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第1章 統一戦争

42話

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 恐らく最も出会いたくないタイミングでの会敵であろう
 配下の海蛇大隊と砲兵部隊はすべて歩兵連隊への対処へ当たらせており、彼らからの救援要請があったため、自動車化中隊も向かわせた直後のことだったからだ。
 つまり前から迫る第1親衛戦車大隊に当てられる部隊は戦車中隊のみである。
 自らの運の悪さを恨みながら私はすぐに部隊に対して行軍形態から防御への展開を命じる。
 対機動戦力に対してはとにかく予備の数がものをいう。
 敵の大隊が使える駒は実質三つ。
 というのも、敵の部隊は通信機が中隊長や大隊長にしか配備されておらず、小隊規模での単独行動や綿密な情報連絡は難しいからである。
 対して我々はドイツから供与された戦車であるため、各車両に複数の無線機が置かれている。
 一つは大隊指揮用でもう一つは中隊用。
 この二つをうまく使い分ければ各車両が一つの駒となる。
 将棋で言えば敵は金を三枚持っていて、こちらは18枚の歩を持っているようなものだ。
 勝機は皆無ではない。
 それにつけこむしかない。
 まずは第1小隊を前面に展開させ、敵主力との砲撃戦を開始させる。
 それより少し後方の丘陵の稜線から砲塔だけを出すようにして第2、第3小隊も展開させ、第1小隊の援護を行わせつつ、迂回してくるであろう敵部隊に対して即応させる。
 私の予想では敵は包囲を狙ってくるであろう。

 しかし砲撃戦が始まると私の予想は覆された。
 敵はすべての戦力をもって前進してきたのである。
 しかも先鋒はBT7。装甲こそ貧弱ではあるがその速度が目を引く。
 私は内心舌打しながら第2小隊に前進を命じる。
 敵があまりにも早く、火力が不足している。
 2個小隊が前面に展開している今、ここで迂回攻撃を仕掛けられると少し困る。
 だが、敵はそんな小賢しい策を弄するつもりはないらしい。
 BT7で予備小隊の一つを引きずり出したのを確認すると、敵のBT7は下がり、代わりにKV1を含むT26が接近してきた。
 その規模から中隊規模であり、おそらくエレーナ? が率いている中隊であろうと思われた。
 悪態をつきたくなる。
 どうやら敵は波状攻撃を行いたいらしい。
 T26はBT7に速力で劣り、装甲で勝る。
 KV1は速力ではT26とBT7に大きく及ばないものの、圧倒的火力と絶対的な装甲を有している。
 要素の違う2部隊を交互に攻撃させるだけで相手の疲労は大きく増加させれる。
 そうすれば敵の付けこむ隙は生まれやすくなる。
「がんばって……」
 久しぶりに弱気な言葉を吐いた気がする。
 これが普通の戦車大隊だったらなんとよかったか。
 そうすれば適当に囲んでつぶすだけの容易なものだというのに。
 だが、己の智略を尽くして戦うというのもまた、一興。
 さぁ、来い。
 私と貴方達の勝敗如何でこの戦争は大きく変わる。
 そう、視線の奥にいるトゥハチェンスキに語り掛けた。
「諸君! 我が連邦の興廃この一戦にあり! 各員奮励努力せよ!」
 私はそう叫んだ。
 前世で圧倒的な国力差に挑んだある小国が決戦の地で総員に命じた文言。
 彼の国はその戦闘に勝利し、見事大国としての国際的地位を確保した。
 さぁ。我が国はどうかな。
 この言葉とともにわが部隊の砲撃はより一層激しくなり、敵の損害が増え始める。
 目の前で擱座している戦車はおよそ10両。2個小隊はつぶしただろう。
 対して、わが中隊は3両が撃破されたのみだ。 
 これなら、勝てる。
 そう確信を抱いた。 
 また敵は下がり、そして奥からBT7が爆速で駆けだしてきた。
 今度は先ほどと違い、大きく分散しての攻撃。
 攻撃目標の選定を難しくさせるためだろうか?
 それとも被弾率を下げるためか?
 いや、何にしろ攻撃するしかない。
「落ち着いて撃ちなさい!」
 私は無線機に向かって叫ぶ。
 動揺してはならない。
 今向かってきている14両を撃破するだけだ。
 ……ん?
 14両。
 そう14両。
 本来の戦車中隊の定数は1個小隊で5両、それが3個で15両、それに加えて本部のために2両が追加されて合計17両。
 しかし、敵は14両しかない。
 私はハッと思い、撃破した敵戦車の残骸を数える。 
 T26が7両、BT7が3両。
 敵の不足分と撃破した数がピタリと一致した。
 恐らくあと数分気が付くのが遅ければ私は死んでいただろう。
「後退!」
 私は足元の操縦手に叫ぶと同時に左方向を睨んだ。
 この戦場に敵の中隊は2つしかいない、ならばもう一つはどこに?
 敵が来るなら左だ。
 右側には敵の歩兵連隊とこちらの部隊が交戦しており余白がすくない。
 ここを戦車中隊で駆け抜けようとすればすぐに発見されるはずだ。
 だとすれば左。
 左側には森も多くあり、視線が遮られる地点が数多く存在する。
 ここならば隠密に部隊を移動させられるだろう。
 戦車がガクンと動き後退を始めた瞬間、元いた場所に砲弾が着弾した。
「第3小隊は敵中隊を迎撃!」
 私はそう叫ぶ。
 確実に敵の中隊だ。
 ここで戦力を出し惜しむ無能ではないはず。
 やはり敵は優秀だ。
 2個中隊をもって敵部隊を拘束し、残りの1個中隊で敵側面及び後方を奇襲。
 見事なものだと言えよう。
 私は第1小隊長のリマイナに第2小隊の指揮権を移譲し、ヴェゼモアと共に攻撃してきた敵を追撃する。
 こちらは第3小隊と中隊本部の合計7両と私を含めた8両。
 対する敵は戦車中隊17両と思われる。
 もしかすれば敵の大隊本部も来ている可能性もあり不確定要素が大きい。
 こちらを一度攻撃してきた敵はそのまま飛び出し、乱戦模様になる。
 私はそれを一歩引いたところから援護射撃を繰り返しながら見守る。
 乱戦になったとき、それは数がものをいうらしい。
大分とわが部隊は押されている。
 現在我々はかなり劣勢である。
第1小隊と第2小隊はうまく持ちこたえているが第3小隊が厳しそうだ。
第2小隊を引き抜くことも考えつつ、私が思案を巡らせていると海蛇大隊から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「旅団長! そちらに1両の戦車が爆速で駆け抜けていきました!!」
私はその報告を聞いたとき口角が釣りあがった。
 なるほどそうか!
 敵はそれを望んでいるのだな!
 いまま繰り返されて来た策はすべてこの為らしい!
 私は向かってくる戦車が誰の物かおおよそわかっていた。
「さぁこい、勇者よ。魔王ならここにいるわよ」
 私はそんな神話に出てくる悪魔かのようにつぶやいた。
 そして、バッと後ろを振り返ると同時に操縦手に前進を命じた。
 直後鳴り響く砲火の音。
 紙一重。
 その一言に尽きる。
 否、彼の放った砲弾はリューイの真横をかすめ、砲塔上に備えられていた機関銃を吹き飛ばしていった。
「後方180度! 弾種徹甲弾用意!」
 私はそう叫び砲塔を旋回させる。
 と同時に、操縦手に対しても命令を告げる。
「左125度へ変針し全速前進!」
 この命令にも操縦手は素早く答え、的確に実施する。
 敵は私を追おうとしてくる。
「砲撃用意完了!」
 装填手が報告してくる。
 私はそれに砲塔内に入れた左手で合図を出して応えると砲塔から身を乗り出して後方を睨む。
「左5度!」
 私が急激に変針を命じると操縦手は素早く応える。
 直後敵の砲弾が発砲され、砲塔のすぐ後ろを掠めていく。
「停車! 撃て!」
 矢継ぎ早に命令を下す。
 停車した後に砲撃を命じるが惜しくも敵の真横を通り過ぎ、少し奥で爆発してしまう。
「全速前進!」
 私がそう叫ぶと同時に操縦手はレバーを操作し、戦車を前進させる。
 恐らく先ほどの射撃でどちらの射撃手もこの日の砲弾の飛び方を確認しただろう。
 だとすれば後は状況だ
 不確定要素を大きく減らすことのできる停車射撃を行えれば勝ちだ。
 装填手に「徹甲弾用意」と命じ、即座に装填できるようにさせる。
 そして「撃て!」と命じた。
 直後、敵の主砲の砲口がキラリと煌めいた。
 同時に砲撃が行われたのだ。
 そしてものの見事に放たれた砲弾どうしがぶつかり合い、空中で破裂した。
 すぐに訪れたのは黒煙の煙幕。
 私はそれにすぐ対応すべく「左90度!」と叫び変針を行わせた。
 いまここで左に変針すれば敵の背後に回り込めるだろう。
 すぐに装填を終わらせる装填手。
「煙幕を抜けたらすぐに砲撃よ」
 私はそう伝え、今か今かと待ち構えていた。
 
 しかし、それは甘い考えであった。 
 煙幕を飛び出した瞬間、敵の主砲はこちらを指向していた。
 T26の45mm砲。
 彼我の距離は僅か十数メートル。
 このまま撃たれれば撃破されるであろう

  ――読まれていた。


 そう悔いた瞬間に敵の主砲が赤く燃え盛った。 
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