上 下
11 / 51
「第二章:残るは四人」

「洞窟教会にて」

しおりを挟む
 ~~~フルカワ・ヒロ~~~



「……うっ? なんだろう悪寒がする……?」

 手綱を握るレインがぶるりと身を震わせたのが、体越しに伝わってきた。

「おいおい大丈夫かよ? まださっきのあれ・ ・の影響が残ってるんじゃないのか?」

「いやそういうのじゃなくて……なんかこう、気味の悪い視線を浴びているような……?」

「っておい、そこで俺を見るのはどういう意味があってのことなんだ?」

 レインに後ろから抱き着くように同乗している俺だが、不埒ふらちなことはちょっとしか考えていない。

「いっやあ~? べっつにぃ~?」

「おい、変な言いがかりをつけるようなら出るとこ出るぞ?」

「はん、逃亡者のくせにどこに出ようっていうんだい? 捕まって団長カーラに差し出されるのがオチさ」

「他人事みたいに言ってるけど、おまえだって同じ立場だろうがっ」

「残念でしたー。向こうからしたらボクはまだ被害者・ ・ ・かもしれない ・ ・ ・ ・ ・微妙な立場なんですうー。キミらの逃亡が失敗したら、意外とすんなり戻れるかもしれないぐらいの立場なんですうー。捕まったら即終わりのキミとは違んですううー」

「ぐぬぬぬぬぬ……?」

「ちなみにわれが死んでも、隷騎士サーヴァントの契約は解除されぬからな? いいと言うまで続くから」

 先頭を行っていたアールが、馬上から振り返りつつ釘を刺してきた。

「げげっ、マジで?」

 全身を硬直させて呻くレインの肩を、俺はぽんぽんと優しく叩いた。

「はっはっはー、どうもそういうことらしいから、仲良くいこうぜレイン。一蓮托生ってやつだ」

「うっそでしょー……? ちょっとだけ期待してたのにー……」

 ガックリ肩を落とすレインと、レインを茶化す俺。

「ほれ、無駄話はそこまで」

 アールが手を叩き、引率の先生みたく注意を促した。

「あれが目的地だ。馬を降りろ」

 そう言ってアールが指し示したのは、森の奥に埋もれるようにしてある小さな岩山だった。
 目的地というわりにはずいぶんと辺鄙へんぴな場所で、辺りには村どころか猟師小屋ひとつ見えない。
 獣道の感じからも、日常的に誰かが通っている気配は無い。

「ただの岩山にしか見えないけど……ここが目印で、誰かと合流でもするのか?」

「合流はしない。ここで・ ・ ・仕掛ける ・ ・ ・ ・だけだ」

『え』

 硬直する俺たちをよそに、アールは馬を近くの木に結びつけた。
 慌ててついて行くと、たどり着いたのは……。
 
「なんだこりゃ、洞窟?」 

 岩山の腹に、大人ふたりが並んで通れるぐらいの大きさの穴が開いていた。
 鉄器で繰り抜いて作ったのだろう、表面は滑らかで、通路がずっと奥まで続いている。
 壁には等間隔にランタンが掛けられていて、『目覚めよ』とのアールの力ある言葉コマンドワードに反応し、鬼火ウィル・オ・ウィスプがちろちろと青白い明かりを投げかけ始めた。
 
 通路は一本だけではなかった。途中何本かの分岐があって、そこここに幾つもの部屋が設けられていた。
 岩を削って作ったのだろう椅子があって、机があって、寝台があって、それぞれに美麗で微細な装飾が施されていた。

 空気は異様にヒンヤリしている。また湿気っぽかったが、埃の匂いはしない。
 どう見ても人が住んでいる気配はないのに、ついさっき清められたような清潔さだ。
 
家付き精霊ブラウニーのおかげで、いつでも住めるようになっているのだ」

 ふふんと得意げに肩をそびやかすアール。
 大人っぽく振る舞うことが多いけど、こういうとこでちょいちょい子供っぽいよな、こいつ。

「ほおー。てことはここも、アールの隠れ家のひとつなの?」

「そうだが、ゴルドーのあれとは違うぞ? 有事の際の備えとして用意したものだ」

「有事……」

「あ、迂闊にその辺のものに触れるなよ? 最悪死ぬぞ?」

「し、死ぬだってぇええっ?」

 通路の脇の一段低くなったところに、木のチェストが置いてある。
 宝箱みたいなそれを興味津々で開けようとしていたレインは、慌てて飛び退いた。

「どどど、どういうこと!? 罠でもあるってこと!? いったいなんでそんな……」

「だから言っただろうが、有事の際の備えだと」

 アールは事もなげに言い捨てると、さらに奥へと進んだ。
 そうして俺たちがたどり着いたのは、だだっ広い円形の空間だった。
 
「おおー……これは祭壇か?」

 奥の石壁。  
 人の背丈の5倍ほどもある天井まで、細密な装飾の施された祭壇が彫刻されている。
 その手前に長椅子が数脚並んでいるところからすると、ここは礼拝堂として機能していたのだろうか。

「つまりここは洞窟教会なのか……」

 ちなみに洞窟教会ってのは宗教的に迫害されている人たちが隠れて自らの信仰を行う場所だ。
 日本だと隠れキリシタンとかが作ったのが有名かな。 

「なるほど……なるほど……」

 この独特のヒンヤリとした感じはそれなのかなと思った。
 だいたいこういったところに生活している人たちって、非業の最期を遂げることが多いから。
 ほら、怨念というか、そういうのが積み重なってそうだなと。

「んー……でもこれって、なんの神様なの? 職業柄、ボクもそれなりに宗教的知識はあるつもりだけど、こんなの知らないよ?」

 祭壇に供えられた石像を眺めながら、レインが不思議そうに首を傾げた。

 像は人の形をしている。
 性別は男。
 両手で大太刀を構え、鎧兜を身に着けていて……ってあれ、これってもしかして日本人?
 ジャパニーズサムライ? サムライナンデ?
 
「……あ。もしかして、この神様って……」

「ほう、気づいたか」

 俺の気づきに、アールは感心したような声を出した。

「その通り、ここは勇者信仰者・ ・ ・ ・ ・の教会なのだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...