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第二章
王都までの道中(二)
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彼が頷いたのを見て、ルシアナは嬉しそうに笑うと両手を合わせる。
「それでは、早速。閣下の領地は一年を通して寒く、夏も薪を燃やすと伺いましたか本当でしょうか」
「ええ、事実です」
大きく頷いたレオンハルトに、ルシアナは瞳を輝かせる。
「やはり、そうなのですね! 想像できませんわ。本当に物語のよう」
カーテンが開け放たれた窓から、高く雪の積まれた街を見る。
(寒さや雪で大変なことや困っていることもきっとたくさんあるのでしょうけれど、わたくしにはどれも未知のもので、素敵に思えてしまうわ)
息を吐けば、窓は白く曇り、ルシアナの姿と混じる。
(雪の中では、わたくしの格好はきっと見つけにくいわ。何か目立つものを身に着けたほうがいいわね)
再び透明に戻った窓の向こうには、色の濃い防寒着を着た人々が、ちらちらと横目でこちらを窺っていた。
「……トゥルエノ王国は」
小さく聞こえた呟きに、ルシアナたちの視線は姿勢正しく座るレオンハルトへと向けられる。
「一年を通してもとても暖かいですよね」
涼し気なシアンの瞳が真っ直ぐルシアナを見つめる。感情の読み取れない瞳を見返しながら、ルシアナはにっこりと笑みを返した。
「はい。特に宮殿のある王都はとても暖かいですわ」
「それは……大変ですね」
車内に静寂が広がる。
(大変? トゥルエノが暖かいことが?)
何に対して彼がそう言ったのか理解できず、内心首を傾げていると、深い溜息が脳内に響いた。
――大丈夫か? こいつ。コミュニケーションに難がありすぎるだろ。
(――まあ、ベル。きっと閣下も緊張されているのよ)
――ふん。こんなことで緊張する人間が精霊に選ばれるわけないだろ。もしその程度の人間なら、先が思いやられるな。
そう言い残し、ベルは静かになる。
(ベルは昔から警戒心が強いのよね。わたくしのパートナーとしては、そのほうがいいのでしょうけど)
ルシアナが短く息を吐き出すと、レオンハルトがはっとしたように目を伏せた。
「失礼いたしました。先ほどの発言は、そのような暖かいところで暮らしていた王女殿下に、このシュネーヴェ王国の環境はとても大変なものではないかと思い出たもので、決してトゥルエノ王国に対しての言及ではございません」
わずかに頭を下げたレオンハルトに、ルシアナは両手を振る。
「まあ。そのような誤解はしておりませんわ。どうか頭をお上げくださいませ」
――やっぱり難ありだな。
(――もう、ベル)
ベルを宥めながら、ルシアナは頭を上げたレオンハルトに微笑を向ける。
「シュネーヴェ王国の王都は、閣下の領地より南方に位置していますが、同じように一年を通して寒いのでしょうか?」
「……いえ。王都も寒くはありますが、夏季には気温も上がり夏用の服を着用しなければ暑く感じます」
「閣下は一年を通してタウンハウスにいらっしゃるのですか?」
「ええ。王城の守護も我ら騎士団の務めですので」
「そうなのですね」
(式もあるし、今年の夏はわたくしもきっと王都の邸宅で過ごすことになるでしょうね)
ルシアナは楽しそうに、ふふっと笑みを漏らす。
「お洋服を季節によって変えるということがなかったので、楽しみですわ」
そう言って目尻を下げれば、彼の目がわずかに開かれた。
改めてルシアナを結婚相手だと認識したような彼の表情に、ルシアナはただ無邪気な笑みを向けた。
「それでは、早速。閣下の領地は一年を通して寒く、夏も薪を燃やすと伺いましたか本当でしょうか」
「ええ、事実です」
大きく頷いたレオンハルトに、ルシアナは瞳を輝かせる。
「やはり、そうなのですね! 想像できませんわ。本当に物語のよう」
カーテンが開け放たれた窓から、高く雪の積まれた街を見る。
(寒さや雪で大変なことや困っていることもきっとたくさんあるのでしょうけれど、わたくしにはどれも未知のもので、素敵に思えてしまうわ)
息を吐けば、窓は白く曇り、ルシアナの姿と混じる。
(雪の中では、わたくしの格好はきっと見つけにくいわ。何か目立つものを身に着けたほうがいいわね)
再び透明に戻った窓の向こうには、色の濃い防寒着を着た人々が、ちらちらと横目でこちらを窺っていた。
「……トゥルエノ王国は」
小さく聞こえた呟きに、ルシアナたちの視線は姿勢正しく座るレオンハルトへと向けられる。
「一年を通してもとても暖かいですよね」
涼し気なシアンの瞳が真っ直ぐルシアナを見つめる。感情の読み取れない瞳を見返しながら、ルシアナはにっこりと笑みを返した。
「はい。特に宮殿のある王都はとても暖かいですわ」
「それは……大変ですね」
車内に静寂が広がる。
(大変? トゥルエノが暖かいことが?)
何に対して彼がそう言ったのか理解できず、内心首を傾げていると、深い溜息が脳内に響いた。
――大丈夫か? こいつ。コミュニケーションに難がありすぎるだろ。
(――まあ、ベル。きっと閣下も緊張されているのよ)
――ふん。こんなことで緊張する人間が精霊に選ばれるわけないだろ。もしその程度の人間なら、先が思いやられるな。
そう言い残し、ベルは静かになる。
(ベルは昔から警戒心が強いのよね。わたくしのパートナーとしては、そのほうがいいのでしょうけど)
ルシアナが短く息を吐き出すと、レオンハルトがはっとしたように目を伏せた。
「失礼いたしました。先ほどの発言は、そのような暖かいところで暮らしていた王女殿下に、このシュネーヴェ王国の環境はとても大変なものではないかと思い出たもので、決してトゥルエノ王国に対しての言及ではございません」
わずかに頭を下げたレオンハルトに、ルシアナは両手を振る。
「まあ。そのような誤解はしておりませんわ。どうか頭をお上げくださいませ」
――やっぱり難ありだな。
(――もう、ベル)
ベルを宥めながら、ルシアナは頭を上げたレオンハルトに微笑を向ける。
「シュネーヴェ王国の王都は、閣下の領地より南方に位置していますが、同じように一年を通して寒いのでしょうか?」
「……いえ。王都も寒くはありますが、夏季には気温も上がり夏用の服を着用しなければ暑く感じます」
「閣下は一年を通してタウンハウスにいらっしゃるのですか?」
「ええ。王城の守護も我ら騎士団の務めですので」
「そうなのですね」
(式もあるし、今年の夏はわたくしもきっと王都の邸宅で過ごすことになるでしょうね)
ルシアナは楽しそうに、ふふっと笑みを漏らす。
「お洋服を季節によって変えるということがなかったので、楽しみですわ」
そう言って目尻を下げれば、彼の目がわずかに開かれた。
改めてルシアナを結婚相手だと認識したような彼の表情に、ルシアナはただ無邪気な笑みを向けた。
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