえた。
 ルシアナはナイトガウンを脱ぐと、少しだけレオンハルトから離れて座る。

「その……レオンハルト様との夜について相談をしたら、エステルたちが用意してくれたのです。……レオンハルト様がお嫌いでなければいいのですが……」

 わずかな羞恥を湛えレオンハルトを見つめれば、彼は食い入るようにルシアナを見ていた。
 レオンハルトが抱いてくれない、と相談した結果、エステルたちは“閨を盛り上げる下着”というものを準備してくれた。もともと買ってはあったようだが、出番はなさそうだとしまわれていたのだとか。

(初めて見たときは驚いてしまったわ。下着とはいえ、肌が透けているし……)

 ルシアナは、改めて自分の姿を見下ろす。
 細いレースの肩紐、胸元もレースになっており、肌が薄っすら透けている。双丘の膨らみを強調するように胸の下は絞られ、その下の生地は薄く肌を透けさせていた。
 それだけだったら変わった下着もあるものだな、と思ったかもしれないが、ルシアナが驚いたのはその布面積の少なさだった。丈は足の付け根までしかなく、平たい腹は隠れることなく晒されている。下着のいつもドロワーズではなくショーツタイプで、足の横の紐を引けば簡単に脱げる形になっている。

「白いものもあったのですが、黒はレオンハルト様のお色でもあるので、この色にしました。……似合いませんか?」

 黙ったままのレオンハルトに、煽情的な下着は自分には似合わなかったのではないか、と不安になる。
 ちらり、と窺えば、レオンハルトははっとしたように首を横に振った。

「そっ、そんなことはない……! ただ、いつもとあまりにも格好が違うから……ッ、ルシアナ、頼む……! 貴女に触れさせてくれ……!」

 嫌そうではなさそうだ、ということにルシアナはほっと息を吐き出すと、改めてレオンハルトを見つめる。
 欲望に瞳をぎらつかせ、頬を紅潮させる彼の姿に、本当に求めてくれているのだと嬉しくなる。心なしか、彼の剛直がさらに膨らんだようにも見えた。

(触れてほしい……けれど、もっとたくさん求めてもほしい)

 ルシアナは小さく喉を鳴らすと目を細め、緩く首を横に振る。

「いけませんわ。今日はこのまま自分で脱いでしまいます」
「っルシアナ……!」

 レオンハルトは切なげに名を呼ぶと、破れんばかりにシーツを掴んだ。力が入りすぎているのか、彼の腕は小刻みに震えている。
 動こうと思えばいくらでも動けるのに、大人しくルシアナの指示に従うレオンハルトが愛おしかった。それと同時に、もっと余裕をなくし、自分を求めることしか考えられなくなってほしい、という思いも湧いてきて、ルシアナは自分の胸を覆うレースに手を滑らせた。

「……レオンハルト様、お気付きですか? 実はこの衣装、胸のところに切れ込みがあるのです」

 縦に入ったスリットに指先を滑り込ませ、下へと滑らせていく。胸の中心にはスリットを止めるリボンがあり、そこまでいくと指を引き抜いて、リボンを解いた。スリットから、すでにぷくりと立ち上がった頂が顔を覗かせる。

「衣装を着たまま可愛がっていただける仕様になっているのだそうです。世の中には、本当にいろいろな下着が――」
「ルシアナ」

 鋭く名前を呼ばれ、ルシアナは反射的に口を閉じる。胸元へ落としていた視線を戻せば、レオンハルトは深く息を吐き出しルシアナを見据えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...