記憶の中の君へ

ミンク

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第1章 過去との再会

11.交差

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 話し声で目を覚ますと目の前は真っ暗だった
 小さく開いた扉の隙間から光の筋が漏れてきたせいか、目が慣れたせいなのか、周りの景色が少しずつ色を帯びる

 深月は見慣れた景色に、自分は大河の部屋のベッドに寝ているんだと気付いた

 (タクシーであのまま寝てしまったのか)

 光の先から大河の声がボソボソと聞こえてきて、水を貰おうと体を起こした
 電気もつけずに近づいていくと、隣にあるリビングで大河が電話をしているのが見えた

「……そう……うん」

 大河は深月といる時は基本電話に出ない
 今は俺が寝ているから出たのだろうか?
 そんな事を考えていると、驚く単語が耳に飛び込んで来た

「じゃあ、明日の11時に現地集合。気を付けてきてよ」

 里美という人名を久々に大河の口から聞いて一瞬で身体中に鳥肌が立った

 (この電話は聞いてはいけない)

 深月は思い直すとベッドへと戻り布団の中で体を丸めた
 段々寒気が増してきたので、小さく小さく体を更に丸めた

 電話の声はしばらく続き、深月は体を丸めたまま耳を塞ぎ、また眠りに落ちていった

ーーー

「深月、起きて」

 深月は大河に体を揺さぶられて目を覚ました
 すっかり朝になったようで、開けられたカーテンから差し込む朝日が眩しい

「おはよ…う」
「起きたか、具合どうだ?二日酔いとか」
「頭がいたい」

 痛いけど…多分二日酔いじゃない
 昨日大河が里美と電話をしていたという事実が例の頭痛を呼び起こしている

「そうか」

 大河が困ったような顔をして、ベッドに横たわったままの深月にミネラルウォーターを持ってきた

「これ、飲めるか?悪い、今日俺仕事があって早めに出なきゃ行けないんだ」

 
 違うだろう、おまえはこれから里美さんに会うはずだ
 嘘をつかれたことに無性に腹がたった

「仕事、忙しいのか?大河が帰ってくるまでここで休んでいちゃ駄目か?」
「あ…帰りが、きっと遅くなる。休むのは構わない、合鍵を渡すから具合が良くなったら鍵をかけて帰りな。ゆっくりしていいから」 

 よく見ると大河はもう外出着に着替えていた
 バックの中に手をいれるとキーケースを取り出し、一つ鍵を抜くと深月の手の中に入れた

「その鍵使っていいから、返さなくて良い。今後部屋にくる時使えばいいし、持ってろよ」

 深月は鍵を納めた手と反対の手で大河の腕を掴んだ

「とても具合が悪いんだ。側にいてくれないか」
「……」
 
 大河はベッドに座ると、横になっている深月を包み込むように抱き締めた

「分かった。でも今日は仕事でどうしても駄目なんだ、本当にごめん。遅くなっても構わないなら、寝てて良いよ。何か買ってくるし、またちょくちょく電話するから。な?」

 深月は掴んでいた手を離して無言で頷いた

「ごめん、本当に時間が無いんだ」

 そういうと深月のおでこにキスをして、バタバタと部屋から出ていってしまった。

「玄関、鍵かけとくから!安静にしとけよ」

 ドアの閉じる音がして、次にガチャンと鍵の閉まる音が聞こえた


「頭が痛い、大河…痛いよ」

 深月はベッド脇に自分のバッグを見つけると、起き上がり頭痛薬を取り出した。貰ったミネラルウォーターで薬を流し込みベッドに仰向けに倒れ込んだ

「あーあ、何やってんだ俺は…」

 いつも通り4錠飲んだが頭痛は引きそうになかった

ーーー

 大河は歩道を走りながら腕時計を見た。短い針は11を長い針は26を指している

 (思ったより遅くなってしまった)

 朝は時間がなく具合の悪い深月を置き去りにしてきてしまった
 あの後、何度か電話をしたが深月は出ない

 (倒れたりしているんじゃないだろうな)

 やっとマンションに着き、オートロックを解除する
 中のエレベーターホールで汗を拭き、息を整えた

 (買い物は後でいい、ひとまず顔を見ないと)

 やっと1階に降りて来たエレベーターに乗り12階を2回強く押す
 こんなにエレベーターを遅く感じたのは初めてだ
 7…8と増えていく数字を見てもまだなのかとイライラする
 12の文字が光り、止まったエレベーターから大河は飛び出した
 部屋につきガチャガチャと鍵を回す間にも、髪から汗がポタポタと落ちてくる

 キィ…
 ドアを開けると中は真っ暗だった

「深月!寝てるのか?」

 靴を履いたまま中に入り室内の電気を点ける
 寝室へと急ぐがベッドはもぬけの殻だった
 肩で息をしながら室内をぐるりと見回す

「深月……?」

 寝室を出て隣のリビングに戻ると、テーブルに何か置かれていることに気付いた

 朝、深月に渡した合鍵だ

 俺は鍵を返さなくていいといった
 持っていて欲しいと

 その合鍵がテーブルに置かれている
 メッセージもメモもなく、ただ合鍵だけが。

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