叶えてはいけない

ももつばき。

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第一妖 少年

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——どうして。どうして。

 どさりと倒れ込んだ男は、箱に向かって懸命に手を伸ばす。白っぽい肌から神聖ささえ感じられる木箱。箱にはぴったりと蓋がされている。身体を前へずり、木箱にあと一息で指が届く。といったところで、男は大きく咳込み身体を揺らした。細くなった器官がひゅうひゅうと草笛の様な音を立てている。静かだ。遠くで耳鳴りの音がする。天窓から射す光が、薄暗い床に飛び散った血の赤を鮮やかにする。男の真っ白い服がじわじわと紅に染められていく。

――どうして。どうして。

終わりのない問いでいっぱいになった頭。その頭をごとりと横たえ、男は息絶えた。残された木箱がカタカタと揺れた。


***



朝。

「おい。おい、起きろ」

 少年が革張りのソファに向かって話しかけている。反応はない。ソファはただどっしりとカーペットに根を下ろしている。栗色の髪を短く切った少年は、切れ長の目を思いっきりつり上げた。眉間に深いしわを刻みながら、少年はソファの背をがつがつ蹴り始める。ソファは思わず身震いした。だが、つるりとした革張りのソファは、突然逃げ出したりしない。少年に呼ばれているのが自分ではないことをしっかりと理解しているのだろう。気が乗れば、すぐにおしゃべりを始める家具類にしては、なかなか賢い部類である。
 明らかなとばっちりを受け、蹴り上げられているソファはともかく、少年はソファの上で足を伸ばし眠りこけている青年の方に用があるようだ。青年は寝息も聞こえないほど、ぐっすりと眠りについている。夢も見ないほどの眠りの淵にいるのだろうか。青年は呼吸を繰り返すばかりで、まったく身動みじろぎもしない。黒色のスラックスを履いた長い足が、これまた黒色のソファからにょっきりとはみ出している。離れたところから見れば、ソファがだらりと腕を伸ばしているように見えるだろう。青年の長い足を見て、少年はムッとした。

「起きろってば!」

 どんなに声を張って呼んでも返事は返ってこない。もうこれ以上、ソファを蹴っても無駄だ。頭をぐらつかせるほど揺れるわけでもなし。それでも腹の虫は収まらない。少年はどうにかして鼻を明かそうと思って、考えを巡らす。ふと振り返ると、青年のために運んできたホットミルク入りのマグカップが目に入った。ダイニングテーブルの上に置いてあるそれを見て、これはいいぞと少年は思った。そして少年は腹いせのように、手に取ったマグカップを男の頭の上でゆっくりと傾けた。ホットミルクが湯気を立てながらこぼれ出す。漆黒の上にハイライトのように純白が流れ落ちていく。溶けた蜂蜜の甘ったるい香りがふんわりと広がった。ちゃぽん。 
 手酷い嫌がらせであることは分かっていた。でも、そんなことは関係ない。何度呼んでも起きない方が悪いのだ。日々の鬱憤うっぷん鬱憤の積み重ねもある。出来たてのホットミルクはさぞ熱かったろうと思い、にやにやしながらソファの向こう側を覗き込んだのに、なぜか期待通りの白い海はできていなかった。もちろん、青年の頭に一滴たりとも雫は落ちていないし、ソファにもミルクを弾いていない。そこにはただ、濡れ羽色の美しい髪をした男が横になっているだけだった。少年はあからさまに舌打ちした。

「ミルクは?」

 青年は親指でローテーブルを指した。少年が目をやると、テーブルの上にはホカホカに温められたグラスがあった。誰かが帰って来て、なにかを飲んだグラスを置きっぱなしにしていたらしい。グラスは、なみなみと注ぎ込まれたホットミルクで溢れそうになっていた。

「起きてたんかよ」

 青年はころりと寝返りを打ち空を仰ぐと、丸め込んでカチカチになった背中を目一杯伸ばした。背中の辺りにぴりぴりと心地よい痛みを感じる。腰を軽くひねり、ぱちぱちと瞬きをする大きな瞳。パッチリとしたその瞳は髪と同じ涅色をしていた。青年はのっそりと身体を起こすと、一際大きなあくびをする。あくびをした時の「くわあ」という声が、まるでカラスの鳴き声のように聞こえた。もぞもぞと体勢を整えていると、口の端がモニョモニョと動く。口元のほくろが悩ましげに揺れ動いた。気だるげに目をこする男の様子を見て、少年はぶつぶつと言ちた。

神威しんいを簡単に使うんじゃねえよ。飯、出来てるぞ」

 そう言いながら、ダイニングテーブルの前に戻ると、椅子に掛けてあった学ランに袖を通し、少年は詰襟の襟を正した。足元まである大きな窓にかかっているシェードカーテンの隙間から入り込んだ朝日に、襟元の学園章がきらりと煌めいた。

「今朝は、なんでこんなに早いの?ボクまだ帰って来たばっかりだよ」

「どうせ夜中まで酒かっ食らってたんだろ。ばっからしい」

青年はゆらゆら揺れる身体に芯を通しながら、わしわしと頭を掻くと困ったように笑った。

「それもボクの仕事の一つなんだよねえ。そう言われちゃうと身も蓋もないなあ」

「…オレ、ガッコ行くから。後はてめえで適当にやれよ」

 少年は横長のエナメルバッグを肩にかけ、玄関に向かった。愛想なくスタスタと進む足には迷いがなかった。リビングのドアを開けると白い廊下が続いている。そこには物がなく、きれいに片付いていて生活感がない。足元に置いてあるのはミネラルウォーター入りのダンボールくらいのものだ。実際、彼らはあまり不必要なものを購入しないので、部屋が整っているだけなのかもしれない。この廊下の様子からは、二人がいかにシンプルな生活を送っているのかがよく分かった。

「アコ、今日は何時に帰ってくる?」

「わっかんね。お前、外で飯食って来いよ。夕飯まで面倒みんの、だるいわ」

「うん。あ、話変わるけどソファくんに謝っておきなよ。間違いなく驚いたと思うからね。

 少年は舌打ちをし、玄関を出て行く。

 ここで暮らすようになってから舌打ちしない日はない。少年は自分が気の短い方だとは思っていなかったが、それは間違いだったのかもしれない。あの男といると、頻繁に感情をかき乱されてしまう。青年は肩でため息をつき、目で少年を見送った。思春期、真っ只中なのか。二人の関係は常に傍に寄れないN極同士のような関係だった。男は伸びをして立ち上がる。それからぽんぽんと労わるようにソファを叩くと、ローテーブルの上に転がしてあった赤い面をとって、シャワーを浴びに行った。


***


 高いところは、どうにも落ち着かない。アコは高層マンションなんかに住みたいと思ったことは一度もなかった。むしろ、苦手だという方が近い。足がふわふわして落ち着かないし、この長い長いエレベーターだって息苦しい。どうして自ら、こんなに不安定な場所に身を置かなければならないのか。もともと高いところで暮らす文化がないところで育ったアコには到底、その感覚が理解できそうになかった。そうこう考えているうちに、エレベーターは一階についた。

 アコが通っている高校は住んでいるこのマンションからは、まあ近い。電車で3駅程度だ。でも、アコは電車に乗らない。エレベーターと同じ、閉鎖的な空間が苦手だったし、身体的に人と接触するのを毛嫌いしていた。窓もない閉ざされた空間でじっとしていなければならないなんて、アコにとっては苦痛でしかなかった。
 アコが乗った自転車がするすると走り出す。スピードに乗ってくると、アコは中腰になってがんがん漕ぐから、漕ぐたびにボディが軋む音がする。T字路を左に折れると、前方に長い坂が現れた。傾斜もかなりキツそうだ。ギアはついているけど使わない。それがアコの中でのルールだ。太ももやふくらはぎに出来るだけ負荷をかけたい。ぎゅるぎゅるとチェーンを回し、ペダルを漕いでいるアコがニヤリと笑った。
 学校につくと、学校の敷地外にある自転車置き場に自転車を止める。制服ズボンのポケットから取り出したスマホは5時16分を指していた。時間はたっぷりありそうだ。この時間帯はもちろんまだ校門も開いていないので、学校の敷地内にある駐輪場を利用することはできない。学外の駐輪場には半ば打ち捨てられているような自転車もちらほら散見されている。ここで生徒に出会ったことはないから、もうこの駐輪場は誰にも使われていないのかもしれない。だから、決して新しい方ではないアコの自転車もここでは新品に近く見える。茶色く錆びきった自転車たちの中で、アコの自転車はぴちぴちの若者のような扱いを受ける。今朝も、付喪神まがいの物たちがアコの自転車をおちゃらかす小さな声が聞こえてくる。

「おう!来たか兄ちゃん。今朝も早いね」

「こんな早くに走れんだもんなあ。若いって良いやな」

そんなからかうような僻むような声が聞こえ、アコの自転車が恐縮している中、バッグを前に抱えたアコは自転車に手を振り走り出した。

「また夕方にな!」


 駆け出していくアコの目当ては部室棟だ。部室棟はここからそんなに距離はない。柵を乗り越えてしまえばすぐだ。アコは鞄を敷地内に投げ込んで少し下がり、助走をつけ飛び上がった。ふわりと浮き上がるアコ。2mもある柵はまるで高跳びのバーのようにアコの下をくぐり抜けた。コンパクトで美しいフォームだったため、まるで動きがスローモーションで見えるような感覚がする。するりと着地したアコは鞄を抱えて走り出した。この間、約30秒。閃くような速さである。お目当ての部室棟の階段を駆け上がり、アコは勢いよく部室のノブを握った。ところが、がちゃがちゃと音を立てて空回りするだけで、ドアはぴくりとも動かない。一気に体の力が抜けていくのを感じた。

「閉まってんじゃん、くそ~」

 アコはその場でしゃがみ込む。ポケットに入れたままだったスマホの画面を確認すると、時間はまだ5時22分だった。この時間じゃ、まだまだほかの部員はやってこないだろう。そもそも、アコ以外の部員が早朝から自主練にやってくるだろうか。鍵がないなら、職員室まで鍵を借りに行かなければならない。だが、部員どころか、最初の教員が登校してきて職員室が開く時間だって遥か遠いし、職員室に忍び込んで校門が開く前に守衛の許可なく学内に侵入していることに気づかれるのもまずい。

「オレの朝練…」

 足を開いたまま体育座りのような体勢になって、大きなため息をつき、頭を膝に埋めるアコ。つぶっていた目を開くと、太ももの向こう側に持って来たバッグが目に入った。頭を勢いよくあげたアコは思いついたように、おもむろにチャックを開けてジャージを引っ張り出して、着替え始めた。

「制服さえ汚れなきゃセーフじゃん?」

 なにが基準でのセーフなのか?かなり怪しい。が、本人はこの場で着替えて、朝練を始めようというのだからどうしようもない。この場にはアコを止められそうなものはいないのだから、公共の場にも関わらず臆面も何もなく肌を露わにするアコを見守るよりほかはない。ところが、アコがシャツを脱ぎ、インナーシャツに手をかけたところで「待った」がかかった。

「鞍馬。ストップ。お前の割れた腹筋は見ものではあるが、流石にここでは脱がないで。ほら、これ」

 アコに声をかけてきた少年がこちらになにか投げる。チャリンと金属音を立てて、部室の鍵は廊下に転がった。アコは急いでそれを手にし、満面の笑顔で部室に駆け込む。それからは息つく暇もなく服を脱ぎ去り、革靴を脱いだ。狭い部室の小さなロッカーに着てきた学ランをかけ、その他の荷物をロッカーの上に置く。次いで入ってきた少年は、部屋の端にあるベンチに座り、何をするでもなく、アコの様子を見守っている。アコはTシャツを着、ジャージを履いて、足元は部活用の運動靴に履き替えた。

「ちゃんと柔軟やれよ?」

「うす」

部屋に残った少年は、駆け出して行った少年が温めて行った空気を楽しむように、ベンチに横たわった。アコが階段を降りて行くカツンカツンという音が耳に響いていた。





 碌な会話もせずに走り出してしまった。アコがそう気づいたのは、学園の敷地内を7周してからだった。部室の鍵を貸してくれたお礼などを先輩に言いに行かなければならないと思い立ったのだが、「“7”という中途半端な数ではなく、“8”という縁起が良い数で走り込みを終える方が気持ちがいい」。そう思って、もう一周走ってから部室に戻ることにした。アコは足を速めて走り込みを続けた。

「おい!アコ!」

アコが振り返るとそこにはジャージ姿の少年が立っていた。柵の向こう側から大きく手を振る少年は、いかにも快活そうな笑顔をこちらに見せている。アコは額の汗を袖で拭い、立ち止まった。

「はよ。今日も早いな」

「まあな。三成も早いじゃん」

「そうかあ?」

会話の途中なのにもかかわらず、柵の向こうの少年は大きなカバンを背負ったまま、腰をひねるようにストレッチし始める。

「お前は何で早いんだよ」

 アコが薄い反応を見せているうちに、三成のストレッチはどんどん進んでいく。このままでは、その場でラジオ体操でも始めてしまいそうだ。

「別に?散歩がてら来てみただけだよ」

「早く教室行けよ。それにお前、ジャージ通学禁止だって注意されたばかりだろ?生徒指導に目つけられるぞ」

「あー。忘れてたわ」

あまりにもあっけらかんとした返事をするので、アコは呆れてしまう。

(気楽でいいな)

半ば嫌味混じりにそう思った。

「居残り反省文になっても知らないからな」

そう言っても三成はへらへら笑っているので、これ以上はもうどうしようもない。アコは邪気に当てられたように顔をしかめた。
 
 そうしているうち、ちらほら登校する生徒の姿が現れ出した。校門が開いたのだ。アコが振り返り、校舎に据え付けられている時計を見ると、もう既に6時半少し前だった。立ち話をしすぎた。ホームルームに遅刻しないように最低8時には部室に戻らなくてはならないから、逆算してもあと1時間半しか朝練が出来ない。

「じゃあな。オレ朝練戻るから」

一方的に別れを告げると背中を向け、アコは走り出した。

「お前も遅れんなよ!一限、生徒指導だからな!」

聞いているのだか聞いていないのだか。アコは三成の言葉に振り返りもせず、真っ直ぐ校庭へ走って行ってしまった。校門が開いてから始業ベルがなるまでのこの一時間半が朝練のゴールデンタイムなのだ。一分一秒でも長く、身体を動かしていたかった。

(ハードル出す時間はないな)

 アコはハードル走の選手だ。もともと、今朝はハードルを越える瞬間のフォームの修正をするために早出した。三成との立ち話に時間を取られたばっかりに、このままでは早起きがまったくの無駄になってしまう。そうこうしているうちに、もう時刻は6時40分を回ってしまった。そろそろサッカー部の朝練が始まってしまう。アコは校庭での練習を諦めた。そして、周囲を見回し、校庭を隅まで横切って、ツツジの茂みの前に立った。整えられたツツジは奥行きがあまりなく、飛び越えようと思えば飛び越えられるだろう。ハードル代わりにしようというわけだ。

(幅は違うが、高さはまあこんなもんだろ)

 走ってきた熱をクールダウンするため、アコは細く長く糸のように息を吐く。指の先まで酸素が行き渡っていくのがわかる。息を吸うごとに頭の中が水を打ったように静で満たされていく。アコは十分に助走をつけ、茂みを飛び越えた。そのフォームは、確かにハードルを飛び越えるときのそれに似ていた。身体が宙に浮く瞬間の高揚感も同じだ。アコは首をひねる。やはり着地したときの柔らかい土の感触は、校庭とは違う。それでも、アコは何度もそれを繰り返し調整を続けた。

「お前は野生児か。足首やるぞ」

アコの背後から声がする。

「ほかにやり様がなかったんですよ」

集中を削がれるのは不愉快だ。アコはぶっきらぼうに答える。

「今、集中してるんでいいすか」

振り返りもしない。愛嬌がないにもほどがある。怒ってしまったのだろうか。仏頂面のアコを見て、声をかけた男は黙ってしまった。アコは大きく一つ息を吸い、ゆっくりとすべて吐き出した。身体が思い出したように血液を巡らせる。血液が回った足の先が熱く脈打つ。アコの目の前にはツツジの茂みではなく、そそり立つハードルが見えていた。





 8時の予鈴が鳴った。アコはTシャツの首周りを引っ張り、汗を拭いた。もう暦では秋になってもいい頃なのに、まだ残暑の波が続いている。アコはびっしょりしたTシャツを脱ぎ、きれいに畳んでジップロックにしまった。今からシャワールームに寄る時間はない。汗臭いと思われても何とも思わないが、自分がいることで臭いと感じさせられる人には申し訳なくは思っている。アコが制服に着替え直していると、いつの間にか先程の男がアコの真横に立っていた。

「上体を起こしすぎ。もっと腰を落とした方がいい」

 アコの練習中、男がただ近くに立っている訳ではなく舐めるようにアコのフォームを確認していたことには、アコも気がついていた。この学校に入学してから何度かアドバイスを受けているが、この男の分析は非常に的確なので、その点アコは信頼していた。

「踏み切りはもう少し手前。でも大分よくなってる」

この男に評価されると気持ちがいい。だんだん正解に近づいている気がしてくる。

「伊吹さん、鍵ありがとうございました」

アコは素直に頭を下げる。実際助かった。

「お前が頭下げるなんてレアだな。なんか得した気分になったよ」

 伊吹は嬉しそうに笑った。アコは伊吹のこの表情が好きではなかった。人の善さそうな笑顔が胡散臭い。ひとりで練習し、身体を動かすことに専念できそうだったから、陸上部に入った。だが蓋を開けてみれば、ほかの運動部と同じ。所詮、陸上部も仲良し部だった。悪いものだと思っているわけではないが、ストイックに練習を続けたいアコにはまったく必要のないものだった。

 アコの活動原理の中心軸は“できるだけ人間と関わらない”ということだった。極力、人間関係を広げたくない性格だということではない。何を隠そう、アコは人間ならざるものなのだ。人間社会で”アコ”と表記する名前も、本来生きていくべき世界では“空狐”と表記する。アコの正体は妖狐なのだった。なぜ、妖怪の空狐が今のような生活を強いられているのか。それは語れば長くなる。ここでは、空狐が妖怪党党首“虚狐”の末弟であることだけを憶えておいて欲しい。

 アコは変化を憶えて間もない若い狐だったが、十分に人間社会で生活できるほどの技術を身につけていた。不本意ながら人間社会で暮らすことになったアコは、確かに人間との距離を取りたがる。関わって得なことはない。ただ煩わしいだけだ。なぜかアコは存外、友人と言える人間が多い方だった。本人が気に入っている、気に入っていないは別として、友人関係を持ちたいと集まってくる人間が多い。これは人間に擬態するのになかなかやりやすい状況だった。妖狐の蠱惑的こわくてきな魅力に惹きつけられるのとは違う、温かな求心力がアコにはあったのだった。



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