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第七章
狩猟大会・三日目(七)
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レオンハルトはルシアナの目尻に口付けると、桃色に染まった頬を優しく撫でる。
「……貴女のことを、蔑ろにしたいわけでも、軽んじてるわけでもない。貴女のことは何よりも大切にしたいと――思っているだけで一向に実行できていない自分が、心底腹立たしい」
きつく眉を寄せるレオンハルトに、ルシアナはぼんやりとしたままその眉間をつつく。すると、彼はそのまま自嘲するように微笑み、そのルシアナの手を取って、手袋越しに口付けた。
「貴女を愛してる」
そのまま指を絡めて手を握ると、レオンハルトはルシアナの唇を食み、「愛してる」と呟きながら頬や瞼、額にキスを落とした。
「レ――」
名前を呼ぼうと開いた口を塞がれ、再び舌が侵入してくる。絡まる指に思わず力を入れると、レオンハルトは舌先を吸って顔を離した。はあ、と熱い息を漏らしながら、彼はルシアナの頭に顔をすり寄せる。
「愛してるんだ、ルシアナ。だから……」
「――!」
粟立つようなぞわりとした感覚に、ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒し、ルシアナは息を吞む。
レオンハルトから、肌を刺すような殺気が放たれたのだ。
「……レオンハルト様」
おずおずと名前を呼ぶと、レオンハルトは深く息を吐き出して顔を上げ、苦しそうに眉根を寄せながらルシアナを見た。
「……だから、許せなかった。貴女を害そうとした物も。貴女の傍にいなかった自分も。貴女に怪我を負わせてしまったことも。……貴女の肌を、他の男が見たことも」
「――え」
驚いたように目を瞬かせるルシアナに、レオンハルトは自身を落ち着かせるように短く息を吐くと、再びキスの雨を降らせる。
「気が……急いていたんだ。早く原因となった者を捕まえねばと。一刻も早く貴女をあの場から連れ去りたいと。思考も、感情も、まとまらなくて……とにかく冷静にならなければと……貴女にかけるべき言葉を間違えた」
顔を離したレオンハルトは、繋いだ手を引き寄せ、ルシアナの指先に口付ける。
「大丈夫だったかと……一番初めに、貴女を案じる言葉をかけなければいけなかった。テオの命令だからではなく、俺自身が、あの場から貴女を連れ出したかったのだと、自分の気持ちを伝えるべきだった。たとえ命令などなくても、貴女を優先したと。思うだけでなく、貴女に伝えなければいけなかった」
眉を寄せたまま、まるで懺悔でもするように、レオンハルトはルシアナを見つめる。
どこまでも真っ直ぐなシアンの瞳を、じっと見つめ返していたルシアナだったが、次第にその視界は歪んでいき、頬が濡れていく。
「……っ」
咄嗟に顔を下に向けたルシアナだったが、腰に回されていた手が後ろから伸び、すぐに上を向かされる。
「っふ、ぅ……」
レオンハルトは、嗚咽を漏らすルシアナを宥めるように、こぼれる涙を吸い取った。
「レオ……レオンハルト、さま……」
「ああ」
「レオンハルトさま……」
「ああ」
ちゅ、と目尻を吸ったレオンハルトが顔を離す。言葉を待つように見つめられれば、蓋をして、飲み込もうとしていた想いが、いとも簡単に引きずり出されてしまう。
「……さみしかった、です……」
「ああ。すまなかった」
後悔の滲むその言葉に、鈍く胸が痛んだ。
これほど自分のことを想ってくれている人に、謝罪をさせてしまった。その事実に、ルシアナは強い罪悪感を覚えた。
(わたくしが、勝手に気落ちしただけなのに)
優しく唇を寄せてくれるレオンハルトに、ルシアナは繋ぐ手に力を入れると、「レオンハルト様」と彼の名を呼ぶ。
「レオンハルト様は……何も悪くありませんわ。わたくしが勝手に……寂しくなってしまっただけで……。レオンハルト様が大切にしてくださっていることも、想ってくださっていることも、わかっているはずなのに、わたくしが――」
「すべては俺が至らないせいだ。だから、そんな風に言わないでくれ」
触れるだけのキスをしたレオンハルトは、後ろから回した手でルシアナの唇を撫でる。弄ぶように指先で唇を挟みながら、彼はそのまま続けた。
「俺は人の気持ちを察するということが……正直苦手だ。口が上手いほうではないし、口数も多いほうではない。言葉を尽くす努力は惜しまないが、それでもきっと、今日のように言動を誤ることがあるだろう。それが原因で、貴女が傷付いたり、悲しい思いをしたときは、どうか隠さずに伝えてくれ。思うことや感じたことがあれば、迷わず何でも言ってほしい。泣くのは俺の腕の中でだけだと、どうか誓ってくれ。ルシアナ」
唇から手を放したレオンハルトは、そのまま顎を掴むと唇を重ねる。
真綿で触れるような優しい口付けに、呆然とレオンハルトの言葉に耳を傾けていたルシアナの鼓動は、次第に大きくなっていった。
(……どうしましょう……嬉しい)
レオンハルトがどれほど自分を想い、愛してくれているのか、十分すぎるくらい伝わった。感じた寂しさも、抱いた身勝手な欲も、胸を痛めた罪悪感でさえ、彼の深い愛の前にすべて消えてなくなってしまった。
何故あんなことで落ち込んでしまったのか、それすらもうわからない。
寂しさではない、喜びや彼への愛で、今度は視界が滲む。
ルシアナは空いている手をレオンハルトの頬に添えると、彼が口を離した隙に、自分から唇を重ねた。わずかに見開かれた彼の双眸を見つめながら、ルシアナは甘やかな笑みをレオンハルトに向ける。
「レオンハルト様、好きです。大好き――ッン」
ぬめりとした肉厚な舌が口の中を蹂躙する。
優しく愛を分け合うようなものではなく、激しく求めるような口付けに、ルシアナはただ口を開き、縦横無尽に動き回る舌を受け入れることしかできない。
「っん、ふ……ぁ」
あまりにも激しく絡んでくる舌に、飲み込み切れない唾液が口の端からこぼれ出る。
レオンハルトはそれを舐め取ると、ルシアナの顎をしっかりと固定しながら、力強い眼差しでルシアナを見下ろした。
「ルシアナ。誓いを」
支配者のような鋭い視線に射貫かれ、背筋にぞくりとした感覚が走る。
乱れた呼吸を整えながら、ルシアナは表情を綻ばせた。
「誓い、ますわ。泣くのはレオンハルト様の腕の中でだけ……すべての感情と想いを、レオンハルト様と分け合います。ですからどうか、レオンハルト様も、何でもおっしゃってください。思ったことも、感じたことも、全部。わたくしに、教えてくださいまし」
顔にかかる髪を耳にかけるように彼の頬を撫でれば、レオンハルトは双眸を細め、額を合わせた。
「ああ。約束する。必ず伝えよう」
優しく微笑んでくれるレオンハルトを見つめながら、ルシアナも満面の笑みを返す。
(もう大丈夫だわ。この先同じようなことがあっても、きっと寂しさなんて感じない……感じる必要などないもの)
それから時間の許す限り、二人は顔を寄せ合い、ただ愛を囁き合った。
「……貴女のことを、蔑ろにしたいわけでも、軽んじてるわけでもない。貴女のことは何よりも大切にしたいと――思っているだけで一向に実行できていない自分が、心底腹立たしい」
きつく眉を寄せるレオンハルトに、ルシアナはぼんやりとしたままその眉間をつつく。すると、彼はそのまま自嘲するように微笑み、そのルシアナの手を取って、手袋越しに口付けた。
「貴女を愛してる」
そのまま指を絡めて手を握ると、レオンハルトはルシアナの唇を食み、「愛してる」と呟きながら頬や瞼、額にキスを落とした。
「レ――」
名前を呼ぼうと開いた口を塞がれ、再び舌が侵入してくる。絡まる指に思わず力を入れると、レオンハルトは舌先を吸って顔を離した。はあ、と熱い息を漏らしながら、彼はルシアナの頭に顔をすり寄せる。
「愛してるんだ、ルシアナ。だから……」
「――!」
粟立つようなぞわりとした感覚に、ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒し、ルシアナは息を吞む。
レオンハルトから、肌を刺すような殺気が放たれたのだ。
「……レオンハルト様」
おずおずと名前を呼ぶと、レオンハルトは深く息を吐き出して顔を上げ、苦しそうに眉根を寄せながらルシアナを見た。
「……だから、許せなかった。貴女を害そうとした物も。貴女の傍にいなかった自分も。貴女に怪我を負わせてしまったことも。……貴女の肌を、他の男が見たことも」
「――え」
驚いたように目を瞬かせるルシアナに、レオンハルトは自身を落ち着かせるように短く息を吐くと、再びキスの雨を降らせる。
「気が……急いていたんだ。早く原因となった者を捕まえねばと。一刻も早く貴女をあの場から連れ去りたいと。思考も、感情も、まとまらなくて……とにかく冷静にならなければと……貴女にかけるべき言葉を間違えた」
顔を離したレオンハルトは、繋いだ手を引き寄せ、ルシアナの指先に口付ける。
「大丈夫だったかと……一番初めに、貴女を案じる言葉をかけなければいけなかった。テオの命令だからではなく、俺自身が、あの場から貴女を連れ出したかったのだと、自分の気持ちを伝えるべきだった。たとえ命令などなくても、貴女を優先したと。思うだけでなく、貴女に伝えなければいけなかった」
眉を寄せたまま、まるで懺悔でもするように、レオンハルトはルシアナを見つめる。
どこまでも真っ直ぐなシアンの瞳を、じっと見つめ返していたルシアナだったが、次第にその視界は歪んでいき、頬が濡れていく。
「……っ」
咄嗟に顔を下に向けたルシアナだったが、腰に回されていた手が後ろから伸び、すぐに上を向かされる。
「っふ、ぅ……」
レオンハルトは、嗚咽を漏らすルシアナを宥めるように、こぼれる涙を吸い取った。
「レオ……レオンハルト、さま……」
「ああ」
「レオンハルトさま……」
「ああ」
ちゅ、と目尻を吸ったレオンハルトが顔を離す。言葉を待つように見つめられれば、蓋をして、飲み込もうとしていた想いが、いとも簡単に引きずり出されてしまう。
「……さみしかった、です……」
「ああ。すまなかった」
後悔の滲むその言葉に、鈍く胸が痛んだ。
これほど自分のことを想ってくれている人に、謝罪をさせてしまった。その事実に、ルシアナは強い罪悪感を覚えた。
(わたくしが、勝手に気落ちしただけなのに)
優しく唇を寄せてくれるレオンハルトに、ルシアナは繋ぐ手に力を入れると、「レオンハルト様」と彼の名を呼ぶ。
「レオンハルト様は……何も悪くありませんわ。わたくしが勝手に……寂しくなってしまっただけで……。レオンハルト様が大切にしてくださっていることも、想ってくださっていることも、わかっているはずなのに、わたくしが――」
「すべては俺が至らないせいだ。だから、そんな風に言わないでくれ」
触れるだけのキスをしたレオンハルトは、後ろから回した手でルシアナの唇を撫でる。弄ぶように指先で唇を挟みながら、彼はそのまま続けた。
「俺は人の気持ちを察するということが……正直苦手だ。口が上手いほうではないし、口数も多いほうではない。言葉を尽くす努力は惜しまないが、それでもきっと、今日のように言動を誤ることがあるだろう。それが原因で、貴女が傷付いたり、悲しい思いをしたときは、どうか隠さずに伝えてくれ。思うことや感じたことがあれば、迷わず何でも言ってほしい。泣くのは俺の腕の中でだけだと、どうか誓ってくれ。ルシアナ」
唇から手を放したレオンハルトは、そのまま顎を掴むと唇を重ねる。
真綿で触れるような優しい口付けに、呆然とレオンハルトの言葉に耳を傾けていたルシアナの鼓動は、次第に大きくなっていった。
(……どうしましょう……嬉しい)
レオンハルトがどれほど自分を想い、愛してくれているのか、十分すぎるくらい伝わった。感じた寂しさも、抱いた身勝手な欲も、胸を痛めた罪悪感でさえ、彼の深い愛の前にすべて消えてなくなってしまった。
何故あんなことで落ち込んでしまったのか、それすらもうわからない。
寂しさではない、喜びや彼への愛で、今度は視界が滲む。
ルシアナは空いている手をレオンハルトの頬に添えると、彼が口を離した隙に、自分から唇を重ねた。わずかに見開かれた彼の双眸を見つめながら、ルシアナは甘やかな笑みをレオンハルトに向ける。
「レオンハルト様、好きです。大好き――ッン」
ぬめりとした肉厚な舌が口の中を蹂躙する。
優しく愛を分け合うようなものではなく、激しく求めるような口付けに、ルシアナはただ口を開き、縦横無尽に動き回る舌を受け入れることしかできない。
「っん、ふ……ぁ」
あまりにも激しく絡んでくる舌に、飲み込み切れない唾液が口の端からこぼれ出る。
レオンハルトはそれを舐め取ると、ルシアナの顎をしっかりと固定しながら、力強い眼差しでルシアナを見下ろした。
「ルシアナ。誓いを」
支配者のような鋭い視線に射貫かれ、背筋にぞくりとした感覚が走る。
乱れた呼吸を整えながら、ルシアナは表情を綻ばせた。
「誓い、ますわ。泣くのはレオンハルト様の腕の中でだけ……すべての感情と想いを、レオンハルト様と分け合います。ですからどうか、レオンハルト様も、何でもおっしゃってください。思ったことも、感じたことも、全部。わたくしに、教えてくださいまし」
顔にかかる髪を耳にかけるように彼の頬を撫でれば、レオンハルトは双眸を細め、額を合わせた。
「ああ。約束する。必ず伝えよう」
優しく微笑んでくれるレオンハルトを見つめながら、ルシアナも満面の笑みを返す。
(もう大丈夫だわ。この先同じようなことがあっても、きっと寂しさなんて感じない……感じる必要などないもの)
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