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第1章 魔犬
14.クロードとメイ
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ベルナー領へ向けて軽快に歩みを進めていた馬車は、途中にあるトラントの町でその歩みを完全に止めた
ユウトが背中を伸ばして窓から外の様子を伺ってみると、馬車は道の脇につけられ従者が馬に水を与えている
横に見えるレンガの建物には宿屋と馬車のマークの看板が掲げられており、乗合い馬車もやっている宿屋で馬を休ませているようだ
「しばらく休憩だ」
それだけ言い残し、リオルドはこちらを振り返ることもなく馬車から降りていってしまった
ユウトは大きく息を吐いた
ーーーどうしていつもこうなってしまうんだろう
ユウトがリオルドに初めて会ったのは、マグド-侯爵夫妻に連れられ、婚約の話をするために城を訪れた時だった
剣の演習があったというリオルドは少し遅れて部屋に到着した
扉が開かれた時、白と碧の軍服を着たレオルドの美しく凛々しい姿にユウトは思わず目を奪われた
ーーーこんなに美しい男が存在するんだ
噂には聞いていた
第二王子はたいそうな豪腕だがそれに反して見た目は大変美しく、見たものは皆心を奪われてしまうと。
しかし、所詮は噂と思っていた
王子でありながら騎士団長を任されているほどの実力の持ち主、ゴリラのようにとは言わないが、ある程度屈強でなければ男達を纏め上げることは出来ないだろう
目の前に現れたリオルドはゴリラどころか、美しく気高いユニコーンのようだった
リオルドは遅れた事を詫び、国王夫妻の横に座ると、向かい合ったマクドー侯爵家に微笑みかけた
どのように笑えば自分が一番魅力的に人々の目に映るかを把握している人種が浮かべる、柔らかな笑みだ
魅力的で完璧な笑みを浮かべたリオルドの視線がユウトまで届いた時、リオルドの顔から笑みが消え、表情が強ばっていくのが目に見えてわかった
クリスに似ていると聞いていたのに、あまりに似ていなくて失望したのだろう
ーーーそういえば、面と向かって微笑みかけられたのなんてあの一回だけだ
「髪の色は少しは変えられるらしいけど、瞳の色はどうにもならないしな…」
改めて口に出してみると悲しくなった
ーーークリスと違って自分は人に必要とされていない
怪我や疲れのせいで気持ちが暗くなっていると気づいたユウトは再び馬車の窓にもたれかかり、出発まで少し眠ることにした
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おね~さん、こっちにも飲み物くださ~い」
騎士や従者達に飲み物を配っていたメイは声のした方に目を向けた
少し離れたところにある道沿いに生えた木の下に懐かしい顔を見つけて、水の入ったポットとあいたカップを持って近づいていく
「わざわざ持ってきて貰って悪いな、メイ」
男は茶色い瞳を優しげに細めるとメイからカップを受け取り水を注いでもらう
「クロード、何言ってんのよ。わざわざこんな離れたところに呼んだってことは何か話があるんでしょ?」
「さすがメイだな、よく分かってる」
クロードは入れて貰った水を一気に飲み干すと、少し躊躇し、思い直したように口を開いた
「リオルドとユウト様の様子はどうだ?ほら、城を離れるときのことがあってちょっと気になったから」
「ああ」メイも思いだし顔をしかめた
「分かんないわ。でもさっき、打ち身用の塗り薬を持って馬車に来るように言われたのよ。」
「打ち身?引き摺られたり、馬車には投げ入れられてたから怪我でもしたのか?」
「多分ね。それでリオルド様の後ろについて馬車に入ったんだけど...ユウト様は窓に寄りかかって寝てたのよ」
「うん」
「それを見たら私にやっぱりもう戻っていいって。回復魔法を使うつもりだと思うわ」
「魔法を?それなら最初からそうすればいいのに」
「…寝ているユウト様のね、シャツがクシャクシャだったの。一応着てはいたけど…前のボタンは全部外れてたわ」
クロードは大きく目を見開き、ゆっくり閉じると頭をガジガジと掻いた
「あいつ…」
「何もしてないとは思うのよ。最初の時、ユウトさまに避けられたのがしばらく堪えてたみたいだし…手を出さない約束もしたしね。多分無理やり治療しようとして拒否されたんじゃないかしら」
「で、寝ている隙に勝手に治療するのか?」
「あのお方にとったら自分以外がユウト様に触れるのは面白くなくて仕方がないのよ、それがメイでもね」
二人は顔を見合わせて、一緒に大きなため息をついた
「クリス様の前ではユウト様に事務的に接するようにするって言ってなかったか?」
「言ってた言ってた。今となってはなんのことやらよ」
「まぁ、俺としては親友の新しい一面が見れて嬉しい部分もあるけど」
「ユウト様にしたら大迷惑なだけだわ」
「そうだよな。でもさ、全然違うんだな。クリス様に迫る時はほら、色気出してさ甘い言葉の一つも囁いて、サファイアだなんだって贈り物してさ」
「贈り物ならユウト様にも大量よ。アラビアンナイト見たいで嫌だって言うから全部捨てたけど」
「ハハハッ、あの服な!自分とお揃いで作ってたやつ。あれもユウト様を人に見せたくなくて着せてたんだろ?」
「そ、暑くて倒れそうだってユウト様言ってたわ」
馬車の辺りにザワザワと人が集まりだし、出発の時が近づいているようだ。クロードとメイも連れだって元の場所へと戻る
「親友なら、ちゃんと我が主を見張ってよクロード」
「俺が言うより、女騎士メイが言う方がまだ言うこと聞くだろ」
「まぁね、でも今はただのメイドのメイですから」
「ずりぃ」
ふふーんと笑ったメイがクロードの胸元を見て首を傾げる
「クロード、三つあった勲章の一つどうしたの?」
「リオルドにぶん取られた。ああなったのも、俺がユウト様をおんぶして帰ったせいだって」
「清々しいくらいの冤罪じゃない…」
おーい!出発だぞ!と急かされて、クロードは自分の馬に跨がり、メイは馬車の方へと急いだ
ユウトが背中を伸ばして窓から外の様子を伺ってみると、馬車は道の脇につけられ従者が馬に水を与えている
横に見えるレンガの建物には宿屋と馬車のマークの看板が掲げられており、乗合い馬車もやっている宿屋で馬を休ませているようだ
「しばらく休憩だ」
それだけ言い残し、リオルドはこちらを振り返ることもなく馬車から降りていってしまった
ユウトは大きく息を吐いた
ーーーどうしていつもこうなってしまうんだろう
ユウトがリオルドに初めて会ったのは、マグド-侯爵夫妻に連れられ、婚約の話をするために城を訪れた時だった
剣の演習があったというリオルドは少し遅れて部屋に到着した
扉が開かれた時、白と碧の軍服を着たレオルドの美しく凛々しい姿にユウトは思わず目を奪われた
ーーーこんなに美しい男が存在するんだ
噂には聞いていた
第二王子はたいそうな豪腕だがそれに反して見た目は大変美しく、見たものは皆心を奪われてしまうと。
しかし、所詮は噂と思っていた
王子でありながら騎士団長を任されているほどの実力の持ち主、ゴリラのようにとは言わないが、ある程度屈強でなければ男達を纏め上げることは出来ないだろう
目の前に現れたリオルドはゴリラどころか、美しく気高いユニコーンのようだった
リオルドは遅れた事を詫び、国王夫妻の横に座ると、向かい合ったマクドー侯爵家に微笑みかけた
どのように笑えば自分が一番魅力的に人々の目に映るかを把握している人種が浮かべる、柔らかな笑みだ
魅力的で完璧な笑みを浮かべたリオルドの視線がユウトまで届いた時、リオルドの顔から笑みが消え、表情が強ばっていくのが目に見えてわかった
クリスに似ていると聞いていたのに、あまりに似ていなくて失望したのだろう
ーーーそういえば、面と向かって微笑みかけられたのなんてあの一回だけだ
「髪の色は少しは変えられるらしいけど、瞳の色はどうにもならないしな…」
改めて口に出してみると悲しくなった
ーーークリスと違って自分は人に必要とされていない
怪我や疲れのせいで気持ちが暗くなっていると気づいたユウトは再び馬車の窓にもたれかかり、出発まで少し眠ることにした
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おね~さん、こっちにも飲み物くださ~い」
騎士や従者達に飲み物を配っていたメイは声のした方に目を向けた
少し離れたところにある道沿いに生えた木の下に懐かしい顔を見つけて、水の入ったポットとあいたカップを持って近づいていく
「わざわざ持ってきて貰って悪いな、メイ」
男は茶色い瞳を優しげに細めるとメイからカップを受け取り水を注いでもらう
「クロード、何言ってんのよ。わざわざこんな離れたところに呼んだってことは何か話があるんでしょ?」
「さすがメイだな、よく分かってる」
クロードは入れて貰った水を一気に飲み干すと、少し躊躇し、思い直したように口を開いた
「リオルドとユウト様の様子はどうだ?ほら、城を離れるときのことがあってちょっと気になったから」
「ああ」メイも思いだし顔をしかめた
「分かんないわ。でもさっき、打ち身用の塗り薬を持って馬車に来るように言われたのよ。」
「打ち身?引き摺られたり、馬車には投げ入れられてたから怪我でもしたのか?」
「多分ね。それでリオルド様の後ろについて馬車に入ったんだけど...ユウト様は窓に寄りかかって寝てたのよ」
「うん」
「それを見たら私にやっぱりもう戻っていいって。回復魔法を使うつもりだと思うわ」
「魔法を?それなら最初からそうすればいいのに」
「…寝ているユウト様のね、シャツがクシャクシャだったの。一応着てはいたけど…前のボタンは全部外れてたわ」
クロードは大きく目を見開き、ゆっくり閉じると頭をガジガジと掻いた
「あいつ…」
「何もしてないとは思うのよ。最初の時、ユウトさまに避けられたのがしばらく堪えてたみたいだし…手を出さない約束もしたしね。多分無理やり治療しようとして拒否されたんじゃないかしら」
「で、寝ている隙に勝手に治療するのか?」
「あのお方にとったら自分以外がユウト様に触れるのは面白くなくて仕方がないのよ、それがメイでもね」
二人は顔を見合わせて、一緒に大きなため息をついた
「クリス様の前ではユウト様に事務的に接するようにするって言ってなかったか?」
「言ってた言ってた。今となってはなんのことやらよ」
「まぁ、俺としては親友の新しい一面が見れて嬉しい部分もあるけど」
「ユウト様にしたら大迷惑なだけだわ」
「そうだよな。でもさ、全然違うんだな。クリス様に迫る時はほら、色気出してさ甘い言葉の一つも囁いて、サファイアだなんだって贈り物してさ」
「贈り物ならユウト様にも大量よ。アラビアンナイト見たいで嫌だって言うから全部捨てたけど」
「ハハハッ、あの服な!自分とお揃いで作ってたやつ。あれもユウト様を人に見せたくなくて着せてたんだろ?」
「そ、暑くて倒れそうだってユウト様言ってたわ」
馬車の辺りにザワザワと人が集まりだし、出発の時が近づいているようだ。クロードとメイも連れだって元の場所へと戻る
「親友なら、ちゃんと我が主を見張ってよクロード」
「俺が言うより、女騎士メイが言う方がまだ言うこと聞くだろ」
「まぁね、でも今はただのメイドのメイですから」
「ずりぃ」
ふふーんと笑ったメイがクロードの胸元を見て首を傾げる
「クロード、三つあった勲章の一つどうしたの?」
「リオルドにぶん取られた。ああなったのも、俺がユウト様をおんぶして帰ったせいだって」
「清々しいくらいの冤罪じゃない…」
おーい!出発だぞ!と急かされて、クロードは自分の馬に跨がり、メイは馬車の方へと急いだ
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