冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第1章 魔犬

10.施術

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「あっ…ん……んぅ…」
「おい、もうちょっと声を抑えることは出来ないのか?」
「…へぇ?」

リオルドによる痣を消す治療が始まった
ユウトはひとまず下着姿のままでベッドに横になり、リオルドが患部に手を当てて回復魔法で痣を消していく

「まだ腕だ!腕でそんな声を出してどうする」
「そう言われても…頑張ってはいるんです…」

肘から下はまだ良かった
ポカポカして温かいな、寝てしまいそうだ
そんなことを思う余裕があった
肘から段々と上に上がってきて脇に近づくと感覚が変わった
リオルドの大きな手に触られる度にくすぐったいやらぞわぞわするやら、脇の辺りがキュンキュンする
そこに魔法をかけられるとジンジンと温かくなってもう我慢できずに声が漏れてしまう

「まぁいい。腕は次で最後だ、我慢しろ」
「はいっ………あっ…あぁ……あんっ」

「お、まえっ…」
ふぅー、リオルドが大きく息を吐く音がした
「すみません」
「次は背中だ。うつ伏せになれ」
「はい、あのリオルド様は何で上半身裸なんです?」
「汚れたら困るだろう」
「……なるほど?」

ユウトは言われるままに体を回転させてうつ伏せになった
腕を見るとさっきまであった痣がきれいに消えている

「やっぱり魔法はすごいな……ひゃあ!」
「背中もか?お前は背中もそうなのか?」
「ごめんなさい、我慢します…」

リオルドはユウトの背中にピタッと手をあて患部に魔力を少量送って痣を消す
ーーー今回はちゃんと我慢しているな。あの調子で声を出されたら俺が最後までもたない
うつ伏せになっているユウトを見ると耳を真っ赤にしてプルプルしながら耐えていた

肩甲骨の辺りが終わり、次は腰にリオルドの手が伸びてきた

「………ん……んぅ……」
「もうちょっとだから頑張れ」
「はい……あっ…ん…」

ピタッ、ピタッ、ピタッ、ぷにっ

ーーーん?
「あ…あの……」
「なんだ」
「治療以外何もしていないですよね?」
「当たり前だ。もう少しで背中も終わるんだ。静かに耐えろ」

ピタッ、ピタッ、ピタッ、ペロ、ピタッ

「…ん……ん……ん…あ…?…んぅ」
「よし、背中も終わった」

腕と背中だけでユウトは大分体力を消費した
ーーーリオルドだって魔力を消費してるんだ。もっとちゃんと我慢しないと。

「次はどうしたらいいですか?」
「首筋と胸だ。仰向けになれ」
「首筋と胸…ひぇぇぇ」
「情けない声を出すな!」

結局、ユウトの身体中の痣を消す作業は約1時間かかった。
下着の中は誰も見ないからやらなくてもいいだろうという話になり、最後は内腿の痣を消した

「あっ…あぁ……うー…あっ…」
「終わったぞ」
「はぁ…はぁ…終わった?本当に?」
「見てみろ」

ユウトは自分の内腿を見た。あんなに沢山付いていた痣がきれいに消えている、

「リオルド様、有り難うございました。じゃあ、僕はこれで」
挨拶を終えると急いで服を着て、そそくさと続き部屋に帰ろうとした

「待て、お前それでメイのところに行くつもりか?」

ユウトの顔は一瞬で赤く染まった
内腿を確認した時に自分の股間が膨らんでいることに初めて気が付いたのだ

「手でやってやろうか」

リオルドの言葉にユウトは驚いた
声も出ず、首を横に振る

「冗談だ。その脇のドアを開けてトイレを使え」
「はい…」
「俺はシャワーを浴びる。ちゃんと処理してからメイのところに行け」

リオルドは言い終わると、トイレの横にあるドアに入っていった

☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

ガチャ
待ちに待ったドアがようやく開いた

「メイ、無事に終わったよ」

元気に帰ってきたユウトを見てメイは心から安心した

「大丈夫でしたか?」

ユウトは腕を捲ってメイに見せる

「ほらみて。すごいきれいに消えてるんだ!」

ーーーユウト様、少し興奮して喜んでる。不安だったけど無体なことはされなかったようね
にしても、リオルド様も欲深い方だわ
直接手を当てないと出来ないだなんて裸にしたりして
婚姻式の時だってユウト様の衣装の上から足を触っていたじゃないの…っていうか城の魔術師だって対象物の上から手を浮かせて回復魔法をかけるのに、リオルド様が出来ないなんてあり得ないわ

「メイ?」
「ええ、本当ですね。きれいに消えています」
「これで明日から外に出られるよ。王や王妃にも婚姻式の後挨拶をしていないし、クリス達にも心配をかけた」
「大丈夫ですよ。皆さんゆっくり休んで欲しいとおっしゃっていましたから」
クリス様以外は…だけど。
ここ数日は大変だった
クリス様は毎日リオルド様に部屋に入れろと食ってかかり、リオルド様はその要望を全てはね除けた
みかねた王妃が「ユウトも一人で休みたいだろうし」と諌めても全く聞かず、メイド長や私にまで部屋に入れろと求めてきた
せめてアーノルド様がもう少しクリス様に強く言えたならと思うけど…考えるだけ無駄ね

「ユウト様、明日の夜は【夜露の儀】になります」
「夜露の儀?」
「はい、精霊のルーツを持つ男子が教会にて儀式を行い、子を授かれるようにする儀式です」
「あぁ、【夜露の儀】っていうんだね」 
「はい、【夜露の儀】はその名の通り夜に行われます。そして、儀式を終えた明後日の朝にはベルナー領にある別邸に引っ越しです」
「別邸に引っ越す…?」

メイを見るユウトの瞳が不安そうに揺れている

本来なら侯爵家で次期侯爵として過ごしていたはずのお方だ
兄の妻に懸想した弟の防波堤要員として妃にされ、挙げ句夫に暴行され、それでも燻らず何とか前を向こうとされている
まだ城に来たばかりで親しいのはクリス様だけ
別邸に移るのはさぞかし不安なことだろう

「これは決定事項なんです」
「そうか、じゃあ従うしか無いね。うん、仕方がない。」
「別邸はカナーディルの西側にあたり、城と西の森の中間くらいにあります。」
「西側か、マグドー領が東側だから反対側になるんだね」
「はい」
「メイと一緒に入れるのも、残り僅かなんだな…」

メイは目をパチクリさせた
「ユウト様、メイも行きます」
「え!?メイも来てくれるの?」

さっきまで不安に揺れていたユウトの瞳に明るい色が差し込んできた

「はい、今は全員は言えませんがクロードも来ます」
「クロードも!?なんだ、安心した」
「先に言えば良かったですね。申し訳ございません」
「ううん、自分がちゃんと聞かなかったから。そっかそっか、ちょっと楽しみになってきたな。カナーディルの西側には行ったことがないんだ。どんな街なんだろう?」

ーーーこの前も思ったけどユウト様って恐ろしく立ち直りが早いわ。育った環境のせいなのかしら…
にしても、前向きなのに変に自己評価は低いのよね
ユウト様はきっと両親のいいとこ取りよ
透き通るような白い肌、艶のある漆黒の髪に、いつも濡れているような大きな黒い瞳、スッと通った鼻に、僅かに赤く色づいた小さな唇、男性にしては華奢な体。
マグドー家が王室主催の集まりに絶対にユウト様を連れて来なかった理由がよく分かるわ

今日は色々あって疲れた
【夜露の儀】、別邸への移動
ーーーいよいよ始まるのね、上手く収まればいいのだけれど。



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