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第九章

初めての夜(十一)※

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「……何故、おっしゃってくださらなかったのですか?」

 頬に添えられたままの手に自らの手を重ね、頬をすり寄せながら問えば、視線を上げたレオンハルトが眉尻を下げた。

「……俺が辟易したものに俺自身がなってしまうのが嫌だった」

 不思議そうに瞬きを繰り返すルシアナに、レオンハルトは短く息を吐くと、髪を梳いていた手を背中に這わせた。ゆっくりと腰を撫で、そのまま尻を緩く揉む。

「貴女に対する欲は結構前から自覚していたと、以前言っただろう。あのときすでに、俺は貴女に劣情を抱いていた」
「え――ッン」

 首元にレオンハルトが顔をうずめたと思った瞬間、ぬめりとしたものが首筋を這い、ルシアナはぴくりと体を揺らす。
 レオンハルトはそのまま上へと舐めていき、耳の縁を舌先で辿った。

「貴女のことは、初めて見たときから美しいと思っていた。精巧な人形のように美しい少女だと思った」

 吹き込むように耳元で囁きながら、頬に添えていた手を下げていき、バスローブの上から胸の膨らみを揉んだ。

「貴女の髪も、肌も、瞳も。純白の衣服に身を包んだ貴女は美しくて……俺は自分の気持ちを誤魔化すように別のことを考えた」
「ん……別のこと、ですか……?」

 いつの間にかバスローブの腰紐が解かれ、彼が直に胸の膨らみに触れる。やわやわと優しく揉み込みながら、レオンハルトは耳元で熱い息を漏らした。

「……身代わりを疑った」

 きゅっと胸の頂を摘ままれ、ルシアナはきつくレオンハルトのバスローブを掴みながら、ふふっと笑みを漏らす。

「まあ……っん……身代わりですか?」
「ああ。貴女が……思っていたよりも小柄だったから」

 少々申し訳なさそうな声色で、それでもしっかりと呟いたレオンハルトに、ルシアナは笑みを深める。

「がっかりなさいましたか?」
「まさか」

 間髪入れずに否定すると、レオンハルトは真正面からルシアナを見つめた。

「言っただろう? 初めて見たときから美しいと思っていたと。誰かに対しそのような感情を抱いたのは、あのときが初めてだった」

 彼の熱い手のひらが脇腹を撫で、腰を抱く。どちらともなく唇が合わさり、深く舌を絡めあった。
 バスローブが肩から落ち、身を包むものが何もなくなる。浴室内の温かな空気に晒された肌は、室内の熱気か、自身の熱か、しっとりとした水気を帯びていた。
 吸い付くような感触を確かめるようにルシアナの肌に手を這わせながら、レオンハルトは顔を離した。

「……必要以上に親しくするつもりはなかった。一族を切り盛りしていくパートナーとして良好な関係を築ければいい、ほどほどの距離を保てればいいと思っていた。いずれ跡継ぎを産んでもらうにしても、そこに特別な情はいらないと、そう思っていたんだ。貴女に会うまでは」

 薄い腹を撫でたレオンハルトは、そのまま手を下降させ、秘裂をなぞった。わずかに湿ったそこをくすぐるようにさすられ、ルシアナは息を震わせる。

「……そのように考えていらっしゃったとは思いませんでしたわ」
「貴女に会ったその日に、考えを改めたからな」

 一度手を退かしたレオンハルトは、その指先を自らの唾液で濡らし、再び秘裂に触れると指先を隘路に侵入させた。入り口を確かめるようにきわを撫でられ、ルシアナは小さく声を漏らす。
 奥から蜜が溢れ、水音が響くようになると、レオンハルトは指を根元まで沈み込ませた。

「きっと、初めて会ったあの瞬間に、俺は貴女に惹かれたんだ。俺は愚かにもそれに気付かず長い時間を過ごしたが……無自覚の中でも、一緒に過ごすうちに知った、貴女の無垢な朗らかさや優しさ、芯の強さ、したたかさに、心癒され、驚かされ、感心し……心の奥底に脆さを隠し持った貴女を、何よりも大切にしたいと思うようになった」

(会った、瞬間に……?)

 レオンハルトの話をしっかりと聞きたいのに彼の愛撫は止まらず、次第に頭がぼんやりとしていく。
 少し待ってほしい、と伝えようとしたものの、少し前までレオンハルトのものを受け入れていたそこは柔らかく、彼はすぐに指を二本に増やした。そのままゆったりと柔襞を擦られ、制止しようとした言葉は吐息となって消えていく。
 その間にも、レオンハルトは話を止めなかった。

「こんな風に心を動かされたのは、貴女が初めてだ。誰かを美しいと思ったのも。愛らしいと思ったのも。こんな風に触れたいと思ったのも。貴女だけなんだ。貴女だけが、俺の心を激しくかき乱す」
「んぅっ、ぁっ」

 恥骨の裏をぐいぐいと押され、ルシアナは足先を丸める。
 先ほどまで鎮まっていた体は一瞬で悦楽を思い出し、何かを搾り取るようにレオンハルトの指を締め付ける。

「貴女への想いを自覚してから、俺は初めて生きているということを実感した。貴女の表情、言葉、仕草、その一つ一つが、俺の心に様々な感情を芽生えさせたんだ。世界が彩り輝くような、そんな気分だった」
「んっ、ぅ……っぁ、ふぁっ」

 素早く柔襞を擦られながら、手のひらで淫芽を潰され、呆気なく果てを迎える。
 隘路は収縮し二本の指を締め付けたが、彼はそこにもう一本指を追加して、淫猥な音を響かせた。一度果てを迎えた体は簡単に快感を拾い上げ、またすぐに高みへと導かれそうになる。

「ぁっ、待ってっ……レオンハルト様もっ、一緒がいい、です……っ」

 レオンハルトが伝えてくれる言葉をちゃんと聞きたいと訴える理性はあったが、快楽に塗り替えられた頭はその理性を一瞬で隅のほうへと追いやり、欲望を口走らせた。
 レオンハルトはまるでその言葉を待っていたとでも言わんばかりの微笑を浮かべると、ルシアナの中から指を引き抜き、すぐにバスローブの前を広げる。

「ルシアナ、立てるか?」

 小さく頷き、その場に立つと、レオンハルトは反り立つ陽根に手を添えながら、ルシアナの腰を引き寄せた。

「ゆっくり腰を下ろして」
「は、い……」

 レオンハルトの肩に手を置き、言われた通りゆっくりと腰を下ろす。
 彼の先端が触れた瞬間、思わず動きを止めてしまったが、レオンハルトに腰を引かれ、意を決して腰を落としていく。
 先端が隘路を拡げ押し入ると、レオンハルトは支えるように肉茎に添えていた手を放し、両手でルシアナの細い腰を掴んだ。
 ゆっくりと、けれど確実に腰を引き下げられ、ルシアナは甘い声を漏らす。いまだ狭い隘路はそれでも嬉しそうに柔らかく解れ、根元までしっかりと彼のものを受け入れた。
 自分が上に乗っかっているせいか、彼のものが奥深くまで隙間なく埋まっているような気がして、ルシアナは浅い呼吸を繰り返す。
 レオンハルトはそんなルシアナを抱き締めると、頬に軽く口付けた。

「俺がこうして情を交わしたいと思うのは貴女だけだ。貴女に触れるたび、貴女と愛を伝え合うたび、生きていてよかったと思う。貴女と言葉を交わし、体温を分け合える存在であることが嬉しいと思う。貴女に出会えてよかったと。貴女が妻となってくれたのは、この上ない奇跡だと、心から思ってる。愛してるルシアナ。誰よりも」

 そう言って充足感に満ちた笑みを浮かべたレオンハルトは、それからまた激しく、ルシアナの体を貪った。
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