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第二章

小さな芽吹き

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 白い布とともに、シンプルな紺色の包み紙でラッピングされたプレゼントを大事に膝の上に置きながら、ルシアナは大歓声が聞こえる沿道へ目を向ける。微笑を浮かべ手を振れば、人々からより盛大な声が上がった。
 左右交互に目を向けながら、ルシアナは時折、馬車の右斜め後ろを走るレオンハルトを窺い見た。
 背筋を伸ばし、警戒するように辺りへ視線を向けるその姿は、本の挿絵で見た騎士そのものだ。

(初めてお会いしたときは、それほどでもなかったのに。物を貰ってからこのようにドキドキするなんて……わたくしは卑しい人間だわ)

 表情が曇りそうになるのを堪え、嬉々としてこちらを見る人々へ変わらず笑みを向ける。

(王都の人々はこのようにわたくしを歓迎してくれているのに……)

 ――……ルシーにしては暗い感情だな。
(――ああ、ごめんなさい。ベルを嫌な気持ちにさせてしまったかしら)
 ――いいや。今は意識的にルシーの感情を感じられるようにしているから察しただけで、特に強烈に感情が流れてきたわけじゃない。
(――そう? ベルが嫌な気持ちになっていないならいいわ)

 そう返しつつ、ルシアナは心の中で溜息をついた。

 ――あのな、ルシー。ルシーの鼓動が速くなったのは、なにも物を貰ったからじゃない。だからそれを気にする必要はない。それより、もっとこの街並みを見たらどうだ? トゥルエノに比べて色の濃い建物が多いと思わないか?

 プレゼントを貰ってからドキドキと胸が高鳴ったのに、ドキドキした理由がプレゼントではないとはどういうことだろう、と疑問に思ったものの、ベルに言われた通り王都の街並みに目を向ける。
 ベルの言う通り、濃い茶色や深い緑色など、暗めの色合いの建物が多い。壁が淡い色合いでも、屋根や窓枠、柱、入口は濃い色に染まっていた。

(――おそらく、雪の影響だわ。明るい色は雪に紛れてしまうから)
 ――ああ……なるほどな。王都全体に魔法を展開してるのか、ほとんど雪はないから意味はないような気もするが。
(――積もっているところもあるし、きっと降るそばから溶かしているわけではないのではないかしら? 吹雪というものもあるそうだし、濃い色というのはやはり重要なのよ)

 そう考えると、自分の今の格好はこの国に永住する人間としてはよくないだろう。しかし、黒一色のレオンハルトの隣に立つことを考えれば、この色は正解だとも思う。

(白と金はトゥルエノで与えられたわたくしの色だから、お母様も必然的にこの色をご用意されたのでしょうけど……)

 ルシアナは、もう一度レオンハルトを盗み見る。

(……閣下とお揃いのようだわ)

 再び胸の鼓動が大きくなるのを感じていると、ベルの盛大な溜息が脳内に流れた。

 ――私の心配は杞憂だったようだな。
(――あら、なんだか含みがないかしら? ……ベル? ベル?)

 応答のないベルに、ふっと笑みがこぼれる。

(――ありがとう、ベル。今は目の前のことに集中するわ)

 ドレスの下にあるネックレスがわずかに熱くなったのを感じ、ルシアナは笑みを深める。

(せっかくこうして出迎えてくれているのだもの。彼らをよく見なければ失礼よね)

 ルシアナは気合を入れ直すと、改めて沿道に集まった人々を見る。
 寒いのだろう。鼻の頭や頬を赤く染めながらも、沿道の人々は明るく笑い馬車に向けて手を振ってくれている。

(わたくしはこれから彼らと共に生きるのだわ)

 ルシアナは大きく息を吸うと、にっこりと心からの笑みを人々へと向けた。
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