盗賊団の下っ端C

ゲルゲル

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祭りの行われている広場から、離れた裏路地にぽっかりと穴の開いたようにある袋小路は狙ったようにそこにあった。
レンガや石造りの高い壁に囲まれており、閉じ込められたようになるも望んで入ってきたのは獣の方だった。
ウルスは剣をゆっくりと引き抜いて獣に見せた。
これが、誘いを真に受けた、間抜けな獣に嘲る意味で向けたものであったなら、ウルスは兜の下で歯を噛み締める事もなかっただろう。
これまで生きてきた中で、ウルスがナリカケと相対したのは三度目である。
一度目はただの騎士であった時。
二度目は騎士団長になってすぐの頃。
そして今。
人間の形を保ったまま、獣になりかけているアレギースは向けられた切っ先にすぐに臨戦態勢に入った。
向けられた敵意に素直に反応するその様は、アジトでウルス相手に言葉を並べ立ててきた盗賊団の頭目の風格も何もあったものではない。
獣に成り下がり、一つの事しか求められない哀れなものだった。
何時の時であってもナリカケの存在はウルスに深い影を落とす。
他人事と切って捨てるのはあまりにもウルスとナリカケは近しい存在だ。
認めたくなどないが、恐ろしくもあった。
ウルスも含めて、能力者である者達は誰もがナリカケを恐れるだろう。
その力が恐ろしいのではない。
ナリカケになり得る事が恐ろしいのである。
獣に飛び掛かられる前に、ウルスは足を踏み切った。
アジトでアレギースの腹を貫いた剣ほどではないが、ウルスが今手にしている剣も、それなりの業物であるはずだった。
しかし無手であったはずのアレギースは、それを掌で受け止めた。
能力者であるなら防御魔法の可能性など皆無だ。
純粋な肉体の強靭さで、アレギースはそれを可能としていた。
能力を使い続けている事が解り、ウルスは思わず舌を打った。


能力者とは、魔法を使えない者達の通称だ。
神からの導きにより、男同士でも子を生せるようになってから誕生し始めたその存在は、必ず男同士の夫婦から生まれた。
基本属性との相性や力に差は有れど、誰もが使える魔法の代わりに能力者は特殊な能力を持っていた。
どんな能力かは様々だが、どれも魔法を越えた強力なもので、ゆえに代償が伴った。
使うたびに反動がたまっていき、それが限界を超えればナリカケと言う存在になる。
そして理性の無い獣のようなナリカケには先があり、それは不吉な三の数字を背負う悪魔と呼ばれ、能力者は己が悪魔になる事を何よりも恐れた。
悪魔になる可能性を隠すために、多くの能力者は自分達の能力を魔法だと偽りながら日々を過ごしている。
一つの魔法だけに特化した存在が居ない訳でもない世の中で、それはとても簡単な事のように思えるが、魔力の量で制限があるものの、反動などない一般人の魔法と同じように能力を使えばナリカケになるのは直ぐだ。
反動をなくす方法がない訳ではないが、能力者達が生まれ始めてずいぶん経った今でもナリカケになる能力者は後を絶たない。
それでも一般人に能力者の事が知られていないのは、能力者同士の間に絶対の取り決めがあるからだ。
たとえそれが親の敵でも、能力者がナリカケになれば、同じ能力者はそれを止め、元に戻さなければならない。
世に能力者の存在が知られない様に、己がナリカケになった時に止めてもらうために、破る事の許されない取り決めだ。
攻略対象が全員能力者であるゲームのシナリオで、最初にナリカケになるのはアレギースである。
魔物が多数存在する森の中で、アジトを維持するための魔物の間引きで能力が酷使されていたのが理由だが、それでも出会いイベントでナリカケになる程ではなかった。
ウルスの率いる騎士団の襲撃から逃れて、その途中で主人公であるレアと出会い、そのまま街まで一緒に行動するのが本来のシナリオだったが、アレギースはそれを断った。
レグナスの知らない所で起こった改変だ。
結果、怪我の治療も途中なまま、魔物よけを持つレアがいない中、アレギースは残った仲間を無事に町まで送り届けるためにさらに能力を使った。
反動をなくすために必要な、レグナスが今はいないのだというダリルの言葉を聞き入れる事もなかった。
レグナスの存在だけがこの事態を引き起こした原因ではない。
アレギースに不信感を持たせたレアの態度も原因である。
だがそれも、シナリオという概念がなければ責められるものではなく、事態は止まることなく進み、森を抜けて街までもうすぐと言う所で、アレギースは仲間の前から姿を消した。
ウルスの前に現れたのはナリカケになり、獣の嗅覚が鋭くなったためか、わずかに残った理性で調べ回ってたどり着いたのか。
新聞にウルスが恋人を囲ったと書かれたのは数日前の事だ。
それにレグナスの特徴が少しでも書いてあったなら、アレギースが嗅ぎつけてきてもおかしくはないが、アレギースは遅かった。
ウルスの元に、レグナスはもういない。
目の前にナリカケがいたのなら、それはお前の未来の姿だと、遠い昔に聞いた声がウルスの耳に蘇った。
遺伝でも何でもない、突然変異である能力者の前には能力発現の前に必ず別の能力者が現れる。
それは必然であるかのようで、能力者は発現前でも能力者の事がすぐにわかり、言葉を伝えるのだ。
ウルスの前に現れたのは老人だった。
掠れた声で伝えられた能力者の業は、幼いウルスに衝撃を与えたがすんなり頭の中に入るのだから不思議なものだった。
そして最後に、老人は自身の主観をウルスに言い残した。
これは呪いであるかのようだと。
違いないと、ナリカケになっているアレギースを前にウルスは思った。
確かに与えられる能力は強力で、他のものと比べれば能力者が秀でて見えるだろう。
だが使うたびに悪魔に近づくなら、そんなものに意味はない。
賞賛も、羨望も、悪魔になると分かればすべてがひっくり返るだろう。
己の中に潜む悪魔の姿は、レグナスの選んだ仮面のような狼だろうかと思いながら、アレギースの攻撃を剣で受け止めて、ウルスはさてどうするかと考えた。
人気のない場所まで誘導できたはいいが、その後ウルスに取れる術と言えば限られていた。
ウルスの能力は移動に関連するものだ。
それはこと戦闘において役に立つことはあっても、ナリカケ相手の対処に向くものではない。
ウルスが見る限りアレギースの能力は肉体強化だが単純であるゆえに厄介なもので、それは自己治癒も含まれる。
傷を負わせればそれだけ能力を使わせることになり、すでにナリカケになっているアレギースは悪魔に近づくだろう。
意識を刈り取ろうと頭や首を狙おうとするも、肉体強化の相手には一般人が昏倒する威力でもダメージにすらならない事もある。
かといってウルスが能力を使えばアレギースの首と胴体が離れる事は間違いない。
正直、ウルスにとっては助ける事よりも殺して楽にしてやるほうが簡単である。
ナリカケになれば能力者同士の助け合いが約束されているからと言って、絶対の救済ではない。
だがその言訳が許されるのはウルスの命が危険に晒されたらの話だ。
ウルスにとっては残念な事に、アレギースとウルスの能力であれば分があるのはウルスだ。
今も理性の無い単調なアレギースの攻撃を避け続ける事に何の苦もない。
能力を使い過ぎればナリカケになってしまうが、まだ余裕があった。
途中アレギースが呟く言葉が耳障りで、手が滑りそうになるがそれだけだ。
アレギースは己が半身として欲している者の名前を呼んでいた。
レグナスの名前をだ。
半身として求める者がいるのなら、ナリカケにとってそれが元に戻るために一番必要なものだが、ウルスの意思は別としても、そう簡単に与えられるものではない。
簡単なものであるのなら、能力者はそもそもナリカケにはならないだろう。
時間は刻一刻と過ぎていく。
大通りから外れ人気のない場所に移動したとは言っても、人が来ない保証はなかった。
今日に限って拘束用の薬を持っていない事が悔やまれるが、それもアレギースの運だろう。
今何処にいるかも解らない、レグナスの事もある。
五体満足が絶対の条件でもない。
止めるのなら足だろう。
順々と考えを巡らせながら、ウルスは解決を急ぐ様に能力を発動しようとして、ふと感じた違和感にアレギースから飛びのいた。
途端に苦しみだしたアレギースは、胸を掻きむしりながら崩れ落ち、ウルスの後ろを睨みつけた。
本能で口元を手で覆ったウルスが振り返れば、そこには一人の男が立っていた。
アレギースに集中していたとはいえ、目視するまで感知できなかった男の存在に警戒するも、男はそんなウルスを気にした様子もなく、ただ一礼して見せた。
そしてアレギースに手を翳した。
呻り声をあげていたアレギースが静かになり、男が何か処置をしたのだと解ったが、ウルスには何をしたのかさっぱりだった。
エメラルドグリーンの長髪とモノクルをかけたその男は、静かになったアレギースをしばし見つめて呟いた。

「この方は運がいい、私の能力はナリカケを捕獲するには最適ですからね」

男が能力者である事は確実だった。
ナリカケを止める義務はどの能力者にもある。
偶然居合わせ手を貸してくれただけとも考えられるが、よすぎる頃合いに勘ぐり、ウルスは男をよくよく観察した。
すると何処かで見た顔のような気がして、記憶を辿ればそれはレグナスを屋敷へと連れていく為に挙げた病の論文に載っていた顔だった。
名はクロード=アーリアス。
国に認められた学者で、ウルスと直接の面識はないものの、心理学の関連でクロードの犯人尋問の手引書には騎士団も世話になっていた。
手引書の中には拷問の類のものもあり、いささか趣味を疑うものもまじっていて人格に関しては思う所があったが、直接かかわりのない相手だと、ウルスは気にしていなかった。
まさかクロードが能力者であったとは。
王宮に足を運ぶこともあるクロードならウルスを知っていてもおかしくない。
最初の一礼に納得するも、ウルスは警戒を緩める事はなかった。
上辺だけの敬意を払って礼をしようとも、ウルスに向かうクロードの視線には鋭さがあった。
クロードはモノクルをかけているほうの耳に手を当てて、何かを聞くそぶりをしてから、懐から紙切れを取り出した。
それは一部の新聞だった。

「本当はウルス騎士団長、貴方に聞きたい事があったのです。つい先ほど、信じられないような事を知りましてね。どうしてそんな事になったのかと、調べている途中でナリカケに遭遇したかと思えば、戦っているのは貴方だ。しかもこのナリカケは、私のよく知る名を口にしていた。もう、偶然にしてもでき過ぎている所の話でも、聞きたかったこと所の話でもない」

手にした新聞はもう不要なものだと、クロードの手から落とされた。
地面に落ちたそれをウルスが見れば、ウルスが恋人を囲った事が書かれたものだった。
何を聞きたいのかは解らなかったが、誰の事に関してなのかをウルスは察した。
外堀から埋めようとして態と泳がせていた記者はいい仕事をしてくれたと思っていたが、その考えは間違いだったようだと、ウルスは今更後悔した。

「能力者の半身のついての決まりごとはご承知でしょう。レグナスの居場所なら知っています。案内しますので、このナリカケもつれてついてきてください」

懐中時計のようなものを、クロードは持っていた。
クロードの能力に関係するものかと思うも、毒関連であるならばどういった繋がりがあるのかウルスには解らなかった。
だがそんな事はどうでもいい。
レグナスのいる場所以上にウルスに大事なことはない。
ウルスはアレギースを肩に担ぎあげ、クロードの後を追った。
クロードはウルスが後をついてきているかを確認することなく聞いた。

「――貴方はレグナスが一番欲しいものを知っていますか?」



ショーン医師の診察は魔法を使ったものだった。
診察と治療を兼ね備えているらしいその魔法は、かけ始めてしばらくするとレグナスを眠らせた。
いきなり寝落ちたレグナスに、セルベルとレアが心配するも妊夫は眠くなるものだとショーン医師は言った。
その言葉は仮定であった妊娠を確定するものだった。

「妊娠初期ですね。体調不良はつわりです。軽くする事も出来ますが、薬や治癒魔法にはあまり頼らないほうがいいでしょう。自然に収まるのを待った方がいい。あとは無理をしなければ大丈夫です。順調ですよ」

ショーン医師はセルベルを見てニコッと笑った。
何か誤解をしていると分かっているだろうに、セルベルも何も言わずに笑い返した。
それを落ち着かない様子で見ていたレアは、そう言えば詳しく伝えていなかったと、ショーン医師に改めて説明した。
大通り沿いの人波外れたところで具合の悪そうなレグナスを見つけ、レアが治癒魔法で回復させようとしたところ違和感があり、もしやと思ってショーン医師を連れてきたのだと。
セルベルはレグナスを一旦休ませるためにこの部屋を提供してくれていると付け足せば、ショーン医師は自分が勘違いしていた事に気づいたのだろう。
誤魔化す様に咳払いをしてみせた。

「あの、グレイリーさんには妊娠しているという自覚が全くないようでして、嘘を言っているように見えませんでしたし、大丈夫なんでしょうか?」

ショーン医師はまだ妊娠初期でもあり、気付かない事もない訳ではないと心配げなレアに言った。
言ったが、それが非常にまれな事であることは否めなかった。
子を作ると決めてから妊娠する者達が多い中、妊娠初期でつわりの症状が出ていてなお自分が妊娠している可能性を考えないのは可笑しい事だ。
年が若い点を含めても、自分にその可能性が全くないと思っている事になる。
なにせ絶対の効果を誇る避妊薬があるだけに、子を作る意思の無い者は絶対にそれを飲む。
依存性も身体への負担も一切ない避妊薬はとても安価で、ホルモンバランスに関しても整える効果がある為、常備薬として常に持ち歩いていても可笑しなものではない。
よしんば飲み忘れたとしても、数日であれば医師による処置が可能だ。
その上で、不慮の妊娠が起こったとすれば非常に愚かな自業自得か、騙されたのか、事件性の高い案件かのどれかだ。
ショーン医師は同席していた事もあってセルベルが父親であると勘違いしてしまったが、そうでないなら見た限り、余りにも自覚のないこの妊夫の現状は後者の可能性が高かった。
レアもそう考えているからこそ、こんなにも心配しているのだろう。
レアはただの治療魔法師ではなく、知識も備えた医師を目指している事をショーン医師は知っている。
動機はいささか不純だが、心根正しく真っすぐに教えを乞うてくるレアに、ショーン医師がこれまで与えてきたのは医療の知識だけだ。
レアは産婦人科を専門にしたい訳ではないようだったが医師であれば被害者の治療をする事もある。
そうなれば悲惨な事件の内容を知る事もあるだろう。
ショーン医師は産婦人科を専門としているため特に性犯罪に関わる事が多い。
まだ若く未熟なレアにそんな経験をさせるのはどうかと思い、今は無い訳ではないと濁した。
当人である妊夫に確認しないまま、現状を勝手に決めてかかるのもいけない事だ。
取りあえず、あらゆる可能性を考えるべきだろうと、ショーン医師は寝入ったこの患者をこれからどうするかを考える事にした。
旅人のような服装を見るにこの街の人間ではないだろう。
自宅がないとなれば宿に泊まっている可能性もあるが、祭りで満室が多い中をしらみつぶしに探すのはなかなか骨だし、泊まっていない場合はそれこそ無駄骨だ。
生憎とショーン医師の病院では今病室に空きがなく、このままギルドの応接室を借りたままにもできないだろう。
寝入ったばかりの妊夫をすぐに起こすのも忍びない。
少し様子を見て起こす事にしようかと、ショーン医師が色々考えているとセルベルが手を挙げた。

「よかったら、私が彼を預かりましょうか?」

口に出していた訳でもない考えに対する急な申し出に、ショーン医師は驚いた。
セルベルはショーン医師が勘違いして笑いかけた時の笑みのまま、ショーン医師を見ていた。
相手は大商人セルベル=ネグレーベだ。
現状で妊夫が置かれた状況を理解していても可笑しくはない。
だが大商人ともあろう者が、こう言っては何だが厄介ごとの気配がする、背景も解らない妊夫の身柄を自ら預かると申し出た事に、ショーン医師は首を傾げた。
だがすぐに待てよと、セルベルの反応を思い出した。
セルベルはショーン医師がお腹の子供の父親だと勘違いして笑いかけた時、あえて訂正しなかったではないかと。
あの時、レアが説明しなければ、ショーン医師は勘違いしたままだった。
それをセルベルはよしとしていたのだ。
ショーン医師はもう一度セルベルの顔を見た。
セルベルは変わらず微笑み続けており、ショーン医師に向かって大きく頷いて見せた。
皆まで言わずともショーン医師は理解した。
レアは正直者だ。説明した内容に嘘はないだろう。
だがその中にセルベルの視点はない。
何が起こっても不思議ではないのが世の中だ。
産婦人科医であるショーン医師にとっては折角授かった命、妊夫が無事子供を産むことが第一である。
ショーン医師が見る限り、セルベルにあるのは悪意ではなく好意だ。
そうなればセルベルの申し出は妊夫にとって渡りに船どころか天からの救いの可能性もあり、大商人で身分も確かなセルベルに預けるのは悪いことではない。
瞬時に賛成という答を叩きだしたショーン医師はセルベルにそれではお願いしますと、そう言っていた。



この方はグレイリーさんと言いましたかと、セルベルはレアに確認した。
セルベルの急な申し出に、ショーン医師ほど素早く対応できなかったレアは間を開かせながらも頷いた。
偽名かと、恐らく何かを誤魔化したくて名乗ったのだろうレグナスをセルベルは見た。
幸いショーン医師に舌を見られることなく診断が終わり、レグナスが奴隷である事をレアとショーン医師に知られずに済んだ。
もしばれたとしても、後で所有権を買い取ったとでも言えばいいとセルベルは思っていたが、近いうちに破棄する予定の奴隷契約だ。
二人は治療魔法師と産婦人科医という立場上、これから身重のレグナスが世話になる事を考えれば余計な火種は無いに越したことはなかった。
それにしてもと、まだふくらんでいないレグナスの腹を見て、セルベルは少しだけ何とも言えない気分になった。
妻にと望んでいた相手が子供を産める体質であったことは喜ばしい事だ。
女性的な部分を持っている事が妊娠できる男性の特徴とは言っても、当てはまれば全ての男が子を孕めるわけではない。
一般的な男同士の夫婦の場合、妊娠できるかどうかは子を望んでから初めて解る事が多い。
神から与えられたものだけに、男性の妊娠の仕組みはどういったものか解らないまま、大まかな判別方法しか知られていないのだ。
それゆえに、男同士の恋愛は一般的とはいえ、いざ結婚してどちらも子供が産めない身体だった時、その先の未来は真っ暗とは言わないまでもよろしくない。
恋愛は自由だ。
だが世論は子ができるからこそ結婚をするという考えで、子ができない男同士の夫婦に対して世間は冷たい。
結果別れる夫婦が大半で、そのまま純愛を貫くのは少数だ。
その少数になったとしても、セルベルはレグナスを望むが、正式に妻と言う肩書を持たせるのなら子を身籠れるほうがいい。
それにセルベルはレグナスが精通を迎えたその時に、子を身籠れる男である事を確信していた。
恐らく男同士の夫婦からしか生まれない、能力者特有の物だ。
能力者の性的興奮を覚える相手はもれなく男で、能力者に子を身籠れる者はいない。
だからか、能力者の嗅覚は鋭く、己の雌になれる男を嗅ぎ分ける事ができた。
セルベルもその嗅覚でレグナスが雌であると感じた。
後は身籠れるまで身体が育ったかどうかだった。
セルベルが見失っていた三年のうちに、レグナスの身体は身籠れる準備がすっかりできていたのだろう。
出来ればセルベルの子供を身籠って欲しかったが、産めるのが一人だけと言う訳でもない。
第一子が自分の子でないのは、三年前しくじった自分が悪いのだと、そう思う事でセルベルは溜飲を下げていた。
それに何よりも大事なのは、レグナスがセルベルの元へ戻ってきたと言う事だ。
セルベルは安らかに眠るレグナスを見て、自然と緩む口元を手で覆い、先ほどからセルベルに何かを聞きたそうにもじもじとしているレアに顔を向けた。
顔を向けた事で質問が許されたと思ったのだろう。
レアは手を挙げた。

「あの、どうしてセルベルさんはグレイリーさんを??」

セルベルは年頃の少年特有の察しの悪さも好奇心も嫌いではない。
それを「解らせる」ことを好んでいる時もある。
まあ大好きなのは物わかりの良い空気を読むことがうまいレグナスだ。
レアに限って万が一もないだろうが、此処ははっきりとさせておいて損はないだろうと、セルベルは口を開いた。

「実はレアさんとショーン先生を待っている間、彼と少し話をしたんですが、非常に好感が持てる方でした。ぜひ妻に迎え、一生を添い遂げたい。勿論グレイリーさんの気持ち次第ですが、もしお腹の子に父親がいないなら、結婚を申しこもうと思います」

恋人を通り越して夫婦関係を望むセルベルに、レアはあわあわと顔を真っ赤にした。
そして拳を握り立ち上がった。

「す、すごいです。そんなに真剣に想っているなんて、セルベルさんは運命の相手に出会ったのですね!」

いたく感動した様子のレアに、セルベルは三年前に出会いましたと心の中で呟いた。
前に一度レアの夢の話を聞く機会のあったセルベルは、レアがこう言う類の話に弱いかもしれないと思っていたが、当たっていた。
セルベルが聞いた限り、はっきり言ってレアの夢は彼の身分から言えば高望みである。
だが夢を見るのは自由でタダだ。
セルベルは聞いた時、特に応援もしないが否定もしなかった。
だがレアの態度にこれは行けるなと、すかさず「応援よろしくお願いします」とセルベルは言った。
レアは「勿論!」とセルベルの期待した言葉を返した。
ショーン医師もにこにことその隣で微笑んでいる。
取りあえずショーン医師とレアを味方につける事が出来たと確信したセルベルは、そうと決まればとレグナスを迎え入れる為の準備をする事にした。
診察は済んだからと、ショーン医師はレグナスのカルテを作るために病院へ戻るという。
ならばと家に連絡する間、レアにレグナスを見ていてくれないかとセルベルは頼んだ。
レアは絶対に目を離しませんと、先ほどの言葉通りセルベルに応援と言うか協力的だ。
それに満足して、セルベルは部屋から出た。
ドアの閉まる音と共に、セルベルはレグナスの荷物から隙を見て抜き取った身分証を出した。
そこに記された名前はレグナスでも無ければグレイリーでもない。
レアに偽名を名乗っているのなら、その名前で新しい身分証を用意しようと思っていたセルベルだったが、この作りの甘い偽の身分証から感じた悪意に思いとどまった。
何回かは使えても、いつか絶対に偽物だと分かるそれは善意で用意されたものではないだろう。
セルベルは後で調べる事を心に決めた。
お腹の子の相手に関してもだ。
早急に連絡が取りたいのなら、このギルドとセルベルの屋敷の距離を考えれば使いを出すほうが早い。
セルベルはギルド職員に走り書きしたメモを屋敷に届けてもらうようにと頼んだ。
内容は部屋の準備と、ついでに身の回りの一式を用意するようにだ。
簡素に済ませたおかげで、セルベルが離れていた時間はそう長くはなかった。
それなのに、セルベルが部屋に戻った時、そこにはレアの姿も、レグナスの姿もなかった。



BLゲーム「――――――」では再会シーンの後には事件が発生します。
その時、好感度が一定に達していれば攻略対象達が主人公を助けにきてくれるでしょう。
好感度が基準に達していなかった場合バッドエンドとなります。
攻略者達全員の好感度が基準に達していれば全員そろって来てくれますが、それは隠しルートのハーレムエンドの為難易度はSです。
某攻略サイトより

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