向日葵とみつばち

桜井ケイ

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 それから実和と亮は無事に同じ会社に入社した。
 入社式でまたも隣の席になった亮に

「これからは同期だな。よろしく」

 と声を掛けられビックリしたが不思議な気分だった。

「こっ!…ちらこそ、よろしくお願いします…」

 ちょっと声かうわずってしまった。恥ずかしくて俯いた顔の目だけ上を見た。
 180㎝近くある亮とはおそらく25㎝以上身長差がある。
 上目遣いでちらっと亮の顔見ると、うーん、と眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
 気に触るような言い方だったかもしれないと実和は一瞬サッと血の気がひいた気がした。

「前から思ってたんだけどさ、同い年なんだから敬語やめないか?」

 そういえば大学でたまに話をしても実和は敬語だった。顔見知り程度でしかない地味な自分が馴れ馴れしく話をするのは迷惑かもしれないと気が引けていたのだ。

「あ…ごめんなさい。これからは普通に話すね。こちらこそよろしくね平野くん」

 なんとなく意識して距離をとっていたが、これからは同期の同僚だ。仕事をする上で一方的な距離感は支障になるかもしれない。

 同じ大学出身の顔見知りなのだから、よそよそしい態度はかえって不自然だ。そう実和は自分に言い聞かせた。

 それからすぐに新人研修が始まった。
 この会社は新人研修が厳しいと聞いてはいたが、想像以上だった。

 新人研修ではグループに割り振られ各部署を回ったりするのだが、なぜかここでも亮と同じグループになった。

 いくらなんでも偶然が過ぎるのでしょ!?と思っていたが、なんてことはない同じ大学出身の実和と亮は名簿が続き番号というだけだった。

 4人ひとグループで協力して毎日厳しい研修課題をこなしていくのでグループ内は早い段階で仲良くなった。

 休憩時間の関係で4人一緒に昼食を取ることも多く、自然とお互いの話題になり自己紹介のような話になる。

「実和ちゃんって隣街の高校だったんだー」
「うん、そこが地元だからね」

 社食で同じグループの高崎澪たかさきみおがB定食の生姜焼を食べながら聞いてきた。ちなみに今日は4人とも同じB定食。

「え、マジで!?俺も同じ高校出身なんだけど!」

 すすっていたお味噌汁を噴きそうな勢いで亮が話に入ってくる。

「お前、今まで知らなかったのか?」

 そう突っ込んできたのはグループのメンバーのもう1人、秦孝之はたたかゆきだ。

 秦は180㎝以上の高身長で鍛えた細マッチョに黒髪が似合うソフトなワイルド系イケメンだ。口は悪いが兄貴的な性格でさりげなくグループを引っ張ってくれる。

 亮と秦は真逆のタイプの外見だか2人揃うと華やかというか、かなり目立つ。
 入社したばかりだというのに廊下や社食に2人がいると、先輩女子社員でさえも一斉に色めきたつくらい。

「全然…まさか大学だけじゃなくて高校も一緒だったなんてな」
「あー、平野と山下は同じ大学だったな」
「そう。だから山下のことは大学んときから知ってるんだけど、どこの高校までは知らなかった」

 まぁそうだろう。同じ高校の同級生とはいっても、3年間同じクラスになったこもとなければ話たこともなかった目立たない地味な女のことなんて知らなくて当然だ。

「わたしも平野くんが同じ高校出身って知らなかったよ。ビックリだね」

 本当は知ってたけど、自分だけ一方的に亮を知ってるのが悔しくて軽く微笑んで実和は知らない振りをした。




 厳しい新人研修がやっと終わり、それぞれ配属先が決まった。
 実和は経理課、澪は総務課、秦は企画課、亮は営業課とみごとにバラバラになった。

 それぞれ違う配属先になったものの、いまだに4人仲が良く、月1回集まっての飲み会が恒例になっている。

 今日はその月1飲み会の日。魚の美味しい居酒屋で定時に上がれた実和と澪は先にビールとお刺身の盛り合わせではじめてしまっている。

 先に店に着いた者からはじめるというのが暗黙ルールだ。全員揃うのを待っていたらいつまで経ってもはじめられないから。

「実和は最近どうー?」
「どうって?」

 研修が終わったあとも実和と澪はお互いの家に泊まりに行くほど仲が良い。
 課が違っても時間が合えば一緒に昼食をしたり休みの日に出掛けたりする。

「たとえば職場の雰囲気とかさー」
「そうだなぁ、4月に課長が変わったのと新人が2人入ってきたけど、今のところ特に問題ないかな」

 実和は入社してからずっと変わらず経理課だが、澪は今年度から秘書課に移動になった。

「いいなー。こっちはいろんな人がいてさー」
「大変なの?」
「希望して秘書課に移ったけど、女子の多い職場がこんなに大変だったなんて…想像越えてたよ…」

 女優になれるんじゃないかと思うほどの美人系の見た目で着る服もセンスも良く淡い色が似合う澪だか、外見の可愛いさとは違ってかなりサッパリした性格だ。

 面倒見もよく誰に対しても平等な態度で接する姉御肌タイプのため老若男女から好かれる。聞けば4人兄弟の長女だという。納得。

 本人に直接言ったことはないが、実和はひっそり心の中で澪を自慢の友達だと思っている。社会人になって深く付き合える友達が出来るなんて思ってもなかった。

 いつも快活で気丈な澪が弱気な発言をすることは今までなかったと思う。なるべく重く聞こえないよう軽い感じで話てはいるが、たぶん相当なのだろう。

「女の子多いといろいろとありそうだねえ」
「そうなんだよ!もうね、話たいこといっぱいありすぎて!今度久しぶりに実和の部屋に泊まりに行ってもいい?」
「いいよー、家飲みしよう」
「やった!実和の煮物食べたかったんだよー。家庭料理に飢えてるんだよぉー」

 なにもかも完璧で隙などなくなんでも出来るように見える澪だけど、料理だけは破滅的に下手だ。

 実和のほうは実家にいたときから料理をするのは嫌いじゃなく、流行りの写真映えするお洒落で凝った料理は作れないけれど定番家庭料理などは普通に作る。

 社会人になって外食続きになるとどうしても飽きてくるし体調が悪くなるので、予定がないときの平日の朝と夜と休日は必ず自炊だ。

「はいはい、煮物って具体的にリクエストある?」
「うーん、そうだなぁ…あ!平野こっちー」

 突然話の途中で入り口に向かって澪が手を挙げひらひらと振った。

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