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第十章

求め合う夜(一)※

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 レオンハルトの寝室で、両足を抱えてソファに座りながら、ルシアナはぼうっとテーブルの表面を見つめる。
 レオンハルトがいない間、彼の個人的な空間に足を踏み入れたことはない。今夜帰って来るなら、と久しぶりに彼の寝室に入った。久しぶりに訪れた彼の寝室は、部屋の主がいないにも関わらず彼の匂いが濃厚で、ルシアナはさらに体を縮こまらせた。

(あの日のことを思い出してしまうわ……)

 レオンハルトと初めての夜を迎えてから、彼と夜を共にしたことはない。
 そもそも彼の寝室で夜を明かしたのは、あの夜とあの前夜のみだ。彼が忙しくしていたのもあって、彼が討伐へ出る前も訪ねるようなことはしなかった。彼が邸を離れるとわかっていたら、ただ一緒に寝るだけでも、とお願いしたのになとルシアナは短く息を吐く。

(……起きている間にお戻りになるかしら)

 ヴァルターは昨日、今日の夜には帰宅すると言っていたが、詳しい時間までは言っていなかった。“夜”というのはあまりにも範囲が広く、もしかしたら今日は会えないかもしれないな、とガウンの裾を弄る。

(せめてお顔だけでも見られればいいのだけれど……)

 昨日、ヴァルターたちと話した直後は、手紙の一通くらい送ってほしい、と訴えようと思っていた。しかし時間が経つごとに拗ねていた気持ちはしぼんでいき、レオンハルトにやっと会えるという喜びと、ただ寂しかったという想いが増した。
 あのときのことを思い出すとむっとした気持ちが湧いて出てくるが、レオンハルトの姿を想像するとそれも長続きしない。
 ルシアナは体を揺らしながら、起きて待っているか、明日出直すか考えて、このまま待つことを決める。
 暇つぶしに本でも持ってこようか、と両足を解放し床に着けたところで、扉が開く。
 レオンハルトの寝室にノックもなし入って来れるのは、この部屋の主だけだ。

「レオ――」

 レオンハルトが帰って来たのだ、と満面の笑みを浮かべ顔を上げたルシアナだったが、扉を開け立っている人物の姿を見て体を硬直させる。もっと正確に言えば、扉を開け立っているレオンハルトの纏う雰囲気に、自然と体が硬直した。
 ルシアナを視界に捉えたレオンハルトも一瞬動きを止めたが、すぐに扉を閉めると早足でルシアナの元までやって来る。
 自分を見下ろすレオンハルトの双眸を見つめながら、ルシアナは小さく喉を鳴らした。彼の全身から溢れる殺気立った気配に、ルシアナは思わず後ずさりしかけたものの、レオンハルトがその一瞬の動きを見逃すはずもなく、足を掴まれ引き寄せられる。

「レ――っん……!」

 自然とソファに仰向けになったルシアナの唇を、レオンハルトは少々乱暴に塞ぐ。
 腰に佩いたままの剣がガチャガチャと音を立てたが、そんなことを気にしてもいないかのように、レオンハルトはルシアナに体重をかけるように覆い被さり、その口内を貪る。

「んぅっ、ふ、っん……」

 絡む吐息の熱さのせいか、息を吸う間も与えられないほどの激しい口付けのせいか、次第に頭がぼんやりとしていく。
 少し休ませてほしくて舌を引くものの、レオンハルトはそれを許さないかのように根元からルシアナの舌を絡めとり、器用にその舌を扱いていく。

「っは、ぁ、ふぁ……ん、っぁ……!」

 溜まる唾液を飲み下すことができず、口の端から溢れ出したところでレオンハルトは体を起こした。
 濡れた自身の唇を舐めながら、レオンハルトは剣を外しテーブルの上に置く。マントとジャケットを脱ぎそれらもテーブルの上に放ると、手袋を取って適当に投げた。
 ルシアナを見つめたまま一連のことを行ったレオンハルトに、ルシアナも目を逸らすことができず、縫い止められたようにレオンハルトを見続けた。
 レオンハルトの纏う獰猛な雰囲気は変わらず消えず、瞳は鋭利にぎらついている。

(そんなに……激しい戦いだったのかしら)

 戦闘の昂ぶり引きずっているのは、一目見た瞬間からわかっていた。
 レオンハルトなら自分を傷付けないとわかっているから大人しくしているが、もし見ず知らずの他人が同じような雰囲気を纏っていたら、逃げ出すか気絶させるかくらいはしていただろう。

(あ……)

 レオンハルトの大きな手が伸び、首に触れる。大丈夫だとわかっているのに、反射的に体が小さく跳ねた。
 レオンハルトは一瞬動きを止めたものの、すぐにその手を下に滑らせ、ガウンの腰紐を解く。露わになったナイトドレスに手を掛けると、レオンハルトは小さく息を吸った。

「……あとで、いくらでも罵ってくれ」

 え、と思ったのも束の間、レオンハルトの手によってナイトドレスは綺麗に裂かれていた。

(え、え……)

 驚いている間に、簡易コルセットもシュミーズも意味をなさなくなった。コルセットのボタンを留める糸は切れ、シュミーズも上から下まで綺麗に裂かれている。
 コルセットの糸はともかく、ナイトドレスもシュミーズもそんな簡単に破けるような素材ではないのに、レオンハルトの腕力はとんでもないな、と感心をしてしまう。そんなことを考えている間に、レオンハルトの手はルシアナの双丘を鷲掴み、首筋にぬめりとしたものが這う。

「ぁ……」

 ふわふわとその感触を確かめるように優しく揉み込みながら、レオンハルトは舌を這わせまだ柔らかな頂を口に含む。乳暈にねっとりと舌を這わせ、ときに白い肌に歯を当てながら、丁寧に胸の頂を吸う。レオンハルトの愛撫に合わせそこが硬く立ってくると、レオンハルトは重点的に吸い付いた。

「っぁ、は……あ、んんっ……」

 吸い付いていないほうはただ膨らみを揉むだけに留め、口に含んでいるほうは徹底的に頂を舐めしゃぶり、吸い上げた。
 一度口を離し、頂きがしっかり凝っているのを確認すると、レオンハルトは頂の先端を舌先でつついて、少々強めに乳首を吸った。

「んぁっ、ぁ……レオンハルトさま……」

 任務帰りだからか、少し強張った髪に指を通しながら名前を呼べば、彼はぴくりと体を揺らした。しかし、愛撫を止めるでも、呼びかけに応えるでもなく、彼はそのまま、彼が丁寧に立たせた乳首に歯を立てた。

「――ぁっ」

 一層高く、甘さを孕んだ声が漏れる。ルシアナは思わず、レオンハルトの顔を自らの胸に押し付けるように、その頭を抱き込んだ。レオンハルトが苦しいかもしれないと、すぐに我に返り力を抜いたものの、彼が顔を上げる様子はない。
 むしろ、乳首や乳暈だけでなく白い肌をも口に含み、乳房全体を吸い上げるように、じゅっと音を立てた。

「っふ、ァ……ぁ、ン」

 ルシアナは甘い嬌声を漏らしながら、もどかしそうに腰をくねらせる。

(……お腹、熱い……)

 彼と交わったのはあの一夜だけだが、あの一夜でしっかりと中を穿たれる悦びを覚えさせられてしまった体は、貪欲にその快楽を求めてしまっていた。
 ルシアナは、丁寧に自分の胸をしゃぶっているレオンハルトを見つめ、そのうなじを指先で撫でた。

「……レオンハルト様、っぁ、そこだけでは、なく――ッン……その……」

 息を震わせながら、もごもごと口籠るルシアナに、レオンハルトはやっと頭を上げ、ルシアナを見下ろした。
 いつも澄んでいるシアンの瞳は少々据わっており、開いた口からは荒い呼吸が繰り返されている。
 どう見ても興奮状態であるレオンハルトを見上げながら、ルシアナは自然と両手を広げていた。
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