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アーミーナイト 体力テスト 前編
第31話 突如轟く衝撃音
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数分、いやもしかしたらもう少し短い時間だったかもしれない。テスト終了と再び小さな声で告げられた後、閉ざされていた扉から鍵が開けられる音が聞こえたと思うと、扉がゆっくり自ずと開いていた。
「うわ、眩しい!」
暗闇に慣れていた目に急に飛び込んでくる陽光に反射的に手で光を覆いかくし、数秒間目を細めてしまう。だが、思わず出たその言葉は相変わらず賑やかにテストが進行しているグラウンドに虚しくかき消される。誰かに向けていったセリフでもなく、意図せずして出た言葉だけに恥じらいを覚えたシルだったが、表情はポーカーフェイスを装い、何事もなかったのように努めた。
次第に外の明るさに目が慣れてきて、はっきりと他の新入生がどのようなテストを受けているかなどの詳細な情報が視覚を通じて伝播される。軽く外の様子を一望して見ても、試験室に入る前と変わらない世界が依然としてそこには広がっていた。
シル以外の新入生は少しでも良い成績を残そうと必死に持っている力以上の記録を出そうとして悉く空ぶっていく姿がグラウンド中で繰り広げられていた。
「シル・バーン兵士。記録シートの方を返還いたします。これにて全ての体力試験の項目を終了なさいましたので、この後の行動、または指示の方をここまで誘導してきたデンジュさんから伺ってください。お疲れ様でした」
全ての試験結果と名前が記された記録シートを先程の人当たりが悪い女性の記録員から受け取ると、さっさと行けと言わんばかりに手で追い払われる。相変わらずの態度だな、と訝しんで物だがこれ以上相手にすることもないかと思い改めシルはデンジュの姿を目で探す。
次の試験者が先ほどまでシルもいた試験室のなかにシルの横を通り過ぎて消えていく。再び外側から鍵をかけると、始めますよ、という小さな声と共に瘴気を流し込むスイッチを押した。中から見る景色と外から見るそれではこのような違いがあるのかと少し思いを馳せてしまう。
「もう終わったのかい?」
後ろから尋ねてきたのはデンジュだった。視線で軽く探したときには見つからなかったが、相変わらずの笑顔を顔に浮かべてながらシルの元に歩み寄る。来たとき以上に彼のテンションが高いのは恐らく気のせいではない。
大方既に何人かの試験修了者が洗われているところから察すると、試験が全て終わり緊張から解放された新入生達と話して、持ち上げられ少し気分をよくしたのだろう。デンジュの奥には完全に打ち解けあった新入生同士がたわいもない話を繰り広げているのが視界に入る。そこで話している新入生は3人。シルを除くとあと2人の新入生が試験を受けていることが分かる。
楽しそうに談笑している新入生の中には、マシュの姿は見当たらない。辺りを見渡すと、先程入っていった新入生の瘴気保有限界テストが終わるのを待っているようであった。依然としてその顔には緊張が見て取れるが、それ以上に気疲れなのだろうか。朝会話した時よりも疲れているように見える。これから筆記テストもあるっていうのに、そんな調子で大丈夫なのか、と声をかけてやりたかったが、彼の集中の妨げになってはいけないと思い踏みとどまった。
「はい、全て終わりました。こいつはデンジュさんに手渡しすればよろしかったですよね」
見渡していた視線を正面のデンジュに向け、そう言いながら、シルは記録シートの端っこを両手で掴むと、壇上で表彰状を手渡しする校長先生のように——お辞儀はしてないが——デンジュに差し出す。
「それで合ってるよ。お! 凄いね、シル君。殆どのスコアがSじゃないか。それに、瘴気保有限界に至っては測定不能ってスコアが出てるよ。君もしかしてとんでもない才能を秘めているんじゃない?」
「それは機材トラブルじゃないでしょうか? そんなに大した能力は持ち合わせていませんよ。それより、今日の朝は迷惑をかけました」
話したくない話題をされた時の様に無理やり話題を変え、シルは朝の出発が遅れる原因を作った件のことでデンジュに頭を下げた。今さっきまでの笑顔から一変して、戸惑いを浮かべるデンジュはすぐに頭をあげるよう言葉とジェスチャーで促してくる。
「良いから良いから。顔をあげて! 全然気にしてないよ、あのえぇと、君に近寄った彼女とのあの距離感はちょっと羨ましいなとは思ったけどね。あの時はどうかしたのかい? 立ちくらみ?」
ゆっくりと頭を元の位置に戻したシルは、デンジュの顔をじっと見ながら答える。
「えぇ。昨日色々ありまして、寝不足なもので。体調管理もまともにできないことはお恥ずかしい限りです」
「ほぉ、そりゃ昨晩はお楽しみだったってことか~。若いって良いね~ほんと」
卑猥な妄想を膨らませる目の前にいる兵士を、すぐさま色々な根拠から否定しようと大きく息を吸い込み、その言葉を並べようとしたまさにその瞬間。
ドゴォォォォォォ!!!!!!!!!!
シルの後ろから大きな轟音が突如鳴り響き、楽しい会話もろとも周りの騒音をかき消し、緩んだ緊張感の雰囲気を破壊したのだった。
「うわ、眩しい!」
暗闇に慣れていた目に急に飛び込んでくる陽光に反射的に手で光を覆いかくし、数秒間目を細めてしまう。だが、思わず出たその言葉は相変わらず賑やかにテストが進行しているグラウンドに虚しくかき消される。誰かに向けていったセリフでもなく、意図せずして出た言葉だけに恥じらいを覚えたシルだったが、表情はポーカーフェイスを装い、何事もなかったのように努めた。
次第に外の明るさに目が慣れてきて、はっきりと他の新入生がどのようなテストを受けているかなどの詳細な情報が視覚を通じて伝播される。軽く外の様子を一望して見ても、試験室に入る前と変わらない世界が依然としてそこには広がっていた。
シル以外の新入生は少しでも良い成績を残そうと必死に持っている力以上の記録を出そうとして悉く空ぶっていく姿がグラウンド中で繰り広げられていた。
「シル・バーン兵士。記録シートの方を返還いたします。これにて全ての体力試験の項目を終了なさいましたので、この後の行動、または指示の方をここまで誘導してきたデンジュさんから伺ってください。お疲れ様でした」
全ての試験結果と名前が記された記録シートを先程の人当たりが悪い女性の記録員から受け取ると、さっさと行けと言わんばかりに手で追い払われる。相変わらずの態度だな、と訝しんで物だがこれ以上相手にすることもないかと思い改めシルはデンジュの姿を目で探す。
次の試験者が先ほどまでシルもいた試験室のなかにシルの横を通り過ぎて消えていく。再び外側から鍵をかけると、始めますよ、という小さな声と共に瘴気を流し込むスイッチを押した。中から見る景色と外から見るそれではこのような違いがあるのかと少し思いを馳せてしまう。
「もう終わったのかい?」
後ろから尋ねてきたのはデンジュだった。視線で軽く探したときには見つからなかったが、相変わらずの笑顔を顔に浮かべてながらシルの元に歩み寄る。来たとき以上に彼のテンションが高いのは恐らく気のせいではない。
大方既に何人かの試験修了者が洗われているところから察すると、試験が全て終わり緊張から解放された新入生達と話して、持ち上げられ少し気分をよくしたのだろう。デンジュの奥には完全に打ち解けあった新入生同士がたわいもない話を繰り広げているのが視界に入る。そこで話している新入生は3人。シルを除くとあと2人の新入生が試験を受けていることが分かる。
楽しそうに談笑している新入生の中には、マシュの姿は見当たらない。辺りを見渡すと、先程入っていった新入生の瘴気保有限界テストが終わるのを待っているようであった。依然としてその顔には緊張が見て取れるが、それ以上に気疲れなのだろうか。朝会話した時よりも疲れているように見える。これから筆記テストもあるっていうのに、そんな調子で大丈夫なのか、と声をかけてやりたかったが、彼の集中の妨げになってはいけないと思い踏みとどまった。
「はい、全て終わりました。こいつはデンジュさんに手渡しすればよろしかったですよね」
見渡していた視線を正面のデンジュに向け、そう言いながら、シルは記録シートの端っこを両手で掴むと、壇上で表彰状を手渡しする校長先生のように——お辞儀はしてないが——デンジュに差し出す。
「それで合ってるよ。お! 凄いね、シル君。殆どのスコアがSじゃないか。それに、瘴気保有限界に至っては測定不能ってスコアが出てるよ。君もしかしてとんでもない才能を秘めているんじゃない?」
「それは機材トラブルじゃないでしょうか? そんなに大した能力は持ち合わせていませんよ。それより、今日の朝は迷惑をかけました」
話したくない話題をされた時の様に無理やり話題を変え、シルは朝の出発が遅れる原因を作った件のことでデンジュに頭を下げた。今さっきまでの笑顔から一変して、戸惑いを浮かべるデンジュはすぐに頭をあげるよう言葉とジェスチャーで促してくる。
「良いから良いから。顔をあげて! 全然気にしてないよ、あのえぇと、君に近寄った彼女とのあの距離感はちょっと羨ましいなとは思ったけどね。あの時はどうかしたのかい? 立ちくらみ?」
ゆっくりと頭を元の位置に戻したシルは、デンジュの顔をじっと見ながら答える。
「えぇ。昨日色々ありまして、寝不足なもので。体調管理もまともにできないことはお恥ずかしい限りです」
「ほぉ、そりゃ昨晩はお楽しみだったってことか~。若いって良いね~ほんと」
卑猥な妄想を膨らませる目の前にいる兵士を、すぐさま色々な根拠から否定しようと大きく息を吸い込み、その言葉を並べようとしたまさにその瞬間。
ドゴォォォォォォ!!!!!!!!!!
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