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「第一章:謎の援軍」
「敗北した少女騎士は暗がりへと消えた」
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~~~レイン・アスタード~~~
最初の一発は、左後方からの不意打ち。
脇腹へ向けてのそれに反応出来たのは、ほとんど奇跡だ。
──ギャリィィィン!
剣帯の両脇に吊してある二本の短剣『風啼剣』、その一方を鞘ごと引き上げて受け止めた。
しかしさすがに体勢が悪い。
相手の得物──まさかの戦鎚──との重量差も大きすぎた。
いかに風啼剣が風の精霊の祝福を受けた精霊銀をドワーフの工匠の手によって鍛え上げた業物だとはいえ、まともに受ければ根元からポッキリいってしまうことだろう。
だからボクは相手の力に逆らわず、攻撃と同じ方向へ跳んだ。
身体を横に回しながら地面の上を転がり、なるべく衝撃を分散しようと試みた。
試みはおおむね成功。即死はせずに済んだ。
手足が折れることもなく、即座に立ち上がることすら出来た。
「くそ……っ」
しかしダメージは体の奥深くに残った。
戦鎚を受けた左手が痺れ、足に力が入らない。
産まれたての小鹿みたいにふらついたところへ、抜群のタイミングで第二撃がやって来た。
地面すれすれを這うような角度からの、強烈な振り上げ。
「──っ!?」
これはさすがに、躱せない。
「『風よ啼け』!」
風啼剣を同時に抜くと、体の前面で十字に交差させた。
力ある言葉を唱えると、ふたつの刃から「ゴウッ」と突風が噴き出した。
いつもだったら剣速アップに使う風の精霊力を、推進力に使うことにしたんだ。
風の勢いで後ろへ跳び、戦鎚による被害を少しでも減らそうという試みなんだけど……。
「『爆ぜろ』!」
敵が──アールが力ある言葉を唱えると、戦鎚の柄頭の後部、ハンマー部分から「キュドッ」と猛烈な勢いで炎が噴き出した。
火の精霊力の発現?
見たことのない挙動だけど、ともかくそれは戦鎚のスイング速度を爆発的に上げた。
加速した戦鎚は風の精霊の起こした突風をものともせずに進み、風啼剣を直撃した。
十字受けによる防御もむなしく、ボクは体ごとぶっ飛ばされた。
地面と水平に飛び、石壁へ背中から叩きつけられた。
「あ……ぐ……っ」
目の前が真っ赤になった。
両手両足の感覚が、痛みの感覚すらも無くなった。
ズシンと体が重く、何をすることも出来なくなった。
「あ……?」
視線の角度からようやく、自分が石畳に横たわっているのだと気がついた。
「……んふ、さすがは犬妖族の発火薬。扱いは難しいが、とどめの一押しには実に有用であるな」
アールがさもご満悦といった顔でハンマー部分を撫で擦っている。
なるほど、北の鉱山に住まうという犬妖族の精製した薬品に火の精霊力を合わせたのか。
って、納得してる場合じゃない。
「いったい……」
どうしてボクはこんな状況に追い込まれているんだ。
そもそもこいつは何なんだ。
悪魔とかいったけど、じゃあなんだってその悪魔がこんな街中にいるんだ。
衛兵はどうした? ヒロとはどういう繋がりがある?
先代の勇者との盟約? なんだよそれ?
「どうして……?」
つぶやきながら、思い出したことがあった。
そうだ、団長に──カーラにさんざん言われていたんだっけ。
ヒロの身辺に気を付けること。
絶対ひとりきりにしないこと。
己の力を過信しないこと。
あれ? そうなのか?
ボクは過信したのか?
ヒロごときに何も出来るわけがないって?
もし誰かに狙われたって、自分なら何とか出来るって?
だけどしかたないじゃないか。
こんなの……こんな事態予想出来るわけがない。
「ボクは……」
「おやおやいい気味だな、騎士殿」
「うああああああーっ!?」
アールにぐりぐりと背中を踏まれ、ボクは絶叫した。
今まで忘れていた痛覚が復活し、全身を猛烈な痛みが襲ったからだ。
「やめ……やめっ、やめて……っ」
「ほう、やめてとな?」
自分の耳に手を当てると、アールはいかにも愉快そうに口元を歪めた。
「面白いことを抜かすなあ。のう、騎士殿。そう願えばそなたらは許してくれるのか? 今わの際にある者がやめてと頼めばやめてくれるのか?」
三日月型に目を細め、ねっとりと弄ぶように聞いてくる。
「のう、今まで幾人の勇者がそなたらの手にかかって死んでいったか、その命の重みまでも感じた上で話しているのだろうな?」
「し……知らないよそんなのっ。ボクはまだ16だよ!?」
ヒロの先代の勇者トーコが喰われたのは、たしか5年ほど前。
当時の七星に護られ、当時の王族貴族の囲む晩餐会のテーブルに載せられたって話だ。
「ボクはそれとは無関係で……っ」
「ほうー? なるほどなあー? 無関係なら許されるのかー」
「…………っ!!!!!?」
ぐいと思い切り踏まれ、一瞬声が出なくなった。
身体の奥を砕かれるような痛みに悶絶した。
「だったらこれまでの勇者殿もみな、許されてしかるべきだったと思うがなあー?」
髪の毛を掴まれ、強引に顔を持ち上げられた。
鮮紅色の光を放つ双眸で覗きこまれた。
「諦めよ、騎士殿。そなたはもう我から逃れられぬ。死よりも長く辛い苦しみを味わうこと、覚悟せい」
「ひっ……?」
悪魔に敗れた者がどうなるか。
そんなの子供だって知っている。
「だ……誰か助けて……っ」
ボクは必死に助けを求めた。
戦いの音に気づいた衛兵が駆け付けてくれることを期待したのだが、誰も来てくれなかった。
冒険者同士のもめ事か何かと思われたのかもしれない。
彼らの喧嘩は激しいから、関わり合いになるのを避けたのかも。
「助けて……っ」
一瞬ヒロと目が合ったが、ヒロはただ怯えたような顔をしてこちらを見ているだけだった。
そりゃあ無理もない。
あれだけのことをしたボクを、許してくれるわけがない。
わけがないんだけど……。
「お願い……」
だけどボクは、そんなヒロにまで助けを求めた。
だってそれしか無かったから。
誇りも何もかなぐり捨てて、藁にもすがるような気持ちで。
「誰かを呼んで来て……っ」
しかし願いは届かなかった。
ヒロは困惑するばかり。
「勇者様……っあああっ!?」
ジタバタと暴れるボクを、アールは鼻歌混じりで引きずっていく。
倉庫街の奥の奥。
誰にも声の届かない、暗がりへと。
最初の一発は、左後方からの不意打ち。
脇腹へ向けてのそれに反応出来たのは、ほとんど奇跡だ。
──ギャリィィィン!
剣帯の両脇に吊してある二本の短剣『風啼剣』、その一方を鞘ごと引き上げて受け止めた。
しかしさすがに体勢が悪い。
相手の得物──まさかの戦鎚──との重量差も大きすぎた。
いかに風啼剣が風の精霊の祝福を受けた精霊銀をドワーフの工匠の手によって鍛え上げた業物だとはいえ、まともに受ければ根元からポッキリいってしまうことだろう。
だからボクは相手の力に逆らわず、攻撃と同じ方向へ跳んだ。
身体を横に回しながら地面の上を転がり、なるべく衝撃を分散しようと試みた。
試みはおおむね成功。即死はせずに済んだ。
手足が折れることもなく、即座に立ち上がることすら出来た。
「くそ……っ」
しかしダメージは体の奥深くに残った。
戦鎚を受けた左手が痺れ、足に力が入らない。
産まれたての小鹿みたいにふらついたところへ、抜群のタイミングで第二撃がやって来た。
地面すれすれを這うような角度からの、強烈な振り上げ。
「──っ!?」
これはさすがに、躱せない。
「『風よ啼け』!」
風啼剣を同時に抜くと、体の前面で十字に交差させた。
力ある言葉を唱えると、ふたつの刃から「ゴウッ」と突風が噴き出した。
いつもだったら剣速アップに使う風の精霊力を、推進力に使うことにしたんだ。
風の勢いで後ろへ跳び、戦鎚による被害を少しでも減らそうという試みなんだけど……。
「『爆ぜろ』!」
敵が──アールが力ある言葉を唱えると、戦鎚の柄頭の後部、ハンマー部分から「キュドッ」と猛烈な勢いで炎が噴き出した。
火の精霊力の発現?
見たことのない挙動だけど、ともかくそれは戦鎚のスイング速度を爆発的に上げた。
加速した戦鎚は風の精霊の起こした突風をものともせずに進み、風啼剣を直撃した。
十字受けによる防御もむなしく、ボクは体ごとぶっ飛ばされた。
地面と水平に飛び、石壁へ背中から叩きつけられた。
「あ……ぐ……っ」
目の前が真っ赤になった。
両手両足の感覚が、痛みの感覚すらも無くなった。
ズシンと体が重く、何をすることも出来なくなった。
「あ……?」
視線の角度からようやく、自分が石畳に横たわっているのだと気がついた。
「……んふ、さすがは犬妖族の発火薬。扱いは難しいが、とどめの一押しには実に有用であるな」
アールがさもご満悦といった顔でハンマー部分を撫で擦っている。
なるほど、北の鉱山に住まうという犬妖族の精製した薬品に火の精霊力を合わせたのか。
って、納得してる場合じゃない。
「いったい……」
どうしてボクはこんな状況に追い込まれているんだ。
そもそもこいつは何なんだ。
悪魔とかいったけど、じゃあなんだってその悪魔がこんな街中にいるんだ。
衛兵はどうした? ヒロとはどういう繋がりがある?
先代の勇者との盟約? なんだよそれ?
「どうして……?」
つぶやきながら、思い出したことがあった。
そうだ、団長に──カーラにさんざん言われていたんだっけ。
ヒロの身辺に気を付けること。
絶対ひとりきりにしないこと。
己の力を過信しないこと。
あれ? そうなのか?
ボクは過信したのか?
ヒロごときに何も出来るわけがないって?
もし誰かに狙われたって、自分なら何とか出来るって?
だけどしかたないじゃないか。
こんなの……こんな事態予想出来るわけがない。
「ボクは……」
「おやおやいい気味だな、騎士殿」
「うああああああーっ!?」
アールにぐりぐりと背中を踏まれ、ボクは絶叫した。
今まで忘れていた痛覚が復活し、全身を猛烈な痛みが襲ったからだ。
「やめ……やめっ、やめて……っ」
「ほう、やめてとな?」
自分の耳に手を当てると、アールはいかにも愉快そうに口元を歪めた。
「面白いことを抜かすなあ。のう、騎士殿。そう願えばそなたらは許してくれるのか? 今わの際にある者がやめてと頼めばやめてくれるのか?」
三日月型に目を細め、ねっとりと弄ぶように聞いてくる。
「のう、今まで幾人の勇者がそなたらの手にかかって死んでいったか、その命の重みまでも感じた上で話しているのだろうな?」
「し……知らないよそんなのっ。ボクはまだ16だよ!?」
ヒロの先代の勇者トーコが喰われたのは、たしか5年ほど前。
当時の七星に護られ、当時の王族貴族の囲む晩餐会のテーブルに載せられたって話だ。
「ボクはそれとは無関係で……っ」
「ほうー? なるほどなあー? 無関係なら許されるのかー」
「…………っ!!!!!?」
ぐいと思い切り踏まれ、一瞬声が出なくなった。
身体の奥を砕かれるような痛みに悶絶した。
「だったらこれまでの勇者殿もみな、許されてしかるべきだったと思うがなあー?」
髪の毛を掴まれ、強引に顔を持ち上げられた。
鮮紅色の光を放つ双眸で覗きこまれた。
「諦めよ、騎士殿。そなたはもう我から逃れられぬ。死よりも長く辛い苦しみを味わうこと、覚悟せい」
「ひっ……?」
悪魔に敗れた者がどうなるか。
そんなの子供だって知っている。
「だ……誰か助けて……っ」
ボクは必死に助けを求めた。
戦いの音に気づいた衛兵が駆け付けてくれることを期待したのだが、誰も来てくれなかった。
冒険者同士のもめ事か何かと思われたのかもしれない。
彼らの喧嘩は激しいから、関わり合いになるのを避けたのかも。
「助けて……っ」
一瞬ヒロと目が合ったが、ヒロはただ怯えたような顔をしてこちらを見ているだけだった。
そりゃあ無理もない。
あれだけのことをしたボクを、許してくれるわけがない。
わけがないんだけど……。
「お願い……」
だけどボクは、そんなヒロにまで助けを求めた。
だってそれしか無かったから。
誇りも何もかなぐり捨てて、藁にもすがるような気持ちで。
「誰かを呼んで来て……っ」
しかし願いは届かなかった。
ヒロは困惑するばかり。
「勇者様……っあああっ!?」
ジタバタと暴れるボクを、アールは鼻歌混じりで引きずっていく。
倉庫街の奥の奥。
誰にも声の届かない、暗がりへと。
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