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前世の記憶もちでもモブだったら意味がなくないか。
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金髪碧眼と言えば聞こえはいいが、例えればそれは枯れた藁と曇った空の色だった。
肉の付きにくい体質で、細身ではあるがどこぞの貴族の坊ちゃんの様に麗しく女々しい見た目なんて持ち合わせちゃいない、ごくごく普通の男。
動物に例えるなら狐だ。
一部の人種にもっとわかりやすく言うならば、その男――レグナスはとあるBLゲームの攻略対象である盗賊団の頭の後ろに控える右腕の、そのまた後ろに控える部下ABCのⅭだ。
台詞がちょっとあるモブ中のモブ、ヒーローが現れれば真っ先にやられるような下っ端中の下っ端で、画面の隅にしかおらず、勿論視点なんてものは存在しない。
だがそれはゲームの中の話。
ゲームの世界が本当に存在すれば、登場人物だけでなく、その世界に生きとし生きるものすべてに意思があり視点が存在する。
ちっぽけなモブであるレグナスだって生きていて、盗賊団の下っ端らしい生活を送っているということだ。
恐らく貴族が没落でもして残していったのだろう、森深くにある屋敷は時が経ち今はとある盗賊団のアジトと化していた。
盗賊団の頭の名はアレギース。
二メートル近い身長と野性味あふれる褐色の肌に、癖のあるブルネットと金色の瞳を持ち、髭顔に隠れているが端正な顏のつくりをしている色男で、ならず者の集団を名の知れた盗賊団にのし上げるだけの頭脳も持っている。
動物に例えるなら熊だろう。
一仕事終えてアジトへと戻ったアレギースは右腕であるダリルへ一つ指示を出した。
慣れた様にその指示に頷いて、そのまま奥へと進んでいくアレギースを見送り、ダリルはアレギースと共に戻った部下達を見回して、その中に目当ての金髪を見つけると歩み寄り、その耳に小さく呟いた。
「レグナス、頭がお呼びだ」
ダリルが気を使って小声で囁いたにもかかわらず、レグナスは奇妙な声と共に大げさに身体をびくつかせて周りに不審な目で見られる事になったが、自業自得だった。
初めてでもあるまいにと、ダリルは何時までも慣れる様子の無いレグナスの肩を軽くたたいて促した。
レグナスは縋るようにダリルを見たが、少しの間の後で肩を落としてゆっくりと歩き出す。
本日の戦利品である物の中から適当な酒を見繕い、向かう先はまず割り当てられた自室、そして次は頭の部屋だ。
部下として、頭であるアレギースの指示に従わないという選択肢はないし、待たせすぎるとアレギースの機嫌が下降するだけだと解っていても、レグナスの足は重かった。
何しろこれから待っているのは、本日動きのよかった部下を労うお褒めの言葉でも無ければ、逆にしくじった者への罰でもない。
ある意味レグナスにとって罰で、高ぶったアレギースの性欲を解消するためのセックスの相手だからである。
前も、その前も、その前の前も呼ばれた覚えのあるレグナスは、数人いるはずの頭の下半身処理係が最近自分しかいないような錯覚に陥っているが、先日盗賊団のハニートラップ担当かつ頭の下半身処理係仲間である小鳥や兎などの小動物達(何かにつけて動物に例えたがるのはレグナスのくせである)に「最近頭に自分だけが呼ばれているからって調子にのんないでよ」とお小言をいただいたばかりだった。
なので自分以外の下半身処理係は存在するし、何なら本人達はやる気満々であるのにアレギースが最近呼ぶのは可愛くもなんともない普通の男レグナスばかり。
謎のアレギースのレグナスブームに頭を悩ませながら、こんな事をしている場合ではないのにと、頭の中に存在する別の大きな悩みを片隅に、自室についてしまったレグナスはアレギースに抱かれるための準備をするしかなかった。
「確かにスチルには俺っぽいモブがハメ倒されているのがあったけど、くすんだ金髪なんて盗賊団で他にいるんだから何も俺でなくともよくない?それに最近攻略対象がいるっぽい騎士団が動いてるって噂も聞くようになったし、イベントすぐそこまで迫ってるかもしれないこんな時に…」
レグナスの呟きが誰かに聞かれたのなら、聞き覚えの無い言葉に首をかしげただろう。
そもそも誰かの耳に入る可能性が少しでもあれば、レグナスは口に出す事は無かった。
誰が信じるだろう。
この世界が、レグナスが前世で制作にかかわっていたBLゲームに酷く似ていて、そのゲームの中のモブになってしまいましたなどと。
とてもじゃないが口に出して言える案件ではない。
レグナスは身体の洗浄を前世では在り得なかったファンタジー魔法でぱっぱと済ませ、最近お世話になりっぱなしの香油と張型を手に取った。
前世で男女比率が等しく同性愛が一般的ではなかった記憶を持っているレグナスにとっては不本意な事に、連続してアレギースの下半身処理係に指名され、身体は男に抱かれる事に馴れ始めていた。
けれど如何せん、さすが攻略対象というべきか、アレギースはその身体に見合い過ぎるモノを持っていた。
所詮、下半身処理係はただの係であって恋人ではない。
処女相手ならいざ知らず、アレギースは盗賊団の頭で、レグナスは役目に馴れた下っ端だ。
どう考えてもご丁寧な前戯をする間柄ではない。
運動部の上下関係を例えにするのはいささか不純な行為が対象であるが、上下関係は何処にでもある。
そう言うものだと割り切らなければ、レグナスはやっていられない。
下半身処理係にだけ配布される香油を手に垂らすと、すぐに漂う香りは何という花だったか。
恵まれない環境で育ったレグナスに、馴染みなどあるはずのない香りはきっと、前世の記憶が知っているものなのだろう。
けれど匂いは知っていても、花の名前をレグナスは憶えていなかった。
レグナスは前世も男で、日本という国で育ち、この世界に酷似した設定のBLゲーム制作者の一人であった。
プログラマーとしてだけ関わっていた為に、話の進行の大筋だけを知っていて、そして前世の名前は花の名前と同じく憶えていない。
何ともあやふやな前世の記憶ではあるが、ゲームの中で存在していたアレギースが率いる盗賊団が実際に存在している手前、それをただの妄想だと打ち捨ててしまうには、この先に起こるうるイベントがこの盗賊団にとってはいいものではないのだ。
だからレグナスは、そのイベントの切っ掛けとなるはずの盗品がないかを盗品管理にかこつけて逐一調べたかったのだが、本日アレギースはレグナスをご指名だった。
香油で慣らした後に、先輩下半身処理係の小鳥さん曰く、アレギースのモノよりは細目だが慣らすだけならちょうどいいらしい太さの張型を穴にねじ込み、何度か往復させれば準備は終わりである。
心なしか熱を持ったように感じる穴を意識しない様にしながら、見繕った酒を持ってレグナスは立ち上がった。
本人を目の前にして吐くわけにもいかない深い溜息を一つ。
気持ちはバグが見つかって深夜残業を確約された社員であった。
いや、会社員の残業と比べるにはこの先に待つ行為は運動量が桁違いであったが。
夜のアレギースの部屋はノックを三回と、「酒を持ってきました」の言葉でしか開く事はない。
これは頭の情夫をむやみに増やさない為に、右腕の権限でダリルが決めた事だった。
この世界は男女比率に偏りがあり、比率で言えば8:2で女性の出生率が低かった。
何故そんな世界なのかと聞かれれば、レグナスはBLゲームの世界だからだと答えるが、それ以外の人間には今だ解明されていない世界の謎で、答える事は出来ないだろう。
ご都合主義で女性の出生率が低い事は謎で解明されないが、男同士で子供を作る方法はあり、人間が絶滅する恐れはなく、その為に男同士の恋愛も一般的。
そんな中でどこに出しても恥ずかしくないぐらいに男前なアレギースは雄として引く手数多な上に下半身はゆるく、性欲は人の数倍だった。
これは下っ端が知るはずのない情報だが、レグナスは前世情報でそれが能力による反動である事を知っている。
元々がヤリチンなのか、能力の反動でヤリチンにならざるを得なかったのか。
鶏卵問題はさておき、理性の緩くなった状態のアレギースは来るもの拒まずで、一時盗賊団内の風紀が乱れそうになったが、だてに眼鏡をかけて堅物感を出している訳ではないらしく、ダリルがそれをよしとしなかった。
すぐさま能力の反動の出る夜はアレギースの部屋の出入りを禁止し、すでにアレギースと身体の関係を持っていて、その関係を続けたいと思った者だけに、避妊を絶対にする事を誓わせたうえで、下半身処理係としてアレギースの部屋の扉が開く鍵であるノック三回と合言葉を教えた。
余談だが、何もアレギースに限り避妊を絶対としている訳でもない。
盗賊団の中で恋愛禁止令や性交禁止令はなく、常識的なマナーと避妊する事を守ればよしとされている。
まあそれもレグナスから見れば夫婦にならないなら子供を作らないのは普通の事だったが。
ちなみに下半身処理係は希望者だけと言ったが、レグナスだけは例外である。
レグナスは不意の事故でアレギースと関係を持ってしまっただけで、その関係を続ける事を希望した覚えはなかった。
それなのに何故か下半身処理係の説明会(?)に普通に呼ばれて、普通に夜のアレギースの部屋に入る権利を持たされていた。
直接アレギースにその理由を聞く勇気の無かったレグナスは代わりにダリルに聞いてみたが、少しの間をおいて返ってきた言葉は「頑丈そうだからじゃないからですか?」だった。
レグナスは自分以外の下半身処理係を思い浮かべ、その姿が小鳥や兎、そしてリスだった為になるほどと納得してしまった。
つまりは、激しい時要員が自分なのだと。
余り思い出したくない初体験を、レグナスは不意に思い出す。
偶然アレギースの部屋の前を通り、そのままドアから伸びてきた腕に部屋に引き込まれて、レグナスはアレギースにいただかれた。
初物だからと抱かれ方の指導と執拗な前戯をされ、信じられないほど大きいもので深く深く穿たれた。
夜がとても長くて、レグナスは早く朝になれと願ったが、朝になっても結局解放される事はなかった。
一応合意であったが、それも断れない状況下だった為に判定はグレーだった。
「遅い」
ノック三回と合言葉で開いた扉を跨ぐなり、開口一番に言われた言葉にレグナスはアレギースの機嫌があまりよくない事を知った。
何故と思うも、強欲商人から物資を奪う計画はうまくいったはずで、なれば自分が少しでも遅れたからかと言葉通りに受け取る事にした。
謝罪を口にして持ってきた酒をテーブルの上に置き、引き寄せられて「舐めろ」と言われて跪く。
見上げれば自分よりもはるかに上位の雄の姿が見えて、レグナスは少しだけ身体を震わせた。
敵わないと本能が訴えてくる事で、レグナスは男に抱かれると言う事を受け入れる事が出来ているのかもしれない。
不本意だがレグナスはこの行為が痛みだけでは無く、快感を伴う事をアレギースに教え込まれた。
だから人並みの性欲を持っている以上、発散する事に対して否はないし、何より能力による反動を発散させなければどうなるかを知っていた。
手があるのに態と口で食みながら、寛げた前がすでに立ち上がりかけている事に気付き、レグナスは内心舌を打つ。
相当溜まっていると知れたからだった。
これは口での奉仕をはじめに指示された事は幸運だったと、レグナスは穴を使う回数が少しでも減る事に感謝した。
嗚呼全く、ただのモブを前にしてもたつアレギースは強者過ぎる。
願わくば早く主人公と出会って、難儀な体質を改善して欲しいものだとレグナスは思ったが、同時にそれはこの盗賊団が今のような活動が出来なくなると言う事でもあるので、レグナスは己の未来がどうなるかが解らない事も相まって、主人公に現れて欲しいのか欲しくないのかが曖昧になった。
考えたくないという思いが行為に反映されたのか、アレギースのモノを舐る行為に力が入りすぎたようで、そうかかることなく頭を抑えつけられて口の中に出された。
後に精液を酒と一緒に飲まされて、せっかくの酒が台無しだったが下手に口の中に味が残るのは嫌だったので、レグナスは渡された一杯をすぐに飲み干した。
後ろからアレギースにグラスを取られて、押されるままにベッドへと倒れると下履きがはぎとられ、用意した中に香油が継ぎ足された後、直ぐに復活したアレギースのモノが押し当てられるのが分かった。
張型で少し慣らしただけの中は、もううまく咥え込む方法を知っている。
声がいいとアレギースに言われて、塞ぐことの許されない口から出ているのは何なのか。
今も、この先の事も、レグナスは束の間だったが考える事を放棄した。
本当は、これから起こるかもしれないイベントの事を考えたかった。
でも本当は考えたくなかったのかもしれなかった。
ゲームの中ではモブのレグナスに背景などない。
けれどこの世界の中のレグナスにはない筈の背景があった。
レグナスは下級ではあったが貴族の三男で、15歳の時に長男のやらかした不祥事を背負わされて家から捨てられた。
そもそもレグナスはそんなに裕福でもないのに父親が囲っていた愛人の子で、母親が死んだためお情けで引き取られて屋敷の隅に住まわされていただけだった。
しかし下級ではあっても貴族は貴族で、衣食住に困る事なく世間知らずだったレグナスが罪人だからと何も持たされずにいきなり平民になって生きていけるはずもなく、死にかけた。
それを助けたのがアレギースだった。
そこにいたその他大勢の中の一人ではあったが、レグナスはその恩を一生忘れないだろう。
だから、特に取り柄のない平凡なレグナスでも、盗賊団に入ってほどなく思い出した前世の記憶がアレギースの役に立つのなら恩を返したいと、そう思っていた。
世界がゲーム通りに進むのなら、進む先には必ずバッドエンドも存在するからだ。
肉の付きにくい体質で、細身ではあるがどこぞの貴族の坊ちゃんの様に麗しく女々しい見た目なんて持ち合わせちゃいない、ごくごく普通の男。
動物に例えるなら狐だ。
一部の人種にもっとわかりやすく言うならば、その男――レグナスはとあるBLゲームの攻略対象である盗賊団の頭の後ろに控える右腕の、そのまた後ろに控える部下ABCのⅭだ。
台詞がちょっとあるモブ中のモブ、ヒーローが現れれば真っ先にやられるような下っ端中の下っ端で、画面の隅にしかおらず、勿論視点なんてものは存在しない。
だがそれはゲームの中の話。
ゲームの世界が本当に存在すれば、登場人物だけでなく、その世界に生きとし生きるものすべてに意思があり視点が存在する。
ちっぽけなモブであるレグナスだって生きていて、盗賊団の下っ端らしい生活を送っているということだ。
恐らく貴族が没落でもして残していったのだろう、森深くにある屋敷は時が経ち今はとある盗賊団のアジトと化していた。
盗賊団の頭の名はアレギース。
二メートル近い身長と野性味あふれる褐色の肌に、癖のあるブルネットと金色の瞳を持ち、髭顔に隠れているが端正な顏のつくりをしている色男で、ならず者の集団を名の知れた盗賊団にのし上げるだけの頭脳も持っている。
動物に例えるなら熊だろう。
一仕事終えてアジトへと戻ったアレギースは右腕であるダリルへ一つ指示を出した。
慣れた様にその指示に頷いて、そのまま奥へと進んでいくアレギースを見送り、ダリルはアレギースと共に戻った部下達を見回して、その中に目当ての金髪を見つけると歩み寄り、その耳に小さく呟いた。
「レグナス、頭がお呼びだ」
ダリルが気を使って小声で囁いたにもかかわらず、レグナスは奇妙な声と共に大げさに身体をびくつかせて周りに不審な目で見られる事になったが、自業自得だった。
初めてでもあるまいにと、ダリルは何時までも慣れる様子の無いレグナスの肩を軽くたたいて促した。
レグナスは縋るようにダリルを見たが、少しの間の後で肩を落としてゆっくりと歩き出す。
本日の戦利品である物の中から適当な酒を見繕い、向かう先はまず割り当てられた自室、そして次は頭の部屋だ。
部下として、頭であるアレギースの指示に従わないという選択肢はないし、待たせすぎるとアレギースの機嫌が下降するだけだと解っていても、レグナスの足は重かった。
何しろこれから待っているのは、本日動きのよかった部下を労うお褒めの言葉でも無ければ、逆にしくじった者への罰でもない。
ある意味レグナスにとって罰で、高ぶったアレギースの性欲を解消するためのセックスの相手だからである。
前も、その前も、その前の前も呼ばれた覚えのあるレグナスは、数人いるはずの頭の下半身処理係が最近自分しかいないような錯覚に陥っているが、先日盗賊団のハニートラップ担当かつ頭の下半身処理係仲間である小鳥や兎などの小動物達(何かにつけて動物に例えたがるのはレグナスのくせである)に「最近頭に自分だけが呼ばれているからって調子にのんないでよ」とお小言をいただいたばかりだった。
なので自分以外の下半身処理係は存在するし、何なら本人達はやる気満々であるのにアレギースが最近呼ぶのは可愛くもなんともない普通の男レグナスばかり。
謎のアレギースのレグナスブームに頭を悩ませながら、こんな事をしている場合ではないのにと、頭の中に存在する別の大きな悩みを片隅に、自室についてしまったレグナスはアレギースに抱かれるための準備をするしかなかった。
「確かにスチルには俺っぽいモブがハメ倒されているのがあったけど、くすんだ金髪なんて盗賊団で他にいるんだから何も俺でなくともよくない?それに最近攻略対象がいるっぽい騎士団が動いてるって噂も聞くようになったし、イベントすぐそこまで迫ってるかもしれないこんな時に…」
レグナスの呟きが誰かに聞かれたのなら、聞き覚えの無い言葉に首をかしげただろう。
そもそも誰かの耳に入る可能性が少しでもあれば、レグナスは口に出す事は無かった。
誰が信じるだろう。
この世界が、レグナスが前世で制作にかかわっていたBLゲームに酷く似ていて、そのゲームの中のモブになってしまいましたなどと。
とてもじゃないが口に出して言える案件ではない。
レグナスは身体の洗浄を前世では在り得なかったファンタジー魔法でぱっぱと済ませ、最近お世話になりっぱなしの香油と張型を手に取った。
前世で男女比率が等しく同性愛が一般的ではなかった記憶を持っているレグナスにとっては不本意な事に、連続してアレギースの下半身処理係に指名され、身体は男に抱かれる事に馴れ始めていた。
けれど如何せん、さすが攻略対象というべきか、アレギースはその身体に見合い過ぎるモノを持っていた。
所詮、下半身処理係はただの係であって恋人ではない。
処女相手ならいざ知らず、アレギースは盗賊団の頭で、レグナスは役目に馴れた下っ端だ。
どう考えてもご丁寧な前戯をする間柄ではない。
運動部の上下関係を例えにするのはいささか不純な行為が対象であるが、上下関係は何処にでもある。
そう言うものだと割り切らなければ、レグナスはやっていられない。
下半身処理係にだけ配布される香油を手に垂らすと、すぐに漂う香りは何という花だったか。
恵まれない環境で育ったレグナスに、馴染みなどあるはずのない香りはきっと、前世の記憶が知っているものなのだろう。
けれど匂いは知っていても、花の名前をレグナスは憶えていなかった。
レグナスは前世も男で、日本という国で育ち、この世界に酷似した設定のBLゲーム制作者の一人であった。
プログラマーとしてだけ関わっていた為に、話の進行の大筋だけを知っていて、そして前世の名前は花の名前と同じく憶えていない。
何ともあやふやな前世の記憶ではあるが、ゲームの中で存在していたアレギースが率いる盗賊団が実際に存在している手前、それをただの妄想だと打ち捨ててしまうには、この先に起こるうるイベントがこの盗賊団にとってはいいものではないのだ。
だからレグナスは、そのイベントの切っ掛けとなるはずの盗品がないかを盗品管理にかこつけて逐一調べたかったのだが、本日アレギースはレグナスをご指名だった。
香油で慣らした後に、先輩下半身処理係の小鳥さん曰く、アレギースのモノよりは細目だが慣らすだけならちょうどいいらしい太さの張型を穴にねじ込み、何度か往復させれば準備は終わりである。
心なしか熱を持ったように感じる穴を意識しない様にしながら、見繕った酒を持ってレグナスは立ち上がった。
本人を目の前にして吐くわけにもいかない深い溜息を一つ。
気持ちはバグが見つかって深夜残業を確約された社員であった。
いや、会社員の残業と比べるにはこの先に待つ行為は運動量が桁違いであったが。
夜のアレギースの部屋はノックを三回と、「酒を持ってきました」の言葉でしか開く事はない。
これは頭の情夫をむやみに増やさない為に、右腕の権限でダリルが決めた事だった。
この世界は男女比率に偏りがあり、比率で言えば8:2で女性の出生率が低かった。
何故そんな世界なのかと聞かれれば、レグナスはBLゲームの世界だからだと答えるが、それ以外の人間には今だ解明されていない世界の謎で、答える事は出来ないだろう。
ご都合主義で女性の出生率が低い事は謎で解明されないが、男同士で子供を作る方法はあり、人間が絶滅する恐れはなく、その為に男同士の恋愛も一般的。
そんな中でどこに出しても恥ずかしくないぐらいに男前なアレギースは雄として引く手数多な上に下半身はゆるく、性欲は人の数倍だった。
これは下っ端が知るはずのない情報だが、レグナスは前世情報でそれが能力による反動である事を知っている。
元々がヤリチンなのか、能力の反動でヤリチンにならざるを得なかったのか。
鶏卵問題はさておき、理性の緩くなった状態のアレギースは来るもの拒まずで、一時盗賊団内の風紀が乱れそうになったが、だてに眼鏡をかけて堅物感を出している訳ではないらしく、ダリルがそれをよしとしなかった。
すぐさま能力の反動の出る夜はアレギースの部屋の出入りを禁止し、すでにアレギースと身体の関係を持っていて、その関係を続けたいと思った者だけに、避妊を絶対にする事を誓わせたうえで、下半身処理係としてアレギースの部屋の扉が開く鍵であるノック三回と合言葉を教えた。
余談だが、何もアレギースに限り避妊を絶対としている訳でもない。
盗賊団の中で恋愛禁止令や性交禁止令はなく、常識的なマナーと避妊する事を守ればよしとされている。
まあそれもレグナスから見れば夫婦にならないなら子供を作らないのは普通の事だったが。
ちなみに下半身処理係は希望者だけと言ったが、レグナスだけは例外である。
レグナスは不意の事故でアレギースと関係を持ってしまっただけで、その関係を続ける事を希望した覚えはなかった。
それなのに何故か下半身処理係の説明会(?)に普通に呼ばれて、普通に夜のアレギースの部屋に入る権利を持たされていた。
直接アレギースにその理由を聞く勇気の無かったレグナスは代わりにダリルに聞いてみたが、少しの間をおいて返ってきた言葉は「頑丈そうだからじゃないからですか?」だった。
レグナスは自分以外の下半身処理係を思い浮かべ、その姿が小鳥や兎、そしてリスだった為になるほどと納得してしまった。
つまりは、激しい時要員が自分なのだと。
余り思い出したくない初体験を、レグナスは不意に思い出す。
偶然アレギースの部屋の前を通り、そのままドアから伸びてきた腕に部屋に引き込まれて、レグナスはアレギースにいただかれた。
初物だからと抱かれ方の指導と執拗な前戯をされ、信じられないほど大きいもので深く深く穿たれた。
夜がとても長くて、レグナスは早く朝になれと願ったが、朝になっても結局解放される事はなかった。
一応合意であったが、それも断れない状況下だった為に判定はグレーだった。
「遅い」
ノック三回と合言葉で開いた扉を跨ぐなり、開口一番に言われた言葉にレグナスはアレギースの機嫌があまりよくない事を知った。
何故と思うも、強欲商人から物資を奪う計画はうまくいったはずで、なれば自分が少しでも遅れたからかと言葉通りに受け取る事にした。
謝罪を口にして持ってきた酒をテーブルの上に置き、引き寄せられて「舐めろ」と言われて跪く。
見上げれば自分よりもはるかに上位の雄の姿が見えて、レグナスは少しだけ身体を震わせた。
敵わないと本能が訴えてくる事で、レグナスは男に抱かれると言う事を受け入れる事が出来ているのかもしれない。
不本意だがレグナスはこの行為が痛みだけでは無く、快感を伴う事をアレギースに教え込まれた。
だから人並みの性欲を持っている以上、発散する事に対して否はないし、何より能力による反動を発散させなければどうなるかを知っていた。
手があるのに態と口で食みながら、寛げた前がすでに立ち上がりかけている事に気付き、レグナスは内心舌を打つ。
相当溜まっていると知れたからだった。
これは口での奉仕をはじめに指示された事は幸運だったと、レグナスは穴を使う回数が少しでも減る事に感謝した。
嗚呼全く、ただのモブを前にしてもたつアレギースは強者過ぎる。
願わくば早く主人公と出会って、難儀な体質を改善して欲しいものだとレグナスは思ったが、同時にそれはこの盗賊団が今のような活動が出来なくなると言う事でもあるので、レグナスは己の未来がどうなるかが解らない事も相まって、主人公に現れて欲しいのか欲しくないのかが曖昧になった。
考えたくないという思いが行為に反映されたのか、アレギースのモノを舐る行為に力が入りすぎたようで、そうかかることなく頭を抑えつけられて口の中に出された。
後に精液を酒と一緒に飲まされて、せっかくの酒が台無しだったが下手に口の中に味が残るのは嫌だったので、レグナスは渡された一杯をすぐに飲み干した。
後ろからアレギースにグラスを取られて、押されるままにベッドへと倒れると下履きがはぎとられ、用意した中に香油が継ぎ足された後、直ぐに復活したアレギースのモノが押し当てられるのが分かった。
張型で少し慣らしただけの中は、もううまく咥え込む方法を知っている。
声がいいとアレギースに言われて、塞ぐことの許されない口から出ているのは何なのか。
今も、この先の事も、レグナスは束の間だったが考える事を放棄した。
本当は、これから起こるかもしれないイベントの事を考えたかった。
でも本当は考えたくなかったのかもしれなかった。
ゲームの中ではモブのレグナスに背景などない。
けれどこの世界の中のレグナスにはない筈の背景があった。
レグナスは下級ではあったが貴族の三男で、15歳の時に長男のやらかした不祥事を背負わされて家から捨てられた。
そもそもレグナスはそんなに裕福でもないのに父親が囲っていた愛人の子で、母親が死んだためお情けで引き取られて屋敷の隅に住まわされていただけだった。
しかし下級ではあっても貴族は貴族で、衣食住に困る事なく世間知らずだったレグナスが罪人だからと何も持たされずにいきなり平民になって生きていけるはずもなく、死にかけた。
それを助けたのがアレギースだった。
そこにいたその他大勢の中の一人ではあったが、レグナスはその恩を一生忘れないだろう。
だから、特に取り柄のない平凡なレグナスでも、盗賊団に入ってほどなく思い出した前世の記憶がアレギースの役に立つのなら恩を返したいと、そう思っていた。
世界がゲーム通りに進むのなら、進む先には必ずバッドエンドも存在するからだ。
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