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第七章
約束の夜(六)
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レオンハルトに促されるまま、再び横向きになったルシアナは、靴を脱がされ、ドレスのボタンを外され、コルセットの紐を解かれ、気付いたときにはシュミーズ姿になっていた。
「寒くないか?」
「……はい」
あまりにもてきぱきと物事を進めるレオンハルトに、ルシアナはどうしていいかわからず、ただベッドに身を置く。ベッド横に持って来た椅子に脱いだジャケットをかけたレオンハルトは、ルシアナの肩を押し体勢を仰向けにすると、軽くその唇を食んだ。
「ずいぶんと先延ばしにしてしまってすまない。……口を開けて」
言われるがまま口を開けば、レオンハルトの舌がゆっくりと侵入してくる。それと同時に、コルセットのしていない腹部をシュミーズ越しに触れられ、びくりと体が跳ねた。
「ふ、ぅ……」
確かに、もっと深くレオンハルトを感じたいと思い、キスをねだったが、この状況は想定していなかった。いまだ理解が追い付いていない頭ではあまり集中することもできず、レオンハルトもそれを察したのか、早々に口を離す。
「貴女が嫌がることはしない。だから、嫌だと思ったらすぐに言ってくれ」
脇腹を撫でられる感覚に体を震わせながら、ルシアナは首を横に振る。
「嫌なことは何もありませんわ。けれど、その……どうしたらいいかわからなくて……」
脇腹に沿うレオンハルトの手を見つめながらそう言えば、レオンハルトはルシアナの額に軽く口付けた。
「嫌なときは言う。快楽には抗わず身を任せる。声は……我慢せず出してほしいが、ここの防音も完全ではないからな……ある程度は大丈夫だろうが、大きな声が出そうになったら言ってくれ」
「大きな声が出るのですか……?」
視線を上げ、思わず小声でそう尋ねれば、レオンハルトは、ふっと目を細め、触れるだけのキスをする。
「そこまでのことをするつもりはないが、貴女は体の感覚が鋭そうだからな。……怖いか?」
優しく問いかけてくれるレオンハルトの顔をじっと見つめ、少ししてから、ふるふると首を横に振る。
「いえ……少し、緊張しているようで……」
そう口にして、初めて緊張していることに気が付く。それに気付いた瞬間、一気に体の熱が上がり、途端に自分の置かれている状況を理解した。
(わたくし、下着姿だわ……!?)
気付いたときには横を向き、背中を丸めていた。小さく笑う声が聞こえたかと思うと、視線の先に肘から先が置かれ、レオンハルトが身を屈めたのがわかる。
「嫌ではないならこのまま続ける」
唇が触れるほど近くで囁かれたことに驚いたのも束の間、ぬめりとしたものが耳の縁を撫でた。反射的に出そうになった“いや”という言葉を飲み込むと、両手で口を押さえる。
「――っふ」
耳の溝を舌先でなぞられ、ぞわりとした、けれど決して不快ではない感覚が背中に広がる。ぢゅ、と音を立てて吸われたかと思うと、耳孔に舌が侵入し、大きく体が跳ねた。
「んんっ――」
耳の中でこだまするように響くぐちゅぐちゅという水音と、何とも言えない感覚に、体の奥が熱を持ったような感覚になる。
(へんな、かんじ)
「ッン、ぅ」
歯が肌を掠め、声が出そうになる。それを堪えるようにきつく口を閉じながら、そういえば声は我慢しないほうがよかったのだっただろうか、とぼんやり考えていると、視線の先にあったレオンハルトの手が口元にあるルシアナの手を退かし、その奥の唇に触れた。
指の先で軽く撫でられれば、そのくすぐったさに思わず力が抜ける。その一瞬の隙をついて、レオンハルトの指が二本、口の中に押し入った。
「ぁ、ふ……っ」
驚く間もなく、浅く入れられた指はルシアナの舌の表面を優しく撫でた。
「ふぁっ、ッア――」
耳孔を舐られ、舌先を擦られ、表現しがたい疼きが体の奥底からせり上がってくるような感覚に、ルシアナは思わず頭を振った。するとすぐにレオンハルトの口は離れ、指が引き抜かれる。
口の端から唾液が伝ってこぼれたような気がしたが、それを気にすることもできない。
「……嫌だったか?」
こめかみに口付けながらそう問うレオンハルトに、ルシアナは力なく首を横に振る。
「嫌では、ありません。ただ、変な感じが、して……」
「……どう変なんだ?」
「背中が、ぞわぞわするような……」
息を整えながら答えれば、レオンハルトの指先がうなじに触れた。そこから背骨をなぞるように、ゆっくりと下へ滑っていく。
それだけで、ルシアナの体は小さく震える。
「どの辺りがぞわぞわする?」
全体が、と言おうとして、ぞわぞわした感覚がレオンハルトの指先を追うように下がり、一カ所に集中していることに気が付く。
「……こ、し?」
ふ、という笑ったような息が肌にかかったかと思うと、レオンハルトは大きな手のひらで、ルシアナの腰を撫でた。
「不快でないのなら、その変な感じは快楽に近いものだ。抗わず、身を委ねるといい」
言いながら、腰を撫でていた手が腹部に移動する。
「ぁ、」
臍の下を軽く押され、押し出されるように小さな声が漏れた。そのまま優しく上下に撫でられたことで、体の疼きの根源がお腹の奥であることを自覚する。
本能的に、欲しい、と思った。
何かはわからない。しかし、この疼きを解消し満たしてくれるものが、何かあるような気がした。
体の熱を持て余すようにシーツを握ると、レオンハルトはその手に自らの手を重ね、軽く頬に口付けた。
「突然のことに戸惑ったろう。今日はここまでにしよう」
ここまで、という言葉に、ルシアナはレオンハルトへ目を向ける。
「もう終わりですか……?」
思わずそう漏らすと、レオンハルトはわずかに目を見開いた。しかしすぐに目を細め、顔を近付ける。
「貴女が許してくれるなら、また明日、同じ時間に来よう」
唇が重ねられ、応えるように舌を差し出しながら、明日また会えるのだ、という喜びと、明日また触れられるのか、という緊張に、ルシアナの胸は小さく鳴った。
「寒くないか?」
「……はい」
あまりにもてきぱきと物事を進めるレオンハルトに、ルシアナはどうしていいかわからず、ただベッドに身を置く。ベッド横に持って来た椅子に脱いだジャケットをかけたレオンハルトは、ルシアナの肩を押し体勢を仰向けにすると、軽くその唇を食んだ。
「ずいぶんと先延ばしにしてしまってすまない。……口を開けて」
言われるがまま口を開けば、レオンハルトの舌がゆっくりと侵入してくる。それと同時に、コルセットのしていない腹部をシュミーズ越しに触れられ、びくりと体が跳ねた。
「ふ、ぅ……」
確かに、もっと深くレオンハルトを感じたいと思い、キスをねだったが、この状況は想定していなかった。いまだ理解が追い付いていない頭ではあまり集中することもできず、レオンハルトもそれを察したのか、早々に口を離す。
「貴女が嫌がることはしない。だから、嫌だと思ったらすぐに言ってくれ」
脇腹を撫でられる感覚に体を震わせながら、ルシアナは首を横に振る。
「嫌なことは何もありませんわ。けれど、その……どうしたらいいかわからなくて……」
脇腹に沿うレオンハルトの手を見つめながらそう言えば、レオンハルトはルシアナの額に軽く口付けた。
「嫌なときは言う。快楽には抗わず身を任せる。声は……我慢せず出してほしいが、ここの防音も完全ではないからな……ある程度は大丈夫だろうが、大きな声が出そうになったら言ってくれ」
「大きな声が出るのですか……?」
視線を上げ、思わず小声でそう尋ねれば、レオンハルトは、ふっと目を細め、触れるだけのキスをする。
「そこまでのことをするつもりはないが、貴女は体の感覚が鋭そうだからな。……怖いか?」
優しく問いかけてくれるレオンハルトの顔をじっと見つめ、少ししてから、ふるふると首を横に振る。
「いえ……少し、緊張しているようで……」
そう口にして、初めて緊張していることに気が付く。それに気付いた瞬間、一気に体の熱が上がり、途端に自分の置かれている状況を理解した。
(わたくし、下着姿だわ……!?)
気付いたときには横を向き、背中を丸めていた。小さく笑う声が聞こえたかと思うと、視線の先に肘から先が置かれ、レオンハルトが身を屈めたのがわかる。
「嫌ではないならこのまま続ける」
唇が触れるほど近くで囁かれたことに驚いたのも束の間、ぬめりとしたものが耳の縁を撫でた。反射的に出そうになった“いや”という言葉を飲み込むと、両手で口を押さえる。
「――っふ」
耳の溝を舌先でなぞられ、ぞわりとした、けれど決して不快ではない感覚が背中に広がる。ぢゅ、と音を立てて吸われたかと思うと、耳孔に舌が侵入し、大きく体が跳ねた。
「んんっ――」
耳の中でこだまするように響くぐちゅぐちゅという水音と、何とも言えない感覚に、体の奥が熱を持ったような感覚になる。
(へんな、かんじ)
「ッン、ぅ」
歯が肌を掠め、声が出そうになる。それを堪えるようにきつく口を閉じながら、そういえば声は我慢しないほうがよかったのだっただろうか、とぼんやり考えていると、視線の先にあったレオンハルトの手が口元にあるルシアナの手を退かし、その奥の唇に触れた。
指の先で軽く撫でられれば、そのくすぐったさに思わず力が抜ける。その一瞬の隙をついて、レオンハルトの指が二本、口の中に押し入った。
「ぁ、ふ……っ」
驚く間もなく、浅く入れられた指はルシアナの舌の表面を優しく撫でた。
「ふぁっ、ッア――」
耳孔を舐られ、舌先を擦られ、表現しがたい疼きが体の奥底からせり上がってくるような感覚に、ルシアナは思わず頭を振った。するとすぐにレオンハルトの口は離れ、指が引き抜かれる。
口の端から唾液が伝ってこぼれたような気がしたが、それを気にすることもできない。
「……嫌だったか?」
こめかみに口付けながらそう問うレオンハルトに、ルシアナは力なく首を横に振る。
「嫌では、ありません。ただ、変な感じが、して……」
「……どう変なんだ?」
「背中が、ぞわぞわするような……」
息を整えながら答えれば、レオンハルトの指先がうなじに触れた。そこから背骨をなぞるように、ゆっくりと下へ滑っていく。
それだけで、ルシアナの体は小さく震える。
「どの辺りがぞわぞわする?」
全体が、と言おうとして、ぞわぞわした感覚がレオンハルトの指先を追うように下がり、一カ所に集中していることに気が付く。
「……こ、し?」
ふ、という笑ったような息が肌にかかったかと思うと、レオンハルトは大きな手のひらで、ルシアナの腰を撫でた。
「不快でないのなら、その変な感じは快楽に近いものだ。抗わず、身を委ねるといい」
言いながら、腰を撫でていた手が腹部に移動する。
「ぁ、」
臍の下を軽く押され、押し出されるように小さな声が漏れた。そのまま優しく上下に撫でられたことで、体の疼きの根源がお腹の奥であることを自覚する。
本能的に、欲しい、と思った。
何かはわからない。しかし、この疼きを解消し満たしてくれるものが、何かあるような気がした。
体の熱を持て余すようにシーツを握ると、レオンハルトはその手に自らの手を重ね、軽く頬に口付けた。
「突然のことに戸惑ったろう。今日はここまでにしよう」
ここまで、という言葉に、ルシアナはレオンハルトへ目を向ける。
「もう終わりですか……?」
思わずそう漏らすと、レオンハルトはわずかに目を見開いた。しかしすぐに目を細め、顔を近付ける。
「貴女が許してくれるなら、また明日、同じ時間に来よう」
唇が重ねられ、応えるように舌を差し出しながら、明日また会えるのだ、という喜びと、明日また触れられるのか、という緊張に、ルシアナの胸は小さく鳴った。
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