上 下
14 / 15

(番外編)逢ひ見ての のちの心に くらぶれば

しおりを挟む
 この小説形式の備忘録は、俺が実際に見た夢を元ネタにしている。その夢には絶世の美女が登場する。夢の中で俺は彼女のことを「莉子」と呼んでいる。特異なのはその夢の質感だ。食事をすれば味がするし、時間がたてば空腹にもなる。柱の角に足の小指をぶつければのたうち回るくらい痛い。レストランで喫煙者といあわせればタバコの悪臭がするし、公園に行けば植物の心地良い香りを感じる。そして彼女と愛しあう際の五感は現実のそれと同質だ。

 しかしながら現実世界との相違点もある。時代背景や社会制度といった世界観がこちらのそれとは微妙に異なっているように感じる。初めの頃は未来の俺を視ているのかと思っていたのだが、それとも少し違うようだ。

 この不思議な夢は、莉子との関係がはじまってからの月日が年単位で経過しているであろう時点からはじまった。それ以降は、その時点から、ほぼ時系列で新しい夢をみている。夢をみるたびに可能な限り速記的なメモをとっていて、速記中の俺の意識は曖昧で自動書記のような感覚でメモをしている。それらのメモのいくつかを小説形式に清書したものをここに書きためている。彼女との出会いや初めて愛しあった時の速記メモは残念ながら存在しない。

 それでも、夢の中で俺が、彼女との「初めて」について回想しているイメージは目が醒めた後にもうっすらとではあるが残っていることがある。その記憶の残滓を掬いとって、彼女との邂逅を再現してみたい。

 というわけで、以下は「彼女との初めて」に関する記述であるが、記憶が繋がらない部分は創作で補っており、他で書いている「夢の直後の新鮮なアウトプット」とは異質のものとなることをことわっておきたい。


●●世界が始まった日●●

 古代の哲人アリストテレスはその著書で「時間とは観察した変化を計測したものである」という意味のことを書いたそうだ。とすれば、アリストテレス的には、もしこの世界から観測者たる人間がひとりもいなくなったら時間は存在しなくなるのだろうか?

 一方で近代科学の礎を築いたニュートンは「観測者の有無とは関係なく、この世界には絶対的で数学的に正しい真の時間が存在する」という立場だったらしく、現代の教育を受けた俺の常識的感覚もニュートンのそれに近いものであった。

 しかしながら莉子と出会ってからの俺の常識感覚はアリストテレス的なものとなる。彼女と巡りあったその日に、俺にとっての「世界の時間」が動き始めた。

 彼女と初めて二人きりで会ったのはとある水曜日だった。待ち合わせの18時頃に莉子があらわれた。アースカラー系の丈の短めのワンピースに、絹のようになめらかにロールしている長髪、ゴールド系の華奢なネックレスがよく似合っていた。俺はネイビーのスーツに珍しくネクタイを締めていた。(きちんとした服装にしておいてよかった)と安堵したものだ。こうしてあらためて身近で見る莉子の外見は現実世界の人間とは思えないほど完璧だったので、(手の込んだハニートラップにでも囚われつつあるのかも)という思いがよぎる。

 この日はビジネスホテルのラウンジでお茶をした。ホテルのラウンジは、学生時代からの俺のお気に入りの場所のひとつだ。ここでは比較的静かな環境でゆっくりとくつろぐことができる。にぎやかな中高生や井戸端会議的な会話に悩まされることもない。コーヒーが千円するのは、けっして高くはないし、たいていのラウンジはコーヒーのお替わりが自由だったりする。
 
 話がそれたが、席に案内されるとコーヒーとケーキを注文した。莉子のあまりの美しさに平常心を保てたか自信はないのだが、話ははずんだ。会話の間や声の波長などが奇跡的に心地よいのだ。すでに莉子の外見に一目惚れをしていた俺は、その内側から溢れてくる魅力にもすっかりハマりはじめていた。

 その時に具体的にどんな話をしたかの詳細は覚えていないのだが、莉子が最近職場の別部署の男性に食事に誘われた話や、フリーメールを持っていないというので、その場で一緒に大手検索サイトが提供しているアカウントを作成したりしたことが印象に残っている。

 この日は(もう少し話をしていたいな)と思えるタイミングで切り上げて解散をした。帰路の電車に乗ると先ほど一緒に作成した莉子のアドレスにさっそくメールをしてみた。初デートは、二人きりで話をしてみて(また会ってもよいかな?)と思ってもらえたら次回の約束をする。ダメならそのまま連絡しなくてもよい。という前提で催されたイベントであった。

 俺はメールでおそるおそる『及第点もらえましたか?』という趣旨の質問をした。

 莉子からは『及第点!?おもいっきり合格点でーす★』という嬉しい返事をもらえた。

 繰り返すが、この日、俺にとっての世界が始まった。



●●二回目のデートで空気を読み違える●●

 その後、莉子とメールのやりとりをしながら次回のデート日を決めることに成功する。彼女の好みをヒアリングしながら「オレのフレンチ」風のビストロを予約した。狭い店内にカウンター席のみで料理は基本ワンプレートのカジュアルな雰囲気の店だ。その時の俺には、(狭いカウンター席に横並びになるので不意に脚や腕が触れ合うこともありそう)とか(コース料理ではないので、長居する雰囲気ではなく、店を出た後に次の場所へいく時間も確保できるかな?)といった思惑があったのは否定できない。

 そう、2回目のデートにして、俺は、莉子との情交を狙っていた。一般的な恋愛セオリーからすればあきらかに急ぎすぎなのだろうが、これには二つの事情があった。

 一つは、莉子のような神レベルの美女が(ある意味)フリーであるという状況は文字通り奇跡的であり、競合男性が多数いるであろうことは容易に想像できた。であれば、いちはやく莉子の心身を独占するために、まずはその身体を我がものにしたかった。突拍子もない発想に思われるかもしれないが「女性は好きになった男と関係をもつのではなく、関係を持った男を好きになる」という説には一理あると思っている。

 もう一つは、莉子からのメール内容を誤読していたことによる。まるまるそのままではないが、当時の彼女とのやりとりを一部抜粋してみよう。


----- Original Message -----
From;莉子

帰り際、もう少しお話ししたいなぁ…と思いましたが、---(中略)---でも、もぅ少し…、お会いしたいのです。次は、爽やかさんだけではない、黒そう(?)な所も発見できれば嬉しいですね


----- Original Message -----
From;莉子

……どういったスタンスや、心の持ち方でお会いすればよいのか考えておりました。
ーーー(中略)ーーー
普段体験できないような、「刺激」や「非日常的幸福感」を頂いて日々の生活に活力を与える事、が出来ればそれだけで良いのかなと思いました。決してのめり込まずに一時のみの情事として


----- Original Message -----
From;シュウ

今度会うときは(その時の雰囲気にもよると思いますが)刺激的な要素もぜひ…


----- Original Message -----
From;莉子

ふふふ…どんな刺激がご希望ですか?
(お返事はスルーしてください★)

------------------------------------


 ビストロのシーンに進もう。小雨が降る水曜日。待合せの時間より数分経ったころ、小走りでこちらに向かってくる彼女が視界に入る。前回よりも丈の短いミニスカートがセクシーでいて、なぜか全体の雰囲気はかわいらしいという魔法のような装いだ。

「お待たせしました!」

「大丈夫、全然待ってませんよ」

 特徴的な青い扉を開けて入った店内は狙いどおり混雑していた。予約席はかなり近い間合いのカウンター席だった。料理はフレンチというよりはイタリアンが混じったカジュアルさでシンプルだが味は良質だ。出される料理自体が話のネタにもなり、そこから海外旅行の話題になるなど、前回のデートに比して、より深く互いの趣味や嗜好について語りあうことができた。楽しく心地よいひと時が流れていく。

 店の外で順番を待っている人達がいたこともあり食事を終えると早めに店を出た。さきほどまで降っていた雨はほとんど止んでいた。

「夜風が心地よいですし、そのへんを散歩しましょうか?」

「はい」

 店の近くの小さな公園まで歩く。夜道に莉子の美しい横顔が映えている。ビストロで飲んだキールロワイヤル(キールだったかもしれない)がその頬をうっすらと紅く染めている。

 彼女の手をとると、互いの指と指をすべて交差させて手をつないだ。莉子は驚いたようにビクッとする。つながった手からは彼女の緊張感が伝わってきた。

「えっ!これって…恋人つなぎ?…ですよ?」

 軽く腕をふってほどこうとするのを繋いでいる手にぎゅっと力を込めて阻止する。(…しょうがないわね)という表情とともに彼女の手から伝わる緊張感がゆるんだ。

 夜の公園には、ほんのりとした灯りはあるが近くに人はいない。莉子を引き寄せ、肩を抱く、見上げてくる瞳に、自分の目線をからめると、彼女の顎に手を添えて・・・

「だめですよっ!いけないお手てですね」

 柔らかな微笑みのまま、すっと身をかわされてしまった。その身のこなしはまるで武術の達人のようだった。おそらく、有象無象の男をあしらい慣れてるのだろう。

 どうやら「刺激」「情事」という言葉(記号)が指し示す意味内容について、莉子と俺との間で認識のズレがあったようである。急ぎすぎたかと反省し、ふたたび莉子の手をとると、今度は俺の胸部に手をあてさせた。

「ごめんね。実はわたしもかなりドキドキしてるんですよ。ほら、心臓の鼓動が早くなってるのわかるでしょ?」

「ほんとだっ!シュウさんの心拍感じます」

 この日は「恋人つなぎ」の許可はいただけたので、そのまましばらく夜道を散策したのち解散となった。


●●奈落の底●●

 二回目のデートで先走ってしまった俺であったが、莉子はその後もコミュニケーションに応じてくれていた。以下に、その一部を再現してみよう。



----- Original Message -----
From;シュウ

ちょっと刺激強めだったようですね。魅力的かつ好みのど真ん中の女性とデートできたときは、肉食系の方向でお誘いするのが礼儀かなと思ってまして…
ーーー(中略)ーーー
またお食事に誘わせてください。今度はもう少し紳士よりの態度でいどみますので。(SEXは目的ではなく手段だと思っていますので、ステディで良好な関係性がもてれば満足です)


----- Original Message -----
From;莉子

シュウさん、刺激強すぎ~、ヘンタイ~。先日は、羊だと思っていたのに夜のオオカミに変身してましたよ。
ーーー(中略)ーーー
ただ、手を恋人繋ぎしてるだけで私はとってもキュンキュンします。シュウさんといちゃいちゃできるだけで充分刺激的なことなのです。
それからわたしもそういったこういはきらいではないですが、…STDのリスクはかんがえなければなりません((((;´・ω・`)))

------------------------------------

 この後、俺は、保健所や病院で検査を受け、その経過を報告する方向に一生懸命になってしまった。その余裕のなさに幻滅してしまったようで、莉子からの連絡が絶えてしまったのだった。痛恨の失態である。せっかく理想を具象化した女性と巡りあえたのに、そのチャンスを活かすことができなかった。天にも登る心地からまさしく奈落の底へ急降下する気分というのを実感したものである。

 奈落の底にあるのは地獄なのだろうか?いや、そこは莉子を知らない頃の自分がいたのと同じ場所には違いないのだが、彼女を知ってしまった俺にとって、莉子のいない世界はやはり地獄なのだろうと思う。


●●天上から御下さるる美しき銀の糸●●

 というわけで、その後、俺は失意の日々をすごしていた。平穏な日常と仕事に意識的に没頭しつつも、心の中は、空虚というよりは、無限地獄で苦しむ罪人のような心境であった。以前の俺であれば、恋愛に失敗をしても、反省点と改善点を検証し自らの経験値として消化したのち、すぐに次を探すのだが、今回ばかりはそんな気分になれないでいた。

 そんな奈落の底にいる俺に、天から糸を垂らしてくれたのは、やはり莉子であった。彼女にも葛藤や心境の変化があったのかもしれない。再会したい旨の連絡を賜ったのだ。

 これまでの想いが伝わったのであろうか、莉子からの提案は、再会の日にその身を俺にゆだねたいというものであった。


----- Original Message -----
From;莉子

またこうやってシュウさんとmail出来るようになって嬉しいです。
ゆっくりお会いしたいので私もお昼から半休取ります。15時ぐらいに待合せて、お茶か甘いもの食べながらお喋りしたのち、移動して2人っきりの時間…の流れが希望です。
シュウさんに検査行ってもらっているので私も行った方が良いでしょうか?私は今まで深く狭い恋愛しかしてこなかったので自信を持って陰性と言えます。
ーーー(中略)ーーー
…あんなコトやこんなコト…莉子を好きにしてくださぃ


----- Original Message -----
From;莉子

シュウさんはどんなのがお好きですか?参考までに聞いておこうかなと思いまして。
私はう、う…、後ろから、が好きです(恥ずかしぃ)
きほんMなので、やられている感が堪らないのです。
ただ、ぎゅ~って裸で抱き合っているだけも好きで、頭の中に幸せホルモンがいっぱい分泌されるような幸福感になります。
…あ、想像しちゃった。
シュウさんにぎゅー、されるのを。(*´ェ`*)ポッ


----- Original Message -----
From;シュウ

では二人で半休をとってゆっくりしましょう。
ご希望のシチュエーションで色々と考えておきます。莉子さんは無菌だと確信していますので検査は不要ですよ。狭く深く…愛しあうことを楽しみにしています。
わたしには特に突出した性癖はないと思いますがやはり女性が感じてくれると嬉しいので…
恥ずかしそうにしながら感じている、莉子さんを見れたら幸せだなあと思います(*^^*)

------------------------------------

 芥川龍之介の描いたカンダタはチャンスを逃し地獄に再落下したが、俺は幸運にも、この糸を登り天上に辿りつくことになる。


●●はじめての饗宴●●

 そして、とある月曜日、予約しておいた部屋にチェックインを済ませてから、先日とは違う階にあるラウンジの前で莉子の到着を待つ。俺は、この日の彼女の服装を明確に思い出すことができない。その他の出来事が鮮烈だったためというよりは、この一日が、天上か桃源郷での白昼夢のようで現実感のある視覚イメージを再現することができないのだ。

 莉子が来た。すこしはにかんだ笑顔がかわいらしい。席につくと飲み物を注文する。会うのは久しぶりだったが、その間にアダルトな文面のメールを交わしていたこともあり、気恥ずかしい空気が漂う。莉子は、運ばれてきたアイスコーヒーに軽く口をつけると、意を決したような表情でこくりと頷き、少し震える声で俺にささやく。

「・・・大丈夫です。いきましょうか」

 予約している部屋番号を伝えると、時間差をつけるべく、俺が先に席をたつ。会計を済ませてから、客層階へのエレベーターに乗り部屋へ移動した。

 スーツの上着をハンガーに掛けてネクタイを緩めていると、莉子からメールが来た。

『髪の毛、実ははウィッグなのです。本当は肩の長さなのですが驚かないよう、伝えておきます(一応、外ではセキュリティーの為、周りに気付かれ無いよう着けてました)…では参ります』

 これには、全然気づいていなかったので正直に驚いていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。扉をあけると莉子がそっと入ってくる。たしかにヘアスタイルが変わっているが、これもまた凛々しく新鮮だ。それ以上に新鮮だったのが彼女の様子だ。かなり興奮しているのか、呼吸が荒く、息遣いがはっきりと聞き取れる。

 部屋に迎え入れるなり、莉子に抱きつかれ、そのまま壁際に押しつけられた。俺の顔を妖しい表情で見上げると、荒い呼吸のまま、彼女の手が伸びてきて俺のシャツのボタンを外してくる。

「えっ、ちょっ、莉子さん?」

 魔法か催眠術にでもかかったかのように意識が一瞬とぎれた。ふと気づくと、俺は上半身だけでなく全裸になっていた。壁際に押しつけられたまま、まるで美術館の彫刻のように鑑賞されている。俺だけが全裸で目の前の美女は着衣のままだ。かなりシュールな状況である。

 しばらくすると、莉子の表情が和らいだ。(うん、カラダも合格ね!)とでも思ってもらえたのだろうか。俺の胸元に顔をうずめると、その身を寄せてくる。ここで初めて、莉子をぎゅっと抱きしめた。見上げてくる瞳に意識を絡めとられそうになるのをこらえながら、その顎にそっと手を添える。今回は、達人の身のこなしは発動しない。添えた手の角度を変えて莉子の顎を上方に持ち上げる。彼女が目を閉じたのを合図に、その唇に自分の唇を重ねる。

 「甘いキス」というのは表現のあやだと思っていたのだが、彼女とのファーストキスは本当に甘い味がした。まだ、軽く口がふれあっただけなので、味覚によるものではない。いまにして思えば莉子の存在そのものが俺の脳に直に情報を書き込んでいたのだと思う。

 そのまま、ゆっくりと舌と舌とを絡める。「粘膜の接触は厳禁です」とまで言っていた莉子の口腔内を侵す。そのまま、むさぼるように莉子とのキスを味わう。こんどは本物の味覚が俺の脳を陶然とさせていく。キスをしながら、彼女の衣服を剥ぎ取っていくと、美しい裸体があらわになる。肌はマシュマロのようになめらかで、くびれのしっかりした腰回りに、均整のとれた乳房の膨らみ、淡いサクラ色の乳輪、興奮のためかツンと勃った乳首。羞恥心のためか、肌はうっすらと紅みをおびはじめている。

 ここで、莉子のリクエストにより、いったんシャワーを浴びることにした。シャワーに行く前に彼女はベッドサイドに準備をしてきた持ち物を出した。潤滑ゼリーを置いて恥ずかしそうに「わたし、その、濡れにくい体質なので、これを使ってください」と言い残して浴室に入っていった。

 互いにシャワーを浴びて部屋に戻る。いつのまにか莉子は下着をつけ、ルームウエアを羽織っていた。落ち着いてよくその姿を堪能する。下着は上下お揃いで、セクシーさと可愛らしさのバランスがとれたデザインだ。布の質感も上質でおろしたてのようだった。俺に抱かれるこの日のために新調してくれたのかと思うと嬉しくなる。

 ふたたびキスをする。今度は、ゆっくりと愛撫をしながら、少しづつ脱がしていくことにした。唇から首、鎖骨、デコルテ、と上の方から順番にキスをしていく。ほぼゼロ距離で見る彼女の肌はといえば「きめ細かい」と表現するのがもっとも相応しいだろうか。肌の単位をミクロレベルで顕微鏡的に視ていけば細胞にたどり着くのだが、莉子の細胞はきっとそれ自体が美しさのエレメントのようなものなのだろう。

 その美しい肌に唇をつけ、時おり舌を這わせる。ところどころで、ビクッとした反応とともに、彼女の口から喘ぎ声が漏れる。

「んっ!あっ、いっ、、はぁ、はぁっ」

 はじめて味わう莉子の身体。その性感帯を探るように、ゆっくりとソフトなタッチで唇と舌と指先で愛撫を続ける。ブラジャーの上から、そっとなぞるようにせめていく。乳首の付近で手をとめる。少し不満そうな表情を確認すると、おもむろに、布の隙間から手をすべり込ませる。生の乳房を掌に感じる。次は、乳房を覆う布をずらして乳首をあらわにする。

 莉子は、ぎゅっと目を閉じて、何かを待っている表情だ。

 その乳首を舌先でチロリと舐める。

「あっ、、あんっ」

 すこし、くすぐったそうに身をよじる。乳輪を舌先で楕円形に撫でると、乳輪全体を口に含み、軽く吸ってみる。

「ひあっ…くぅう、んんっ」

 そのまま数分間愛撫を続ける。最初のころは緊張でかたくなっていた莉子の体から力が抜けてくるのを感じると、愛撫を別の場所へ移動していくことにする。

 いったん脇の方、いわゆる「スペンス乳腺」付近にキスをするが

「きゃっ!ちょっ・・っと、そこは、こそばい・・です」

 ここの開発は、後日、じっくり時間をかけてしていくことにした。アンダーバストからみぞおちにかけてキスをしていく。臍(へそ)の周辺から、恥骨付近に差しかかったところで莉子の脚が固く閉じられてしまった。どうやら秘部へのキスはされたくないようだ。無理やり脚をこじ開ける案も脳内で検討したが、彼女の意思を尊重し、愛撫を上方へと折り返していく。首筋からふたたび唇に辿り着く。

「はあっ、はあっ、、んっ、んっ」

 互いの唾液が混じり合うような濃厚なキスをしながら、右手を莉子の恥骨から股間にすべりこませると、指先にぬるりとした感触がまとわりつく。指の腹でクリトリスを撫でる。

「んんっ、あっ、いっ」

 そのまま中指をゆっくりと、秘部に挿し込んでいく。指をすこし動かすだけで「ぴちゃ、ぴちゃっ」という音が聞こえるほど濡れている。内部は狭くて温かい。(これは名器にちがいないな)と確信するとともに、すこし意地悪な質問をしてみたくなる。

「どうしちゃったの?濡れにくいなんていってたけど、もう、ぐっちょぐちょに濡れちゃってるよ?」

「いやっ、、そ、そんなこと、言わな・・・あんっ、、ああっ、ぁ、ぁぅ、、…」

 指の動きを少しだけ速めるとピチャピチャという音も大きくなっていく。

「ほら、聞こえるでしょ?莉子さんの愛液の音…」

「だめっ!あんっ、んっ、、も…もう、ください、わたしに、シュウさんのを・・ください」

 彼女との初めてのセックスである。もっと、しっかり焦らして味わってから挿入しようと思っていたのだが、俺ももう我慢できなくなっていた(かなり後日になってから知るのだが、これでも莉子的には前戯が長すぎたようだったのだが)。

「じゃあ、挿れてあげるね。体の力を抜いてリラックスして」

「は・・・い?」

 俺の言葉の意図がよくわかっていないようであったが、俺の竿は、標準サイズより若干ではあるが太い。さきほど指先で探った感じでは、きっと、挿入にはそれなりの苦痛が伴うと予測された。まぁ「基本Mなので・・」と聞いていたので、多少の痛みや陵辱感は、快楽のスパイスにもなるかなと思い、遠慮なく、その美しい身体の最深部を侵していくことにする。 

 さきほどの「濡れにくい」発言は、なにかのネタだったのだろうかと思えるほど、莉子はすでに十分すぎるほどビショビショに濡れていたが、入口が狭いことにはかわりない。莉子に覆いかぶさると、その両脚を開き、正常位の体勢で、莉子の膣口に男根の切先をあてがう。ゆっくり、じらすように先端を割れ目にこすりつけるように愛撫する。

「ぴちゃ、ぬちゅっ・・ぐちゅっ」

 と、かすかにであるが聞こえる卑猥な音は、先ほどのより粘度の増した音に聞こえた。しばらくすると、滑るように、吸い込まれるように、まるで「そこがあるべき定位置」であるかのように、莉子の中に自分が入っていくのを感じる。彼女は目をきつく閉じ、少し苦しそうな表情で俺を受け入れていく。

「ひっ!いっ、、おおきっ、、くるっ、、シュウさんのが・・・ああツ」

「大丈夫?痛くない?」

「は・・い、ください、もっと、奥まで・・・」

 さらに彼女の両脚を開き、ゆっくりと腰を沈めていく。

「あっ、、うっ、、いっ、はあっ、はあっ」

   少し、苦しそうにしながらも喘ぎ声は止まらない。

「…もう少し、奥まで挿れるからね」

「んっ、、んっ、はっ、はいっ…」

   めりめりと膣道を押し拡げる感触を味わうと、ほどなく最深部に到達する。ゼロ距離、いやマイナス距離で彼女と深く繋がりまじわりあった瞬間だ。

「…これで、一番奥まで入ったよ」

「…はい、わたしの中、シュウさんでいっぱいです、ああっ、嬉しいっ」

「私も嬉しいよ、大好きだよ」

 二人の身体と身体が密着し深くつながった状態でキスをする。至福の時間だ。この後の俺の意識はさらに曖昧なものとなっていくのだが、体勢をかえて莉子を四つん這いにして、後ろから抱き締めたことは覚えている。その体勢のまま乳房を鷲掴みにした。そして、後背位でペニスをあてがうと、ずぶりと挿入していく。莉子の狭い膣道の浅い部分に俺のカリが引っかかるが、かまわず押し込むと、コリッとした感覚とともに奥に入っていく。

「ひっ!あああっ」

 ご希望どおり後ろからヤラせていただいた。バックで突くたびに、「ぱんっぱんっ」という音が部屋に響く。その音に彼女の喘ぎ声がかさなる。とても悦んでもらえている。俺の全身も経験したことのない快感に満たされていった。


***

 その日、どのように愛しあったのかについての詳細は思いだせないのだが、情事の合間のピロートークは印象的だった。初めて結ばれたあと、莉子が俺を覗き込みながらの発言。

「どうしよう!!わたし、シュウさんにはまっちゃいそうです」

 紅潮した顔でそう言うと、恥ずかしそうに上掛けで顔を隠す。なんとも可愛らしい仕草であった。これもかなり後日になってわかるのだが、様々な点で(本人は無意識だったかもしれないが)意味深な言葉だったと思われる。


「シュウさんの恋愛遍歴を教えてください。どんな人とどんな恋をしてきましたか?」

 普通の女性は、男の過去の恋愛話などは聞きたくないものだと思っていたのだが、互いを知るためには良い手段であるともいえるかもしれない。このあたりの莉子の感覚(センス)も好きな一面であったりする。ひとまず俺は直近の無難な恋話をした。

「次は莉子さんの番デスヨ」(この頃は、さん付けで呼んでいた)

 と、互いの過去を遡る話をはじめる。莉子のエピソードを聞くと彼女の人となりや価値観がよくわかる。恋人の選び方、別れ方、家族観、理系で論理的な一面など、興味深い話題が尽きない。

 しかしながら、この話題を始めてすぐに気づいてしまったのは、「深く狭い」恋愛をもっぱらとしてきた莉子とでは、この順番トークは成り立たないのだ。次第に、俺の背中からは変な汗が出てきていた。幸いこの日は2人ほど遡ったあたりで次の情事が始まったので事なきを得たのだが、後日、過去恋話の続きをした際に「んーーっ!シュウさん、いったい今まで何人の女性と交際してきたんです??」という質問に、とっさに正直に答えてしまったのだが、それも今となっては良い想い出・・・ということにしておこう。

 この日、莉子と俺は結ばれた。やはりセックスは目的ではなく手段である。より深く彼女の事を知ることができたし、心の距離も近づいたと思う。なによりの発見は、果てた後の罪悪感も賢者タイムも訪れなかったことだ。これは俺にとっての初体験であり、このあと、逢瀬を重ねることで、莉子といる時にしか味わえない、安心して愚者でいることができる心地良さを教えてもらうことになる。

 ここまで長々と彼女との「初めて」について回想してきた。俺の心情面に限っていえば、千年以上も昔に三十六歌仙のひとり藤原敦忠が、恋人との初夜の翌日に、その恋人に贈ったとされる和歌にこめられた想いに通づるものがある。平安貴族の粋には及ぶべくもないが、いつの日か、この回想録を彼女に贈りたい。

『逢ひ見ての のちの心にくらぶれば 昔はものを 思はざりけり』


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女の子がいろいろされる話

ききょきょん
恋愛
女の子がいじめらたり、いじられたり色々される話です。 私の気分であげるので、性癖とか方向性はぐちゃぐちゃです、よろしくお願いします。 思いついたら載せてくゆるいやつです。。

エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

r18短編集

ノノ
恋愛
R18系の短編集 過激なのもあるので読む際はご注意ください

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

処理中です...