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第一章

第十一話 志穂のチュートリアル①

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 茶髪のポニーテールを揺らしながら、15歳くらいの少女が階段を駆け上がる。身長160センチほどだろうか、両手で大きなプリンを持ち、両腕には複数の紙袋をぶら下げ中に入っている大量のノートのような本を見つめて、上機嫌で『志穂』と書いてある札が下がった部屋の前に立つ。

「ただいま~マイル~ム! 帰ってきたよ~い!」

 私が家族旅行から帰ってきて、久しぶりに自分の部屋に入ると、ベッドで仰向けになり漫画を読んで寛でいるフリルが多いワンピースを着た少女がいた。全体的にピンク色のセミロングで毛先の方が茶色をしていた。ちっこい身長に似つかわしくない大きな胸が目に入る。なにか詰めてるのだろうか?


「あ、お帰りなさい。貴女が『志穂』ですね?」
「はい、えーと? どなた様でしたっけ」

 知り合いだったかな? と記憶を思い出すもまったく覚えがない。紙袋を降ろして、後に下がりながらドアノブを掴むと少女が横になり、片手で頭を支え寛いだまま言ってきた。

「異世界に行ってみませんか? 帰って来れないけど」

 ガチャリッ……私は扉に鍵をかけると女性に真面目に話しかける。

「話を聞こうじゃないか!」
「oh……間違いなくあの子の友達だわー、大丈夫かなー?」

 要約すると少女は女神様で世界の乱れた秩序を回復するため、この世界から素質のある人間に能力を与えて自分の世界に連れて行っているらしい。

「貴女はなかなか素質があるみたいですね。特別に好きなユニークスキルを二つ選ばせてあげるますよ」

 話が長そうなので私が食べるために自分で作って持ってきた色々トッピングした大きなプリンをベット脇の机に置き、ベッドに座る。すると女神様が膝の上に乗りプリンを強奪してきたので、そのままプリンを貪り食う女神様を抱っこしていると上機嫌で説明してきた。そして特別だからと指を鳴らす。ステータスボード的なものが目の前に現れ、様々なスキルが表示される。右下に986/1000と出ている。更に右上の下矢印を押すと並び替えできたのだか同じレア度のスキルしか無さそうだった。

「あ、因みに私の世界に行くと貴女がこの世界にいた痕跡は人の記憶の中も含めて全部消えちゃうから」
「それって部屋の荷物も消えちゃうってこと?」
「そうそう」

 ついでみたいな感じで言ってくる。まあ、それはどちらかと言えば助かるので別に良い。家の親なら異世界に行けることになったから探さないでくださいと書き置きして部屋を密室にしておけば信じてくれただろうけど。荷物は持っていきたいけど……。

「女神様、さっき私の友達って言ってなかった?」
「そうそう、昨日連れていった娘がかなりやばい娘だったんですよ。その娘に誘った感じが似てたから思わず呟いてました」

 部屋の扉の前に置いてある旅行の戦利品を見つめ、記憶に全くない友達のことを聞いてみるとげんなりした感じで落ち込む女神様。

「まあ先に連れて行ったから、その娘の家の荷物や写ってる写真とか貴女の記憶からその痕跡は全て消えてるでしょうね」

 何故買ったか分からないものが荷物に幾つも紛れていた。疑問に思っていたけど謎が解けた気がした。異世界へ行くと痕跡が消えるとはいえ、まだその娘の持ち物になっていなかった物だったために消しそこねたのかも知れない。頭を撫でて慰めながら聞いてみる。

「それって思い出せないの?」
「んー? 規則では同時に転生させた場合以外、記憶を消すように言われてるからなぁ。記憶を思い出す系のユニークスキルがあるからそれ取ったらどうです?」

 ステータスボードを操作しあいうえお順に並べ直して見ると同じ名前のスキルが十個づつ並んでいる。上から順番に見ていくと『記憶復元』と言うユニークを見つける。

『記憶復元』……自分の記憶の編集が可能になる。今まで見たことのある全ての忘れていた記憶を思い出す。要らない記憶を忘れることもできる。物に宿った記憶を見ることもできる。記憶をフォルダー化でき、好きな記憶をリアルで再現できる。

(なにこれ? 結構凄くない? 忘れて思い出せない同人誌用のネタとか思い出せそう!)

 一つはこれに確定だと思い、迷わず選択する。すると脳内に大量の情報が流れ込みフラッシュバックしまるで人生を追体験した気分だ……私がよろめくと女神様が慌てる。

「ちょっとずり落ちちゃうでしょう。ちゃんと支えてよね?」
「あわわ、ごめんなさい」

 混乱しながらも女神様の腰に手を回しギュッと抱っこし直す。頭に顔を埋め忘れていた友達の事を思い出してみる。確かにいた友人の事を思い出す。スキル欄を操作すると異世界に行くなら絶対にもう一つ欲しいスキルがあるのでないか探してみると『千里眼』というスキル見つける。


『千里眼』……一度行ったことのある場所、知っているものをどこからでも見ることできその場所の音を聴くこともできる。本などを開かなくても中を見ることができる。見ている相手に話しかけたりできる。

(うん? 何か変だけど決定だね)

 二つ選択し終わるとステータスボードに『完全記憶保管庫』と『時空干渉千里眼』と選んだスキルとは違う名前が表示される。

『ユニークスキル『完全記憶保管庫』と『時空干渉千里眼』のチュートリアルを受けますか?』

(これはどういうことだろうか?)

 良く分からず『YES』の文字をタップする。完全記憶保管庫の力で部屋にある漫画やアニメ、音楽を完全にコピーして記憶の中にしまい込み、時空干渉千里眼を発動すると私の数少ない理解者の姿が見える。『心の中で話しかけてください』とでてきたので話しかけてみる。

『叶~? お~い? 叶~聞こえるか~い? 私、私、大親友の志穂ちゃんだよ~い?』
『志穂!』
『親友~私に黙って異世界に行くとか良い度胸じゃ~ん? 買ってきた戦利品捨てちゃうよ~?』
『いやいやいやいやいや、だからこそ置き土産として色々残したし女神様にも紹介したでしょう?』
『もしかしてこの良くわかんないスキルって叶が弄ったの?』
『そうそう! 凄くない? 私のユニークスキルのチャートリアルで女神様の所持品から格上のユニークスキルをレア度の『コモン』ってなってたスキルに片っ端からくっつけといた!』
『悪質か!』
『志穂ならそのスキルを選ぶと思ってたよ。記憶復元とか漫画のネタ忘れたぁって良く言ってるし絶対取ると思った。千里眼も異世界に行けても漫画とアニメないと生きていけないから絶対にそういう能力取るって言ってたし』

 カナエが笑いながら志穂に話しかけると急に沈黙する。

(忘れたカナエのことを思い出すためにとったとか恥ずかしくて言えない……)

『どうしたの?』
『なんでもない! このスキル私以外が取ったらどうしてたのさ?』
『そう思ってその二種類は全部その状態にしといた。他のスキルをそれなりに強いよ! レアドロップ1割アップとかは十個に1個必ずレアドロップするようにしといたよ!』
『oh……駄目だこいつ早くなんとかしないと……』
『アハハ、まだスキル選んでる途中なの? もうこっちに来てるの?』
『まだ途中だよ~い』
『そこに女神様いる? さり気なく私にかけてある呪い解いてって言ってみて?』
『は?』
『カナエ何したのさ?』
『抱きついてくんかくんかして告白した!』
『最低か! まあ私も今女神様を膝に抱っこしてさり気なくくんかくんかしてるけどね。あれほどあからさまにやるなと言ったのにカナエ君は本当に馬鹿だなぁ~』
『何それ、どう言う状況? ことと次第によっては戦争が起きんぞぉ!』
『はいは~い、呪い解いてくれるか聞いてあげるから黙っててねー』

 カナエとの通話? を一度止め女神様にさり気なく聞いてみる。

「女神様? もしかして昨日私の友達何か失礼なことしました?」
「しましたしました! 超気持ち悪かったんですよ! 何ですかあの娘? 友達は選んだほうが良いですよ?」
「もしかして気持ち悪すぎて呪っちゃったりとかしました?」
「良くわかりますね? 頭悪そうな人だったんで知力を『1』にしておいたんですよ~しししっ」

 笑いながらとんでもないことを言う女神様になんとかお願いしてみる。

「あの~、それって解いて貰ったりできませんか?」
「断ります!」
「家のお店のデザート好きなだけ持ってきますから」
「うっ、う~ん、解くにしても直接触らないと無理だし、私があっちに戻ってからじゃないと無理だし、大分先になりますよ? 下界とか滅多に降りないですし」
「全然良いですよ。いつか気が向いたらお願いします!」

 友達の知力が『1』とか嫌すぎる。

「むぅ~、しょうがないですね。じゃあいずれ解いときますよ」

 まあ、忘れてなければですけどね。とは言わずに心の奥で笑う。

『カナエ! 交渉成功したよ! 少し怪しいけど言質は撮ったよ。意味ないかもだけど』
『良いよ良いよ、可能性が在るだけでも一生このままかと思ってたから……でもできれば一年以内に解いてって念押しといて……』

 一年? カナエの声から色々と深い闇を感じる。何かあったのかも知れない。

「ちょっと早く持ってきてくださいよ! 美味しいのから順番によろしくお願いしますね?」
「あ、はいはい、すぐ持ってきますね。お父さ~ん、デザート作ってるの手伝って~」

 女神様を膝から降ろして、一階へ走っていく。

『カナエ、一旦切るね? 慣れてないせいか歩きづらいし、そっち行ったらまた連絡するね』
『あ! こっちに来るなら魔王領にある魔王の部屋か屋上に送ってもらってね』
『は? なにそれ志穂ちゃんが理解できるように説明をして貰おうか?』
『長くなるから』
『じゃあ良いやまたね』
『うんまたね』

 こうして友人の安否確認した私は晴れやかな気持ちで女神様に捧げるデザートを父と一緒に作るのであった。
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