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第十四話 盾

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 「お、おい!?何が起きてんだよぉぉ!」

 ゼクスは肘でヴォルルフの脇腹を突き、『おい、何とか言え』と視線で命令した。当然ヴォルルフに聞いても、『分からない。何でああなってるのか』と返ってくるであろう。このことが分かる人物は、この場でただ一人しか居ない。カケルだけなのだ。

 二人はミアの相手を止め、殺気を纏っているカケルに向けて剣を向けた。今までに無い体験に鼓動はだんだん速くなっていく。鼓動の高鳴りが最高潮に達成した時ゼクスが最初に仕掛けた。

 まずは相手の様子見をかねて、中級魔法の炎球を体の前に十個程横に並べた。
 そして、人差し指をカケルの方に向けると炎球が半円を描くように放った。普通の生徒がこれを避けることはほぼ不可能だ。たとえ二年生二位の生徒でも全力で防御するのでやっとなのだ。これは普通の生徒の場合だ。

 カケルは炎球がゆっくりと、スローモーションに見えていた。別に当たる寸前で避ける必要が無いので、余裕を持って横に飛んだ。炎球は避けて感覚では七秒後に地に着弾した。

 体には強化魔法が使われており、五感、身体能力が上がっていた。元々の力が強いのに、さらに強化するなど本来必要ないことだが、それを知らないカケルは化け物から超化け物となっていた。

 カケルはこの信じれない力に感動していた。今まで雑魚、最弱など言われた自分がこんなに強くなったからだ。まあこれが本当の力と言うことだろう。でも、まさかこんなに強い力だとは想像してなかったが、結果オーライだ。今はこの戦いに集中しないと。

 『さて。まずはミア先輩の救助だな』

 カケルは、ぼそっと呟くとミアの居る場所へ神速で駆け寄った。
 ミアから見れば光景は、攻撃を回避した時は自分の目の前に彼が居た。ありえない行動を見るたびに、思考が停止する。いやカケルがあんな姿になった時から思考は停止していた。

 「ミア先輩。ここでは危ないので離れてください」

 そう言うと、カケルは右手を差し出し座っていたミアを立たせた。

 「あ、ありがとう。でもカケルその姿は……」

 「その話は、この試合が終わった後に教えます。なので今は何にも聞かないでください」

 今そんな話をしてると、恐らくミア先輩の質問攻めで試合どころではなくなってしまうな。もし言ってしまった時の会話が何故か想像できてしまったのだ。なので『聞かないでほしい』で押し通した。

 私は彼が考えてることが何となく分かってしまった。『今は聞かないでほしい。ミア先輩の為にも』と彼は思っているであろう。私が不思議な力のことを、必要以上に追求するのを見通して言い放った言葉だと。そして彼の肩を借りながら、壁際へ歩き始めた。

 当然その隙を相手が逃すはずが無い。
 ヴォルルフとゼクスは右と左に別れ、ミアとカケルを挟む形をとなった。

 二人は剣を構えると、一気に突撃してきた。
 さっき魔法が効かないところを見ているからであろうか、剣で仕掛けてきた。ありえない光景を目にしたからなのか、どうやら頭の回転が遅くなっているとカケルは感じていた。考えている策も実に単純。もう自暴自棄にやっている。

 相手の行動が読めたりするのも、この力のおかげなのか。本当に便利だなこれ。まあ今は感心てる場合じゃないけどな。

   カケルは力に感心すると、頭に防御方法が浮かんだ。頭に浮かんだのは、詠唱に近いものだった。力を目覚めさせる時のように長くはないが。

 『盾よ。我身を守護したまえ』

 詠唱すると、空間が歪んだ。そこから現れたのは暗黒の盾だった。周りの人からは黒い空間が出てきて恐らく魔法でだろう、と思っていたのだ。だが実際は違った。カケルだけには見えていた。魔力の塊で出来た盾を。

 二人は突然現れた盾に驚き、走る勢いを殺せなかった。そうして盾にぶつかった。否、ぶつかれなかったのだ。膨大な魔力の塊の盾に。

 二人は盾にぶつかる瞬間、磁石の同極同士をぶつけたように吹っ飛んだのだ。なんとか上手く着地に成功すると、黒い盾を睨みつけ、表情は「一体何が起こったのだ!?」と言っていた。

 カケルが出した盾には、近づいてきた敵を吹き飛ばす効果が付いているものだった。付ける効果は様々で、オリハルコン[世界で一番硬い鉱石]の様な硬さの盾。属性ごとに変わる盾。他にも色々と付けることが出来る。つまり万能盾なのだ。

 カケルは相手が吹き飛ばされてる間に、ミアを壁を背もたれにして座らせた。
 
 「ミア先輩は、よく耐えてくれました。頑張りました。なのでもう休んで下さい。無理をしないで下さい。全部俺に任せて下さい」

 カケルは優しい口調で、ミアに語りかけた。その言葉を聞いてホッとしたのか、ミアは涙を流しながらこくりと頷き目を閉じた。その顔を見て安心すると、後ろにいる二人に体を向けた。殺気が含まれた視線、そして声で戦いの第二ラウンドのコングが鳴った。

 
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