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第九章

初めての夜(四)※

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「ルシアナ……?」

 驚いたようにわずかに目を見開くレオンハルトに、ルシアナはぐずるように首を横に振る。

「ゃ、ぁ……動いて……レオンハルトさま……お願い……」

 甘ったるい声で乞うようにねだる。
 首筋や胸板など、彼の逞しい体に手を這わせながらぎこちなく腰を揺らせば、彼はきつく眉を寄せ、深く息を吐き出した。

「……貴女は、俺をどうしたいんだろうな」
「え……?」

 小首を傾げたルシアナの目尻に軽く口付けたレオンハルトは、上体を起こすとルシアナの腰を掴んだ。そのまま自らの腿の上にルシアナの下半身を乗せ、彼はゆっくりと腰を引く。

「ぁ、んん……」

 何かに引っかかるように襞を擦られる感覚は、何とも表現しがたいものだった。しかし、これで真に彼と夫婦になれたのだという喜びと、「ただ気持ちいい」と言ってくれた嬉しさが折り重なって、最終的にはすべて快感へと帰結していく。

(お姉様からの本に、信頼関係が大事だと書かれていたけれど……こういうことかしら)

 心が受け入れ求めれば、体は自然とそれに応じる。
 彼の動きを助けるように蜜は潤沢に溢れ、体からは余計な力が抜けた。

(何かしら……快楽ではなく、純粋に心地がいいわ……)

 途中まで抜かれた彼のものが、ゆっくりと戻ってくる。最奥までは挿れずに、ただ隘路を拡げ、慣らすように、ゆったりと彼のものが前後する。

(優しい……嬉しい……。……幸せだわ)

 あまりの多幸感に涙が滲む。ルシアナはそれを散らすように、レオンハルトの動きに合わせてゆっくりと瞬きをした。
 そのうちに呼吸も彼の動きに合わさっていき、体全体がゆったりとしたスピードに包まれ、瞼が重くなっていく。

「――痛くなさそうなのは幸いだが、そこまで落ち着かれるのは心外だな」
「ぇ……――ッ!?」

 ギリギリまで抜かれたものが一気に最奥を貫き、声にならない声が喉奥から弾き出された。
 あれほどのんびりと揺蕩っていた意識が一気に覚醒し、予想もしていなかった衝撃に下半身が小刻みに震える。叩きつけるような強烈な快感に、先ほどとは違う理由で涙が滲んだ。

「――集中しろ、ルシアナ」
「は、ぁ、……?」

 まるでその言葉が合図だとでもいうように、先ほどまでとは明確に違う意思を持って、彼は腰を動かし始める。
 引きずり出された官能が呼び水となり、微睡みかけていたのが嘘のように、襞を擦る感覚に悦楽を覚える。

「ふぁっ、っぁ――ッ、ぁあっ」
「ああ……っ、は……いいな。指でするより……貴女の反応がよくわかる」

 喜色を孕んだ声に訳もわからず体が喜び、突かれるたびにに奥から蜜が溢れ出す。

(あ……だめ……これ……)

 柔襞を擦られる快感は昨夜徹底的に教え込まれた。しかし、長大な彼のものは指では触れられなかった最奥を難なく叩き、知らなかった新たな快楽を芽生えさせる。
 最奥からもたらされる快楽は逃れたいほど強烈で、それでいてもっとしてほしいと願ってしまうほどの疼きを覚えさせた。

「っぁ、あッ、は、ぁん、んあ、ぁっ」

 抗いがたい快楽に、ルシアナは喉をのけ反らせ、天板を見つめる。夜の影が落ち暗いはずのそこはどこか白んで見え、すべてを夢心地にさせた。
 圧迫感などはとうになく、抉るように襞を擦られるのが快感となって脳に伝わり、もはや気持ちいいとしか考えられない。狙いすましたかのように腹側を擦られ、最奥を突かれれば、そうしようと思わなくても快楽に溶け切った女の声が自然と口から出た。
 自分の声はこんな感じだっただろうか、とまとまらない思考で考えたルシアナは、ふと無言で腰を打ち付けるレオンハルトの様子が気になり、彼へと視線を向けた。

(え……)

 視界に入ったレオンハルトの姿に、ルシアナの喉がひくりと絞まる。
 レオンハルトは、ただじっと、ルシアナを見つめていたのだ。シアンの瞳には確かに情事の熱が浮かんでいるようだったが、その眼差しはとても冷静で、ルシアナを観察しているような落ち着きがあった。
 もたらされる快感に耽溺している自分とはまるで違う彼の姿に、思わず体に力が入りレオンハルトの肉茎を食いしめてしまう。彼がわずかに顔を歪ませたのを見て申し訳ないと思う一方、ただただ恥ずかしくてルシアナは固く口を結んだ。

(わたくしっ……わたくし……!)

 揺さぶられるまま揺れ動く乳房を、悦楽に浸る顔を、快楽に導かれるまま嬌声を漏らしている姿を、じっと見られていた。その事実にどうしようもないほどの羞恥を感じ、ルシアナは顔を横に向けると枕を手繰り寄せ、両手で支えながらそれに顔を押し当てる。

「……ルシアナ」
「ンンッ……!」

 咎めるような声のあと、ぐっと腰を押し込まれ、くぐもった声が漏れた。
 レオンハルトはそのまま動きを止めるとルシアナから枕を奪い、それを床へと放り投げる。慌てて別の枕に手を伸ばそうとしたルシアナだったが、それよりも早くレオンハルトに両手を掴まれ、彼はそれを片手でひとまとめにすると、ルシアナの頭上に固定した。
 そのまま上体を倒したレオンハルトは、顔を横に向けたままのルシアナの顎を掴み、上を向かせて噛みつくようなキスをした。

「っふ、ン」

 少し乱暴に侵入してきた舌に自分のそれを絡めとられ、ルシアナはただされるがまま、それに応えることしかできない。
 レオンハルトは顎から手を放すとその腕を腰に回し、再び抽送を開始する。

「んっ、ふ、んぅっ」

 レオンハルトが体を倒しているからか、腰をがっちりと固定されているからか、これ以上ないという奥をさらに深く押し上げられ、ルシアナの爪先は無意識のうちにシーツを蹴った。
 最奥を抉るように肉茎を押し込まれるたび、苦しいながらも痺れるような快感が幾度となく爆ぜ、訳もわからないまま快楽の頂点へと押し上げられる。

「ふぁっ、ぁっ――……ッ!」

 目の前が白く霞み、もうレオンハルトと舌を絡め合うこともできず、ただ口を開け、必死に酸素を取り込む。

「……っ、は……すごいな」

 果てた膣道はきつくレオンハルトのものを締め付け、彼は苦しそうに短く息を吐き出した。眉根を寄せ、額に汗を滲ませながらも、彼の口元には薄っすらとした笑みが浮かんでいる。

「わかるか? 貴女の中がよく絡み付いてくる」
「ァッ、っああ……! ゃ、あッ」

 柔襞はレオンハルトの形がわかるほど彼のそれにまとわりついているというのに、彼は止まることなく抽送を続ける。果てたばかりで敏感になっているなか、激しく襞を擦り上げられれば、抗えない快楽の波に飲み込まれ、ただ体を震わせ嬌声を漏らすことしかできない。

「やぁっ……だめっ、だめぇっ……!」
「……っああ、可愛いな……ルシアナ……っ!」

 ごりっと最奥を抉られ、下肢が震える。絶え間なく与え続けられる悦楽に、もう絶頂の高みから降りてくることができない。自分が今果てを迎えたのか、そうでないのか、それすらもわからなかった。

「あっ、あっ、だめッ……っぁ、あっ!」
「ルシアナッ……!」
「あああっ」

 ぐぐっとさらに奥を掘り返され、膣道が思い切りレオンハルトのものを締め上げる。目の前でちかちかと火花が散り、脳が痺れたようにぼうっとするなか、最奥に熱いものが広がっていくのを感じた。
 頭で理解するより早く、体はそれが子種であることをわかっていたようで、一滴残さず出そうと緩く腰を動かすレオンハルトを手助けするように、柔襞は彼の肉茎を搾っていった。
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