冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第2章 取り込まれる者

11,舞踏会2日目(1)

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翌朝の食堂には珍しく王族が勢揃いしていた。

「みな昨日はご苦労だった。今日は昨日よりは来賓も少ないだろうが…夜までゆっくり過ごしてくれ」

王の言葉を皮切りに、それぞれ運ばれた朝食を食べながら自由に話し始める。

「私は昨日はプラム公爵夫人に捕まって大変だったわ。相変わらずの噂好きで…話しは長いし」
「長々、王妃の元にいましたね。おかげで僕も王妃に挨拶に行けなかった」

王妃は呆れたようにため息をついた。

「クリス、そうなのよ。あの方の噂好きにも困ったものよ。気にしないで間に入って来て欲しかったわ…。あなた達はどなたとお話していたの?」
「僕たちは…最初少し一緒に周って、アーノルドは先に戻りました。そこからは適当に…かな?皆さん話しかけてこられるし」
「そう…。アーノルドは体調でも悪かったの?」
「あ、いやぁ...。読みかけの本が気になって」

アーノルドは気まずそうに頭を掻き、王妃はまたため息をついた。

「リオルド達はジブリールといたわね」
「えぇ、王と一緒に。ルンベルクの土俵はまだ改良が必要な様でその話し合いをしていました。」
「そう…あの土地は昔から大変よね。ジブリールには頭が下がるわ」

ユウトは目の前に出されたサラダを黙々と食べ続けていた。
昨日の事を思い出すと気まずくて何も言えない。
ローゼマリーとの一件は皆知っているだろうに、誰も会話に出そうとはしない。
その気遣いが有り難くもあり、やはりそれだけのことだったのだとユウトを惨めな気分にもさせた。

「僕はユウトと一緒で嬉しかったよ!」

王妃の隣に腰かけたレイルが急に子供らしい大きな声を出したので、皆の視線は一斉にユウトに注がれた。

「ありがとう。僕もレイルがいて楽しかった」
「ね、今日のお昼は空いてるの?一緒に遊ぼうよ」
「あら、気晴らしに良いわね…」

王妃も乗り気になったところで、食事を終えコーヒーを飲んでいたリオルドがカップを置いた。

「お誘いは有難いですが、今日は街に出るので無理です」

ーーーえ?街に?初耳なんだけど…。

「あら、街へ行くの?」
「ドルナーよりこちらの方が店が多いので。二人で散策でもしようかと」
「兄様、僕も行きたい!今度はいいでしょ?」
「だめだ。今日はデートだ」

ーーーデート!?
リオルドがこのような発言をしたのは初めての事だ。
一同ポカンとしてリオルドの顔を見ている。

ユウトはデートという言葉に驚いたが、リオルドがクリスの前でその単語をだしたことが純粋に嬉しかった。
自分がクリスよりも優先されたような気分になったのだ。
昨日はあの後、特にローゼマリーについての説明は無かった。いつものように別々にシャワーを浴び、キスをして、上半身裸のリオルドに抱き締められながら眠りについた。
ーーーもしかしたら、城下町のレストランか何かで説明をしてくれるのかも知れない。


「ね、デートなのは分かったんだけど僕も行っちゃだめかな?」

ユウトの淡い期待を切り裂いたのは兄のクリスだった。
クリスは両手を合わせてリオルドにお願いをする。

「僕もユウトと過ごしたいんだ。昨日も全然話せなかったし…城下町には前からユウトを連れていきたかった店が沢山あって、いいでしょ、リオルド。お願い!」

クリスが可愛らしく頭を下げると、リオルドは困った顔をした。

「…クリスは来るか?店にも詳しそうだし…確かに兄弟で話しも出来ていないしな」
「本当?ヤッター!!リオルドありがとう」
「兄様、クリスだけズルイ!それなら僕も行きたい!」
「おまえは駄目だ」

ーーーなんだそれ。なんだそれ、なんだそれ、なんなんだよ!
激しい怒りの感情が湧いてくる。爆発する前にこの場を離れなくてはならない。

「僕は昼は書庫に行く予定があるので無理です」

ユウトは言い終わると立ちあがり足早に食堂を出た。


室内は静まり返り、王が咳払いを一つする。

「昨日も今日も…。リオルド、後で部屋に来い。他の者は各々舞踏会まで自由に過ごすように」

王も席を立ってしまい、王族達はバラバラと部屋に戻っていった。

☆ ☆ ☆

「やあ、本当にここに来たんだね」

アーノルドは机に本を高く積み、ソファーに腰をかけたユウトに話しかけた。

「うん。やっぱり父のことは知りたいし、本を読むと気が紛れるから…」

読んでいた本から目を離したユウトは傷ついた目をしていた。アーノルドは申し訳無い気持ちで胸が一杯になった。

「さっきはクリスがすまなかったね。せっかくのデートだったというのに」
「……」
「いや、いつも申し訳ない。二人のあの感じを見て良い感情は抱かないよね。」
「アーノルド様は…」
「アーノルドでいいよ」
アーノルドは優しく微笑んだ。
「アーノルドは、気にならない?」
「うーん。そうだな、今はもう気にならない。気にした時期もあったんだ。リオルドは随分情熱的だったし…クリスもハッキリとは断らない、僕は自分に自信もなかったし。けど…全部は言えないけど色々あって、もういいかってなった」
「そうなんだ。僕もいつかそうなれるかな…」

アーノルドはぎょっとした。リオルドがユウトに気があるのは一目瞭然だ。城の中で気づいてないのは、リオルドに言い寄られているクリスくらいだと思っていた。
まさか当人であるユウトにも伝わっていないとは。

「それは違うよ、僕とユウトじゃ全然違う」
「…?」

心底分からないという顔をしているユウトにどう説明したら良いものかと考えていると、ユウトが開いている「魔法大辞典」の下から黒猫が顔を出した。

「あ…!」
「そうだ、アーノルドこの猫なんて名前なの?」
「名前…ユウトはこの黒猫を知ってるのか?」
「王様の部屋で会ったよ?王家で飼っているんでしょ?」

アーノルドは可笑しくなった。
ーーーなるほどね。これはこれで大変…
まぁ、ユウトに害は無いからいいさ。

「名前は特に無いよ。好きに呼んでいいんじゃないか」
「そうなの?じゃあ、クロだ!」

あまりお気に召さないらしく黒猫は尻尾を足らし“ニャア”と鳴いた。

「お茶どうぞ」

ジェイがお盆に載せたハーブティをアーノルドの前に置いた。

「僕もそろそろ本を読むかな」
「うん。となりにどうぞ」

アーノルドはユウトの隣に腰をかけ、読みかけの本を開いた。
ユウトは読んでいた魔法大辞典に目を戻し、黒猫はユウトの足の上で満足そうに丸まった。

ジェイは少し窓を開けて換気をした。清々しい風が書庫に吹き込んでくる。
自分の淹れたお茶を飲みながら本を読む2人と、気持ち良さそうに昼寝する1匹を愛おしそうに眺めていた。


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