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第1章 魔犬
15.馬車の中
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ユウトは体に振動を感じて目を覚ました
ーーー出発する前には起きようと思っていたのに
まだ寝ぼけたままの頭で目を擦りながら見渡すと、ユウトは自分が馬車のシートに寝かされている事に気がついた
馬車が動いているんだからいるんだよな?
少し頭を浮かべてリオルドの様子を窺ってみたが、足を組み窓の外に顔を向けたまま。全身でこちらを見ることを拒んでいるようにさえ思えた
構うもんか。僕だって怒ってるんだ
寝て起きれば少しはスッキリするかと思ったものの、やはり城を出るときの出来事がひっかかっている
クリスにはあんなに愛想が良かったのに、ユウトのことはあれ呼ばわりしたり、荷物のように雑に扱ったり。
思い出すだけでみぞおちのあたりがキューッとしてモヤモヤが止まらない
ーーー身代わり妃なんだから仕方がない、と言われればそれまでなんだろうけど。
ユウトはふて腐れながらも体を起こそうと、台に手を付き上半身を持ち上げようとした。腕に体重を載せ力を入れたところで、ユウトの体の上から黒いものがするりと床に滑り落ちた
不思議に思ったユウトは床に落ちた黒いものを目を凝らして観察してみる
マントのようだ。黒皮で作られたマントは襟にあたる部分に動物の毛皮が縫い付けられていて大変ゴージャスだ
リオルドのマントじゃないか…?
ユウトは戸惑い、大いに困惑した
起き上がる時にもう一つの出来事にも気がついていた
あんなに傷んだ肩の痛みは嘘のように引き、上手く留めることが出来なかった服のボタンは全部キチンと留めれていた
何でいまさら僕に優しくするんだ?少しは反省したとか?
そう考えてみるものの、リオルドにとってユウトは手駒の一つに過ぎないことを思い出した
クリスに告げ口されると思ってるかも。そんなことしないのに…
不本意ながら肩を治して貰ったお礼だけは言っておこうと思い直したユウトは、依然として窓の外を見続けているリオルドの後ろ頭に向けて「ありがとう」と呟いた
馬車が走る音にかき掻き消されそうな小さな声をキャッチしたリオルドは、窓に向けていた顔をギギギと音が聞こえそうなくらい不自然にこちらに向けて不思議そうな顔でユウトを見た。お礼を言われるなど思ってもいなかったのだろう
一呼吸おくと、いつもどおりの横柄な態度で「最初から素直になればいいんだ」と悪態をつく
「別に頼んでないし!」
やっぱりお礼なんて言うんじゃなかったと後悔したが、ユウトに反抗されて「クククッ」と嬉しそうに笑うリオルドを見たら良く分からなくなり、変なやつ!と顔を背けた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
これから行く別邸は元々は四大侯爵家であるベルナー家の別荘として使用されていた建物だ
ベルナー家はアーノルドとリオルドの母の生家であると同時に、現王妃であるサニーの実家でもある
この別邸は元々王との婚姻の際にベルナー家からお祝いとしてサニーに贈られたものであったが、西の森に近いこともあり魔物討伐の際にリオルドが度々使用するので、サニーは家の権利をリオルドに譲渡することを決めた
滅多に来れる場所でも無いので管理を任せたい気持ちが大きかった
そんな経緯もあり、別邸には昔からベルナー家に仕える使用人達が多く、ベルナー家の血を引く王子であるリオルドは大変慕われている
いくらルーツの子といえど、リオルドに大事にされていない妃となると軽んずることもあるだろう
「わかるよ、その話はわかる。だけど何でそうなるの?」
うんうん、と途中まで素直に話を聞いていたユウトもその後の展開には納得が行かなかった
「話をちゃんと聞いていたか?つまり古い使用人が多いんだ。俺がおまえを大事にしていないと気づけば、おまえ使用人達に舐められるぞ。まして、俺は家を開けることが多いからな」
「それはわかるよ!でもなんでそうなるの?」
ユウトは必死に抵抗した
冗談じゃない、そんな恥ずかしいことが出来るもんか!
「早くしろ!もうすぐ別邸に着く。この方法が一番みんなの目を欺きやすいんだ。これが嫌なら別邸にいる間、使用人の前でやたらに口説き、口づけを交わしあうしか方法はない」
「えぇぇぇぇ?」
ユウトは想像したら羞恥で顔が真っ赤になった
それなら…まだこっちがマシか?10分耐えれば終わるだろうし…
ゴクリと生唾を飲んだユウトは「わかった」と覚悟を決めた
「さぁ、乗れ」
リオルドはユウトの方を向き体勢を整えると、足を少し開き両腕を大きく広げた
先程まで窓際にいたというのに随分近くまで移動してきている
「うう…」
ユウトはジリジリとリオルドに近づき、勇気を振り絞ってリオルドの首に両腕を回した
強ばった腕にリオルドのサラサラ髪が触れてむず痒い
「その調子だ。次は腰を浮かせて足を俺の腿に乗せろ」
「その、上に乗らなきゃ出来ないものなの?」
「当たり前だ。お前は女性を抱き抱えたことなど無いだろう?俺は数えきれないくらいある。経験者が言ってるんだ間違いない」
それもどうなんだよ…数えきれないくらいってどれだけ女遊びを繰り返してるんだ?
「あぁ、最近はそういうことは控えている」
ユウトの考えを読んだかのようにリオルドは慌てて付け足した
「早くしないと着くぞ」
待ちくたびれたリオルドが両腕を伸ばしてユウトの腰を掴もうとしたので
「ちょっ…ちょっと、やる、自分でやるから!」
と全力で拒否し、覚悟を決めて腰を上げ、リオルドの太股の上にドスンと一気に座った
今のユウトはリオルドの首に両腕を回し、胸にしなだれかかり太股の上に横向きに座っている
恥ずかしくて顔から火が出そうだ
「色気の無い座り方だな…それもまた新鮮でそそる」
「え?何?なんか言った?」
「いや、もうすぐだぞと言っただけだ」
まだなのかな?両腕を首に回しているせいで顔はリオルドの胸板にピッタリついてるし、太股からはじんわりと熱が伝わってきて変な気分になりそうだ
自分に抱きつく妃を嬉しそうにみるリオルドと顔を真っ赤にしたユウトを載せた馬車は、その後20分の時を経てベルナーの別邸に到着した
ーーー出発する前には起きようと思っていたのに
まだ寝ぼけたままの頭で目を擦りながら見渡すと、ユウトは自分が馬車のシートに寝かされている事に気がついた
馬車が動いているんだからいるんだよな?
少し頭を浮かべてリオルドの様子を窺ってみたが、足を組み窓の外に顔を向けたまま。全身でこちらを見ることを拒んでいるようにさえ思えた
構うもんか。僕だって怒ってるんだ
寝て起きれば少しはスッキリするかと思ったものの、やはり城を出るときの出来事がひっかかっている
クリスにはあんなに愛想が良かったのに、ユウトのことはあれ呼ばわりしたり、荷物のように雑に扱ったり。
思い出すだけでみぞおちのあたりがキューッとしてモヤモヤが止まらない
ーーー身代わり妃なんだから仕方がない、と言われればそれまでなんだろうけど。
ユウトはふて腐れながらも体を起こそうと、台に手を付き上半身を持ち上げようとした。腕に体重を載せ力を入れたところで、ユウトの体の上から黒いものがするりと床に滑り落ちた
不思議に思ったユウトは床に落ちた黒いものを目を凝らして観察してみる
マントのようだ。黒皮で作られたマントは襟にあたる部分に動物の毛皮が縫い付けられていて大変ゴージャスだ
リオルドのマントじゃないか…?
ユウトは戸惑い、大いに困惑した
起き上がる時にもう一つの出来事にも気がついていた
あんなに傷んだ肩の痛みは嘘のように引き、上手く留めることが出来なかった服のボタンは全部キチンと留めれていた
何でいまさら僕に優しくするんだ?少しは反省したとか?
そう考えてみるものの、リオルドにとってユウトは手駒の一つに過ぎないことを思い出した
クリスに告げ口されると思ってるかも。そんなことしないのに…
不本意ながら肩を治して貰ったお礼だけは言っておこうと思い直したユウトは、依然として窓の外を見続けているリオルドの後ろ頭に向けて「ありがとう」と呟いた
馬車が走る音にかき掻き消されそうな小さな声をキャッチしたリオルドは、窓に向けていた顔をギギギと音が聞こえそうなくらい不自然にこちらに向けて不思議そうな顔でユウトを見た。お礼を言われるなど思ってもいなかったのだろう
一呼吸おくと、いつもどおりの横柄な態度で「最初から素直になればいいんだ」と悪態をつく
「別に頼んでないし!」
やっぱりお礼なんて言うんじゃなかったと後悔したが、ユウトに反抗されて「クククッ」と嬉しそうに笑うリオルドを見たら良く分からなくなり、変なやつ!と顔を背けた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
これから行く別邸は元々は四大侯爵家であるベルナー家の別荘として使用されていた建物だ
ベルナー家はアーノルドとリオルドの母の生家であると同時に、現王妃であるサニーの実家でもある
この別邸は元々王との婚姻の際にベルナー家からお祝いとしてサニーに贈られたものであったが、西の森に近いこともあり魔物討伐の際にリオルドが度々使用するので、サニーは家の権利をリオルドに譲渡することを決めた
滅多に来れる場所でも無いので管理を任せたい気持ちが大きかった
そんな経緯もあり、別邸には昔からベルナー家に仕える使用人達が多く、ベルナー家の血を引く王子であるリオルドは大変慕われている
いくらルーツの子といえど、リオルドに大事にされていない妃となると軽んずることもあるだろう
「わかるよ、その話はわかる。だけど何でそうなるの?」
うんうん、と途中まで素直に話を聞いていたユウトもその後の展開には納得が行かなかった
「話をちゃんと聞いていたか?つまり古い使用人が多いんだ。俺がおまえを大事にしていないと気づけば、おまえ使用人達に舐められるぞ。まして、俺は家を開けることが多いからな」
「それはわかるよ!でもなんでそうなるの?」
ユウトは必死に抵抗した
冗談じゃない、そんな恥ずかしいことが出来るもんか!
「早くしろ!もうすぐ別邸に着く。この方法が一番みんなの目を欺きやすいんだ。これが嫌なら別邸にいる間、使用人の前でやたらに口説き、口づけを交わしあうしか方法はない」
「えぇぇぇぇ?」
ユウトは想像したら羞恥で顔が真っ赤になった
それなら…まだこっちがマシか?10分耐えれば終わるだろうし…
ゴクリと生唾を飲んだユウトは「わかった」と覚悟を決めた
「さぁ、乗れ」
リオルドはユウトの方を向き体勢を整えると、足を少し開き両腕を大きく広げた
先程まで窓際にいたというのに随分近くまで移動してきている
「うう…」
ユウトはジリジリとリオルドに近づき、勇気を振り絞ってリオルドの首に両腕を回した
強ばった腕にリオルドのサラサラ髪が触れてむず痒い
「その調子だ。次は腰を浮かせて足を俺の腿に乗せろ」
「その、上に乗らなきゃ出来ないものなの?」
「当たり前だ。お前は女性を抱き抱えたことなど無いだろう?俺は数えきれないくらいある。経験者が言ってるんだ間違いない」
それもどうなんだよ…数えきれないくらいってどれだけ女遊びを繰り返してるんだ?
「あぁ、最近はそういうことは控えている」
ユウトの考えを読んだかのようにリオルドは慌てて付け足した
「早くしないと着くぞ」
待ちくたびれたリオルドが両腕を伸ばしてユウトの腰を掴もうとしたので
「ちょっ…ちょっと、やる、自分でやるから!」
と全力で拒否し、覚悟を決めて腰を上げ、リオルドの太股の上にドスンと一気に座った
今のユウトはリオルドの首に両腕を回し、胸にしなだれかかり太股の上に横向きに座っている
恥ずかしくて顔から火が出そうだ
「色気の無い座り方だな…それもまた新鮮でそそる」
「え?何?なんか言った?」
「いや、もうすぐだぞと言っただけだ」
まだなのかな?両腕を首に回しているせいで顔はリオルドの胸板にピッタリついてるし、太股からはじんわりと熱が伝わってきて変な気分になりそうだ
自分に抱きつく妃を嬉しそうにみるリオルドと顔を真っ赤にしたユウトを載せた馬車は、その後20分の時を経てベルナーの別邸に到着した
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