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第二話「山田 花子」
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「ん…朝か」
耳元で鳴り響く忌々しいアラームを停止させ、まだ眠いと訴える意識に鞭打って体を起こす。
窓の外は明るい。
気分は暗いが、学校をサボるわけにも行かない。準備を済ませよう。
昨日、俺は【異能アプリ】を起動し、異能力を得た。
異能アプリってのは、偽物じゃなくて、本当に異能力を授けるものだった訳だ。
となると…。
「【与えられた異能力を駆使し、願いを叶える権利を勝ち取りましょう】…ね」
真偽はともかくとして、俺は実際に異能力を得た。
嘘ではない…のだろう。きっと。
願いを叶える権利を得れば、俺は恐らく、桜の再生を願うだろう。
だが、肝心の『願いを叶える権利をどう勝ち取るのか』が全く分からない。
「って…何を真面目に考えてるんだ、俺は」結局、その日も授業は全く頭に入らなかった。
だが、奇妙な噂を耳にした。
なんでも、「変な名前のアプリがスマホにインストールされていると、超能力が使えるようになる」ということだった。
俺以外にも、アプリがインストールされた奴がいるらしい。
探して話をしてみるべきか…?
「…だから、何を真面目に考えてるんだ」
授業が終わり、早々に帰宅準備を済ませて教室を出る。
その時、唐突に俺のスマホがけたたましい音を発したかと思うと、また音声が流れた。
【半径五〇m以内にアプリをご利用いただいている方がいらっしゃいますので、お知らせいたします】
例によってその音声や通知音は、俺にしか聞こえていないようだった。
「でも…こんな通知、必要なのか?」
同じアプリの利用者が近くにいるってだけで報せる必要なんか、あるとは思えない。
「いや、待てよ…」
『勝ち取れ』と、通知ではそう言っていたな。それはつまり…。
「…あほらしい。そんな訳ないだろ」
頭に浮かびかけた考えを口で否定しつつ頭を振る。うじうじ悩んでいても仕方がない。
「俺以外のアプリ利用者が近くにいるなら話をしてみよう。このアプリに関して、何か知っているかもしれない」
近くと言っても、授業終わりの教室付近は帰宅する学生達でやや混んでいる。人が少なるのを待って探した方が良いだろう。相手が帰ってしまうかもしれないが…。
「ねぇ、アンタ。さっきから一人でキョドってるけど、何してんの?」
アプリの利用者を探すために、立ち止まって辺りを見回していたら、声をかけられて振り向く。
「ちょっと忘れ物をして、それを探してっ…」
声からして喋ったことのない相手だったので、面倒だと感じつつも適当に応対しようとした俺だったが、思わず息をのんでしまった。
「ちょっと話があるから。来て」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは『不良』だった。
山田 花子といえば、俺の学年では知らない者は居ないと言って良い。去年のある時期まで単なるいじめられっ子だった彼女は、ある日を境にパッタリと虐められなくなったそうだ。何でも、彼女に虐めを働こうとした人物が、軒並み事故や病気に見舞われ、恐れられたかららしい。
今では、虐めを受けていた反動なのか、よく暴力沙汰を起こしている。らしい。
俺も噂でしか情報を知らないが、逆に言えば同学年なら、顔見知りでない人物でも、この程度の情報は持っているということだ。
「…何?」
で、だ。
なぜその超有名人が、俺に声をかけてきたのかを計り兼ねていると、彼女は小さ目なため息をして歩き出した。
彼女はさっき「来て」と言っていた。まあ敢えて逆らったり拒否したりする理由は無い。ついて行っても良いだろう。
アプリ利用者を見つけられなかったのは残念だが…。
「…アンタ、【異能アプリ】って知ってる?」
連れてこられた体育倉庫で、彼女はマットに腰を下ろして俺に問う。
…今、何て言った?
「…お前も、知ってる…のか?」
完全に予想外からの質問だったので面食らってしまい、詰まりながらも返した言葉は、我ながら酷いものだった。
「質問してるのはアタシ。質問に答えて」
若干の苛立ちを滲ませながら、再度質問を投げ掛けてくる。誤魔化しも意味は無いだろうし、何よりとぼけるタイミングはもう逸してしまった。
「…あぁ。知ってる」
俺がやや躊躇いながらもそう答えた瞬間、体育倉庫内の空気が一変した。
というより、急に呼吸ができなくなった。
「っ…⁉う、ぁ…‼
吸い込もうとした空気が唐突に消失し、肺に入って来るべきの酸素が一切取り込まれない。
「(何だこれ、何だこれ何だこれ‼)」
驚いて数歩後ろに下がろうとし、足がもつれてその場にへたり込む。
視界がブレる。立ち上がろうとするがうまく力が入らず、失敗して這いつくばる。
酸欠の時に感じる症状に似た感覚だが、コレは違う。深呼吸すれば解決するものでもないだろう。
「(や、山田は、大丈夫…か?)」
既に薄れかけて来た意識を根性で繋ぎ止め、目の前で脚を組み、動かない山田を見上げる。
山田は苦虫を嚙み潰したような表情で佇んでいた。
「…」
無言でこちらを一瞥すると、見たくないものを見てしまった。と言いたげな様子で目を逸らした。
「(状況が分からないけど…確実に山田から『何か』をされている…‼)」
遅れながらそう確信した俺は、壁に寄りかかりながら何とか立ち上がり、体育倉庫の扉を開けようとする。が、扉は錠前でガッチリと固められておりビクともしない。
「開かないわよ。その錠の鍵はアタシが持っているもの」
背後からの声に、朦朧とした意識を向ける。
山田が鍵束を見せ、ご丁寧に説明してくる。
「(何だよ、それ、何だよ…その表情…)」
「悪いけど、アンタには死んでもらうわ」
その言葉を聞き、俺は脚に力を込めることすらできなくなってしまいその場に倒れた。
そんな、放っておけばすぐにでも死ぬだろう俺に跨り、首に手を添え、力を込めた。
「…ごめん。せめて、少しでも楽に…」
その言葉を聞いて、俺は反撃を開始した。
耳元で鳴り響く忌々しいアラームを停止させ、まだ眠いと訴える意識に鞭打って体を起こす。
窓の外は明るい。
気分は暗いが、学校をサボるわけにも行かない。準備を済ませよう。
昨日、俺は【異能アプリ】を起動し、異能力を得た。
異能アプリってのは、偽物じゃなくて、本当に異能力を授けるものだった訳だ。
となると…。
「【与えられた異能力を駆使し、願いを叶える権利を勝ち取りましょう】…ね」
真偽はともかくとして、俺は実際に異能力を得た。
嘘ではない…のだろう。きっと。
願いを叶える権利を得れば、俺は恐らく、桜の再生を願うだろう。
だが、肝心の『願いを叶える権利をどう勝ち取るのか』が全く分からない。
「って…何を真面目に考えてるんだ、俺は」結局、その日も授業は全く頭に入らなかった。
だが、奇妙な噂を耳にした。
なんでも、「変な名前のアプリがスマホにインストールされていると、超能力が使えるようになる」ということだった。
俺以外にも、アプリがインストールされた奴がいるらしい。
探して話をしてみるべきか…?
「…だから、何を真面目に考えてるんだ」
授業が終わり、早々に帰宅準備を済ませて教室を出る。
その時、唐突に俺のスマホがけたたましい音を発したかと思うと、また音声が流れた。
【半径五〇m以内にアプリをご利用いただいている方がいらっしゃいますので、お知らせいたします】
例によってその音声や通知音は、俺にしか聞こえていないようだった。
「でも…こんな通知、必要なのか?」
同じアプリの利用者が近くにいるってだけで報せる必要なんか、あるとは思えない。
「いや、待てよ…」
『勝ち取れ』と、通知ではそう言っていたな。それはつまり…。
「…あほらしい。そんな訳ないだろ」
頭に浮かびかけた考えを口で否定しつつ頭を振る。うじうじ悩んでいても仕方がない。
「俺以外のアプリ利用者が近くにいるなら話をしてみよう。このアプリに関して、何か知っているかもしれない」
近くと言っても、授業終わりの教室付近は帰宅する学生達でやや混んでいる。人が少なるのを待って探した方が良いだろう。相手が帰ってしまうかもしれないが…。
「ねぇ、アンタ。さっきから一人でキョドってるけど、何してんの?」
アプリの利用者を探すために、立ち止まって辺りを見回していたら、声をかけられて振り向く。
「ちょっと忘れ物をして、それを探してっ…」
声からして喋ったことのない相手だったので、面倒だと感じつつも適当に応対しようとした俺だったが、思わず息をのんでしまった。
「ちょっと話があるから。来て」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは『不良』だった。
山田 花子といえば、俺の学年では知らない者は居ないと言って良い。去年のある時期まで単なるいじめられっ子だった彼女は、ある日を境にパッタリと虐められなくなったそうだ。何でも、彼女に虐めを働こうとした人物が、軒並み事故や病気に見舞われ、恐れられたかららしい。
今では、虐めを受けていた反動なのか、よく暴力沙汰を起こしている。らしい。
俺も噂でしか情報を知らないが、逆に言えば同学年なら、顔見知りでない人物でも、この程度の情報は持っているということだ。
「…何?」
で、だ。
なぜその超有名人が、俺に声をかけてきたのかを計り兼ねていると、彼女は小さ目なため息をして歩き出した。
彼女はさっき「来て」と言っていた。まあ敢えて逆らったり拒否したりする理由は無い。ついて行っても良いだろう。
アプリ利用者を見つけられなかったのは残念だが…。
「…アンタ、【異能アプリ】って知ってる?」
連れてこられた体育倉庫で、彼女はマットに腰を下ろして俺に問う。
…今、何て言った?
「…お前も、知ってる…のか?」
完全に予想外からの質問だったので面食らってしまい、詰まりながらも返した言葉は、我ながら酷いものだった。
「質問してるのはアタシ。質問に答えて」
若干の苛立ちを滲ませながら、再度質問を投げ掛けてくる。誤魔化しも意味は無いだろうし、何よりとぼけるタイミングはもう逸してしまった。
「…あぁ。知ってる」
俺がやや躊躇いながらもそう答えた瞬間、体育倉庫内の空気が一変した。
というより、急に呼吸ができなくなった。
「っ…⁉う、ぁ…‼
吸い込もうとした空気が唐突に消失し、肺に入って来るべきの酸素が一切取り込まれない。
「(何だこれ、何だこれ何だこれ‼)」
驚いて数歩後ろに下がろうとし、足がもつれてその場にへたり込む。
視界がブレる。立ち上がろうとするがうまく力が入らず、失敗して這いつくばる。
酸欠の時に感じる症状に似た感覚だが、コレは違う。深呼吸すれば解決するものでもないだろう。
「(や、山田は、大丈夫…か?)」
既に薄れかけて来た意識を根性で繋ぎ止め、目の前で脚を組み、動かない山田を見上げる。
山田は苦虫を嚙み潰したような表情で佇んでいた。
「…」
無言でこちらを一瞥すると、見たくないものを見てしまった。と言いたげな様子で目を逸らした。
「(状況が分からないけど…確実に山田から『何か』をされている…‼)」
遅れながらそう確信した俺は、壁に寄りかかりながら何とか立ち上がり、体育倉庫の扉を開けようとする。が、扉は錠前でガッチリと固められておりビクともしない。
「開かないわよ。その錠の鍵はアタシが持っているもの」
背後からの声に、朦朧とした意識を向ける。
山田が鍵束を見せ、ご丁寧に説明してくる。
「(何だよ、それ、何だよ…その表情…)」
「悪いけど、アンタには死んでもらうわ」
その言葉を聞き、俺は脚に力を込めることすらできなくなってしまいその場に倒れた。
そんな、放っておけばすぐにでも死ぬだろう俺に跨り、首に手を添え、力を込めた。
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