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第一章 忌子との邂逅
第十五話
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嵐が兵士達を巻き込む状況をアトリは眺めていることしか出来なかった。馬車の中で罪悪感に襲われ涙を流す。
(やっぱり私のせいで。私がいたからこんなことに……)
思い返せば辛い記憶しかなかった。幼い時は優しい両親や村人に囲まれ楽しい日々を送っていたはずだが、今では何も思い出せない。気付けば誰も周りに居なくなっていた。
きっかけは備蓄庫の火事だったと思う。その日のことは不思議なくらい何も覚えていなかったが、意識がはっきりとした時には備蓄庫が燃えていた。
多くの大人に問い質されて必死に記憶を探ったが何も答えられない。思い出そうとすればするほど頭の中が真っ白になる。
結局この時は村長の口利きもあり事無きを得たが、それからも不幸な出来事は続いた。
優しかった両親はもういない。村人からは距離を置かれ、やること全てが裏目に出る。ただそこにいるだけで周りから疎まれた。――得体の知れない何かの意志が存在しているかのようだった。
「何も変わらないなぁ」
自分を変えようと努力してきた。
「たくさん頑張ったのに」
他者に理解されようと自分を省みた。
「全部ダメだった」
昔みたいに笑って欲しかった。
「どうして誰も見てくれないの」
ただ一緒にいたかった。
「どうして話してくれないの」
誰かに必要とされたい。
「どうして……」
ここにいてもいいよと言って欲しい。
「だれか……」
見つけて欲しい。
「だれか……」
自分が消えて無くなる前に……。
「……私を助けてよ」
黒く巨大な嵐が吹き荒れる。何人たりとも存在を許さない。全てを否定するかの如く理不尽な暴力が原野に満ちる。
「――えっ?」
嵐はまだ続いている。だが一瞬、光が見えたような気がした。毎日目にしているはずなのに数年ぶりだと感じる。闇に呑まれることのない強い光。
理不尽な暴力を物ともしない圧倒的な輝きが生まれる。
それは偶然か。それとも一人の少女の願いに誰かが答えたのか。――世界が蒼白く染まる。
光の中で少女は思う。待っていて良かったと。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「余興にしては上出来だ。……だがもういい」
『アイスプロジオン』
絶対零度を含んだ爆発が嵐を掻き消す。猛威を振るった悪意の塊は一瞬にして霧散してしまった。
「……隊長。我々は夢でも見てるのでしょうか?」
「少なくとも死後の世界ではないようだ」
『ユニゾンリンク』によって放たれた魔法が直撃したはずなのに氷壁は健在だった。あの一瞬でどれほどの魔力を込めれば成せる技なのか。
守るべき存在に自分が守られる。これでは兵士失格だなと落胆するシモンだが、同時に誇らしい気持ちになった。
自分が仕えている主人は常に何手先も見据えていると。……実際の雇主はフールだが。
(危なかった。張り直しといてよかった……)
内心ほっとする浩人。涼しい顔をしているが心の中では冷や汗をかいていた。
「ジーク様、さすがに奴らは魔力切れのようです。接近戦で一気に畳み掛けましょう」
「いらん」
「はい?」
疑問を抱くシモン。まさか自分達はクビなのかと顔を青くする兵士もいた。
「バカは痛い目に遭わないと理解しない。あの村人共もブリーズイタチも同じだ。――道理を教えてやる必要がある。徹底的にな」
不敵な笑みをもらすジーク。今度は何だと身を震わせる兵士達。
詠唱と同時に強大な魔力がジークから溢れ出す。魔法の才能が無い者でも異常な状態であることは理解できた。――生物としての格の違いを。
暗雲が空を覆う。気温は次第に下がり息が白くなる。自然現象ではなく人がもたらした人為的な災害。
「過去を清算してやる、だからもう失せろ。アイシクルレイ」
冷き光がノルダン原野に降り注ぐ。魔物や草木、大地が凍てつき白く染まる。一時的なものだがジークが言うバカの記憶に刻むには十分だった。
(やっぱり私のせいで。私がいたからこんなことに……)
思い返せば辛い記憶しかなかった。幼い時は優しい両親や村人に囲まれ楽しい日々を送っていたはずだが、今では何も思い出せない。気付けば誰も周りに居なくなっていた。
きっかけは備蓄庫の火事だったと思う。その日のことは不思議なくらい何も覚えていなかったが、意識がはっきりとした時には備蓄庫が燃えていた。
多くの大人に問い質されて必死に記憶を探ったが何も答えられない。思い出そうとすればするほど頭の中が真っ白になる。
結局この時は村長の口利きもあり事無きを得たが、それからも不幸な出来事は続いた。
優しかった両親はもういない。村人からは距離を置かれ、やること全てが裏目に出る。ただそこにいるだけで周りから疎まれた。――得体の知れない何かの意志が存在しているかのようだった。
「何も変わらないなぁ」
自分を変えようと努力してきた。
「たくさん頑張ったのに」
他者に理解されようと自分を省みた。
「全部ダメだった」
昔みたいに笑って欲しかった。
「どうして誰も見てくれないの」
ただ一緒にいたかった。
「どうして話してくれないの」
誰かに必要とされたい。
「どうして……」
ここにいてもいいよと言って欲しい。
「だれか……」
見つけて欲しい。
「だれか……」
自分が消えて無くなる前に……。
「……私を助けてよ」
黒く巨大な嵐が吹き荒れる。何人たりとも存在を許さない。全てを否定するかの如く理不尽な暴力が原野に満ちる。
「――えっ?」
嵐はまだ続いている。だが一瞬、光が見えたような気がした。毎日目にしているはずなのに数年ぶりだと感じる。闇に呑まれることのない強い光。
理不尽な暴力を物ともしない圧倒的な輝きが生まれる。
それは偶然か。それとも一人の少女の願いに誰かが答えたのか。――世界が蒼白く染まる。
光の中で少女は思う。待っていて良かったと。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「余興にしては上出来だ。……だがもういい」
『アイスプロジオン』
絶対零度を含んだ爆発が嵐を掻き消す。猛威を振るった悪意の塊は一瞬にして霧散してしまった。
「……隊長。我々は夢でも見てるのでしょうか?」
「少なくとも死後の世界ではないようだ」
『ユニゾンリンク』によって放たれた魔法が直撃したはずなのに氷壁は健在だった。あの一瞬でどれほどの魔力を込めれば成せる技なのか。
守るべき存在に自分が守られる。これでは兵士失格だなと落胆するシモンだが、同時に誇らしい気持ちになった。
自分が仕えている主人は常に何手先も見据えていると。……実際の雇主はフールだが。
(危なかった。張り直しといてよかった……)
内心ほっとする浩人。涼しい顔をしているが心の中では冷や汗をかいていた。
「ジーク様、さすがに奴らは魔力切れのようです。接近戦で一気に畳み掛けましょう」
「いらん」
「はい?」
疑問を抱くシモン。まさか自分達はクビなのかと顔を青くする兵士もいた。
「バカは痛い目に遭わないと理解しない。あの村人共もブリーズイタチも同じだ。――道理を教えてやる必要がある。徹底的にな」
不敵な笑みをもらすジーク。今度は何だと身を震わせる兵士達。
詠唱と同時に強大な魔力がジークから溢れ出す。魔法の才能が無い者でも異常な状態であることは理解できた。――生物としての格の違いを。
暗雲が空を覆う。気温は次第に下がり息が白くなる。自然現象ではなく人がもたらした人為的な災害。
「過去を清算してやる、だからもう失せろ。アイシクルレイ」
冷き光がノルダン原野に降り注ぐ。魔物や草木、大地が凍てつき白く染まる。一時的なものだがジークが言うバカの記憶に刻むには十分だった。
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