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第2章 新天地
35話
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「B中隊はどうかしら」
出撃準備を最も早く終えたB中隊を即座に偵察に出した私はそう通信兵に尋ねた。
「現在横陣に展開し前進中のようです」
彼の報告を聞いて私は頬を吊り上げた。
そして背後に振り返ると配下の部隊へと命令を告げた。
「諸君! 出撃するぞ!」
私の言葉に皆「応」と答えると右手を振り上げた。
部隊主力から数kmほど南方。
B中隊は警戒を密にしながら1列の横隊を作り前進していた。
「どこだ……」
周囲を睨みながらクラウス大尉は呟いた。
しかしながら彼の周囲には一面に広がる複雑な地形をした丘陵と、時折見える茂みだけだった。
まだここにはいない。
クラウス大尉はそう判断し、双眼鏡を砲塔の上に置いた。
その瞬間、彼の隣を行動していた車両が爆散した。
「ッ! 敵襲!!」
爆風に飲み込まれながら彼はそう叫んだ。
「ナイスショット」
エレーナは砲塔から身を乗り出しながら射撃手へそう伝えた。
彼女の配下にいる射撃手はこの親衛大隊の中でも1番ともいえる者を配置している。
エレーナは優秀な指揮官でありながら、1つの駒としてとトゥハチェンスキから信頼されているのであった。
「第1中隊、前進せよ」
手に持った通信機でエレーナはそう配下の中隊へと命じた。
いまだに無線機が普及しないソビエト軍でも第1親衛戦車大隊だけは全車両が無線機を有していた。
彼女の命令を聞いた第1中隊はそれぞの潜伏場所から飛び出ると、クラウス大尉率いるB中隊へと襲い掛かった。
「そうか、エレーナは奇襲に成功したか」
そのころトゥハチェンスキは別なところでエレーナからの報告を聞いていた。
奇襲成功、それはミハウェルの術中に敵がはまろうとしている前兆であった。
彼の中では今後リューイ・ルーカスが取るであろう行動が予測されていた。
数多の彼女と戦った記憶を経て。
「第2中隊。第1中隊の右翼へ展開し側面より奇襲せよ」
ミハウェルは事前の取り決め通りそう命じた。
そして自身は戦車に乗り込むと部隊へ方向転換を命じた。
「第3中隊、我に続け。西進を開始する」
敵1個中隊西進を開始。
その報告は瞬く間に私の元へ届けられた。
現在B中隊は敵2個中隊と交戦中である。
戦況は劣勢。
横に広く伸びていたB中隊に対し、敵中隊は火力を1点に集中させ中央を突破。
クラウス大尉は辛くも撤退に成功し、現在は丘陵にて交戦中。
「至急援軍求む」
彼はそう必死になって私に求めてきた。
それに応えない私ではない。
すぐにユリアン大尉率いるC中隊と歩兵大隊から2個中隊を向かわせ、総指揮をロレンス中佐に任せる。
これで、負けることはないだろう。
私はそう確信した。
「残ったA中隊と第3歩兵中隊は敵1個中隊を追撃するわよ!」
私はそう命じ、敵の方へとその矛先を向けた。
「やはり来たか」
敵の動きを察知したトゥハチェンスキはそうほくそ笑んだ。
すでに味方の2個中隊は2倍の敵から攻撃され、東へ後退を開始した。
彼の目的は敵第1旅団の分断であった。
そして、彼は次の手を打つ。
「部隊停止。この場で敵を待ち受ける!」
彼が選んだのは、広大な平原に僅かばかりの丘がある程度の場所であった。
1個小隊を丘陵の稜線へ隠し、残りの2個小隊を左右へ配置し、敵の追撃を待ち伏せた。
「必ず、野良犬は来る」
そういう確信があった。
張り詰めた空気があたりを支配する。
最初にそれを打ち破ったのはソビエト軍側であった。
「敵襲!!」
西進する敵を追撃するために全速力で行軍していると突如敵から発砲された。
地図上ではそれほど大きな丘があるわけではなく、敵はいないと高をくくっていたのが失敗だった。
そう悔やむのもつかの間、次の攻撃が加えられる。
「左50度に敵部隊!」
「右20度から敵小隊接近!」
「前方に敵部隊視認!」
完全に包囲された。
私は即座にそう判断した。
(どうする、どうする!!)
私は胸の下で叫びながら思考を巡らせる。
数で勝る我々が撤退する道理はない。
そう行きついた瞬間、私はハッと思い立った。
(敵も同じことを考えているのでは?)と。
私達をつり出し、見事に包囲して見せた敵部隊の指揮官は私よりも数段先の思考をしているのでは。
そんな考えが脳裏をよぎった。
結果として、私は最も臆病な手を指した。
「撤退するわよ!」
後から考えてみればそれすらも敵の思惑通りだったのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、敵部隊の指揮官。
ミハウェル・トゥハチェンスキは油断ならぬ相手であるということ。
「敵部隊! 退いていきます!!」
配下の小隊長がそう報告してくるのをミハウェルは口角を吊り上げて見ていた。
全て、全て思惑通り。
この戦闘はすべてミハウェルの思惑通りに進行していた。
そして、ミハウェルは最後の手を打つべく、無線機に手をかけた。
「旅団長殿、よろしくお願いしますよ」
彼はそう笑う。
通信の相手は彼らの上空にいた。
上空を飛ぶ無数の飛行機。
先頭には戦闘機が護衛につき、次には攻撃機。
そして最後尾には輸送機が追従していた。
輸送機の中でも戦闘を行く編隊長機の中で、彼はトゥハチェンスキと交信していた。
過去に一度、配下の大隊を殲滅された男。
「おう、任された」
第3空挺旅団チェレンコフ大佐の攻撃が今、リューイを襲おうとしていた。
出撃準備を最も早く終えたB中隊を即座に偵察に出した私はそう通信兵に尋ねた。
「現在横陣に展開し前進中のようです」
彼の報告を聞いて私は頬を吊り上げた。
そして背後に振り返ると配下の部隊へと命令を告げた。
「諸君! 出撃するぞ!」
私の言葉に皆「応」と答えると右手を振り上げた。
部隊主力から数kmほど南方。
B中隊は警戒を密にしながら1列の横隊を作り前進していた。
「どこだ……」
周囲を睨みながらクラウス大尉は呟いた。
しかしながら彼の周囲には一面に広がる複雑な地形をした丘陵と、時折見える茂みだけだった。
まだここにはいない。
クラウス大尉はそう判断し、双眼鏡を砲塔の上に置いた。
その瞬間、彼の隣を行動していた車両が爆散した。
「ッ! 敵襲!!」
爆風に飲み込まれながら彼はそう叫んだ。
「ナイスショット」
エレーナは砲塔から身を乗り出しながら射撃手へそう伝えた。
彼女の配下にいる射撃手はこの親衛大隊の中でも1番ともいえる者を配置している。
エレーナは優秀な指揮官でありながら、1つの駒としてとトゥハチェンスキから信頼されているのであった。
「第1中隊、前進せよ」
手に持った通信機でエレーナはそう配下の中隊へと命じた。
いまだに無線機が普及しないソビエト軍でも第1親衛戦車大隊だけは全車両が無線機を有していた。
彼女の命令を聞いた第1中隊はそれぞの潜伏場所から飛び出ると、クラウス大尉率いるB中隊へと襲い掛かった。
「そうか、エレーナは奇襲に成功したか」
そのころトゥハチェンスキは別なところでエレーナからの報告を聞いていた。
奇襲成功、それはミハウェルの術中に敵がはまろうとしている前兆であった。
彼の中では今後リューイ・ルーカスが取るであろう行動が予測されていた。
数多の彼女と戦った記憶を経て。
「第2中隊。第1中隊の右翼へ展開し側面より奇襲せよ」
ミハウェルは事前の取り決め通りそう命じた。
そして自身は戦車に乗り込むと部隊へ方向転換を命じた。
「第3中隊、我に続け。西進を開始する」
敵1個中隊西進を開始。
その報告は瞬く間に私の元へ届けられた。
現在B中隊は敵2個中隊と交戦中である。
戦況は劣勢。
横に広く伸びていたB中隊に対し、敵中隊は火力を1点に集中させ中央を突破。
クラウス大尉は辛くも撤退に成功し、現在は丘陵にて交戦中。
「至急援軍求む」
彼はそう必死になって私に求めてきた。
それに応えない私ではない。
すぐにユリアン大尉率いるC中隊と歩兵大隊から2個中隊を向かわせ、総指揮をロレンス中佐に任せる。
これで、負けることはないだろう。
私はそう確信した。
「残ったA中隊と第3歩兵中隊は敵1個中隊を追撃するわよ!」
私はそう命じ、敵の方へとその矛先を向けた。
「やはり来たか」
敵の動きを察知したトゥハチェンスキはそうほくそ笑んだ。
すでに味方の2個中隊は2倍の敵から攻撃され、東へ後退を開始した。
彼の目的は敵第1旅団の分断であった。
そして、彼は次の手を打つ。
「部隊停止。この場で敵を待ち受ける!」
彼が選んだのは、広大な平原に僅かばかりの丘がある程度の場所であった。
1個小隊を丘陵の稜線へ隠し、残りの2個小隊を左右へ配置し、敵の追撃を待ち伏せた。
「必ず、野良犬は来る」
そういう確信があった。
張り詰めた空気があたりを支配する。
最初にそれを打ち破ったのはソビエト軍側であった。
「敵襲!!」
西進する敵を追撃するために全速力で行軍していると突如敵から発砲された。
地図上ではそれほど大きな丘があるわけではなく、敵はいないと高をくくっていたのが失敗だった。
そう悔やむのもつかの間、次の攻撃が加えられる。
「左50度に敵部隊!」
「右20度から敵小隊接近!」
「前方に敵部隊視認!」
完全に包囲された。
私は即座にそう判断した。
(どうする、どうする!!)
私は胸の下で叫びながら思考を巡らせる。
数で勝る我々が撤退する道理はない。
そう行きついた瞬間、私はハッと思い立った。
(敵も同じことを考えているのでは?)と。
私達をつり出し、見事に包囲して見せた敵部隊の指揮官は私よりも数段先の思考をしているのでは。
そんな考えが脳裏をよぎった。
結果として、私は最も臆病な手を指した。
「撤退するわよ!」
後から考えてみればそれすらも敵の思惑通りだったのかもしれない。
ただ一つ言えるのは、敵部隊の指揮官。
ミハウェル・トゥハチェンスキは油断ならぬ相手であるということ。
「敵部隊! 退いていきます!!」
配下の小隊長がそう報告してくるのをミハウェルは口角を吊り上げて見ていた。
全て、全て思惑通り。
この戦闘はすべてミハウェルの思惑通りに進行していた。
そして、ミハウェルは最後の手を打つべく、無線機に手をかけた。
「旅団長殿、よろしくお願いしますよ」
彼はそう笑う。
通信の相手は彼らの上空にいた。
上空を飛ぶ無数の飛行機。
先頭には戦闘機が護衛につき、次には攻撃機。
そして最後尾には輸送機が追従していた。
輸送機の中でも戦闘を行く編隊長機の中で、彼はトゥハチェンスキと交信していた。
過去に一度、配下の大隊を殲滅された男。
「おう、任された」
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