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「第二章:残るは四人」

「ジャカという男」

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 ~~~ジャカ・グラニト~~~



 一方その頃。
 城塞都市ゴルドーの西門から続く街道を、ジャカは走っていた。
 愛馬に鞭打ち、全力で。

 身長190はあろうかという偉丈夫である。
 武装は黒くなめした皮鎧レザーアーマーと、『黒槍こくそう』の二つ名通りの穂先を黒く塗った素槍すやり
 暗所において保護色となるだろうその組み合わせは、過去暗殺者ギルドに所属していたという黒い噂を嫌でも想起させる。

 ジャカのわずかに先を行くのは、『鉄壁てっぺきのベックリンガー』である。
 ジャカよりも頭ひとつ分デカい、それこそ小山のような巨漢だ。鋼のように鍛え上げられた肉体を全身鎧フルプレートで包み、背には巨大なタワーシールドを背負っている。
 自重に装備まで加えた総重量は300キロを優に超えるため、まともな馬ではすぐ乗り潰してしまう。
 故に彼の移動方法は四頭立ての戦闘用馬車チャリオットだ。

 

「おい、本当にいいのか!? 団長カーラに許しを得ずにそのまま追って! 一度戻ったほうがいいんじゃないのか!?」

 戦闘用馬車の手綱を握るベックリンガーが、振り返りながら叫ぶようにして聞いてきた。

「問題ねえだろ! 報告自体はしたんだ!」

「門兵に伝言を託しただけだろう! 我が輩が言っているのは面と向かって命令を受けねばならぬのではないかという……」

「バカかてめえは! そんな暇があるか!」

 ベックリンガーの提案を、ジャカは一蹴。

「いいか!? レインは黒だ! 真っ黒なんだよ!」

 カーラにレインたちの捜索を命じられた際、ジャカが真っ先に行ったのは東門……ではなく、西門外に広がるマーケットでの情報収集だった。
 東門から徒歩で出たのをフェイクと読んでの行動だが、これがズバリ的中した。
 西の街道からやって来た旅人が、途中でレインとヒロと思われる少年少女とすれ違ったというのだ。
 どこで調達したのか一頭の馬にふたりで乗って、しかも手綱を握るのは少女だったという。
 ヒロが馬に乗れないことを知っているジャカにとって、あとは簡単な計算だった。
 
「考えてもみろ! わざわざ東門から徒歩で出て! 森に繋いであった馬に乗って逆方向へ移動! そんなの裏切り以外の何ものでもねえ!」

「まあ……」

「てことは当然、背後にデカい組織がいるはずだ! 勇者が食料だと知って、王国全体を敵に回すことを知って、それでいてなお横からかっさらおうとするぐらいの強大な! つまりどうでも、このまま行かせちゃならねえってこった!」

「組織と合流する前に叩かねばならぬと!?」

「そういうこった! それが結果的には七星セプテムのためになるって判断だ!」

「うむう……」

「わかったらもっと飛ばせ! 七星の命運はオレらの双肩にかかってるんだよ!」

「まあ、そういうことであれば致し方ないか……」

 要望通り、ベックリンガーは戦闘用馬車を加速させた。
 ジャカもまた呼応するかのように愛馬に鞭打ち……それはまさしく、思う壺であった。

(はっ……脳筋は扱いやすくて助かるぜ!)

 巨体の陰に隠れるようにして、ジャカはひとりほくそ笑んでいた。

 正直、事の帰趨きすうはどうでもよかった。
 どうせ最後はカーラのいる側が勝つのだから、あとは余禄《よろく》だ。
 問題は、その余禄をいかに楽しめるか。
 ひと噛みを、ひと飲みを、喉越しをどう味わえるか。

(レイン。そう、おまえだ)

 ヒロなどはどうでも良い、彼の頭にあるのはレインだけだった。
 子鹿のようにしなやかな肉体、戦場暮らしで鍛えられた強い精神。
 平民から騎士に、さらには七星の一星にまで上り詰めた天才少女を、彼は──

 押し倒し、圧し掛かかり、征服したかった。
 自分の体の下で泣かせ、悲鳴を上げさせたかった。
 自分の名を様付で呼ばせ、屈服させたかった。
 他の女にそうしてきたように、レインをもまた。

 ──そう、彼は筋金入りの弑虐者であり、強姦魔であったのだ。
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