上 下
8 / 63
アーミーナイト入学編

第7話 告げられた事実

しおりを挟む
 微笑交ざりに、その場に居合わせた人全員に一気に鳥肌を感じさせるほど恐怖を感じらせる程の低い声。だが、それにはまるで暗殺者を思わせる殺気をたっぷりと含ませ、全員に聞こえるように言い放つ。今まで吹きやむことのなかった春風も凍りついたように、草花が揺れる事もない。

彼?がゆっくりと手をあげ、顔を隠していた兜を両手でゆっくりと空に向かって動かすだけの動きだけでもその流暢な全ての動きが洗練されているのが感じ取れた。百戦錬磨が故に溢れ出る強者としての余裕であり、自信。その姿にシルは先ほどまでの威勢は綺麗に流れ落ち、ただその場でじっと黙って座っていることだけで精一杯に陥る。

 上から降り注がれる太陽の光が、次第に仮面の下に隠されていた姿を露わにさせていく。シルは口元が露わになったその瞬間に、再び大きな絶望を味わうことになった。

何故なら彼が明らかに

顔いっぱい横に広がった巨大な口で微笑を浮かべることで少し口元が緩んでいるからか、その隙間からはまるで鮫の牙を彷彿させるほどの鋭い歯がびっしりと並んでいるのが垣間見える。それもどれもが数多の生き血を吸ってきたかのように赤色が染み込んでおり、赤褐色を輝かしている。やがて、奴の顔の全貌が隠されていた兜から解放されていった。

口元だけでなく、瞬きすら必要としないのか真っ赤に充血させた目で戦場を舐めるように見渡す。その姿を直視したシルは声を漏らさずにはいられなかった。

「闇の副士官⋯⋯ なのか? 歴史書記の中でもその登場は限りなく少なくその存在すら疑わしかった闇の一族の後継者の次の実力者とも歌われるほどの実力を持っているという。同じ種である他の闇の一族からも恐れられるほどの恐怖と暴力の体現者。ふふふ・・・ははは!!!」

 伝記のなかでも名前しか出てこない伝説の悪魔の内の一人。気づけばシルは大きな声で笑い飛ばしていた。戦場が凍りつき、目の前の化け物二人が困惑して、こちら側に視線を送っているのが手に取るようにわかる。奴らはどうせシルの頭がイかれてしまっただけ、と考えているんだろうなとシルは思う。

実際その通りだった。この最悪としか言えない状況、手の打ちようがないシルに残されたのはこの状況を笑い飛ばすことだけだ。もはや命は無いに等しい。サキュバスだけでもシル1人では対応できず、今隣で気を失っているマシュが目覚めそれでも勝機はかなり少ないという状況だったのにも関わらず、そこに闇の副士官まで現れてしまった。その戦闘力は恐らくだがサキュバスの数倍以上。

そんなサキュバスに苦戦していたシル達が今度は闇の副士官に歯が立つとは思えない。そもそも、敵側サイドは2体に加え、周りでよだれをダラダラと地面にこぼしているゴブリン。それに加え、こちら側でまともに戦闘をできるのはシル一人だけ。もはやこうなってしまっては、そういう場に出くわしてしまった自分の不幸を嘆き、笑い飛ばすしか取れる行動が無い。

「失敬、お主は先ほど私のことを、守護者、そう呼んだな?」

一通り笑い飛ばして静かになった時に副士官がシルに向かって声をかける。

「あぁ、それがどうした。あの甲冑姿。あれこそ、まさに俺が小さい頃、書記を片っぱしから読んで思い描いていた守護者の姿を具現化したものだった。俺たちの心の拠り所、最後の希望。そして、お前らの人生に終止符を打つものだってな!」

 シルの咆哮にも奴は動揺一つ見せることはない。それどころか、この現場に現れて以降一番口元を歪ませ、鋭く尖る歯を露出させていた。なぜだか分からないが、奴は笑っている・・・のか?

「ふむ、いや不思議だなと思ってね。何故なら彼らは⋯⋯ !!」

 高らかにそう笑い飛ばす闇の副士官の目には嘘を言っているようには見えない。一切恐怖を浮かべない瞳がシルの身体を冷たく突き刺す。絶望に浸る反応を待っているようだったが、咄嗟のことでシルの思考は完全に停止してしまい、絶望を味わうことすらできなくなっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ラック極振り転生者の異世界ライフ

匿名Xさん
ファンタジー
 自他ともに認める不幸体質である薄井幸助。  轢かれそうになっている女子高生を助けて死んだ彼は、神からの提案を受け、異世界ファンタジアへと転生する。  しかし、転生した場所は高レベルの魔物が徘徊する超高難度ダンジョンの最深部だった!  絶体絶命から始まる異世界転生。  頼れるのは最強のステータスでも、伝説の武器でも、高威力の魔法でもなく――運⁉  果たして、幸助は無事ダンジョンを突破できるのか?  【幸運】を頼りに、ラック極振り転生者の異世界ライフが幕を開ける!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...