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アーミーナイト 体力テスト 前編
第29話 瘴気保有限界
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各々が分かれて別々にテストを受け始めてからもシルは周りの動きがどうにも気になり、身が入りづらい環境でテストを受けていた。その他の新入生は自分の記録が次々に書き込まれていく記録シートを記録を行ってくれている実行委員の方から受け取るたびに一喜一憂を浮かべるが、シルは無表情にそれら全てをこなしていく。
実行委員の人からしてみると、シルの行動は不穏以外の何物でもなかっただろう。度々彼らから体の調子を尋ねられもしたが、シルは笑顔でそれらを躱した。実際問題、体調は寝不足ということを排除すればそれ以外は万全の状態だった。難なくこなすテストの記録にも、最高評価である『S』の文字だけが並んでいる。
記録をつけている人はこの記録シートを見て感嘆の声を漏らすが、シルは返ってより長い困惑のため息をつかざるを得ない。これまでの一連の行動をずっと見てきているが、誰も不審な行動を起こさないのだ。皆真面目にテストを受け、それぞれ全力を尽くしている。
集中力が欠けているのはむしろ自分の方だと言わざるを得なかった。何をするにしても集中しなければと思うが周りの機微が視界に入ると、どうしても其方を目で追ってしまう。その場からトイレで離れた人がいれば、いつ帰ってくるのか、行った時と返ってきた時で何か変化がありはしないかなど気が気じゃない。
周りにばかり意識を向けていて気づけば残すところあと一つのテストのみになっていた。ここまで不穏な動きを見せる新入生は誰もいない。トイレでグラウンドを離れたのは2人いたが、どちらも2分たらずで帰って来た為、闇の一族と断定するにはまだ時期尚早。決定的な証拠は何一つもない上に、今の時点から先入観を持っていたら他の新入生を疑いづらくなる。
最後のテストの詳細を示す看板には大きな赤文字で今まで受けてきた、その他のテストとは変わらぬ字式と文字のフォントで瘴気保有限界テストと記載されていた。加えて、その下にはテスト名を表す文字よりも、小さな文字でこのテストの要項が看板一杯に書かれており、最後まで読むにはかなり面倒なものだった。
目の前にはこれから試験を行う建物も数個設置されており、どれも木材で構成された今日限りの試験場所といった風貌であった。
「ふむふむ、やけに注意事項が多いいな。これは人工瘴気発生機器なので取り扱いには十分注意し、不測の事態が起きれば直ちに最寄りの実行委員に意見を求めよ、か」
シルは過去に一度マシュと共にこのテストを受けたことがあるので、大体の手順は把握しているため大まかな手順だけを速読して目を通す。その時受けた時と手順までもがまるで同じで、突飛な試験でなくて心を撫で下ろす。
瘴気保有限界が一体どういうものなのか。その意味は、漢字が表す通り一人の人間がどれほどの量の瘴気を浴びせられても耐えれるのかということを指す。今回の試験ではその限界値を100段階でスコア付され結果がでるようであった。
試験形式は、身体に人工瘴気を直接浴びさせて測定を行うものと記載されている。今回の試験に置いて一つ言えることがあるのだが、この試験は身体には瘴気は基本的に無害という定説から、いくら瘴気を浴びせても人体には安全!
というのが売りなのだが、濃度が本人の保有限界より高くなればクリーチャーに身体が変貌していく危険も多少は孕んでいるため、絶対の安全を提供するものではないとも言える。もちろん、その旨についても注意事項の欄に記載されているが経験豊富な人材がいればその課題は危険要素として認定しない、と明記されている。
しかし勿論、アーミーナイトで前線に出て戦いに参加するのであれば、それなりの数字を出すことが求められることは断言できるだろう。闇の一族の本拠地では瘴気濃度は人類が生活を育んでいる地域の数十倍、数百倍になることは珍しくない。また、上位の敵の個体によれば体内から瘴気を放出し、意図的に限定のエリア内の瘴気濃度を上昇させることができる者もいると聞く。
そうなった際に、保有限界が低ければ最も簡単に人類が敵側に寝返ってしまうこともあるので、戦地に赴く際には保有限界が高ければ高いほどその人材は重宝される。
また、そういった瘴気濃度の高い戦地に出た際に一番役に立つのが全員腰に腰に帯刀している瘴魔剣だ。これらは、人類の力を瞬間的に超人の域まで引き上げることが可能なのだが、同時に常日頃から周りの瘴気を糧として生きている。
高濃度の瘴気が充満している場所に至っては周りの瘴気を食べてもくれるコイツ達の存在は、正しく人類の生命線と言えるのだ。
瘴気保有限界は、大体普通の人で数値は10程度。闇の一族が猛威を奮っている最前線の濃度に耐えようと思えば70程の数字を出す必要がある。アーミーナイト内に置いてそれ以下の数値を出してしまうと、内地での書類仕事などが割り振られたりすると聞いたことがある。
はぁー、というため息が再び口から溢れる。そして、ラストの試験の注意書きまで頭にしっかり刻み込んだところで、シルは目の前に設置されているオンボロの仮設トイレのような狭い四角い試験室に近づいていくのであった。
実行委員の人からしてみると、シルの行動は不穏以外の何物でもなかっただろう。度々彼らから体の調子を尋ねられもしたが、シルは笑顔でそれらを躱した。実際問題、体調は寝不足ということを排除すればそれ以外は万全の状態だった。難なくこなすテストの記録にも、最高評価である『S』の文字だけが並んでいる。
記録をつけている人はこの記録シートを見て感嘆の声を漏らすが、シルは返ってより長い困惑のため息をつかざるを得ない。これまでの一連の行動をずっと見てきているが、誰も不審な行動を起こさないのだ。皆真面目にテストを受け、それぞれ全力を尽くしている。
集中力が欠けているのはむしろ自分の方だと言わざるを得なかった。何をするにしても集中しなければと思うが周りの機微が視界に入ると、どうしても其方を目で追ってしまう。その場からトイレで離れた人がいれば、いつ帰ってくるのか、行った時と返ってきた時で何か変化がありはしないかなど気が気じゃない。
周りにばかり意識を向けていて気づけば残すところあと一つのテストのみになっていた。ここまで不穏な動きを見せる新入生は誰もいない。トイレでグラウンドを離れたのは2人いたが、どちらも2分たらずで帰って来た為、闇の一族と断定するにはまだ時期尚早。決定的な証拠は何一つもない上に、今の時点から先入観を持っていたら他の新入生を疑いづらくなる。
最後のテストの詳細を示す看板には大きな赤文字で今まで受けてきた、その他のテストとは変わらぬ字式と文字のフォントで瘴気保有限界テストと記載されていた。加えて、その下にはテスト名を表す文字よりも、小さな文字でこのテストの要項が看板一杯に書かれており、最後まで読むにはかなり面倒なものだった。
目の前にはこれから試験を行う建物も数個設置されており、どれも木材で構成された今日限りの試験場所といった風貌であった。
「ふむふむ、やけに注意事項が多いいな。これは人工瘴気発生機器なので取り扱いには十分注意し、不測の事態が起きれば直ちに最寄りの実行委員に意見を求めよ、か」
シルは過去に一度マシュと共にこのテストを受けたことがあるので、大体の手順は把握しているため大まかな手順だけを速読して目を通す。その時受けた時と手順までもがまるで同じで、突飛な試験でなくて心を撫で下ろす。
瘴気保有限界が一体どういうものなのか。その意味は、漢字が表す通り一人の人間がどれほどの量の瘴気を浴びせられても耐えれるのかということを指す。今回の試験ではその限界値を100段階でスコア付され結果がでるようであった。
試験形式は、身体に人工瘴気を直接浴びさせて測定を行うものと記載されている。今回の試験に置いて一つ言えることがあるのだが、この試験は身体には瘴気は基本的に無害という定説から、いくら瘴気を浴びせても人体には安全!
というのが売りなのだが、濃度が本人の保有限界より高くなればクリーチャーに身体が変貌していく危険も多少は孕んでいるため、絶対の安全を提供するものではないとも言える。もちろん、その旨についても注意事項の欄に記載されているが経験豊富な人材がいればその課題は危険要素として認定しない、と明記されている。
しかし勿論、アーミーナイトで前線に出て戦いに参加するのであれば、それなりの数字を出すことが求められることは断言できるだろう。闇の一族の本拠地では瘴気濃度は人類が生活を育んでいる地域の数十倍、数百倍になることは珍しくない。また、上位の敵の個体によれば体内から瘴気を放出し、意図的に限定のエリア内の瘴気濃度を上昇させることができる者もいると聞く。
そうなった際に、保有限界が低ければ最も簡単に人類が敵側に寝返ってしまうこともあるので、戦地に赴く際には保有限界が高ければ高いほどその人材は重宝される。
また、そういった瘴気濃度の高い戦地に出た際に一番役に立つのが全員腰に腰に帯刀している瘴魔剣だ。これらは、人類の力を瞬間的に超人の域まで引き上げることが可能なのだが、同時に常日頃から周りの瘴気を糧として生きている。
高濃度の瘴気が充満している場所に至っては周りの瘴気を食べてもくれるコイツ達の存在は、正しく人類の生命線と言えるのだ。
瘴気保有限界は、大体普通の人で数値は10程度。闇の一族が猛威を奮っている最前線の濃度に耐えようと思えば70程の数字を出す必要がある。アーミーナイト内に置いてそれ以下の数値を出してしまうと、内地での書類仕事などが割り振られたりすると聞いたことがある。
はぁー、というため息が再び口から溢れる。そして、ラストの試験の注意書きまで頭にしっかり刻み込んだところで、シルは目の前に設置されているオンボロの仮設トイレのような狭い四角い試験室に近づいていくのであった。
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