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第十一章
レオンハルトの精霊、のそのあと(二)
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いつの間に寝入っていたのか、何かが動く気配を感じ、レオンハルトは目を覚ました。
(……ルシアナ……?)
ぼやけた視界の焦点を合わせるように瞬きを繰り返せば、暗闇にも徐々に目が慣れ、ルシアナが体を起こしているのが見て取れた。
「……どうした?」
ルシアナの髪にそっと触れれば、彼女は小さく体を揺らしレオンハルトへ目を向けた。
口元に手を当て、小さく震えていたルシアナは、少しして小さな笑みを浮かべた。
「夕刻まで寝ていたせいか、少々目が冴えてしまって……起こしてしまい申し訳ありません、レオンハルト様」
その笑みは暗闇の中でもわかるほど、ぎこちないものだった。ルシアナ自身も、うまく表情を取り繕えていないと思ったのか、レオンハルトの視線から逃れるように顔を背ける。
「……ルシアナ」
上体を起こし、優しく抱き寄せれば、ルシアナはその体を小さく震わせた。
(……体が冷たい)
レオンハルトはルシアナの頭に口付けを繰り返しながら、いつもは温かなルシアナの頬を優しく撫でる。
「ただ、目が覚めた……わけではないんだろう?」
「……」
問いかけに答えることなく、ルシアナは顔を俯かせる。
「……夜、あまり眠れていないようだと聞いていたが……どこか体に不調でも?」
「……」
レオンハルトのガウンの袖を掴みながら、ルシアナは首を横に振る。
「何か……悪い夢でも見るのか?」
「……」
それにも答えず、彼女は体を小さくした。
「……俺に関することか?」
「……っ」
耳元で小さく囁けば、ルシアナは肩を揺らし、さらに顔を逸らそうとする。しかし、それは許さないと、レオンハルトは頬に添えた手に力を入れ、自分のほうへと向かせた。
レオンハルトを捉えたルシアナの瞳には、明確な恐怖が浮かんでいた。
その潤んだ瞳を見た瞬間、ぞくりとした感覚が全身に広がり、心を震わせた。
(……ああ。すまない、ルシアナ)
レオンハルトは漏れそうになるものを必死に飲み込みながら、ルシアナの目尻や頬、額に口付けを繰り返す。
(貴女は辛い思いをしているというのに……。貴女の苦しみが俺を想うがゆえだということに、俺は喜びを感じてしまっている)
自分の存在がこれほどまで彼女に影響を与えているのかと思うと、どうしても歓喜せずにはいられなかった。抱いてはいけない感情だと理解しつつも、心が浮き立ち、満たされていくのを止められない。
(すまない、ルシアナ。醜悪な俺のことなど、許さなくていい)
己の醜く愚かな欲望を隠しながら、顔中に口付けを繰り返し、ルシアナを労わる。
どれだけそうしていたのか、しばらくして、ルシアナはそっとレオンハルトの胸を押した。
口付けをやめルシアナを窺えば、その瞳は変わらず潤んでいたものの、先ほどに比べると生気に満ちていた。
指の背で体温の戻った頬を撫でれば、ルシアナはその手を両手で掴み、頬をすり寄せた。
「レオンハルトさま」
「ああ」
「レオンハルト様……」
「ああ。ルシアナ」
腰に回していた腕に力を込め、さらに体を密着させれば、ルシアナは掴んでいた指の背に口付けながら、レオンハルトを見つめた。
「……レオンハルト様に甘えたいです。……いいですか?」
上目遣いに自分を見るルシアナに、レオンハルトはふっと相好を崩すと、目尻に優しく口付けた。
「そんなこと。許可を取る必要はない。俺が貴女を拒絶することなど万に一つもないんだから。むしろ、もっとたくさん甘えて頼ってくれ」
「……ですが……レオンハルト様はお目覚めになられたばかりで……ゆっくりお休みにならないといけないのに……」
そうぼそぼそと呟きながらも、ルシアナは掴んでいたレオンハルトの手を自らの背中に回し、その胸元に顔を埋めた。
甘えるように額を擦り付け、強くガウンを掴むルシアナに、自然と口元が緩んだ。
(可愛い……可愛いな、ルシアナ)
両腕でぎゅうぎゅうとルシアナを抱き締めながら、レオンハルトは「では」と声を掛ける。
「少し俺に付き合ってくれないか? 実は、もう少し貴女と話していたかったんだ」
「あ……わたくしが眠ってしまったから――」
顔を上げたルシアナの言葉を遮るように唇に口付ければ、彼女は小さく瞳を揺らした。
驚きや期待、喜びが見て取れるその瞳に、ぐらりと理性が揺れた。レオンハルトは湧き上がる衝動をぐっと堪えると、自らの腕の中からルシアナを解放する。
「……何か飲むものでも持ってくる。少し待っていてくれ」
「えっ、あ……わ、わたくしもご一緒してはいけませんか?」
「……すぐ戻るから、待っていてくれ」
自分を引き止めたルシアナの手をやんわりと離したレオンハルトは、ルシアナを抱き上げるとソファまで運び、頭に軽く口付けてから部屋を出た。
後ろ手に閉めた扉に寄りかかり、深く息を吐き出す。
(……本当に、正気ではないな)
レオンハルトは自らの思考を切り替えるようにもう一度息を吐くと、足早に厨房へと向かった。
(……ルシアナ……?)
ぼやけた視界の焦点を合わせるように瞬きを繰り返せば、暗闇にも徐々に目が慣れ、ルシアナが体を起こしているのが見て取れた。
「……どうした?」
ルシアナの髪にそっと触れれば、彼女は小さく体を揺らしレオンハルトへ目を向けた。
口元に手を当て、小さく震えていたルシアナは、少しして小さな笑みを浮かべた。
「夕刻まで寝ていたせいか、少々目が冴えてしまって……起こしてしまい申し訳ありません、レオンハルト様」
その笑みは暗闇の中でもわかるほど、ぎこちないものだった。ルシアナ自身も、うまく表情を取り繕えていないと思ったのか、レオンハルトの視線から逃れるように顔を背ける。
「……ルシアナ」
上体を起こし、優しく抱き寄せれば、ルシアナはその体を小さく震わせた。
(……体が冷たい)
レオンハルトはルシアナの頭に口付けを繰り返しながら、いつもは温かなルシアナの頬を優しく撫でる。
「ただ、目が覚めた……わけではないんだろう?」
「……」
問いかけに答えることなく、ルシアナは顔を俯かせる。
「……夜、あまり眠れていないようだと聞いていたが……どこか体に不調でも?」
「……」
レオンハルトのガウンの袖を掴みながら、ルシアナは首を横に振る。
「何か……悪い夢でも見るのか?」
「……」
それにも答えず、彼女は体を小さくした。
「……俺に関することか?」
「……っ」
耳元で小さく囁けば、ルシアナは肩を揺らし、さらに顔を逸らそうとする。しかし、それは許さないと、レオンハルトは頬に添えた手に力を入れ、自分のほうへと向かせた。
レオンハルトを捉えたルシアナの瞳には、明確な恐怖が浮かんでいた。
その潤んだ瞳を見た瞬間、ぞくりとした感覚が全身に広がり、心を震わせた。
(……ああ。すまない、ルシアナ)
レオンハルトは漏れそうになるものを必死に飲み込みながら、ルシアナの目尻や頬、額に口付けを繰り返す。
(貴女は辛い思いをしているというのに……。貴女の苦しみが俺を想うがゆえだということに、俺は喜びを感じてしまっている)
自分の存在がこれほどまで彼女に影響を与えているのかと思うと、どうしても歓喜せずにはいられなかった。抱いてはいけない感情だと理解しつつも、心が浮き立ち、満たされていくのを止められない。
(すまない、ルシアナ。醜悪な俺のことなど、許さなくていい)
己の醜く愚かな欲望を隠しながら、顔中に口付けを繰り返し、ルシアナを労わる。
どれだけそうしていたのか、しばらくして、ルシアナはそっとレオンハルトの胸を押した。
口付けをやめルシアナを窺えば、その瞳は変わらず潤んでいたものの、先ほどに比べると生気に満ちていた。
指の背で体温の戻った頬を撫でれば、ルシアナはその手を両手で掴み、頬をすり寄せた。
「レオンハルトさま」
「ああ」
「レオンハルト様……」
「ああ。ルシアナ」
腰に回していた腕に力を込め、さらに体を密着させれば、ルシアナは掴んでいた指の背に口付けながら、レオンハルトを見つめた。
「……レオンハルト様に甘えたいです。……いいですか?」
上目遣いに自分を見るルシアナに、レオンハルトはふっと相好を崩すと、目尻に優しく口付けた。
「そんなこと。許可を取る必要はない。俺が貴女を拒絶することなど万に一つもないんだから。むしろ、もっとたくさん甘えて頼ってくれ」
「……ですが……レオンハルト様はお目覚めになられたばかりで……ゆっくりお休みにならないといけないのに……」
そうぼそぼそと呟きながらも、ルシアナは掴んでいたレオンハルトの手を自らの背中に回し、その胸元に顔を埋めた。
甘えるように額を擦り付け、強くガウンを掴むルシアナに、自然と口元が緩んだ。
(可愛い……可愛いな、ルシアナ)
両腕でぎゅうぎゅうとルシアナを抱き締めながら、レオンハルトは「では」と声を掛ける。
「少し俺に付き合ってくれないか? 実は、もう少し貴女と話していたかったんだ」
「あ……わたくしが眠ってしまったから――」
顔を上げたルシアナの言葉を遮るように唇に口付ければ、彼女は小さく瞳を揺らした。
驚きや期待、喜びが見て取れるその瞳に、ぐらりと理性が揺れた。レオンハルトは湧き上がる衝動をぐっと堪えると、自らの腕の中からルシアナを解放する。
「……何か飲むものでも持ってくる。少し待っていてくれ」
「えっ、あ……わ、わたくしもご一緒してはいけませんか?」
「……すぐ戻るから、待っていてくれ」
自分を引き止めたルシアナの手をやんわりと離したレオンハルトは、ルシアナを抱き上げるとソファまで運び、頭に軽く口付けてから部屋を出た。
後ろ手に閉めた扉に寄りかかり、深く息を吐き出す。
(……本当に、正気ではないな)
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