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第五章
結婚式(三)
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「それでは誓いの言葉を」
司祭の言葉に、レオンハルトは静かに息を吸う。
「我が精霊剣ヴァクアルドの名において、いかなる厄災、凶刃からも貴女を守り、この剣に相応しい清廉さ、厳格さを生涯失わないことを誓います」
口調は平坦でありながらも、その瞳はしっかりとルシアナを見つめている。
真っ直ぐ自分に向き合うレオンハルトに、ルシアナはふわりと口元を綻ばせた。
「我が精霊剣、ルベルージュの名において、いかなる厄災、苦難からもあなたをお守りし、この剣に相応しい実直さ、気丈さを生涯失わないことを誓います」
お互い剣を下ろすと、体の向きを戻し、互いの剣を交差させるように台の上に戻す。剣が重なった瞬間、それぞれの宝石から光の柱が真っ直ぐ伸び、やがて霧散した。
(……よかった)
光が雨のように降り注ぐ中、儀式が成功したことにほっと息を吐く。
司祭の視線を受け、ルシアナは肘上まであるロンググローブをするりと腕から外した。
(もう……本当に最後だわ)
傍に来た介添人にグローブを預けながら、司祭がリングピローを持ってレオンハルトに近付くのを見ていると、自然と小さな息が漏れる。
(……緊張していたのは、わたくしのほうだったのかも)
ベールが揺れたせいか、一瞬、レオンハルトと目が合う。しかし、彼はすぐに視線を下げると、左手を差し出した。その上に自身の左手を重ねれば、彼はそっと薬指に指輪をはめた。
ダイヤモンドが斜めに並んだ、細いプラチナの指輪。
ただの装飾品の一つであるはずなのに、異様な存在感があった。
何とも言えない気持ちになりながら、今度はルシアナが左手を差し出す。重ねられたレオンハルトの手に、同じように指輪をはめていく。
筋張った、固い指。自分とは大きさも太さもまるで違う。
(……初めてだわ。手袋なしで、直接レオンハルト様の御手に触れたのは)
その手は変に力が入り、硬く強張っている。
やはりレオンハルトも緊張しているのか、とどこか安堵し、自然と口元が緩む。
根元まで指輪を入れ手を離すと、わずかに腰を落とし頭を下げた。少しして視界からベールが消え、そっと頬に手が添えられる。
姿勢を正し顔を上げれば、いつも通り涼しげで、静かなシアンな瞳と目が合った。
ルシアナはわずかに目尻を下げると、少しだけ顔を下げ、目を伏せる。限られた視界の中で、レオンハルトがわずかに姿勢を低くしたのを確認すると、額に柔らかなものが当たる。
さらりと頬を撫でられ、かすかな余韻を残して、レオンハルトの顔が離れていく。視線を上げれば、レオンハルトが口元にわずかな笑みを浮かべていた。
そんな彼に同じように微笑を返すと、揃って体を正面に戻す。
それに合わせ、ルシアナとレオンハルト、それぞれの側に新しく台が用意される。司祭は中央の台に重ねられた精霊剣を丁寧にそれぞれの台に移動させ、空いた台に一枚の羊皮紙を置いた。
ルシアナが一歩横に移動すると、レオンハルトが台の正面に立ち、万年筆を手に取って署名する。入れ替わるように、今度はルシアナが台の正面に立って、続けて自身の名を書き連ねた。
司祭は二名分の名前が書かれた結婚証明書を確認すると、彼自身もそこに名を記し、顔を上げ列席者に視線を向ける。
「今ここに、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと、ルシアナ・ベリト・トゥルエノの婚姻が成立いたしました。この瞬間を持ちまして、皆様もこの婚姻の証人となります。よき隣人として、彼らの幸福を願い、新たな門出をお祝いください」
甲高いラッパの音が祝福するように盛大に鳴り響く。司祭の合図に合わせ、ルシアナとレオンハルトが列席者側へ振り返ると、式場のあちこちに光球が現れ、彼らは人型の姿になる。
『おめでとう、ルシアナ』『おめでとう、レオンハルト』
『おめでとう』『おめでとう』
彼らは嬉しそうに二人の周りを飛び回ると、次々と空に小さな光る玉を上げる。光る玉は花火のように弾け、会場中に光の雨を降らせた。光の粒子がきらきらと舞うのに合わせ、赤や青、白色など、様々な色の花びらがどこからともなく降り注ぎ、会場を彩る。
地面に落ちた花びらは、そのまま色とりどりの風船へと姿を変え空へ飛び立ち、生垣の上に落ちたものは、そのまま多種多様な花を咲かせた。
緑が多かった景色は一気に色鮮やかに光り輝き、列席者からも思わず声が上がる。
(すごい……綺麗だわ)
まるで絵画のような美しい光景をぼうっと眺めていると、レオンハルトがそっと腕を差し出してくる。隣を見上げれば、シアンの瞳が静かにルシアナを見下ろしていた。光の粒を受けてか、いつもより明るく煌めくシルバーグレイの髪にわずかに目を細めながら、ルシアナはレオンハルトの腕に手を添える。
レオンハルトのリードに合わせてゆっくり歩みを進めると、祭壇の奥に控えていた楽団が演奏を始めた。光る玉が弾ける音で拍を取るように曲が奏でられ、華やかな景色に負けない、明るい弦楽器の音が辺りに響く。
両側にユリが咲き誇るウェディングアイルを歩けば、一段と強くユリの甘い匂いが感じられた。しかし、行きとは違いあちこちに違う花が咲いているためか、爽やかな香りや甘酸っぱい香りなど、いくつもの匂いが鼻孔をくすぐる。
視覚、聴覚、嗅覚、どこへ意識を向けても賑やかな様子に、ルシアナの口元は自然と綻んだ。
司祭の言葉に、レオンハルトは静かに息を吸う。
「我が精霊剣ヴァクアルドの名において、いかなる厄災、凶刃からも貴女を守り、この剣に相応しい清廉さ、厳格さを生涯失わないことを誓います」
口調は平坦でありながらも、その瞳はしっかりとルシアナを見つめている。
真っ直ぐ自分に向き合うレオンハルトに、ルシアナはふわりと口元を綻ばせた。
「我が精霊剣、ルベルージュの名において、いかなる厄災、苦難からもあなたをお守りし、この剣に相応しい実直さ、気丈さを生涯失わないことを誓います」
お互い剣を下ろすと、体の向きを戻し、互いの剣を交差させるように台の上に戻す。剣が重なった瞬間、それぞれの宝石から光の柱が真っ直ぐ伸び、やがて霧散した。
(……よかった)
光が雨のように降り注ぐ中、儀式が成功したことにほっと息を吐く。
司祭の視線を受け、ルシアナは肘上まであるロンググローブをするりと腕から外した。
(もう……本当に最後だわ)
傍に来た介添人にグローブを預けながら、司祭がリングピローを持ってレオンハルトに近付くのを見ていると、自然と小さな息が漏れる。
(……緊張していたのは、わたくしのほうだったのかも)
ベールが揺れたせいか、一瞬、レオンハルトと目が合う。しかし、彼はすぐに視線を下げると、左手を差し出した。その上に自身の左手を重ねれば、彼はそっと薬指に指輪をはめた。
ダイヤモンドが斜めに並んだ、細いプラチナの指輪。
ただの装飾品の一つであるはずなのに、異様な存在感があった。
何とも言えない気持ちになりながら、今度はルシアナが左手を差し出す。重ねられたレオンハルトの手に、同じように指輪をはめていく。
筋張った、固い指。自分とは大きさも太さもまるで違う。
(……初めてだわ。手袋なしで、直接レオンハルト様の御手に触れたのは)
その手は変に力が入り、硬く強張っている。
やはりレオンハルトも緊張しているのか、とどこか安堵し、自然と口元が緩む。
根元まで指輪を入れ手を離すと、わずかに腰を落とし頭を下げた。少しして視界からベールが消え、そっと頬に手が添えられる。
姿勢を正し顔を上げれば、いつも通り涼しげで、静かなシアンな瞳と目が合った。
ルシアナはわずかに目尻を下げると、少しだけ顔を下げ、目を伏せる。限られた視界の中で、レオンハルトがわずかに姿勢を低くしたのを確認すると、額に柔らかなものが当たる。
さらりと頬を撫でられ、かすかな余韻を残して、レオンハルトの顔が離れていく。視線を上げれば、レオンハルトが口元にわずかな笑みを浮かべていた。
そんな彼に同じように微笑を返すと、揃って体を正面に戻す。
それに合わせ、ルシアナとレオンハルト、それぞれの側に新しく台が用意される。司祭は中央の台に重ねられた精霊剣を丁寧にそれぞれの台に移動させ、空いた台に一枚の羊皮紙を置いた。
ルシアナが一歩横に移動すると、レオンハルトが台の正面に立ち、万年筆を手に取って署名する。入れ替わるように、今度はルシアナが台の正面に立って、続けて自身の名を書き連ねた。
司祭は二名分の名前が書かれた結婚証明書を確認すると、彼自身もそこに名を記し、顔を上げ列席者に視線を向ける。
「今ここに、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと、ルシアナ・ベリト・トゥルエノの婚姻が成立いたしました。この瞬間を持ちまして、皆様もこの婚姻の証人となります。よき隣人として、彼らの幸福を願い、新たな門出をお祝いください」
甲高いラッパの音が祝福するように盛大に鳴り響く。司祭の合図に合わせ、ルシアナとレオンハルトが列席者側へ振り返ると、式場のあちこちに光球が現れ、彼らは人型の姿になる。
『おめでとう、ルシアナ』『おめでとう、レオンハルト』
『おめでとう』『おめでとう』
彼らは嬉しそうに二人の周りを飛び回ると、次々と空に小さな光る玉を上げる。光る玉は花火のように弾け、会場中に光の雨を降らせた。光の粒子がきらきらと舞うのに合わせ、赤や青、白色など、様々な色の花びらがどこからともなく降り注ぎ、会場を彩る。
地面に落ちた花びらは、そのまま色とりどりの風船へと姿を変え空へ飛び立ち、生垣の上に落ちたものは、そのまま多種多様な花を咲かせた。
緑が多かった景色は一気に色鮮やかに光り輝き、列席者からも思わず声が上がる。
(すごい……綺麗だわ)
まるで絵画のような美しい光景をぼうっと眺めていると、レオンハルトがそっと腕を差し出してくる。隣を見上げれば、シアンの瞳が静かにルシアナを見下ろしていた。光の粒を受けてか、いつもより明るく煌めくシルバーグレイの髪にわずかに目を細めながら、ルシアナはレオンハルトの腕に手を添える。
レオンハルトのリードに合わせてゆっくり歩みを進めると、祭壇の奥に控えていた楽団が演奏を始めた。光る玉が弾ける音で拍を取るように曲が奏でられ、華やかな景色に負けない、明るい弦楽器の音が辺りに響く。
両側にユリが咲き誇るウェディングアイルを歩けば、一段と強くユリの甘い匂いが感じられた。しかし、行きとは違いあちこちに違う花が咲いているためか、爽やかな香りや甘酸っぱい香りなど、いくつもの匂いが鼻孔をくすぐる。
視覚、聴覚、嗅覚、どこへ意識を向けても賑やかな様子に、ルシアナの口元は自然と綻んだ。
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