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彼は双子だったようです。
しおりを挟むレア=ボルドギーはこの世界に生まれた時の事を憶えている。
言葉の紡げない幼い口で泣き喚き、振り回していた手を握って笑いかけてきた家族の笑みも鮮明にだ。
普通赤子の時のことなど憶えていない。
それができるのは何故かを考えて、レアが前世の記憶を持ったまま転生したと解ったのは、同じ日に生を受けた姉と意思疎通が叶った日だった。
それはとても幸運な事だった。
たった一人であったなら、レアは訳の分からなさに泣き叫んでいた自信がある。
自分をそのまま女にしたような容姿の姉と、日本人であった頃の記憶を互いに照らし合わせる事で、レアは混乱していた頭を何とか落ち着ける事が出来た。
だが落ち着いても赤子時代の記憶はレアにとっては暗黒の時代で、出来ればある程度育つまで記憶はあってほしくなかったのが正直な気持ちだったが、ある物はしょうがないと姉は言った。
姉はレアが死にたいといつも思うおむつ替えを難なくこなして見せた。
同じ日本人であるのになぜこうも違うのかと、性別の違いを鑑みてもおかしく思って聞けば、人間はおしめから始まっておしめに戻る運命にあるのだと姉は語った。
姉の前世は一体幾つまで生きた人間なのだろうかと聞こうとしたが、前世も女性であったらしい姉の妙な圧を感じてレアは口を閉じた。
レアには死んだという記憶が特になく、前世も男だった為隠す事もないと憶えている前世の年齢を言った。
姉は若い身空でしかも多感な時期にと哀れみの視線をレアに向けた。
もしかしたらその頃から、もしくは前世が同じ日本人の男であったことを知った時から、姉はこの世界がレアにとって生きにくいものだと解っていたのかもしれない。
前世の記憶でチートだ何だと浮かれる姉とは違って、レアは常々前世の記憶なんてなくてもよかったのにと思っていた。
この世界の常識を知った時は特にだ。
姉が身近に居た為に、教えられても実感する事の無かった女性が極端に少ない世界。
それをレアは女性である姉が、まだ幼児の身で貴族に引き取られる事になって初めて実感することになった。
思えば母親も男であったのに、レアは実感するのが遅すぎた。
女性を娶れるのはほとんどが貴族で、裕福な商人の家に生まれても平民であるレアが結婚できるのは男、もしくは妻として迎えられる側だ。
百歩譲って気の合う相手であれば結婚は出来るかもしれない。
だが姉が言うにはレアの見た目は妻側であるという。
男女比率が変わらず異性愛が一般的であった前世を持つレアにとって、その現実は突然離れる事になった姉の事もあわさり、相当な精神的苦痛となって半月ほど寝込むことになった。
何かの病気を疑われたが原因はストレスだ。
心配する母と父、そして兄に看病されて、目覚めたレアの前には引き取られていったはずの姉がいた。
引き取られた先に問題があって戻ってきたと言うが、恐らく姉が何かしたのだろうとレアは思った。
両親も兄も部屋から追い出して、よく聞きなさいと、姉はベッドに伏せたままのレアに言った。
戻ってきたはいいがそれも一時的な事、直ぐに次の引き取り先か女性専用の施設に自分は連れていかれる。
手紙のやり取りは出来るが、実際に会って話すことはそう簡単には出来なくなるだろう。
だからその前に、レアに告白しなければならない事があると、何時になく真剣な顔の姉に、レアは頷いて言葉をまった。
「この世界、私がシナリオを書いたBLゲームの世界によく似ているの」
レアは前世普通の男子高校生だった。
漫画も週刊雑誌を読む程度で、どちらかと言えば運動部のほうに力を入れている、本当に普通の一般的な学生だ。
当たり前だが突然そんな事を言われても、レアにはBLゲームが解らなかった。
まずそこから説明が必要かと、姉は面倒臭そうな顔をしたが、レアにも解るように説明した。
簡単に言うと男同士の恋愛がテーマのゲームで、選択肢によって内容が変わっていくものだという。
一部の人間に爆発的に需要のあるそのゲームは姉が人生で一番力を入れたものらしい。
シナリオ担当であっただけに、姉は学ぶ前からこの世界の事をよく知っていた。
最初は半信半疑だったというが、此処まで自分の書いた世界と同じだともう目を逸らす事などできなかったと姉は言う。
姉はもう一度よく聞きなさいとレアに言った。
二度言うという事はとても大切な事であることぐらいレアも知っていた。
「貴方はそのBLゲームの主人公なの」
名前も身分も全く同じで、まだ幼いが容姿も絵師に頼んだそのままの、主人公レア=ボルドギー。
姉はふざけた人だが人を傷つけるような人ではない事を、生まれた時からの付き合いであるレアは知っている。
それにレアに説明するために引き取り先を一つ駄目にして戻ってきていった言葉に嘘はないだろう。
姉の説明だと主人公は受けと言う、この世界の妻側だ。
つまりは女役。
主人公がレアならば、レアにとって最も恐れる未来が待ち受けている事を意味していた。
姉は自分が作り上げたキャラはどれもいい男で、結ばれれば一生大切にしてくれると力説するが、どんなにいい男でもレアの恋愛対象は女性だ。
それは前世の事を話し合った姉もよく知っているはずで、レアが簡単に頷かないことは解っているはずである。
現にレアはショックで両目から涙がボロボロと零れて仕方がなかった。
せめて攻め側になれないかと訴えたが、姉はそれを「無理だ」と一刀両断した。
設定上、レアの相手である攻略者達は女側には絶対になれない人種であるという。
何故そんな設定にと言えば、姉は自分がリバも下克上も受け付けない、受け固定派であるからだと返した。
レアには意味が解らなかった。
解ったのは絶対に無理と言う事だけだ。
自分の未来に絶望してボロボロと泣くレアに、姉は溜息を吐きながら自分は理解ある腐女子だから、そんなに嫌なら一つ策があると、レアの涙を拭きながら言った。
前世も今世も男同士の恋愛が三度の飯より好きな腐女子だという姉が、前世で一番力を入れて作り上げたゲームのシナリオだと言った姉が、まさかこんな妥協を許すとは思っていなかったレアは驚いて涙も引っ込んだ。
しかしそれでも疑うような眼差しを向けるレアに、幾ら好きでも自分の彼氏にBL本を読ませることも、イベントで売り子をさせる事も、彼氏でカップリングを作って書く事もなかった自分を信じろと姉は言った。
比較対象がいまいちピンとこなかったレアだったが、せっかく示された一筋の希望だ、信じるしかなかった。
最後に呟かれた「ノマカプありきのノンケ受、不幸にしかならない無理矢理ノンケ受マジ地雷」という顔の本気さを感じたのもある。
「バッドエンドを目指しなさい」
人差し指を立てながら、これしかないと姉は言った。
響き的に不吉な予感しかないが、攻略対象の誰とも恋愛イベントをしたくないのならこれ一択だという。
最初の選択肢がない出会いイベントは顔見知りになるだけで好感度は関係ない。
出会いと言う切っ掛けからの再会イベントで好感度の変動は起こって、レアと攻略対象達の関係が進む。
恋愛ありきのゲームで好感度が一切上がらないのは在り得ないが、姉はこの再会イベント内にふざけて一つのバッドエンドを入れ込んだという。
再会イベントで一切好感度を上げないと出てくる、萌も糞もない借金バッドエンド。
はっきり言ってスチルを一枚入れるのももったいなかったが、好感度を上げられない下手糞への洗礼の為に、姉は入れたい欲求を抑えられなかった。
とんだふざけた理由だが、レアにとっては有難い事だ。
どの選択肢を選んでも、攻略対象達とどうにかなってしまう未来なら、レアは家に引きこもって出られなくなっただろう。
それが高額とは言っても借金を背負う事だけで逃れられるなら、レアにはそっちの方がよかった。
今からお金を貯めようと決意して、レアはどうやったら好感度を上げずに済むか、借金は何故背負うのかを姉に聞いた。
すると姉は何故か口ごもった。
此処に来て急に口を閉じた姉に、レアは嫌な予感がよぎった。
まさかと、そう思うも逸らされた視線が合う事はない。
「ニア姉さん…まさか…?」
「それがね、大まかな事は覚えているけど、全部じゃないし、選択肢一つ一つを憶えてないの」
だってうん十年前の事なんだものと、姉――ニア=ボルドギーは舌を出した。
かわい子ぶっても腐女子である事を暴露している実の弟にそんなものが効くはずもない。
しかしおむつの件でニアの前世が高齢者の可能性があると思っていたレアは、自分も前世の事を全て憶えている訳ではなかった為に許す事にした。
だが対策は必要だ。
攻略対象達はどんなタイプが嫌いかを、レアはニアに聞いた。
ニアはじっとレアを見つめた後に、対策は何も必要ないかもしれないとそう言った。
「名前、容姿、身分、境遇と全てにおいてあんたは私が作り出したレア=ボルドギーと一緒なんだけど、転生者な所為か中身が全然違うのよ。攻略対象達に設定があるように、主人公にも設定がある。その設定があんたには当てはまらない気がする」
要は性格が違うと言う事かとレアは聞いたが、これは攻略対象達にしか解らないもので、女性であるニアには無理だという。
ニアはレアを受けだと評したことがあるが、レアが主人公だという先入観があったからかもしれないと呻った。
そもそもの話、ニアが書いたシナリオのレアには兄は居ても双子の姉はいないという。
だからニアが言うBLゲームの世界ではないかもしれない可能性もある。
酷く似ているだけで、まったく別の世界の可能性だ。
「だからあんたが攻略対象達と出会うかも本当は解らない。でもきっとそうなったらあんたは嫌だろうと思って話したの。BLは好きだけど、あんたが不幸になるのは望まない。私は女に生まれて、ずっとそばにはいられないから余計ににね」
この世界で女性はとても大切にされる。
けれどそれは自由と引き換えだ。
ニアはそんな自分の境遇に不満はないみたいだが、レアにとっては双子で同じ転生者である姉と引き離される事は耐えがたかった。
前世と合わせればもう成人を過ぎる歳なのに、レアは泣き虫だった。
前世で長く生きたからニアは悲しくないのだろうかと、レアはニアを見た。
ニアは泣いていなかったが、いつもの明るい顔をしていなかった。
「ゲームの世界って言ったけど、私達はちゃんと現実で生きてる。だから自暴自棄になったりは絶対にしないで。前世の記憶がある所為で、男同士に抵抗があるかもしれないけど、好きになっちゃえば意外と関係ないかもしれないし、それにどうしてもって言うなら女の子と結婚できる可能性もある」
レア=ボルドギーはたぐいまれなる治癒魔法の使い手で、その能力で功績を立てることはできる。
なにせ最終的には欠損部分まで修復可能なのだ。
有名な医者になって、王様の主治医にのし上がれば、女の子と結婚ができるかもしれないとニアはレアに言った。
今度は貴族の家ではなく、女性専用の施設を希望するつもりだからそこでレアにお似合いの女の子を見繕っといてあげるとも続けた。
それはレアを元気づけるための言葉だった。
例え前世の記憶があっても、親元から離れる事は辛い筈なのに、レアの事をここまで考えてくれるニアに、レアはただ泣いているだけの自分が恥ずかしくなった。
寝ている間もずっと握ってくれていただろう手を握り返して、レアは頷いた。
「僕、女の子と結婚できるように頑張る」
固い決意を胸に抱いたレアに、ニアは間髪入れずに応えた。
「男のお嫁さんでもいいと思う」
何故そんなせっかく抱いた決意を砕く様な言葉をと、レアが眉をしかめると、ニアは夢を壊すようで悪いんだけどと、この世界の女性が前世とは違う事をレアに教えた。
「私は前世の記憶があるからそうでもないんだけどね、この世界の女の子は蝶よ花よと育てられてそりゃあもう我儘よ。生まれてから生活が保障されているだけに、仕事も何もしないし下手すると育児もしない。全員そうじゃないけど、覚悟はしていたほうがいい」
それなら子供も産める事だし、働き者で性格の良い、好みの男性を妻にしたほうが将来安泰と言うニアの言葉にレアは考えた。
それはもうよく考えて結論を出した。
取りあえず女の子と結婚できるように頑張って、それでも駄目なら男のお嫁さんを迎えると。
自分が嫁になる未来を一切考えないレアに、それもいいかとニアは頷いた。
この世界では女性に対することは後回しにされる事はない。
数日後、希望が通ったのか女性専用の施設にニアは行くことが決まった。
その間にニアは攻略対象達の事をレアに教えた。
あまりゲームの内容に縛られてはいけないと、知らなくていい事は教えない方針で、範囲はニアに任された。
付け焼刃かもしれないが、人は先の事なんか解らないで生きているのが普通だ。
どうしても知りたい事があれば定期的にする予定の手紙で聞く事に決めた。
そしてやってきたニアを送り出す日に、レアは大きな声で「僕、女の子と結婚して見せる」と叫んで家族を驚かせた。
シスター・コンプレックスを拗らせた所為だと処理されて事なきを得たが、その言葉を聞いた施設の人間にレアは警戒されてしまった。
余計な事をとニアはレアに怒った。
だがレアはこれからも周りに宣言していこうと決めていた。
男に興味がないという、一種の牽制である。
高望みだの、変わり者呼ばわりされようとレアは構わなかった。
レアがこれから頑張る事は、治癒魔法を極めて有名な医者になり地位を高める事、そして迎えるかもしれない借金バッドエンドに向けてお金を貯める事だ。
どうやって借金を背負う事になるのかは解らなかったが、幸い治癒魔法でお金を稼ぐことはでき、二つの目的は同時進行が可能だった。
レアが攻略対象に出会うのは18歳の時だ。
それまで精いっぱいやっていこうと、両親が許す年になってからレアは修行の旅に出た。
ニアとの手紙のやり取りは続けていて、そろそろだと思ったその時、レアは本当に攻略対象達と出会った。
ニアには下手に嫌われるような行動して、敵対する事にならない様にと言われていた。
何せ攻略対象達は盗賊、騎士、学者、商人と様々で、正直者のレアには演技は無理だった。
知らぬふりをすることが精々だ。
普段通りで大丈夫だと何故か太鼓判を押したニアは、見た目はともかくレアは中身が彼らの好みではないと断言した。
ニア曰く、私が作り上げた最強の受けは抱擁力が半端なく、誰でも受け入れられる器を持っている。芯は強いが弟気質で甘ったれ、その上女の子のお嫁さん欲しいっ子なレアには似ても似つかないのだと。
ちなみにモデルになった人間がいたらしいが、そこら辺のニアの記憶は曖昧だった。
記憶は曖昧な上、勝手な主観からの言葉だったが、結局ニアは正しかった。
出会ってもし好意を持たれでもしたらどうしようと考えていたレアに対して、攻略対象達はそっけないか、普通な対応しかしなかった。
特に親切心で同行を申し出た盗賊のアレギースに偽名を名乗られ断られた時、レアは驚いてしまった。
攻略対象として教えられていた人物であったから、てっきり好意的に接してくれるだろうと思ったからだ。
自意識過剰な反応をしてしまったと、後で後悔したが結果的に良かったとレアは思った。
聞いていた通り、この世界にニアの言っていた攻略対象達は存在したが、彼らはレアに対してあまり興味は持たなかった。
それはニアの言った出会いイベントから、街について起こった再会イベントらしき出来事があっても変わらず、好感度が上がった様子もない。
このまま借金バッドエンドが来るのだろうかと、レアは身構えながらも少しほっとしていた。
攻略対象のセルベルが、レアではない人を好ましいと言って告白してきた事もレアを安堵させた。
やはりこの世界はニアの言うBLゲームと似ているだけの世界で、主人公がいたとしてもそれはレアではないのだと、そんな事を考えた。
それなのに、借金ができるような出来事は起こらず、レアは破落戸に誘拐された。
一緒にいた人間を巻き込んでだ。
絡まれていた子供を助けた事を、レアは後悔していない。
破落戸達に目を付けられた上、騎士団長のウルスと再会イベントで一緒にいたところを見られたのが誘拐された理由でも、おかしいのはそんな考えを持つ破落戸だ。
後悔などするはずもないが、何の関係もない人を巻き込んだことは違う。
憂さ晴らしとウルスへの嫌がらせにもちょうどいいと笑った破落戸が、ついでとばかりに妊夫であるレグナスに手を伸ばした時、レアは目の前が真っ赤に染まって口をふさぐ破落戸の手に噛みついていた。
思いっきり殴られて意識が飛んで、気づけばレアは知らない部屋で破落戸に見下ろされていた。
近くに寝かされているレグナスを見て、完全に巻き込んでしまったことを後悔して、レグナスに手を伸ばす破落戸に飛び掛かろうとしてまた殴られた。
この時にレグナスが妊夫である事を破落戸に伝えられたら、堕胎による神の罰を恐れて破落戸も手を出さなかったのかもしれないのに、レアは口を塞がれてしまった。
レアをしっかりと拘束した後、破落戸がいなくなってからレグナスが目を覚ました時も、伝えるチャンスはあったのに、頬に治癒魔法の為にキスされたことに動揺して、レアはいつもの癖で変な事は叫んでレグナスに妊娠している事を伝えられなかった。
目覚めてすぐに、レアの殴られた後を治そうとする優しい人だ。
今も口を塞がれてもがくレアを心配そうに見ながら、大丈夫だなんて言う。
大丈夫なんかじゃない、貴方は妊娠しているんです、身体に負担をかけてはいけないんですと、伝えたいのにレアの声は言葉にならなかった。
女の子と結婚したいなんて夢を持たなければよかったのだろうか。
素直に受け止めて、ゲーム通りに攻略対象達の好感度を上げられていたら、誘拐される事なんてなかったのだろうか。
攻略対象達は助けに来てくれていたんだろうか。
レアの頭にはいくつもの考えが浮かんだが、男に引きずられてドアの向こうに消えていく最中に見えた、レグナスの儚い笑みに全てが吹き飛んだ。
急に脱力したレアの身体に、破落戸達が驚いた。
身動きもせずに静かな様子に顔を見合わせて、塞いでいた口から手を離した。
レアはその隙を逃さなかった。
押して駄目なら引いてみる、こんな陳腐な罠でも何でもないものに引っかかった破落戸を心の底からレアは馬鹿にした。
そして大きく息を吸い込んで、あらん限りの声で叫んだ。
「テメーらよく聞け、今連れていかれた人は妊夫だ。妊娠してんだよ。揃いも揃って神の罰で種なしになりたくなければ、あの人に手を出すな!」
ドアの向こう、連れていかれたレグナスにまで届いたことをレアは祈った。
もし聞こえているなら、無茶な真似はしないで欲しかった。
ギルドの部屋にはセルベルが必ず戻ってきたはずだ。
そしてレアとレグナスが居なくなった事に気付く。
一人は妊夫だから必ず探してくれるだろう。
もう好感度とかはどうでもいい、ただレグナスを好ましいと言っていたセルベルの言葉を、レアは信じる事にした。
まずは破落戸達の反応だ。
相手が妊夫であると分かって、手を引いてくれることが一番望ましい。
普通なら、妊夫を傷つけようなんて思わないのだから。
別におでこをくっつければ、キスする必要はなかったなと、レグナスは先程の治癒魔法について思った。
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閉じ込められていた部屋から何部屋か離れた場所まで引きずられて、中にあるベッドに引き倒されたと思えば、男は急に止まって黙り込んだ。
やる気が削がれたのならそのほうがいいが、黙ったままなのが不気味で、レグナスはそんな男を仰向けの状態で見上げながら、一括りで掴まれた手を外そうとしたができなかった。
己の非力さが恨めしく、代わりに足で蹴ろうとしたが、男のもう片方の手が足を持ち上げ肩にかける事で失敗した。
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その声がさっきまでのふざけていたものと違う事に気付き、レグナスはもう片方の足を動かすのを止めた。
男の足を肩にかけたほうの手が、レグナスの腹を這いまわった。
強く押されている訳でもないのに込み上げてきた吐き気に、そろそろショーン医師の診断の効果も切れたかと、レグナスは息を吐き出した。
男は何かを考えるそぶりをしてから、「まあいいか」と呟いた。
男は軽くレグナスの額に唇を落としてそのまま笑い、遅い自己紹介をしてみせた。
「俺はフレイグ。名前たくさん呼んでくれよ、その方が興奮するから」
気持ちいいのと、痛いのと、苦しいの、全部して遊ぼうなと、フレイグはレグナスの腹を何度も撫でた。
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