上 下
16 / 223
第一章

いざ、シュネーヴェ王国へ、のそのとき

しおりを挟む
 内心、レオンハルトは驚きを隠せずにいた。
 トゥルエノ王国の外交官だという人物と話していたときにやってきた少女。
 純白の衣服に身を包んだ少女。

(今……ルシアナと呼ばれたか?)

 目の前にやってきたロイヤルパープルの瞳を持つ少女は、美しいカーテシーを見せた。

「トゥルエノ王国第五王女、ルシアナ・ベリト・トゥルエノでございます。お会いできて光栄に存じますわ、シルバキエ公爵閣下」

 にっこりと笑った彼女に、レオンハルトは目を瞬かせた。
 まるで精巧な人形のように美しい少女。
 ケープの上に垂れるホワイトブロンドの髪は絹糸のように美しく光沢を放ち、純白の衣服に負けぬほど白く透き通った肌は陶器のようで、瞬きするたびに髪と同じ色のまつげが揺れ、ロイヤルパープルの瞳を煌めかせた。

(こんな……小柄な……いや、体格は一般的な女性と変わらないが……トゥルエノの王族にしては……)

 小さい。そう思わざるをえなかった。

(建国式典で会った王女二人もこの外交官ほどの上背があった。第三、第四王女もそう変わらない体格だと聞いている)

 レオンハルトは外交官――カルロスを一瞥すると、視線をルシアナへ戻す。

(何より……本当にこの少女が剣を振るえるのか? こんな細腕で、剣を持ち上げることができるとでも?)

「どうかされましたか? 閣下」

 鈴が鳴るような声に、レオンハルトは、はっと我に返ると素早く頭を下げた。

「失礼いたしました。シュネーヴェ王国シルバキエ公爵領領主、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクと申します。第五王女殿下にお目にかかれましたこと、大変嬉しく存じます」
「国境まで迎えが来てくださると伺っておりましたが……」
「我らラズルド騎士団がその任を仰せつかりました」
「まあ、そうでしたの」

 レオンハルトは頭を上げると、改めて目の前の人物を見る。
 ふわりと目尻を下げて笑う彼女は、まさに可憐な少女だった。

(まさか身代わりを……? しかし、それにしては随行する騎士が多い……それに彼女の後ろに控えているのは、女王直属の近衛騎士だ。偽物のためにここまでするか? しかし……)

 レオンハルトの脳内には次々と疑問が湧き出てきたが、ルシアナの白い鼻や頬が赤らんできたのを見て、一旦それらを抑え込む。

「ゆっくりご挨拶申し上げたいところですが、ここはとても冷えるでしょう。お風邪を召されてはなりませんから、どうぞ馬車にお戻りください。王宮までは我々が先導いたしますので」

(真にトゥルエノの王女なら騎士として叙任を受けているはず。それなのにこれほど多くの護衛を連れているというのは少々不可解だが、今のこの場は友好的にやり過ごすべきだ)

 彼女は真っ直ぐこちらを見つめている。その瞳はあまりにも無垢で、疑いを持ったこと自体に罪悪感がわいてくるほどだ。

(……無害を装っているだけかもしれない)

 気を緩めないようそっと拳を握り込むと、彼女は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

「わかりましたわ。ここからはシュネーヴェ王国の方々にお任せいたします。ルマデル伯爵、ロイダ卿、よろしいですか?」
「はい」
「はい」

 彼女の言葉に、二人は恭しく頭を下げる。

(……気品は本物だ)

 レオンハルトは内心息を漏らすと、わずかに腰を折った。

「それでは私は隊のほうへ戻らせていただきます」
「お待ちください、シルバキエ公爵閣下」

 立ち去ろうとレオンハルトを、カルロスが呼び止める。カルロスへ視線を向ければ、彼はにっこりと満面の笑みを浮かべた。

「提案があるのですがよろしいでしょうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...