全人類の命を守る一騎当千の『守護者』は殺されました。守護者の卵は命をかけて彼らの代わりを代行し、事実を隠す世界を守っています

卵くん

文字の大きさ
上 下
42 / 63
アーミーナイト 体力テスト 前編

第41話 笑顔に隠した虚勢

しおりを挟む
「何が起こったんだ」

 動揺するマシュがこぼす言葉はシルの耳に届くことはなかったが、こちら側を向いているのをその場からでも感じ取ることができた。

「そこから離れろマシュ! 殺されるぞ!!」

 ようやく声が届いたマシュは、自分の身に襲い掛かっている脅威の拳の存在を発見すると、急いでオークとの距離をとる。途端に先ほどまで彼がいた場所はオークの拳でその空間を埋めた。

「危ないところだったな」

 マシュの表情には軽口をいう余裕はない。寸前まで迫っていた脅威に気づけなかったことを悔やんでいるのか。だが、彼にその存在を気づかせてくれるきっかけを作ったのは紛れもなくあの突然閃いた雷撃の一閃。あれが無ければマシュは今頃シルの隣に立っていることはなかっただろう。

「さっきのは一体誰が・・・」

 言葉を漏らしたシルに飛び込んできたのは、直前までオークの身体を走り回り、命を脅かしていたマシュが立てる荒い息よりも、更に激しく溢れる呼吸音。まるで全体力を持っていかれた時のようなそれが、シルの鼓膜を震わせる。マシュは一足先にシルよりも早く、その呼吸を行っている人物の方に視線を送っていた。

マシュに遅れを取りながらも、シルの瞳は上下左右反対でその人物を映し出す。一体誰がそのような息を漏らしているのか。視線の先には、両手を前にやりながら、激しく肩を動かしているデンジュの姿はそこにあった。

「デンジュさん! 先程の一撃はあなたが——?

「君たちの戦いを見ていたら、今まで抱え込んできたジレンマとか戦場に行っている同期たちの引け目とかどうでも良いと思ってね。新入生という立場の君たちが誰よりも勇気を振り絞り闘っているというのに、僕たち上級生は言い訳を繰り返し、他の新入生と同じようにグラウンドの隅の方で震えているだけ。

そんな状況に嫌気がさしていた時に、シル君がカリュ君に叫んでいることに意識が向いてね。でも、全然気づいてないみたいだったし、オークの攻撃も寸前のところまで迫ってた。そんな危機的状況を見ると、無意識の内に攻撃していたよ」

 得意げに言い放ち、笑顔を浮かべるデンジュ。その表情はは今日一でかっこよくシルの目に映った。その顔には今となっては恐怖の色など一つも感じさせない。だが、依然として激しく揺れる肩に、青紫色と化した唇。そして、額から顎にかけて伸びる一筋の汗。

周りの瘴気を糧として、自分の生まれ持った魔力に比例させ放つ雷撃の一閃。それは、体内に瘴気をどれだけ取り込めるかの度合いに依存して、威力であり打てる回数というのが決まってくる代物だ。つまり、

瘴気保有限界テストで低いスコアを出した彼にとって、これ以上の攻撃は生死に関わることだという、笑顔に隠した虚勢をシルとマシュはひしひしと感じ取るのであった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

処理中です...