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第一章
いざ、シュネーヴェ王国へ、のそのとき
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内心、レオンハルトは驚きを隠せずにいた。
トゥルエノ王国の外交官だという人物と話していたときにやってきた少女。
純白の衣服に身を包んだ少女。
(今……ルシアナと呼ばれたか?)
目の前にやってきたロイヤルパープルの瞳を持つ少女は、美しいカーテシーを見せた。
「トゥルエノ王国第五王女、ルシアナ・ベリト・トゥルエノでございます。お会いできて光栄に存じますわ、シルバキエ公爵閣下」
にっこりと笑った彼女に、レオンハルトは目を瞬かせた。
まるで精巧な人形のように美しい少女。
ケープの上に垂れるホワイトブロンドの髪は絹糸のように美しく光沢を放ち、純白の衣服に負けぬほど白く透き通った肌は陶器のようで、瞬きするたびに髪と同じ色のまつげが揺れ、ロイヤルパープルの瞳を煌めかせた。
(こんな……小柄な……いや、体格は一般的な女性と変わらないが……トゥルエノの王族にしては……)
小さい。そう思わざるをえなかった。
(建国式典で会った王女二人もこの外交官ほどの上背があった。第三、第四王女もそう変わらない体格だと聞いている)
レオンハルトは外交官――カルロスを一瞥すると、視線をルシアナへ戻す。
(何より……本当にこの少女が剣を振るえるのか? こんな細腕で、剣を持ち上げることができるとでも?)
「どうかされましたか? 閣下」
鈴が鳴るような声に、レオンハルトは、はっと我に返ると素早く頭を下げた。
「失礼いたしました。シュネーヴェ王国シルバキエ公爵領領主、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと申します。第五王女殿下にお目にかかれましたこと、大変嬉しく存じます」
「国境まで迎えが来てくださると伺っておりましたが……」
「我らラズルド騎士団がその任を仰せつかりました」
「まあ、そうでしたの」
レオンハルトは頭を上げると、改めて目の前の人物を見る。
ふわりと目尻を下げて笑う彼女は、まさに可憐な少女だった。
(まさか身代わりを……? しかし、それにしては随行する騎士が多い……それに彼女の後ろに控えているのは、女王直属の近衛騎士だ。偽物のためにここまでするか? しかし……)
レオンハルトの脳内には次々と疑問が湧き出てきたが、ルシアナの白い鼻や頬が赤らんできたのを見て、一旦それらを抑え込む。
「ゆっくりご挨拶申し上げたいところですが、ここはとても冷えるでしょう。お風邪を召されてはなりませんから、どうぞ馬車にお戻りください。王宮までは我々が先導いたしますので」
(真にトゥルエノの王女なら騎士として叙任を受けているはず。それなのにこれほど多くの護衛を連れているというのは少々不可解だが、今のこの場は友好的にやり過ごすべきだ)
彼女は真っ直ぐこちらを見つめている。その瞳はあまりにも無垢で、疑いを持ったこと自体に罪悪感がわいてくるほどだ。
(……無害を装っているだけかもしれない)
気を緩めないようそっと拳を握り込むと、彼女は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「わかりましたわ。ここからはシュネーヴェ王国の方々にお任せいたします。ルマデル伯爵、ロイダ卿、よろしいですか?」
「はい」
「はい」
彼女の言葉に、二人は恭しく頭を下げる。
(……気品は本物だ)
レオンハルトは内心息を漏らすと、わずかに腰を折った。
「それでは私は隊のほうへ戻らせていただきます」
「お待ちください、シルバキエ公爵閣下」
立ち去ろうとレオンハルトを、カルロスが呼び止める。カルロスへ視線を向ければ、彼はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「提案があるのですがよろしいでしょうか」
トゥルエノ王国の外交官だという人物と話していたときにやってきた少女。
純白の衣服に身を包んだ少女。
(今……ルシアナと呼ばれたか?)
目の前にやってきたロイヤルパープルの瞳を持つ少女は、美しいカーテシーを見せた。
「トゥルエノ王国第五王女、ルシアナ・ベリト・トゥルエノでございます。お会いできて光栄に存じますわ、シルバキエ公爵閣下」
にっこりと笑った彼女に、レオンハルトは目を瞬かせた。
まるで精巧な人形のように美しい少女。
ケープの上に垂れるホワイトブロンドの髪は絹糸のように美しく光沢を放ち、純白の衣服に負けぬほど白く透き通った肌は陶器のようで、瞬きするたびに髪と同じ色のまつげが揺れ、ロイヤルパープルの瞳を煌めかせた。
(こんな……小柄な……いや、体格は一般的な女性と変わらないが……トゥルエノの王族にしては……)
小さい。そう思わざるをえなかった。
(建国式典で会った王女二人もこの外交官ほどの上背があった。第三、第四王女もそう変わらない体格だと聞いている)
レオンハルトは外交官――カルロスを一瞥すると、視線をルシアナへ戻す。
(何より……本当にこの少女が剣を振るえるのか? こんな細腕で、剣を持ち上げることができるとでも?)
「どうかされましたか? 閣下」
鈴が鳴るような声に、レオンハルトは、はっと我に返ると素早く頭を下げた。
「失礼いたしました。シュネーヴェ王国シルバキエ公爵領領主、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと申します。第五王女殿下にお目にかかれましたこと、大変嬉しく存じます」
「国境まで迎えが来てくださると伺っておりましたが……」
「我らラズルド騎士団がその任を仰せつかりました」
「まあ、そうでしたの」
レオンハルトは頭を上げると、改めて目の前の人物を見る。
ふわりと目尻を下げて笑う彼女は、まさに可憐な少女だった。
(まさか身代わりを……? しかし、それにしては随行する騎士が多い……それに彼女の後ろに控えているのは、女王直属の近衛騎士だ。偽物のためにここまでするか? しかし……)
レオンハルトの脳内には次々と疑問が湧き出てきたが、ルシアナの白い鼻や頬が赤らんできたのを見て、一旦それらを抑え込む。
「ゆっくりご挨拶申し上げたいところですが、ここはとても冷えるでしょう。お風邪を召されてはなりませんから、どうぞ馬車にお戻りください。王宮までは我々が先導いたしますので」
(真にトゥルエノの王女なら騎士として叙任を受けているはず。それなのにこれほど多くの護衛を連れているというのは少々不可解だが、今のこの場は友好的にやり過ごすべきだ)
彼女は真っ直ぐこちらを見つめている。その瞳はあまりにも無垢で、疑いを持ったこと自体に罪悪感がわいてくるほどだ。
(……無害を装っているだけかもしれない)
気を緩めないようそっと拳を握り込むと、彼女は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「わかりましたわ。ここからはシュネーヴェ王国の方々にお任せいたします。ルマデル伯爵、ロイダ卿、よろしいですか?」
「はい」
「はい」
彼女の言葉に、二人は恭しく頭を下げる。
(……気品は本物だ)
レオンハルトは内心息を漏らすと、わずかに腰を折った。
「それでは私は隊のほうへ戻らせていただきます」
「お待ちください、シルバキエ公爵閣下」
立ち去ろうとレオンハルトを、カルロスが呼び止める。カルロスへ視線を向ければ、彼はにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「提案があるのですがよろしいでしょうか」
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