ルシアナのマイペースな結婚生活

ゆき真白

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第一章

旅立ち(二)

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 姉たちに連れられ宮殿の外に出ると、そこには何台もの馬車、数十名の騎士、数名のメイド、侍女や大臣たち、そして女王と王配が待っていた。頭を下げて待機する騎士、メイド、侍女、大臣の前を通り、女王と王配の待つ、白地に金の装飾が施された一等豪華な馬車キャリッジの前へと行く。

 近くまで行くと、一緒に来た姉たちも順番に二人の傍に並んだ。
 ルシアナは一歩歩みを進め、一番手前にいる第四王女クリスティナに向き直る。両腕を広げる彼女の胸に飛び込めば、クリスティナは優しくルシアナを抱き締め返した。

「初めて私の髪を結ってくれた日のこと覚えてる? あの日、ルシーが褒めてくれたからコンプレックスだった癖毛が好きになったの」

 クリスティナは体を離すと、同じく波打つルシアナの髪に指を通す。

「私からのプレゼントは向こうについてからのお楽しみだよ。向こうで使ってね、ルシー」
「ありがとうございます、スティナお姉様。いつも時間を見つけては会いに来てくださったことが、塔にいた十五年も、このひと月もとても嬉しかったですわ」

 クリスティナは目尻を下げると、そっとルシアナの額に口付けた。

「ルシアナ、私のただ一人の妹。どうか元気で。あなたが健やかな日々を送れますように」

 最後にもう一度強く抱擁を交わすと、ルシアナは隣のロベルティナの前へと移動する。

「ルシー、ルシーが嬉しそうに笑ってくれたから、私はヴァイオリンを続けられたし、好きになったの。初めて一緒に演奏した日のこと、生涯忘れないわ」

 優しくルシアナの両手を握ったロベルティナは、その表情に寂しさを滲ませながらも、温かな微笑をルシアナに向ける。

「私のもう一つのお友だちを一緒に連れて行ってあげて。それで良ければ、たまに弾いてあげてね」
「ありがとうございます、ルティナお姉様。お姉様と二人、月明かりの下一緒に秘密の演奏会を行ったこと、わたくしも生涯忘れませんわ」

 手を離したロベルティナが、力強くルシアナを抱き締める。

「可愛い子。どうかあなたの道行が幸せで溢れていますように」

 涙を滲ませ額に口付けるロベルティナに微笑を返し、ルシアナはデイフィリアの前へと進む。
 デイフィリアは手を伸ばすと、そっとルシアナの頬に触れた。

「…………自分の思いを口に出すのが苦手で、よく一人でいた私の傍に……ルシーはいつも来てくれたね。まともに会話も続かないのに、それでも朗らかに笑いかけてくれたことが、とても嬉しかった。……そのままでいいと、そのままの私が好きだとルシーが言ってくれたから、私は自信が持てたんだ」

 目を細めて笑ったデイフィリアは、そのまま額と額を合わせる。

「私からは思い出の品を。遠く離れることになっても、貴女との絆も、愛情も、決して褪せはしない。それを忘れないで」

 頬に添えられた手に手を重ね、ルシアナは自らの頬をすり寄せる。

「ありがとうございます、フィリアお姉様。わたくしが塔へ行った日、初めてお会いした方がフィリアお姉様でした。握っていただいた手が、撫でていただいた手がとても温かくて、とても安心したんです。お姉様のおかげで、わたくしも勇気を持つことができましたわ」

 デイフィリアは嬉しそうに顔を綻ばせると、ルシアナの額に軽く口付けた。

「どうか貴女が貴女らしく過ごせますように」

 優しく抱き締めすぐに体を離したデイフィリアに、ルシアナはにこりと笑うと隣へと移動する。
 アレクサンドラは、力強い目でルシアナを見つめ、頭に手を乗せた。

「ルシーは慣例より遅れて塔へやって来たから、私と共に過ごした時間はとても短かったな。初めて会った日、吹けば飛びそうなこの子が、剣を振るえるのかと思ったものだ」

 頭を撫でながら目を伏せて笑うアレクサンドラに、ルシアナも笑みを返す。

「そんな私の心配をよそに、お前はお前なりの剣の道を見つけた。その発想力、臆することなく己の道を切り拓いていく姿に、先例に従うばかりが善ではない、私だからできることもあると、そう思うことができた。お前のおかげだ」

 アレクサンドラはルシアナの頭から手を退かすと、その手を差し出した。

「私からの贈り物はその馬車に載っている。私たちには必要ないかもしれないが、持っていて損はない。良ければ使ってくれ」

 差し出された手を握り、ルシアナは眉尻を下げる。

「ありがとうございます、アレックスお姉様。わたくしが自分なりの剣の道へ進めたのは、お姉様の助言があったおかげですわ。わたくしがトゥルエノの王女として、その立場に相応しい力を得られたのも、お姉様もおかげです」

 眉を八の字にすると、アレクサンドラは握った手を引き、ルシアナを抱き締める。

「どうか、変わらず愛に溢れた日々を送れますように」

 額に口付け手を離したアレクサンドラに、ルシアナは軽く頭を下げ、コンラッドの前へと進む。
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