全人類の命を守る一騎当千の『守護者』は殺されました。守護者の卵は命をかけて彼らの代わりを代行し、事実を隠す世界を守っています

卵くん

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アーミーナイト 体力テスト 前編

第24話 新入生の注目の的

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 昨夜の怒り猛った表情とは打って変わり、心配そうな表情を浮かべながら、ポケットから取り出したハンカチでシルの汗を額から背伸びしながら拭う。最初は目の前が極度の焦りで追い詰められ狭くなった視野からもたらされる断片的な情報だったが、いつしか真っ暗になっていたシルに手から伝わる優しさの暖かみが次第にシルを現実世界にへと連れ戻す。

その暖かさに触れたくて、気がつけば額を拭くために伸ばした手をシルは左の手で無意識に握り返していた。

「な、なにやってるのよあんた。皆んなが見ている前で⋯⋯ 。恥ずかしいじゃない。早く離しなさいよ・・・。」

 デンジュが大きな声で呼びかけたからか、この場にいた新入生の視線はシルと彼女だけに向けられていた。その中には、何をしているんだと懐疑の視線を向ける者もいれば、両手で手を覆い隠し覆い隠し見てはいけない物を見てしまっているような行動に出る者もいた。だが、誰一人その行為を咎める者はおらず、多種多様な反応を見せるも二人の経緯をじっと固唾を飲むように見守っていた。

彼女は粟色の髪を揺らしながら、握られた手を離そうと試みる。だが、シルの思わぬ力の強さで一向に離すことができない。それどころか、返って力を入れれば入れるほど、逆に引き寄せられる力で身体はシルの方に近づいていく。

次第に距離が縮まるごとに彼女の頰は赤色に染め上げられていくが、シルは全く動く素振りを見せることなくじっと包み込まれた彼女の手を見つめていた。そして、少しの間を置いたのちに、意を決した様にシルは視線を彼女の顔に移し、口を開く。

「ねぇ、よく聞いて。冗談のように聞こえるかもしれないけど、俺は至って真剣だ。何を言い出すんだって頭にくるかも知れないけど、命の危機に陥りそうになったら大きな声で助けを呼んでくれ。そこに例え俺がいなくても絶対から」

 それだけ言い伝えると、シルは握っていた手を最も容易く話すと、ようやくいつもの様子に戻ったように、すいませんでしたと大きな声で頭を下げると、前で止まっていた遅れをとった列に走って追いかけていった。前にいるマシュはやれやれと言ったように首を振っていたが、いつの間にかシルの身体の震えはもう止まっていた。シ

ルの中で何かが吹っ切れたように表情を明るくして走り出していく一方で、その場には彼女だけがぽつりと取り残される。一人だけ並んでいた列から飛び出して恥ずかしい気持ちに陥るが、それ以上に前を走っていった彼の後ろ姿から目を背けることができなかった。

「何なのよ、急に。そもそもただのテスト何だから命の危機とか起きる訳ないじゃ無い。そんなに緊張しているのかしら、こんなお遊びみたいなテスト如きに」
 
 でも、昨日までの様子から想像できない様な真剣な表情だった気がしないでもない。それに、最初に歩み寄った時のあの表情。あれは間違いなく、

、わよね」

 違和感を感じながらも彼女は後で聞けばいいかと自分も列に戻ろうと後ろを振り返る。しかし、先ほどまで話していた友達の表情がどこか変わっている。見れば他の話したこともない女の子もこちらをどこかうっとりした目で見つめてきている。原因は至って明白だ。みんなの前であんなことをされたんだもの。

「はぁー、今日も大変そう」

 列に近づくに連れて、遂にはヒューヒューと口笛を吹きはじめる子も出てくる。まるでどこかの村の祭りみたい、と彼女はため息交じりに思う。女子の列は大佐が来る前の賑やかさを取り戻したかの様に、小柄な彼女が列に完全に戻ってくるのを待ち、一歩また一歩と近くなるにつれてその声は大きくなっていき、再び笑い声と歓声が起き始めるのだった。

 
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