冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第2章 取り込まれる者

9,舞踏会1日目(1)

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王が葡萄酒の入ったグラスを高く掲げたのを合図に、舞踏会は開催された。
今日の為に用意された煌びやかな衣装を纏った貴族達が次々と王族の元に群がってくる。
王と王妃はゆったりとした椅子に座り、そのすぐ横にアーノルド夫妻、リオルド、ユウト、レイルの順で立ち、来賓の貴族達に挨拶を交わしていた。

「ねぇ、ユウト。お腹が空いたね?」

早速飽きてきたようで、舞踏会用に準備されたご馳走やドリンクの乗ったテーブルを見ながらレイルが言った。

「もう少し我慢しようか。ところでレイル、今日の服素敵だね」
「本当?なんか発表会みたいでしょ?上下黒だし短パンだし」

ーーー発表会みたいな服、というなら僕もだ。

レイルが飽きてしまうのも仕方がない。
貴族達はまず王に挨拶をする。その後、王妃、第一王子、第二王子…と続く訳だが、正直、身代わり妃で有名なユウトと、王位継承権が無い上まだ子供であるレイルに対してはかなりな対応だ。

「今日ユウトが来てくれて良かったよ」
「ありがとう。僕もレイルがいて嬉しいよ」
「僕はね、今日1日だけの参加なんだって。時間も9時になったら引き上げ、だからそれまで一緒にいてくれる?」
「もちろん!」

ユウトは会場内にある時計を探した。
壁にかかった白い柱時計が目に止まる。

ーーー今、まだ6時半。レイルとは2時間半しか一緒にいられないんだ…舞踏会、夜遅くまで終わらないよね。はぁ、どうやって時間を潰そう…

「それは無理だな」

ユウトが閉会までどうやって時間を潰そうか考えあぐねていると、それまで来賓の相手をしていたリオルドが横から口を挟んできた。

「兄様、なんで?僕とユウトは前から約束してたんだよ?」
「この後は夫婦で来賓へ挨拶に回る。アーノルドもそうだ」
「じゃあ、僕も付いていきたい」
「だめだ、お前は王と王妃の横だ。俺も子供の時はそうだった。早く行け」

リオルドは顎をクイッと捻り、早くあっちに行けとレイルに示した。

王妃の横には小さなテーブルと椅子が用意され、こちらが見ていることに気がつくと手招いてレイルを呼んでいる。

「そんな…兄様ずるい。ね、ユウトいいよね?」
「ど、どうなのかな?僕は全然構わないんだけど…席も用意されちゃってるから…」
「だめだ。早く行け」

「ケチ!兄様のケチ!」

王子にあるまじき発言を吐きながらレイルは渋々歩いて行った。


舞踏会は歓談の時間に入り、王や王妃達も軽食を摘まみながら来賓と話をしていた。
来賓達の中には会場の一角に作られた飲食スペースでお酒を飲んだり、軽食を運んでテーブルに置き、椅子に座って食べているものもいる。

「おい、挨拶に回るぞ」
「あ、はい」

ーーーひとまず、後ろにいればいいのかな?
リオルドの少し後ろに付いたユウトの腰を強く引き寄せて、自分の脇に置いたままリオルドは歩き始めた。

ーーーもう何人と話したんだろう…正直、名前も覚えられないよ
ユウトはリオルドに連れ回され、次々に貴族に紹介されていく。皆が結婚の祝辞を言い、次にはリオルドの活躍を讃え、最後は自分の事業の話を始める。もれなくその連れ合いはリオルドの顔をウットリと眺めている。
ナントカ伯爵の話が終わり、少しゆっくり出来るかと期待したらまた別の貴族が声をかけてきた。

「リオルド様、お久しぶりです」
「あぁ、ジブリール。久しぶりだな、息災か?」
「えぇ、なんとかやっています」

突然ユウトの前に現れたのはとても綺麗な男だった。
歳は20半ばくらいだろうか?
綺麗に巻かれた金色の髪は胸まであり、透き通るような青い瞳に、涼しげな目元。背はリオルドよりは低いが175cmはありそうで、その煌びやかな見た目で貴族の娘達を魅了していた。

「あ、紹介する。これがユウトだ」

ーーー、ってなんだかなぁ…

「で、こちらがジブリール・ルンベルク公爵だ。四大公爵家の一つだな」

ルンベルク公爵家はマグドー公爵家より南に領土を持つ。
横にあるロッドランド公爵家の領土と違い、砂漠もありカナーディルにしては厳しい環境だ。

「ユウト様、初めまして。ジブリール・ルンベルクと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい。宜しくお願いします」

ジブリールはニコッと笑った。

うわー、なんかキラキラしてる。
リオルドも格好いいけど…ちょっと近寄りがたいもんな。ジブリールさんはなんか、すごいな。親しみやすくて色男って感じ!

「おい、ジブリールは既婚者だ」
「へ?」
「ちなみに、元ルーツの子だからな。惚れても無駄だ!子供も4人いる!」
「ほ、惚れ?そんなつもりないけど!ただ素敵だなって…」
「なんだ、こういうのがタイプか?残念だったな」
「だから…違うって!」

二人のやり取りを見ていたジブリールはお腹を抱えて笑った。

「二人共、こんな場所で痴話喧嘩はやめてくれ」
「ち、痴話喧嘩も違います!」
「だって、ずっと腰に手を回してるじゃないか。身代わりなんて言うから心配したけど、安心したよ」
「腰に...手?」

ーーーうわぁ!全然気付かなかった!あれだ、レイルと別れた時だ。…あれから、ずっと?
ユウトは急に顔が熱くなってきた。

「ちょ、ちょっと。そろそろ手を離しても大丈夫です」
「は?別にいいだろ」

良くないよ!こっちは絶対に顔が真っ赤なんだ!!

「歩きにくいし」
「普通に歩いてきただろ」
「飲み物とか…飲みにくいし」
「グビグビ飲んでたじゃないか」
「……ぐぅっ」

「ハハッ、君達は本当に面白いね。実は僕はリオルドを呼びに来たんだよ。王が一緒に話をしたいと言っていてね」
「王が...?早く言ってくれ。おい、クロード!」

どこで待機していたのか、正装姿のクロードが貴族達の間を縫ってこちらに向かってきた。

「ちょっと離れる。ユウトの近くにいろ」
「分かりました」

二人は連れだって王の元へ向かう。
ジブリールは最後に「ユウト様、また会いましょう」と笑顔で言った。

「ねぇ、クロード。ジブリール様は綺麗な人だね」
「あぁ、そうですね。あの方はルーツの子でしたから、やはり見目麗しいです」

ーーールーツの子だから?
ルーツの子だと何か関係あるのか?
確かにクリスもキーンも美形だし…レティ様も綺麗だったな。
…でも僕は全然だぞ?

「ジブリール様はルーツの子でしたが、年の合う王子がいらっしゃらなかったんです。一応、10歳まで妃修行はしてましたが、アーノルド様と同じ年にクリス様が産まれたので妃修行は辞めました。リオルド様の年にはキーン様が産まれましたし…」
「そうなんだ。あんまり年が離れてると駄目なの?」
「下なら良いんです…上でしたから」
「でも、僕よりは良かったんじゃないかな?華もあるし、10も上には見えないよ?」

ーーーやっぱりだ。ユウト様は自己評価がとても低い。

クロードは不思議だった。
確かにユウトにはクリスやキーンのような華やかさは無いかもしれない。
だが、ユウトには不思議な色香がある。
特別男好きじゃないクロードでも、ユウトにじっと見つめられるとドキドキしてしまう時がある。

先程だってそうだ。
男色家の子爵が妻が横にいるというのに、舐め回すようにユウトを見ていた。リオルドに睨まれて尻尾を巻いて逃げていったが…

「ユウト様だって素敵じゃないですか?」
「え。クロード何言ってるの?大丈夫?」

ーーーこの調子だもんな。リオルドが手を焼くのも分かる

お揃いの服を着て、体をぴったりくっつけてマーキングしながら周りを牽制し、ユウトは自分の物だとアピールする親友が可哀想でもあり……その実面白かった。

「何で二人の衣装ってお揃いなんだと思います?」
「え……?あれかな、倹約。生地代が浮くんじゃない?」

親友の努力はまだまだ続きそうだと、クロードはほくそ笑んた。

「そういえば、キーン様いないね。僕はまた嫌みを言われる覚悟をしてきたよ」

ーーー見た目に反して意外と勇ましい。

「今日はまだ見てませんね。まぁ、あの方は来たらすぐリオルドのところへ行きますから、すぐ分かります」
「そっか」

キーン様など問題ではない。
あれは単なるご本人の片想いで、リオルドも相手にしていない。
ユウト様に一番顔を会わせて欲しくない人は別にいる。
今日来てるんだよなぁ…。

「あら、ユウト様とリオルドの護衛さん?」

クロードがユウトに一番会わせたくなかった人物は向こうから接近してきた。
大きな胸を揺らしながら歩いてきたのは、ダンケ伯爵の未亡人ローゼマリー。
この世で一番多くリオルドと体を重ねた女だ。

「あ、こんばんは。ユウト・カナーディルです」
「まぁ、可愛らしい挨拶ですのね。私、ローゼマリー・ダンケですわ、仲良くしてくださる?」
「あ、はい。勿論です」
「ふふふ、素直で可愛らしい方。そんなじゃ、夜の方もリオルドを満足させてあげられてるのかしら?」

クロードは頭を抱えた。
リオルドはユウトとの婚約を前に女達を整理した。
大体の女は期間も短かったからすぐ引いたが、ローゼマリーは2年にも渡り関係があり中々大変だった。
最後は何とか聞き入れたものの、未練があるのは間違い無かった。その交渉を担当したのはクロードだった。

「夜…ですか?」
「えぇ、あなた只でさえ体は男でしょう?リオルドも不満だと思うわ。あなたが頑張ってテクニックで何とかしなきゃ。私はリオルドの喜ぶところ、弱いところ何でも知ってるの。ふふっ教えて差し上げるわ」

ーーー終わりだ。ユウト様はもうショックで固まってる。
遠くにいるリオルドが王達と話しながら心配そうにこちらを見ている。

「あら、黙っちゃった。夫婦関係って大事よ?リオルドの体の事は私が一番知ってるの。ね、教えてあげる」

クロードの目にリオルドが立ち上がり、急いでこちらに向かって来るのが映った。


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