やがて始まるリベリオン

塚上

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第一章 ラギアスダンジョン

第二十話

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 周りが黒い鉱物で覆われた空間。その入口にジーク浩人は佇んでいた。この場所がでの最奥となる。

(とりあえずはここまできたが、後はどうするかな)

 仮称『ラギアスダンジョン』。ストーリーではパーティメンバーと共にダンジョンを訪れることになる。過去の調査が失敗に終わりダンジョンへ立入が禁止されて以降、誰も訪れていない。

 調査部隊の生き残りはグランツのみで、彼に同行を依頼するが初めは断られる。己の罪によって仲間を死なせてしまった責苦から主人公達を拒絶するのである。紆余曲折あり最終的には主人公達に協力する形でダンジョン攻略に挑む。

 今回の調査で浩人が数あるギミックを難なく攻略できたのは原作知識で把握していたからである。
 ゲームではダンジョンを探索する際にグランツがヒントを交えながら探索が進む。全てを教えるのではなく自分達で考え、協力することが大事であると説いたからだ。

 最奥以外の状況は調査段階から変化が無いと分かっていたからここまでスムーズに進んでこれた。原作知識様様である。――だがこの場所は事情が異なる。
 
 ゲームでグランツは最奥の状況が当時と違うと語っていた。黒色が目立つ空間は真逆の白色で満たされ、更に奥へと繋がる階段が現れていた。原作での本格的な探索はそこから始まる。
 つまり現段階ではこれ以上の探索は不可能で、且つ凶悪なトラップが潜んでいる状況になる。
 調査部隊が全滅した仕掛けが健在のはずだ。

(脱出不可能な状況か……。詳しくは言ってなかったんだよな)

 詳細は原作で語られていない。ただ分かっていることは、フールが部屋の中央に鎮座していた金銀財宝の山に駆け寄ったこと。それが引き金となりトラップが発動、悲惨な結末を招いた。

(あからさまに光ってるな。普通分かるだろ)

 グランツの証言のように金銀財宝が中央にある。黒い室内がより宝物を引き立てていた。

(あれに近づいたらお陀仏だしなー。でもトラップが発動しないと先には進めない。どうしたものか……)

 悲惨な出来事によりグランツは隠居し、ダンジョン奥への道が開かれる。まさに犠牲者達が鍵になったと言える。

(そもそも現段階で奥に進む必要はないしな。グランツも年だからそのうち勝手に隠居するだろ?)

 最悪フールを騙して奥に置き去りにすればいいかと考える浩人。結果だけを見れば原作通りに進むしいいだろと、中々腹黒いことを考えていた。

 よし、回れ右だなと行動に移そうとした浩人だが、それに待ったをかける集団が現れた。

「凄い光景ですね、黒一色とは」

「いかにもって感じの部屋ね」

 グランツ調査部隊が勢揃いしていた。

「……どうやら相当頭がイカれているらしいな。貴様らはバカなのか?」

「へいへい、よく言われるよ」

「彼と一括りにされるのは癪ですね。――貴方も勝手に同意しないでくださいよ……」

(何で来てんだよ! 数々の口撃がこいつらには効いてないのか⁉︎)

「仕事は最後までやり遂げることに意義がある」

「貴方を一人残して帰るわけにもいきませんからね」

 グランツ調査部隊は鋼のメンタルだなと感心する浩人であった。

「ふむ、不思議な空間のようですが」

「能無し共。間違ってもあれに近付くなよ」

「……いや、あれには普通近付かないだろ」

「ええ、怪しさの塊です」

(フールは普通じゃないんだよ。……ジークはその息子か)

「で、お前は何をしてたんだ?」

「貴様らが邪魔をしていなければ今頃帰還している最中だろうな」

「意外ですね、中を調査しないんですか?」

「……不要だ。全員さっさと消えろ」

 誰も目前の空間に入れたくない。グランツの目にはそう映っていた。

「明らかに怪しいとは思うが……。これで引き返したら本当に散歩になっちまう」

「……サーチに反応は無いが」

「どうせ何か隠されてるわよ。要はアレに近付かなければいいんでしょ?」

(確かにそうだとは思うが。でも入りたくねー)

 内心が表に出ることはない。オートポーカーフェイスは得意技だ。

「この場で悩んでいても埒があきません。行きましょう」

 一人また一人と調査部隊は進んでゆく。最後に残ったのはジークとグランツのみだ。
 未だに動こうとしないジークに目を向ける。何か危険があるなら直ぐにこの場を離れればいい話だが、そのつもりはないようだ。

「何か気になる点がございますか?」

「貴様は何も感じないのか?――だったら相当焼きが回っているな」

 お互いに何かを感じ取っている。だがそれを言語化できないでいた。

「一つ……年寄りからの助言になりますが、一人では難しいことでも、協力すれば成せることもあると思いますよ」

「ふん、烏合の衆でなければいいがな」

 グランツ、そしてジークも進む。――その先にある破滅へと向かって。



✳︎✳︎✳︎✳︎



「近くで見てもほんとに黒一色。不思議ですね~」

「貴重な鉱物の可能性がある。持ち帰るぞ」

 調査を進める部隊の面々。中央の金銀財宝には目もくれず着々と調べていく。

「この黒いのは気になるが、逆に言えばこれしかないな」

「やはりサーチにも反応がありません。ここが最奥なのでしょうか?」

 浩人も注視して周りを窺う。だが対象はこの空間ではなく調査部隊のメンバーだ。中央の宝物に誰か不用意に近付こうものなら即座に叩き潰すつもりでいた。

「何であいつはこっちを睨んでくるのよ? おっかないわね」

 只ならぬジークの表情を見て慄く者もいた。

(何か妙ですね。この感じ、どこかで……)

 長年の経験から違和感を覚えたグランツ。一度入口に戻ろうと声をかけようとしたが……。

 突如、空間全体が妖しく光出す。

「っ! してやられましたね、皆さん退避を!」

 即座に全員が反応をして入口に戻ろうとしたが一足遅かった。――魔法陣の構築は既に完了していた。

「くそ! 何だこれは⁉︎ 出れねえぞ⁉︎」

 妖しげな光を放つ透明な壁のような物が空間全体を覆っていた。

「退いてください! 魔法でこじ開けます。……ロックランス!」

 瞬時に魔法を発動し岩の槍を放つが……。

「っく! 効き目がありません。ならこれで…………フェルゼンハンマー!」

 岩石で作られた巨大なハンマーをぶつけるが効果がない。

「マルクス、合わせんぞ!」 

「! ええ、行きますよ!」

 キートとマルクスが虹色の光を帯びる。一糸乱れぬ連携で『ユニゾンリンク』の体勢に入る。
 マルクスが練り上げた魔力がキートの武器に宿る。

「「顎・地龍斬あぎと・ちりゅうざん‼︎」」

 大地を象った大顎が件の壁を噛み砕く。辺りに衝撃が走り砂埃が舞う。

「……馬鹿な。ユニゾンリンクですよ。まるで効いてない……」

「くそ。手応えが全然ねえな……」

 渾身の一撃を与えたが変化は無かった。

「賢者殿! マルクスと三人がかりでいく! ……賢者殿?」

「……皆さん。これは古代魔法の一種です」

「古代魔法? 一体どんな効果よ⁉︎」

 グランツが沈痛な面持ちで答える。

「空間を範囲で指定、その後範囲内を削り取る」

「つ、つまりどういうことでしょうか?」

「……この場を空間ごと消滅させる魔法です。空間が断絶されていることから、全ての攻撃は無効。脱出は……不可能です」

 グランツ調査部隊の命運が決まってしまった。
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