19 / 235
第二章
王都までの道中(三)
しおりを挟む
ワープゲートの前まで来ると、準備があるからと、レオンハルト、カルロス、ロイダが馬車を降りたため、ルシアナは一人で窓から外の様子を窺っていた。
シュネーヴェ王国は各領地にワープ用のゲートが用意されており、どこにいても王都に一瞬で行けるようになっている。
(防衛の観点から、トゥルエノでも他の国でも、ワープゲートは限られた場所にしかないけれど……シュネーヴェには国所属の魔法術師が多くいるから、管理しやすいのかしら)
人や木より何倍も大きく太い二本の白い石柱、その上には同じ白い石を使ったアーチがあり、中心にはシュネーヴェ王国の国章が刻印されている。
(トゥルエノは、祭壇のようにわかりやすくワープゲートを用意しているけれど、シュネーヴェは道の途中にぽんと置いているのね。何かのオブジェみたいだわ)
一瞬ゲート自体が光ったかと思うと、先の道を見通せていた中央部分がまるで幕でもかかったかのように不透明になり、淡く白い光を発し始める。
(ついにシュネーヴェ王国の王都に行くのね。……正直に言えば、もう少し閣下とお話したかったわ。この短い間では、あまり人となりはわからなかったもの)
ワープゲートに着く直前、すでに王都はお祭り状態であるとレオンハルトに告げられた。正式な祝祭は、結婚式のあと行われる予定だが、王都では国の英雄の結婚ということもあってか、すでに盛り上がりを見せているそうだ。
ルシアナの到着日時も王都の人々には知れ渡っており、王都のワープゲートから王城までの道中は見物人が多くいるだろうから、一人で馬車に乗っているのがいいだろう、と伝えられた。
(そうなる可能性を見越して、これほどの大所帯になったのよね)
帯同する人や馬車が多ければそれだけ盛大に見えるだろう、という母・ベアトリスの言葉を思い出し、ルシアナは、ふふっと笑みをこぼす。
「王女殿下」
聞きなれない声と共にノックがされ、ルシアナは姿勢を正すと扉のほうへ目を向けた。
「どうぞ、閣下」
「失礼します」
扉を開けたレオンハルトは、軽く一礼するとルシアナを見上げた。
「このまま順にゲートへと入ります。ゲートから王城への道のりはそれほど長くありませんが、万が一がないよう、私は王女殿下の馬車の近くを並走させていただきますので、何かあれば、こちらの布を右側の窓からお出しください」
「まあ。お気遣いありがとうございます」
ルシアナは、にっこりと笑みを浮かべながら、折りたたまれた無地の白い布を受け取る。
「必要があれば、そうさせていただきますわ」
「はい……」
頷いたレオンハルトは、そのまま視線を下げ、動きを止める。
――……何をしているんだ、この男は。ルシアナが風邪を引いたらどうするんだ。さっさと扉を閉めろ。
(――ベルのおかげで、馬車の中もわたくし自身も暖かいから大丈夫よ。ありがとう)
そう返しながら、ルシアナは首を傾げた。用が済んだらさっさと立ち去ると思っていたレオンハルトが、その場に留まっていることが不思議でならなかった。
「どうかなさいましたか?」
顔を覗き込むように上体を倒しながら様子を窺えば、レオンハルトは、はっとしたように顔を上げ、素早く手を伸ばした。その手は、零れ落ちる水でも掬うかのように、さらりと垂れるルシアナの髪を乗せた。
(あら?)
驚きに目を見開くルシアナに、何故かレオンハルトも同じように目を見開いていた。
「あ……許可もなく触れてしまい申し訳ございません」
そう言うもののレオンハルトの姿勢は変わらない。
――難ありめ。
(――……そうね)
さすがのルシアナもフォローの言葉が見つからず、つい同意してしまう。
「……体を起こしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
しっかりと首肯したレオンハルトに、ルシアナは変わらず笑みを向けると上体を起こす。それに合わせるように、ルシアナの髪はレオンハルトの手から離れた。その様子にどこか安堵したように短く息を吐いたレオンハルトは、少し手を彷徨わせたあと、自身の胸元へと手を持って行く。
「……これを……いつお渡しすべきか、迷ったのですが」
そう言って差し出されたのは、綺麗にラッピングされた正方形のものだった。
「わたくしに、ですか?」
「はい」
澄んだ青空のような瞳に真っ直ぐ見つめられ、ルシアナの心臓の鼓動がわずかに速まる。
「……ありがとうございます」
先ほど受け取った白い布を膝の上に置き、両手で差し出されたものを受け取る。
(まあ……何かしら……いいえ、何でもいいわ。……嬉しい……)
「……では、また、王城で」
ぎこちなく口の端を上げ、頭を下げたレオンハルトは、すぐに扉を閉めると立ち去る。
言葉をかける間もなくいなくなってしまったレオンハルトの後姿を、ルシアナは見えなくなるまで眺め続けた。
シュネーヴェ王国は各領地にワープ用のゲートが用意されており、どこにいても王都に一瞬で行けるようになっている。
(防衛の観点から、トゥルエノでも他の国でも、ワープゲートは限られた場所にしかないけれど……シュネーヴェには国所属の魔法術師が多くいるから、管理しやすいのかしら)
人や木より何倍も大きく太い二本の白い石柱、その上には同じ白い石を使ったアーチがあり、中心にはシュネーヴェ王国の国章が刻印されている。
(トゥルエノは、祭壇のようにわかりやすくワープゲートを用意しているけれど、シュネーヴェは道の途中にぽんと置いているのね。何かのオブジェみたいだわ)
一瞬ゲート自体が光ったかと思うと、先の道を見通せていた中央部分がまるで幕でもかかったかのように不透明になり、淡く白い光を発し始める。
(ついにシュネーヴェ王国の王都に行くのね。……正直に言えば、もう少し閣下とお話したかったわ。この短い間では、あまり人となりはわからなかったもの)
ワープゲートに着く直前、すでに王都はお祭り状態であるとレオンハルトに告げられた。正式な祝祭は、結婚式のあと行われる予定だが、王都では国の英雄の結婚ということもあってか、すでに盛り上がりを見せているそうだ。
ルシアナの到着日時も王都の人々には知れ渡っており、王都のワープゲートから王城までの道中は見物人が多くいるだろうから、一人で馬車に乗っているのがいいだろう、と伝えられた。
(そうなる可能性を見越して、これほどの大所帯になったのよね)
帯同する人や馬車が多ければそれだけ盛大に見えるだろう、という母・ベアトリスの言葉を思い出し、ルシアナは、ふふっと笑みをこぼす。
「王女殿下」
聞きなれない声と共にノックがされ、ルシアナは姿勢を正すと扉のほうへ目を向けた。
「どうぞ、閣下」
「失礼します」
扉を開けたレオンハルトは、軽く一礼するとルシアナを見上げた。
「このまま順にゲートへと入ります。ゲートから王城への道のりはそれほど長くありませんが、万が一がないよう、私は王女殿下の馬車の近くを並走させていただきますので、何かあれば、こちらの布を右側の窓からお出しください」
「まあ。お気遣いありがとうございます」
ルシアナは、にっこりと笑みを浮かべながら、折りたたまれた無地の白い布を受け取る。
「必要があれば、そうさせていただきますわ」
「はい……」
頷いたレオンハルトは、そのまま視線を下げ、動きを止める。
――……何をしているんだ、この男は。ルシアナが風邪を引いたらどうするんだ。さっさと扉を閉めろ。
(――ベルのおかげで、馬車の中もわたくし自身も暖かいから大丈夫よ。ありがとう)
そう返しながら、ルシアナは首を傾げた。用が済んだらさっさと立ち去ると思っていたレオンハルトが、その場に留まっていることが不思議でならなかった。
「どうかなさいましたか?」
顔を覗き込むように上体を倒しながら様子を窺えば、レオンハルトは、はっとしたように顔を上げ、素早く手を伸ばした。その手は、零れ落ちる水でも掬うかのように、さらりと垂れるルシアナの髪を乗せた。
(あら?)
驚きに目を見開くルシアナに、何故かレオンハルトも同じように目を見開いていた。
「あ……許可もなく触れてしまい申し訳ございません」
そう言うもののレオンハルトの姿勢は変わらない。
――難ありめ。
(――……そうね)
さすがのルシアナもフォローの言葉が見つからず、つい同意してしまう。
「……体を起こしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
しっかりと首肯したレオンハルトに、ルシアナは変わらず笑みを向けると上体を起こす。それに合わせるように、ルシアナの髪はレオンハルトの手から離れた。その様子にどこか安堵したように短く息を吐いたレオンハルトは、少し手を彷徨わせたあと、自身の胸元へと手を持って行く。
「……これを……いつお渡しすべきか、迷ったのですが」
そう言って差し出されたのは、綺麗にラッピングされた正方形のものだった。
「わたくしに、ですか?」
「はい」
澄んだ青空のような瞳に真っ直ぐ見つめられ、ルシアナの心臓の鼓動がわずかに速まる。
「……ありがとうございます」
先ほど受け取った白い布を膝の上に置き、両手で差し出されたものを受け取る。
(まあ……何かしら……いいえ、何でもいいわ。……嬉しい……)
「……では、また、王城で」
ぎこちなく口の端を上げ、頭を下げたレオンハルトは、すぐに扉を閉めると立ち去る。
言葉をかける間もなくいなくなってしまったレオンハルトの後姿を、ルシアナは見えなくなるまで眺め続けた。
10
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる